TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー 作:(╹◡╹)
では後はエンゲーブまで全員無事に帰るだけですね。
帰宅までが遠足! 勿論気を抜きませんよ!
無事にチーグルとの話し合いを終えて、一行はエンゲーブに帰還中…
「……なーんて、そう思っていた時期が私にもありました」
ではなく、森の更に奥… ライガの巣へと向かっている。
導師であるイオンを戦闘に参加させるわけにもいかない。
戦闘面における実働はルークとティアが担当している。
セレニィは、タゲられて攻撃を誘ったり敵を集めるだけの(命の重さが)軽いお仕事だ。
ここに来るまでの戦闘で思った以上に牽制用の棒が役立っている。
しかし、ルークみたいに技をポンポン閃く気配は微塵も感じられないが。
「……才能ってずるいぜ、べいべ」
そんな表情の死んでいる彼女のつぶやきに、ルークが反応する。
「どうしたんだ、セレニィ? さっきからブツブツと」
「あ、いえ… 自分の人生の糞ゲーっぷりにちょっと思うところがありまして…」
「? まぁ、困ったことがあればキチッと相談しろよな」
ポンポンとセレニィの頭を叩いてからルークは前方の警戒に戻っていった。
ルークの気遣いは正直ありがたい。例え、もう手遅れだとしても。
いや、でも、今からでも逃げればワンチャンいけるかな? そんなことを考えつつ…
「はぁ… どうしてこうなった…」
ため息と共に絞り出した声は、今度は誰にも拾われず深い森の中に吸い込まれていく。
歩きながら、時にタゲられ全力で逃げながら、セレニィは考える。
こうなった経緯について。あの話し合いの後で何が起こったのかを。
――
セレニィは話し合いが終わると長のもとへと近づいて、その肩をポンと叩いた。
「さっきの話は聞こえてましたね? まぁ、そんな感じでライガたちとの交渉お願いします」
「む… いや、しかし…」
「一回は交渉できたんでしょ? 同じことするだけですって。大丈夫大丈夫、君なら出来るさ!」
特に根拠はないがセレニィは適当ほざいて長の背中を押す。キラキラ輝くいい笑顔で。
まぁ、99%食われると思うけど。だが最後の1匹になる前にライガが聞いてくれればいい。
最後までライガが聞く耳持たなかったら? ……まぁ、それはそれで。
それもまた大自然の掟というもの。悲しむふりして、成仏くらいは祈ってやろうじゃないか。
何が悲しくてチーグルを救うために肉食獣相手に身体張らないといけないのか。
怖いのも危ないのも絶対にノゥ! な生来の性格に加え、戦闘能力すらも皆無という有様だ。
そもそもセレニィにチーグルを救う気はサラサラない。
さっきは仲間の手前、案を出しただけだ。実行するのが自分たちだなんて一言も言ってない。
これが本物の屑である。
そこにルークが口を開く。
「でもコイツらじゃ怒らせるだけなんじゃねーの? セレニィならともかくさ」
「……はい?」
「やはり、セレニィは交渉も凄いのですか?」
「あぁ… つーか、交渉とか商談の話は俺らセレニィに任せっきりさ。なぁ? ティア」
「(ちょっ、イオン様… “も”ってなんですか、“も”って。あとルークさん!?)」
無論、今までの積み重ねからティアがセレニィの交渉力を否定するはずもなかった。
そして、期待の視線が一気に彼女に集まる。
イヤです。絶対にイヤです。死にます。セレニィは無表情のまま、無言で左右に手を振る。
「あ… でもそーか。そのライガってのが、コイツらみてーに喋れるとは限らねーよな…」
「そ、そうですよ! いや、流石の私も言葉が通じなければどうしようもないかなー!」
「それでもセレニィなら… セレニィならきっとなんとかしてくれるに違いないわ。可愛いし」
「いやいや、無理無理無理ですって。ティアさんの中で私はどんだけ人外になってんですか」
あんまり寝言ほざいてると、そのたわわに実ったおっぱい揉みしだきますよ? マジで。
天国から地獄に早変わりである。絶対保身するマンとしては決して認めたくない現実である。
「そう、ですか… 確かに無理を言い過ぎたかもしれませんね」
「イオン様… お気を確かに…」
「え? いや、その…」
悲しそうに俯くイオンとそれを支えるティアに、セレニィは罪悪感が刺激される。
彼女は屑ではあるが、自分のせいで誰かを悲しませると居心地が悪くなる小市民でもあるのだ。
わざわざ死地に飛び込むつもりはないが、せめて、残念そうな素振りだけでも見せておこう。
そう思って口を開く。
「か、かー! 残念だなー! 言葉さえ通じればなー! かー!」
「……では、通訳のものにわしのソーサラーリングを貸し与えよう」
「おい」
そこに沈黙を保っていた長が事態解決のための一手を示した。正直、ありがた迷惑である。
ていうか、狙ってた? 狙ってたよね? このタイミング。怒らないから正直に言ってご覧?
長に詰め寄ろうとするセレニィ。小一時間くらい話し合いたい。だがそれは叶わなかった。
「これで唯一にして最大の問題は解決しましたね… あなたに全てを託します、セレニィ」
「え?」
「そうね… 簡単な事とは思わないけれど、セレニィがやってくれるなら私に不安はないわ」
「…え?」
「確かに、命預けるんならあのブタザルどもよりゃセレニィだよな。死ぬつもりもねーけどよ」
「……え?」
イオンさんの期待に満ちた視線が突き刺さる。
ルークさんの信頼に満ちた視線が突き刺さる。
ティアさんの… あ、うん、ティアさんは別にいいや。
「………。え?」
――
そうして断り切れないまま、ズルズルとこんなところまで来てしまったのだ。
120%自業自得である。
そういう経緯で森の奥へと進んでいた一行は、ついにライガの巣穴の前まで到着した。
「中は薄暗いみたいですね… ミュウさん、この松明に火をお願いできますか?」
「はいですの! ファイアッ!」
ミュウと呼ばれた青い毛並みのチーグル族の子供が火を吹き、松明に火が灯る。
火打ち石要らずである。……安くないお金を払って高級品を買ったのだけど。
あれから口を挟む暇もなく、通訳兼案内役として長に紹介されたのがこのミュウである。
長によると北の大地に火災を発生させた張本人でもあるらしい。
先ほどの長との話を聞いていたのか、開口一番謝られたのでセレニィとしては隔意はない。
でも… うん、人選おかしくないかな? ミュウが反省しているのは分かるよ?
けど、そもそもなんで長が来なかったのだろうか。セレニィは歩きながら考える。
貸し与えるとか言ってたから、このなんとかリングの本来の持ち主は長のはず。
通訳が必要でそれをチーグルが引き受ける場合、普通はリングの持ち主がやるんでないの?
そんなことを考えつつ、当座の火を用意してくれたミュウに礼を言う。
「うん、いい感じですねー。ありがとうございます、ミュウさん」
「みゅみゅ! セレニィさんのお役に立てて嬉しいですのー!」
「二人ともとっても可愛いから凄く絵になるわね。……ポーズとか決めてくれないかしら」
ティアのつぶやきを華麗にスルーしつつ、脳天気に鳴いているミュウを見て思う。
……きっと貧乏クジ引かされたんだな。なんとなく今の自分に重なって共感を覚えてしまう。
「さて、入りましょうか。獣は火を恐れると言いますが、みなさん充分に警戒して下さいね」
そう声をかけて巣穴の中に入る。
案の定、中にいる獣たちは火を恐れて遠巻きに唸るばかりだ。
松明を棒の先に紐で結びつければ、即席の炎の槍の出来上がりだ。
遠くから比較的安全に牽制できるすぐれものだ。
ライガたちは低い唸り声をあげつつも、みな一様に距離を取る。
稀に飛びかかってくる勇敢なのもいたが、そこはそれ。
「ほいっ!」
「ギャンッ!」
そういう輩には懐から取り出した胡椒爆弾を投げつけ撃退する。
何のために胡椒ばかり8袋も用意したと思っている。
クックックッ… 野生動物の鼻には刺激系調味料は辛かろう?
「へぇ… やるもんだなぁ、セレニィ」
「足場が悪いところだから、戦闘を避けられるのはありがたいわね」
「本当にセレニィは頼りがいがありますね」
背後の声援を余所に、屑は野生動物を苛めつつ邪悪な笑みを浮かべている。
こういう姑息な戦法は大得意なのだ。
思ったよりも効果が絶大だ。……ゆくゆくは辛子も調合しようかな。
そんなことを考えながら、まだ戦意を失わないライガにミュウをけしかける。
「む? まだ諦めてないようですね… ミュウさん、ファイアです!」
「はいですの!」
ミュウの吹いた火が熱風となってライガに吹き付ける。
それは未だ舞い散る胡椒を焼き、隙を伺っていたライガの気管に入り込む。
「ガウッ… ギャウンッ!」
のたうち回る仲間の姿を見たライガたちは算を乱して逃げていく。
「フフン… 戦闘向きでないミュウさんの炎でも使い方次第なのですよ」
「ですの!」
ドヤ顔を決めた卑劣な屑がそこに立っていた。卑怯万歳ミュウ万歳である。
この分なら戦闘中でも牽制にくらいは使えそうだ。思った以上の拾い物かもしれない。
確実に自分より役に立つし、どうせ短い付き合いになるからその間は使い倒そう。
そんな事を考えながら炎の槍(仮)を手に奥を照らす。
無論、ライガも殺すつもりはない。精々人間は恐ろしい存在だと学習してもらおう。
……単に追い払うのが精一杯というだけであるのは秘密だ。
「(ふむふむ… ライガと言うのは見たところ精々が体長1m前後、か)」
先を進みながらセレニィは考える。
確かに脅威であるのは確かだが、これなら戦闘になってもルークたちで対処できそうだ。
体長30cm前後のチーグルには対処のしようもなかっただろうが、これは…
「(うん、案外楽な仕事かもしれない… となると3000Gか。フフッ、チョロい!)」
という感じに、セレニィの心に余裕を生んだ。
上機嫌で笑顔を浮かべる。この屑は「懲りる」という言葉を知らないようである。
そのまま順調に進み、ついに巣穴の最奥へと辿り着いた一行。
セレニィは先頭に立ち、笑顔で口を開いた。
「すみません、お邪魔しまーす。私たち、交渉に」
……言葉は最後まで口にできなかった。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!」
地の底から響いてくるような轟音が、巣穴全体を震わせる。
そして轟音はそのまま突風となり、セレニィの細い体を揺らす。
「っ、凄い威圧感。アレが女王ね」
「女王… ってなんだよ?」
「ライガは強大な雌を中心とした集団で生きる魔物なのよ」
うん、ティアさん。そういうのはもっと早く教えて欲しかったなってセレニィ思うんだ。
むしろ色々と漏らさなかっただけ褒めて欲しいくらいなんですよ?
そんな混乱に支配されたセレニィを余所に、奥に寝そべっていた影がムクリと起き上がる。
「グルルルルルル…」
“女王”は威嚇の唸り声を上げながら一歩前に進み出る。
そのため、その姿が松明の灯りに照らしだされた。
「(あ… 死んだな、これ…)」
セレニィは無表情のまま、自身を見下ろす『絶望』そのものを見上げる。
逃げようという発想すら起きない。
松明に照らされたライガの“女王”は今までのそれと違い、大きさ4m級の怪物であった。
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