TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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大変長らくお待たせして申し訳ありません。
そして短くて申し訳ありません。

ティアさんヒロイン(?)回+総集編みたいな…?


102.足跡

「盗賊団が更に入り込んだらしいぞ! 大事を起こされる前に急いで見つけ出せ!」

「ぬぅ… 神聖なる教団本部を土足で踏み荒らすとは、始祖をも恐れぬ犯行!」

 

「幸い土地勘は我等にある。漆黒の翼なる賊は一人残らず捕まえて裁判にかけてやろう!!」

 

 その言葉に“応ッ!”と気勢を揃え、ローレライ教団総本部の警備兵が二人一組で散開した。

 

 各人が呼び笛を持ち、緊急時には即座に異常を仲間に向けて発信する。

 また、相棒(バディ)をフォローし合うことで僅かな異変も取り零さぬよう油断なく周辺を捜索する。

 

 迷路のような内部構造の教団本部では、如何に手練の賊と言えど思うように動けない。

 徐々に行動範囲を狭められ、自棄っぱちの行動とて数の力で容易に押し潰すことが可能である。

 

 これこそローレライ教団の動員力とたゆまぬ訓練が生んだ必勝の包囲網である。

 教団の力は六神将のみに非ず。如何なる賊相手でも程なく捕縛という結果に落ち着くだろう。

 

 

 

 

 

 ……そう、内部を知り尽くした者が賊の側にでも回らない限りは。

 

「……行ったみたいね」

 

 物陰から顔を出し静かに呟くのは片目を隠すように伸ばした亜麻色の髪を(なび)かせた女性。

 ティアである。

 

 彼女の呟きに二つの声が追随する。

 片方は不気味な人形(パペット)トクナガを背負った導師守護役(フォンマスターガーディアン)の制服に身を包む少女ことアニス。

 

 そして今一人は…

 

「ふぃ~… 肝が冷えたねぇ。流石に腐ってもローレライ教団総本山ってワケかい?」

「ま、確かに普段は目立たないけどね。本部の警備を任されてるのは伊達じゃないってコト」

 

「いや、まったく恐れ入ったよ。あれよあれよという間に追い詰められていったからさ」

 

 カラカラと笑いながら「や、決して舐めてるつもりはなかったんだけどねぇ」と続ける女性。

 整った容貌に色気溢れる豊満な肢体。陽の当たり方によってピンクにも見える明るい赤毛。

 

 先刻セレニィとぶつかったこの女性こそ誰あろう、今を騒がす漆黒の翼の頭目ノワールである。

 彼女らはキムラスカでの一連の騒ぎの主犯と見做され教団主導による全国指名手配を受けた。

 

 その意趣返しとして教団本部に忍び込み、様々な重要情報を抜いてみせたのだ。

 まさに今最も有名な盗賊団・漆黒の翼の面目躍如と言ったところか。……そこまでは良かった。

 

 ハァ、とため息を吐いてアニスがジト目でノワールを見遣る。

 

「まさか上手く行き過ぎて欲をかいた結果、出口を封鎖されて右往左往してたなんて…」

「あっはははは! 返す言葉もないとはこのことだね。……いや、面目ない」

 

 頭を掻きながら呵々大笑する女性に「声が大きい!」と小声で器用に怒鳴るアニス。

 こんなの拾わず見捨ておけば良かったんじゃないか? そう考え再度ため息を吐き出す。

 

 無論、ノワールを救出することがダアト脱出の際に漆黒の翼と協力する際の絶対条件である。

 考えても詮無いこととは言え寄り道する寸刻すら惜しい状況なのだ。

 

 繰り返されてはたまったものではない。苦言の一つ二つは呈して然るべきだろう。

 そうやって口を開こうとした彼女を、周囲を油断なく警戒していたティアがやんわりと嗜めた。

 

「そう責めるものではないわ、アニス」

「むぅ… なんでよー?」

 

「彼女、仲間を逃がすためにわざと囮になったのよ」

 

 端的に過ぎるティアの言葉に対して怪訝な表情を浮かべるアニス。

 自身の言葉の足りなさを理解したティアは続けて言葉を紡ぐ。

 

「彼女はこの窮地でも活路を見出そうとしてみせる胆力があるわ。体捌きも申し分ない」

「……まぁ、そうだね」

 

「対して外の部下二人は贔屓目に見てもイマイチ。取り残されるならあの二人だったはず」

 

 そこまで言われればアニスにだって分かる。

 

 何故あの二人は無事だったのか。

 何故漆黒の翼は本部の中に閉じ込められているという情報が流れていたのか?

 

 チラッと視線をやれば、ノワールが照れくさそうにそっぽを向いて頬を掻いている。

 もとよりこの不自由な状況における八つ当たりだったのだ。

 

 三度生まれそうにため息を飲み込みつつも、不承不承押し黙るしかない。

 

「……それが一団の長として正しい判断かどうか私には測りかねる問題だけど」

 

 小さく笑みを浮かべて、「でも、個人としては好ましく感じるわね」とティアは締め括った。

 

 思い浮かべるのはキムラスカで襲撃のあったあの晩の出来事。

 人一倍臆病で優しい気性のはずなのに、迷わず自らをイオンの身代わりとしたセレニィの姿。

 

 誰にも何も告げることなく、けれど仲間を信じて、相手の思惑と運命を乗り越えたのだ。

 そして今、キムラスカやマルクトだけでなく六神将すら垣根を超え手を取り合おうとしている。

 

 進んで危険に身を投じる彼女の在り方にヤキモキすることなど今後も数え切れないだろう。

 だけど今一度これまでの旅の足跡を振り返ってみれば、そこから見える景色はどうだろうか。

 

「(冷たい使命に縛られているはずの私が… ううん、私だけじゃない。みんなが笑顔で)」

 

 何かといがみ合ってしまうルークと自分の間に入ってくれた彼女のおかげで、旅は楽しかった。

 彼女の決死の説得によりライガクイーンと和解は成立し、アリエッタは心強い協力者となった。

 

 導師イオンやアニス、ジェイドらともすぐに打ち解け様々な窮地を協力して乗り越えてこれた。

 危険な研究者の名で知られていた死神ディストは、彼女の人柄に触れて友好的な存在となった。

 

 それだけではない。

 

 世界の破滅を願った兄ヴァンやリグレット教官らと再び同じ道を歩めるようになったのも。

 危険なテロリストに過ぎなかった六神将たちが、世界を守るためにその道を選び直したことも。

 

 あるいは、きっと…――

 

「(誰も傷付けたくない。誰かと手を取り合いたい。そんな彼女(セレニィ)の想いが生んだ奇跡…)」

 

 無論、勘違いである。

 

 ――

 

 物思いに耽っているとアニスが声をかけてきた。

 

「どうしたの、ティア? 疲れたのなら先に脱出する?」

 

 彼女の問いかけにかぶりを振ると、凛とした表情でティアは言葉を返した。

 

「いいえ、大丈夫よ。アニスこそ、先にノワールと脱出しておいた方がいいんじゃないかしら」

「じょーだんっ! こっからが楽しくなってきたところでしょーに。ね、ノワール?」

 

「当然さ。知らない仲じゃないし、なにより乗りかかった船だろ? 降りるって手はないね」

 

 胸を張って応えるアニスと、元気よくそれに同調するノワール。

 輝かしい何かに触れたかのような心持ちで、ティアは微笑み、そして前を向く。

 

「(セレニィ、幾らあなたが先を見通して一人で進んだとしても私は追い付いてみせるわ)」

 

 今回の彼女の行動にもきっと後々に繋がる深い意味があるはずだ。

 それは今の自分には分からない。だがそれで構わない。ティアは、彼女はそう笑う。

 

 何故ならば… 小さな決意をそっと声音に乗せる。

 

「ずっと… いつまでだって追いかけ続けて、私はいつかあなたに並んでみせるもの」

 

「ティア、何か言った?」

「いいえ、なにも」

 

「ふぅん? ……ま、いい顔してるからいっか!」

 

 ちょっとでも目を離すとすぐに無茶をしてしまう大事な存在にいつか並ぶことを夢見て。

 彼女は花も綻ぶような美しい笑顔でストーカー宣言をぶちかますのであった。

 

 繰り返すが、勘違いである。

 

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