力持ちの人魚と祝福の風も神様転生   作:峻天

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009 何事もない平穏な日常

 

リアンが生まれて翌日...夜中に行われたセレンとの修行では、科目3つとも昨日と同じ内容であり、次のステップへ進んでいない。第四科目補強の内容は、タイヤ引き・腹筋・腕立て伏せ・スクワットといった筋トレ一般なもの。アスレチックかと思った仲人達は拍子抜けであった。昨日のアレは、初回におけるインパクトなのかもしれない。仲人達は課せられたメニューを頑張ってこなし、セレンからご褒美のマッサージを受けて二回目の修行終了。

 

 

~仲人 side~

 

「ママ~。リアンを置いて外に出るなんて...ひどいですぅ」

 

僕達五人は毎朝やっている日課を終わらせて寮の中に戻ると、白い水玉模様で可愛いピンクのパジャマを着ているリアン(等身大サイズ)が泣き顔でリインに抱き付いた。驚いたリインは、優しくリアンの頭を撫でて謝る。まだ寝ているとリインから聞いたけど、もう起きたのか...意外と早起きだね。

 

「気持ち良さそうに寝ていたから朝食まで起こさないように、そっとしておいたのだが...寂しい思いをさせてしまったな...すまない」

 

リインの心遣いが、仇になってしまったようだ。訊けば起きた後、うみなみ寮の中を探し回ったらしい。伝えるのを忘れた責任を感じて、僕達はリアンに謝る。ごめんね...

 

「今日はごめんね...明日から、リアンも私達と一緒に朝の体操とジョギングする?」

 

「うん、リアンも参加するですー!」

 

「ふふっ、そうか...次から一緒に起きような」

 

リアンは泣き顔から笑顔に変わり、アキラに頷いて答えた。その元気な様子にリインは微笑んで感心する。次回からリアンも加わって全員参加...健やかだな~と改めて思うよ。素晴らしい一日の始まりになるな...うん。

 

「リアンのパジャマ、一段と可愛く見えるな...見て癒されるというか、何というか...」

 

「うん、僕も思う。ピンク色は可愛らしさを表す代表的な色だからね」

 

「フフ...未来のリアンは、センスが良いんだ(未来のリアンが、はやてから教わった裁縫で作った物と言ったら、驚くかもね)」

 

翔の思った事に同意する。あのパジャマは、未来のリアンから頂いた物だ。確かに、ドラ丸の言う通りセンスが良いよ。ピッタリとパジャマのサイズが、合っているから手作りなのかも...

 

「これから皆はキッチンで朝食を作るから、リアンは着替えてきて」

 

「はいですー! 着替えたら、リアンも手伝うですぅ」

 

リアンは右手を挙げて元気良く僕に返事した後、北の階段を登ってリインの部屋へ向かった。了解する時、そう云うアクションを取るのは癖なのかな? 見ていると何故か自分も、やる気が湧き上がってくるから不思議だ...

 

・・・・・

 

調理を終えて朝食の時間。六人で食堂のテーブルを囲んで、合掌し「頂きます!」と挨拶した。今更だけど、二人増えてうみなみ寮が賑やかになったな~。転生して一週間ところか、まだ半分なのに...

 

「な...何だ! その豆は? 糸を引いているぞ」

 

「はわわわ~。ネバネバですぅ...」

 

「あはは...驚いてるね。初めて見た時は、私もそうだったし」

 

「ははっ、俺もな...納豆の見た目はアレだが、意外と美味しいぞ」

 

納豆パックの蓋を開けて御飯に納豆をかけた時、それを見たリインとリアンは悲鳴を上げる様に驚いた。それで、アキラと翔は苦笑して応える。うん、面白い反応だ...生前、学校の給食で初めて納豆を見た時は、僕も同じだったよ。懐かしいなぁ...

 

「モグモグ...未来のリインとリアンは普通に食べているよ」

 

「まぁ...あっちは100年過ぎているからね。慣れていない方がおかしい」

 

納豆に対して躊躇っているリインとリアンを見たドラ丸の呟きに、当たり前だとツッコミを入れる。慣れるのって...怖いほど素晴らしいよね。

 

「あっ、そうだ...仲人。冷蔵庫にある食材が少なくなってきたから今日の夕方、買い物しないと」

 

「うん、そうだね。先ずは、セレンさんから頂いた預金を下ろしに海鳴銀行へ行こう」

 

僕は寮長として調理の際に冷蔵庫の中をチェックしている。今はアキラの言う通り食材が少ない。財布はあるけど...お金が少ないから、買い物の前に預金を下ろさないとね。因みにうみなみ寮の冷蔵庫は大きく、余裕で三日分の食材を入れる事が出来るから便利だ。保存性能も高いし...

 

「六人分で重くなるだろうから、荷物持ちは俺と仲人に任せろ。それは男子の務めだからな」

 

「えっ? で、でも...そんなの悪いよ」

 

「アキラ。下らないかもしれないけど、男の意地って奴だよ。理解してくれると嬉しい」

 

「そうなんだ...男の子って、たくましいね」

 

そう言うと、翔の発言で戸惑ったアキラは感心して頷いた。リインとリアンは納豆に集中していて、こっちの話に加わっていない。後で話し合い、今日の魔法勉強が終ったら四人で買い物に行くと決まった。

 

・・・・・

 

今日の朝食片付け当番は翔とアキラとドラ丸で、洗濯当番は僕とリインとリアンとなっている。リインは一昨日教えた事を覚えており、自分で洗濯が出来た。リアンは洗濯機のボタンを押したがっていたので...電源入れ→スタートと手順を教えた後、男子側の洗濯機でやらせてあげた。その後の空き時間は自室の掃除をして、今は洗濯物を干す時間。

 

「むぅ~、高くて届かないですぅ...」

 

ハンガーにかけた洗濯物を持ちながら、物干し竿とにらめっこするリアン。身長が135㎝ある僕とリインは手を挙げて丁度良く掴める高さだけど、リアンは25㎝届かない。因みに、翔とアキラの身長は僕とリインと同じ。僕より背が約6㎝低いドラ丸は腕が短く、届かない為【タケコプター】を使う。

 

「リアン。物干し竿まで届かないのなら、飛行魔法を使えば良い」

 

「そうだね。うみなみ寮の塀は高いから、魔法を使っても住民達に見られる心配は無いよ」

 

「あっ、成る程~。その手があったですぅ」

 

リアンは気が付き、飛行魔法を使って30㎝浮かんだ。そして、物干し竿に洗濯物のハンガーをかける。もし、羽があったら天使か妖精に見えるな...

 

「ユニゾンデバイスだから魔法を上手く使えて、勉強は必要無いか...」

 

「だが、リアンは実戦経験が無い。はやての障害が完治したら、一緒に訓練をする必要がある。上手く連携出来るようにな」

 

洗濯物をカゴから出してハンガーにかける作業中、リアンを見て思った事を呟く。聞いたリインは一旦、手を止めて顔を横に振って応えた。流石は元ユニゾンデバイス、尤もな事を言うね。

 

・・・・・

 

出かける時間になり、全員は玄関に集まった。ドラ丸とリアンを除く僕達四人は靴を履いて玄関を下りる。リアンはドラ丸と留守番で、一緒に一般常識を学んだり、家事の手伝いをしたり、遊んだりして平日を過ごすつもりだ。

 

「リアン。昨日買ったシュークリームが冷蔵庫にあるから、おやつの時間になったらドラ丸と一緒に食べてね」

 

「わ~い! おやつが楽しみですぅ~♪」

 

昨日の事を思い出して言うと、リアンは両手を上げて喜んだ。あっ、いつの間にか浮いてる...無意識の内に飛行魔法を使っているね。

 

「お~、飛ぶとは...分かり易いリアクションだな」

 

「うん、見ているだけで、大喜びの気持ちが伝わってくるよ」

 

「ふふっ......ドラ丸。留守の間、リアンの世話を頼むぞ」

 

「うん、任せて。ひみつ道具で学びも遊びも色々出来るから退屈しないよ」

 

翔とアキラとリインはリアンを見て微笑んだ。それからリインはドラ丸に振り向いて子守りを頼む。ドラ丸は笑顔で頷いて【四次元ポケット】を叩きながら自信満々で応えた。そのアクションはよく見かけるけど、癖なのかな?

 

・・・・・

 

今はアースラの艦長室で魔法勉強担当のラステルさんを待っている。今日もリンディさんからお茶を頂いたけど、正直言って砂糖とミルクを出すならコーヒーかミルクティーにして欲しいな。あと、クロノとエイミィはアースラ内の執務室に居ると聞いた。

 

「ねぇ、昨日生まれたユニゾンデバイスはどんな子なのかしら?」

 

「名前はリアンと言って、可愛い女の子ですよ。髪はリインと同じで顔は仲人とはやてと似ています」

 

「仲人とリインのコピーリンカーコアを使ったから、そうなりました」

 

「成る程。ユニゾンデバイスは人間と同じで男女が揃っていないと造れないのね...と言う事は、仲人君が父で、リインフォースが母かしら?」

 

「はい、仰る通りです。僕はリアンにパパと言われました」

 

アキラと翔が答えると、質問したリンディさんは少し驚いてユニゾンデバイスの造り方を理解する。そして、こっちに確認してきたので苦笑しながら肯定と答えた。休日に都合が良ければ、会わせようかな。

 

「18歳にならないと結婚は出来ないと聞いて婚約となった。あいにく私は恋愛経験が無いから具体的に何をすれば良いか、分からない。仲人も同じで、お互い頑張っていきたいと思っている」

 

「あらあら、おめでとう。応援しているわよ(其処は仲人君の腕を絡めて密着するところなんだけれど...リインフォースは純情ねぇ)」

 

リインは両手で僕の右手を優しく握りながら、リンディさんに言う。そうしたら、微笑んで拍手を送ってくれた。桃子さんやエイミィを含めて恋愛相談にのってくれるらしい。うん、助かるよ...からかわれる承知の上で。

 

「リンディさん。勝手ながら話題を変えるけど、アリサとすずかについて御存知ですか?」

 

「ええ、フェイトちゃんから聞いているわ。本当に、皆から意見を聞くのは大切よね...今回、周りから気が付いていない可能性をアキラちゃんが見つけたのだから」

 

リンディさんは僕の質問に答えた後、ウンウンと自分で頷いて意見を纏める重要性を改めて理解する。アリサとすずかに使った方法は人材の確保で役に立つらしいので、本局に報告するって後で聞いた。魔法文化の無い管理外世界で、魔力を感知しないアリサとすずかのような隠れたリンカーコア持ちの人を念話のロックオン確認で検査より“手軽に”見つける事が出来る。後は連続念話で呼び起こすだけと云う流れだ。新しい発見は素晴らしいものだね。

 

「アリサとすずかの魔法勉強について、其方の都合は大丈夫ですか?」

 

「問題ないわ。アキラちゃん達と同様、ラステルに任せるつもりよ」

 

リンディさんはアキラの質問に答える。アリサとすずかに対して、今日する内容は適正検査や念話・初級探知魔法の習得で、昨日の午前にやった事と同じ。ラステルさん、勤務時間ほぼ全て魔法の指導になってしまって...本来の仕事の方は大丈夫かな?

 

・・・・・

 

ラステルさんが艦長室に来た後、皆で挨拶をして僕達は実戦訓練室へ移動した。実戦訓練室の中は隣の射撃訓練室と違って天井が高く体育館のように広い。今は防御魔法を習っている。

 

「基本となる防御魔法は...デバイスまたは手をかざした正面だけ防ぐシールドタイプと、全方向に対して防ぐバリアタイプで二つあります」

 

「バリアタイプは便利な反面、魔力を多く消費する。保有魔力が多い仲人達はそれだけで問題ないが、私としては回避不可能でない限り...シールドタイプがお薦めだ。若干強い防御力があるからな」

 

ラステルさんは説明し、加えてリインはアドバイスする。訊けば、シールドタイプの消費魔力はバリアタイプと比べて三分の一らしい。因みにシールドタイプの魔法名は“ラウンドシールド”で、バリアタイプの魔法名は“プロテクション”と呼ばれる。

 

「今から、防御魔法の手本を見せますね」

 

ラステルさんは右手の平を前に突き出して、術式構築に意識を集中する。

 

「......ラウンドシールド!」

 

ラステルさんは唱えると、手の平の前に半透明なピンク色で円形の盾が出現した。その大きさは...直径2m位かな。今のはデバイスを必要としない簡単なF級魔法だから当然、強度は脆い。

 

「次は、バリアタイプです......プロテクション!」

 

ラステルさんはラウンドシールドを消した後、別の術式を構築して唱えると彼女を包む半透明なピンク色で球状の魔力壁が出現した。今のもF級魔法だから魔力の消費が多いバリアタイプでも、C級のシールドタイプより消費が少ない。その強度は...考えるまでもないな。うん。

 

「確かに説明通り、全方向から防げますね。見て納得しました」

 

「欠点を考えないとして...方向を気にしない分、バリアは便利だな」

 

「リイン。余りバリアタイプをアテにしていると、注意力が衰えるからシールドタイプを薦めるもう一つの理由かな?」

 

「ああ、視野が狭くなるんだ。実戦において視野が広ければ有利と言える」

 

プロテクションを見たアキラは使用者のラステルさんに感想を言い、翔は呟く。思った事をリインに訊ねると頷いてアドバイスした。視野か...交通安全教室で警察官から、体育授業で先生から、試験勉強で両親から聞いた事がある。何処でも重要なんだな。

 

「それでは、訓練を始めましょう。魔力注入はゆっくりでいいので、毎回確実に成功させるようにして下さい」

 

「「「はい!」」」

 

ラステルさんに返事して、シールドタイプとバリアタイプを交互に使用する流れで防御魔法の訓練を行った。防御魔法のやり方は、術式が違うだけで手順は魔力弾の形成と同じ。僕の魔力壁の色は半透明で黄色だった。予想通りだったけどね。

 

・・・・・

 

もうすぐ昼食の時間になり、防御魔法の訓練は終わった。魔力の残りは、まだ七割以上あるから午後の訓練は問題ない。

 

「此方側の命を守る事から、防御魔法の訓練は他の魔法より優先です。覚えておいて下さいねー」

 

ラステルさんは終わりの挨拶で、大切な事を伝えた。管理局では業務中、防御魔法に失敗したら始末書を書くらしい。厳しいなぁ...

 

「あら、丁度良く終わったところね。お疲れ様」

 

昨日と同じくリンディさんが迎えに来て、僕達は食堂へ移動した。ラステルさんは同僚の友達と食事なので、今日も別行動。

 

・・・・・

 

今はリンディさんと食事中...クロノとエイミィも一緒で同じテーブルだ。

 

「魔法勉強の調子はどうだい?」

 

「おう、順調だぜ...と言っても、失敗しないように気を付けているから魔法の発動が遅いけどな」

 

「そうか...魔力注入は慣れが必要だからな。積み重ねれば、無意識の内に早くなるだろう...頑張れ」

 

翔は答えると、訊ねたクロノは苦笑して応援した。いつかデバイスを用いてC~A級魔法を使う時、早くするのは難しいとの事。比喩すると、大きなバケツに水を入れて溢れないように丁度良く一杯にする...それを短時間で出来るか? と云う感じ。慣れていない内には、集中力が要るね...

 

「聞いたよ~。婚約したんだって? 本当?」

 

「うん、そうだよ。8年以上と、まだ先は長いけどね...はは」

 

「そっか~。でも、結婚まで時間が沢山あるから恋人と楽しむのもアリだよ。デートとか」

 

「デート?」

 

「えっとね...好きな人と二人っきりで、お出かけの事だよ」

 

僕とエイミィの話を聞いたリインはデートの意味を求める。それでアキラは説明した。デートか...今まで彼女はいないから、した事がないな。

 

「成る程。二人っきりなら...相手を独り占め出来て、より仲は深まるな」

 

「うふふ...(相手を独り占めだなんて...怖い事を言うのね)」

 

リインから“独り占め”と聞いてゾクッとしたのは、気のせいだろうか?

 

「なぁ、仲人。デートをするのなら、どんな場所が良いんだ?」

 

「う~ん...誰でも楽しめるテーマパークこと、遊園地かな?」

 

「あはは、定番だね...でも、今の二人は子供だから難しくない? 市内の臨海公園がお薦めだよ~。翠屋近くのARCADE七海で買い物もオッケー」

 

翔と話していると、エイミィは笑ってお薦めのデートスポットを教える。臨海公園は名の通り海が見えて、広く静かで落ち着く場所。ARCADE七海はオシャレなアーチ商店街で雑貨店・洋服店・装飾店・飲食店・ゲームセンター等の店が並んでおり、若者に大人気だそうだ。どれも楽しそうだね...休日になったら、寮の皆で遊びに行こうかな~。

 

「12月に海鳴市をパトロールしている時、ARCADE七海を通ったが、イルミネーションは沢山あって凄かったな。幻想的で見惚れてしまい、仕事を忘れて母さ...艦長に怒られたよ...不覚だった」

 

「興味あってその場所へ行ってみたら、私も見惚れてしまったわ。あんな豪華なイルミネーションはミッドに無いもの...」

 

「特に...多くのイルミネーションが付いた大きな円錐の木は絶景だったよ~。ミッドにも、あれが欲しいね~」

 

「クリスマスツリーだね。私も見たかったな」

 

「アキラ。それは仕方ねぇよ...また12月になったら、皆で見に行こうぜ」

 

クロノとリンディさんとエイミィはクリスマス期間のARCADE七海に対して感想を述べる。翔は、見れなくて残念そうな顔をしたアキラを励ました。僕も見たいけど、12月まで10ヶ月あって少々気が遠いなぁ...

 

「仲人。イルミネーションとは、どんな物なんだ? 皆の話によると、良い物らしいが...」

 

「ちょっと待ってて......はい、これ。モミの木に沢山付いた光の粒がイルミネーションだよ」

 

レアスキルのアイテムクリエイションで、イルミネーションが付いたクリスマスツリーのイメージ写真を作成してリインに渡し、説明した。

 

「あれか...元々居た世元のはやて達と別れたあの日、丘へ行く途中で見た事があるな。とても綺麗で私は好きだぞ」

 

リインも気に入ったようだ。12月になったら、うみなみ寮で豪華なクリスマスツリーを作ろうかな。リアンも気に入りそうだし...

 

何故かクリスマスの話題に変わっちゃったけど、昼食を食べながら談笑して昼休みを過ごした。

 

・・・・・

 

昼休みが終わり、ラステルさんと一緒に射撃訓練室へ移動した。今は拘束魔法を習っている。初級で基本の魔法と云えるリングバインドは対象に撃ち込み、引っ掛けて拘束する。射撃魔法に近いから射撃訓練室なのね...

 

「今から、リングバインドの手本を見せますね。射撃魔法と、如何違うか...見つけて下さい」

 

ラステルさんは射撃位置に着いて、腕を伸ばして掌を的の方に向けた。離れた的は、ゆっくりと時計回りに回転している棒である。

 

「リングバインド......シュート」

 

ラステルさんの掛け声と同時に、ピンク色の輪が的の棒を縛り付けた。棒の回転は止まる。あっ、輪が出るまで弾が見えなかった...

 

「当たるまで、弾が見えないんですね...」

 

「それに、魔法の速度が桁違いな気がする...」

 

「その通りです。更に軽いホーミング性もあって、多少...狙いが外れても当たります」

 

「う~ん...回避は難しいかも......リイン。どう対処するの?」

 

「相手の動きに注意して上手く防御魔法を使う。けっこう難しいがな...一定時間、拘束魔法を無効化する補助魔法を使えば対処は簡単だ。拘束魔法を解除する魔法もあるから、掛かってしまっても慌てないように」

 

ラステルさんはアキラと翔の感想に応え、リインは僕の質問に答えた。拘束魔法は、とても厄介だと改めて理解したよ...

 

「それでは、魔法の訓練です。各自、射撃位置に着いて下さい」

 

「「「はい!」」」

 

その後、僕達は射撃位置に着いて拘束魔法の訓練をした。誰も見えない拘束弾は使用者だけ見えるみたいだな。弾速は驚くほど速かった。

 

・・・・・

 

午後3時前になって訓練は終了した。そして終わりの挨拶で、ラステルさんからの一言。

 

「これで、射撃魔法・防御魔法・拘束魔法の初級魔法を一通り習得しました。次回はデバイスの使い方について学び、共有デバイスのフリーダムを使って実戦レベルの力を持つC級魔法の訓練をします。明日も、頑張りましょうね」

 

明日からデバイスを使って魔法の訓練か...使う時、どんな感覚なのかな?

 

「ラステルさん。もしかして備品の共有デバイスは、自分専用のデバイスが使えない時に備えての代用品ですか?」

 

「はい、その通りです。但し...量産品でA級以上の魔法を使うと壊れるので、Aランク以上の魔導師にとっては不便ですが...」

 

ラステルさんは頷いて、翔の質問に答えた。共有デバイスのフリーダムは魔導師の誰でも使えて、低コスト生産出来るように設計されたストレージデバイス。それは管理局の支給品として採用されており、管理局魔導師の多くが扱っているそうだ。そういや...デバイスは、いくらするんだろう? 自分専用のデバイスはハイスペックな特注品と云う事になっているから、かなりの高価になると思うし...三人分となると、うみなみ寮の貯金が全然足りないかもしれない。その時は、セレンさんと相談してみよう。アリサとすずかは上流家庭級の富豪だから問題ないと思うけど...

 

少し話してその後、ラステルさんと別れて艦長室へ向かった。アースラ内の通路は大体覚えたので、僕達だけで大丈夫だ。

 

・・・・・

 

「あら、あとから来るフェイトちゃん達と会って行かないの?」

 

艦長室で帰りの支度をしていると、リンディさんが声をかけてきた。

 

「リンディさん。そうしたいのは、山々なんですが...」

 

「うみなみ寮の食べ物が少なくなって、私達は買い物に行かないといけませんから......初めての場所へ行く時は早い方が良いかなと思って」

 

「それに...帰るのが余り夜遅くなると、世間から俺達の事を不良グルーブだと言われてしまいますよ」

 

「それもそうね。ミッドでは、子供でも管理局員なら夜遅くなっても言い訳が出来るけれど、アースは管理外世界だから通用しないものね...」

 

僕に続いてアキラと翔は理由を伝えると、リンディさんは苦笑して応えた。

 

「シャマルに弄られたり、出来る範囲が限られていたりして子供の身は不便だな...早く大人に戻りたいと思ってしまう」

 

「まぁまぁ...それは仕方ないよ。子供しか出来ない事だってある筈...人生で一度しかない子供の時間を楽しもう。大人に戻って後悔はしないように」

 

悔しい顔をして愚痴を言うリインを宥める。実を言うと、秘密道具の【タイムふろしき】や【としの泉ロープ】を使えば、直ぐに大人に戻れるけどね。でも、ややこしいような気がする...

 

僕達はリンディさんと別れの挨拶をした後【どこでもドア】を通ってうみなみ寮の庭へ戻った。今更だけど、艦長室の奥にある金閣寺模型の屋根に付いた鯱を外すように、とリンディさんに指摘した。ハッキリ言って変だよ...

 

・・・・・

 

翔とアキラとリインを玄関の前で待たせて、リビングへ向かった。アースラへ出かける前、預けた通帳とキャッシュカードを取りにドラ丸と会う為だ。

 

「ドラ丸。買い物に行くから、通帳とキャッシュカードを頂戴」

 

「うん、解った......はいよ~、キャッシュウェストポーチ~」

 

「~♪ ~♪」

 

リビングに入った後...南側のソファに座っているドラ丸にお願いして、通帳とキャッシュカードが入ったウェストポーチを受け取る。【四次元ポケット】から秘密道具を出すノリだね。北側のソファの方に振り向くと...リアンは、と~っても幸せそうな顔をして翠屋のシュークリームを食べている。和むなぁ...こっちに気付いていないみたいだ。携帯電話のカメラで、リアンの写真を......いや、怒られるから止めとこう。

 

「...ん、あれ? ドラ丸。もう一つの皿にシュークリームが4つあるけど、如何したの?」

 

「このシュークリームは【フエルミラー】でコピーした物だよ。今日、頑張った仲人達にあげようかと思って」

 

テーブルを見ると...買ったのは2つの筈なのに4つ(ドラ丸の分は除く)あったので訊いてみたら、ドラ丸は【四次元ポケット】から縦長い鏡...【フエルミラー】を見せるように、上半身だけ出して答えた。へぇ~、そうなのか...その気遣いはとても嬉しいよ。

 

「ははっ...ありがとう。そのシュークリームを翔達に配ってくるよ...買い物に行ってくるね」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

ドラ丸にお礼を言った後...皿の上に乗せてあったクッキングペーパーで4つのシュークリームを包んで持ち、リビングを出た。 

 

・・・・・

 

玄関を出た後、コピーシュークリームを翔達に配ったんだけど...

 

「うっ、全然美味しくない...なんで?」

 

「おぇっぶ...何だよ...このシュークリームは」

 

「っく...とても不味いよ」

 

「っつ...この味は...キツイな。リアンだったら...絶対に泣くぞ」

 

コピーシュークリームの味は、かなり不味くて僕達四人は涙目であった。そう云えば【フエルミラー】でコピーした物は左右反転するって原作にあったような気がする。中身も逆になるから、こうなったのかな? 後でドラ丸に、食べ物のコピーは無理があると伝えよう。はぁ...残念。

 

「ねぇ、仲人。口直ししたいから銀行でお金を下ろした後、何か食べようよ」

 

「出来れば、私も頼む!」

 

「俺もアキラやリインに同意だ。舌がおかしくなっているんだからな」

 

「そうだね...寄り道する事になるから、早歩きで行こうか」

 

そう言って先頭に立ち、僕達四人はうみなみ寮の門を出た。地図によると目的の銀行はARCADE七海の近くにあるようだ。美味しい食べ物があるといいな~。夕食が食べられなくなるから勿論、少なめだ。

 

・・・・・

 

海鳴銀行でお金を下ろした後、今はARCADE七海の南口にいる。

 

「お~、歩道が広いな。大きい観葉植物もあるぜ」

 

「中を通る人も多いね...美味しそうな匂いも流れてる」

 

「散らばる光の粒...何度見てもイルミネーションは綺麗だな」

 

ARCADE七海の様子を眺めた僕達四人は感激する。入口から奥まで長く、翔の言う通り歩道も広い。車は通らないので歩行者天国って感じだ。観葉植物があちこち立っていて、クリスマス期間でなくてもイルミネーションが沢山ある。今は放課後なので、立ち寄る人は学生が多い。オシャレで良い雰囲気だから、エイミィが気に入るのも頷けるね。僕も気に入ったよ。

 

今更だけど、黒髪と茶髪以外の人(青髪、赤髪、緑髪、ピンク髪など)が多いな...転生前に居た僕と翔の世元と大違いだ。

 

「色々回りたいけど、時間が無いから休みの日にしようか。取り敢えず、入口にある屋台へ行こう」

 

寄った屋台は、たい焼きを売っていた。商品はカロリー控えめで小サイズのたい焼きである。だから女性の客が多いのね...

 

「おじさ~ん。たい焼きを4つ下さい」

 

「毎度~。1つ80円だから合計320円になるよ」

 

おじさんに320円渡して、たい焼きが4つ入った紙袋を受け取る。そして、翔やアキラやリインに配った。実際に見て、たい焼きの大きさは普通と比べて2分の1くらい。可愛い形をしているので、食うに対して抵抗を感じる。

 

「モグモグ...普通のたい焼きより甘くねぇな...美味しいけど」

 

「モグモグ...屋台にカロリー控えめと書いてあったから、糖分を抑えてあるんじゃないかな? ......あっ、リイン。女の子は両手で持って食べた方が良いよ」

 

片手でたい焼き持って頬張る翔の呟きに対して、両手でたい焼きを持って食べているアキラは応えた後、片手でたい焼きを持って食べているリインに注意した。

 

「む...こうか?」

 

「うんうん。良い感じ」

 

言われた通りに仕草を直したリインは確認すると、アキラは笑って頷いた。周りからアキラとリインに視線が集まっているような気がする...その仕草が可愛らしいからかな?

 

「ハアハア...可愛いなぁ...持って帰りたい」

 

何だろう? 今、寒気がしたけど......あっ、アキラとリインは怯えている。

 

「なぁ、仲人。早く此処から離れた方が、良くねぇか?」

 

「うん、そうだね......アキラ、リイン。この場から移動するよ」

 

移動しようと促す翔に賛成し、アキラとリインを呼んで僕達四人は、そそくさと別の場所へ移動した。

 

・・・・・

 

ARCADE七海から歩いて15分の所にあるスーパーで食べ物を買ったけど...ピニール袋は有料だった。今度からエコバッグを用意するか。

 

「そう云えば、お小遣いを決めていなかった。一ヶ月5000円が良いと思うけど...如何かな?」

 

「行き成りだな...俺は、その額で構わないぜ」

 

「私も、その額で良いよ」

 

「仲人に任せる。私はお金について、よく分からないからな」

 

買った物を全てピニール袋に入れた後...気が付いて翔やアキラやリインに確認してみた。反対する者はいなかったので、お小遣いを一ヶ月で5000円に決めた。小学生にとって多いかもしれないが、僕達の精神は大人だから問題ない。

 

「それでは、うみなみ寮へ帰ろうか。荷物は僕と翔が持つよ」

 

僕達四人はスーパーを出て、帰路についた。僕と翔は荷物を持ち、何も持っていないアキラとリインは申し訳なさそうな顔をしていたけど...料理の主導権を委ねる事と、学校生活の際にお弁当作りを任せる事で和解した。そう云うの...男の立場と女の立場って奴だね。

 

~side out~

 

 

仲人達は買い物に行っている頃...アースラでは、アリサとすずかの適正検査が行われた。その結果...アリサはなのはと同じ砲撃タイプで、すずかはフェイトと同じ高機動タイプと判明する。驚く事に...アリサは“炎熱”という魔力変換資質があって、更にすずかは“凍結”という珍しい魔力変換資質があると確認された。その二人が揃えば、温度差による強力な攻撃が出来るだろう...例えば、どんな硬い壁でも強度を下げて突き破るとか。

 

その後、なのはやフェイトも一緒にラステルの授業を受けて、予定通りアリサとすずかは念話と初級探知魔法を習得した。

 

 

つづく...

 


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