力持ちの人魚と祝福の風も神様転生   作:峻天

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014 二つの道具が命を守る

中央広場の近くの目立たない広場...仲人と琢磨はジャッジによって決闘の場へ転移して、この場に取り残された翔はダメ元で【どこでもドア】を作って試みたが、矢張りダメだった。

 

「くそっ、矢張り繋がらねぇか......仲人、無事でいてくれよ」

 

目的地指定がエラーとなって機能しない【どこでもドア】を閉め、今は悔しい気持ち一杯で仲人の無事を祈っている。ジャッジによる決闘の場は、外部から介入不可能なのだ。

 

「おーい! 翔」

 

「ん...あ、リイン。それに皆も」

 

中央広場へ行った筈のリインフォース達五人が、翔の元にやって来た。不安だったリインフォースが魔力感知を行っていたらしい。それで異変に気が付き、引き返して此処に駆けつけてきた訳である。

 

「翔君。一人だけなんか? 仲人君は何処に行ったんや?」

 

はやては周りを見回した後、翔に訊ねた。リインフォースとリアンとアキラとドラ丸も、はやてと同じ様に仲人を探している。琢磨に対しては如何でも良いみたいだ。

 

「そ、それは...言いにくいんだが...」

 

翔はは目を瞑って少し考えた後、アイテムクリエイションで紙芝居を作ってはやて達五人に事情を説明した。紙芝居で説明の理由は、ジャッジについて口だけでは解りにくいからだ。そう、ことわざで百聞は一見にしかず。

 

「ま...負けた人は首を切られるんか...恐ろしい機械や...」

 

「そんな...酷い。話し合いは嘘で、殺し合いなんて...」

 

「パパが死ぬなんて...そんなの嫌ですっ!」

 

「くっ...助けに行きたくても、あの場所へ行けないとは...」

 

「(言えねぇよな...審判もグルだと云う可能性があるって)」

 

顔を青くするはやてとアキラ。リアンは泣き叫び、リインフォースは悔しい顔をしている。他に何かあるが、絶望したら拙いと思って黙っている翔。折角楽しいピクニックなのに、琢磨の所為で暗い雰囲気になってしまった。

 

「皆。こんな時、残された手段は一つあるよ」

 

「本当か!? 早く教えてくれ!」

 

希望はあると聞いたリインフォースは、ドラ丸に急接近して強請った。ほか翔達四人もドラ丸の元に集まる。ドラ丸の言う“残された手段”とは...?

 

 

~仲人 SIDE~

 

今、ジャッジによって転移された僕と黒柳君は決闘の場にいる。何処にも翔の姿はない。如何やら本当に一対一で、僕に白羽の矢が当たったようだ。

 

此処の風景は、背景も地面も真っ黒。地面の上に雲みたいな白い霧が流れるエフェクトも入っている。周りは黒だが、真っ暗と云う訳ではないので、普通に黒柳君やジャッジが見える。

 

うぅ...不気味で怖くて寒気が止まらない...早く此処を出たいな。でも...

 

「漫画じゃなく、リアルだと死神が出そうで不気味な所だぜ...」

 

周りを見回して呟く黒柳君を見る。彼と戦って勝利し、そして見捨てないと外に出られないんだよね...う~ん、困った。

 

『仲人VS琢磨...スタート!』

 

僕と黒柳君の間に佇んでいるジャッジは額にある第三の目を開け、決闘開始の合図を出した。こっちの都合を無視してるな...あっ、機械だからか。

 

「俺は、此処に長く居たくねぇ。悪いが、直ぐに消えて貰うぜ。モブ...いや、雑種っ!」

 

黒柳君は金鎧アーチャーっぽく言いながら、王の財宝を展開した、彼の右・右上・上・左上・左の空間が歪み、大量の剣と槍が現れる。あれが王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)...アニメと違って黄金に輝いてないけど。そんな事より、凄い威圧感があって怖い...自分の体が震えているよ...

 

「衛宮士郎の最後の様に、串刺しになれ!」

 

「っ!?」

 

黒柳君の掛け声を聞いて反射的に、目を瞑って【寒くないコート】右ポケットの中に手を突っ込み、【バリヤーポイント】のスイッチを入れた。その瞬間、自分を包む不可視の隔壁(半径2メートルの球)が発生する。

 

黒柳君の掛け声と共に射出された大量の剣と槍が、弓矢の様な速度でこっちに迫った。だが、【バリヤーポイント】の隔壁によって全て弾かれる。

 

『琢磨の攻撃。...仲人に0のダメージ』

 

「な...全て弾いただと!?」

 

攻撃が止んだ後...ジャッジは結果を報告し、黒柳君は驚愕する。ふぅ...お出かけの前に、ドラ丸から貰った【バリヤーポイント】の御蔭で助かった。

 

因みに、その【バリヤーポイント】は未来の僕がアイテムクリエイションで作った物ではなく、22世紀の市販品である。原作で語られていないが、電池は3時間で充電式。防ぐエネルギーが大きければ、早く電池を消費する。

 

「てめぇ! 何をしやがった?」

 

「悪いけど、君と敵対しているから教えられないよ」

 

こっちの命が懸っているんだから、タネは明かさない。取り敢えず、防御の方は何とかなったとして、攻撃は如何しよう...早くしないと、【バリヤーポイント】の電池が無くなってしまう。その時、僕の負けだ。

 

「ちっ、投影...開始」

 

「あっ、それは!?」

 

衛宮士郎と赤服アーチャーが使う投影魔術で、赤い槍を作り出す黒柳君を見て驚いた。それは、青タイツのランサーが持っていた槍...避けても防御しても心臓を貫くと云う特性があったような気がする...一番恐ろしい印象があるから背筋が凍る。気分も悪い...

 

「因果を逆転させる死の呪いが通用するか如何か...分からねぇが、これでも喰らいやがれ! ...刺し穿つ死棘の槍!」

 

「っ!?」

 

黒柳君は「ゲイボルグ(刺し穿つ死棘の槍)」と叫び、赤く光ったゲイボルグ(赤い槍)をこっちに向けて投擲した。恐怖のあまりに、思わず目を瞑ってしまう。

 

ゲイボルグが【バリヤーポイント】の隔壁にぶつかった時、左ポケットの中にある【命の石】が音を立てて砕け散った。その後、ゲイボルグは赤い光を失って弾かれる。【命の石】は死の呪文(ザキ・ザラキ・ザラキーマ)を受けた時、身代わりになってくれる特性を持つ。ゲイボルグにも効果があったようだ。その御蔭で助かった。

 

因みに【命の石】は、秘密道具ではなくドラゴンクエストのアイテムだ。それも、お出かけの前にドラ丸から貰った。ついでに理由を訊いても、教えてくれなかったが...

 

『琢磨の攻撃。...仲人に0のダメージ』

 

「くそっ、なら全力で隔壁ごと消し飛ばしてやる。...起きろ! エア」

 

「あっ、それは!?」

 

黒柳君は地団駄を踏んだ後に王の財宝から、刀身が円錐に近い円柱三段重ねの形をした剣を取り出した。その剣は黒に赤紫の模様が入っていて禍々しい。あの滅茶苦茶な大技を放つ気だ...このまま受ければ、【バリヤーポイント】の電池が一気に無くなってしまう。だったら【タンマウオッチ】で...

 

「んぎぃーーっ! んぎぃーーっ! (重い、重てぇ...)」

 

「......」

 

アクシデント発生!? 黒柳君は歯を食いしばって、柄に両手で円柱剣を持ち上げようとしているが、刀身の先端は地面についたままで上がれない。その剣を観察してみると...子供の身にとっては、大きくて重いと判る。現時点では【スーパー手ぶくろ】があれば、軽々と扱えそうだけどなぁ...

 

取り敢えず、アイテムクリエイションで【ショックガン】を作った。その銃を右手に持ち、銃口を黒柳君に向ける。そして言い放った。

 

「眠って貰うよ。黒柳君」

 

「!? ちょっとまt」

 

【ショックガン】のトリガーを引いた。その銃口から青白い光線が放たれ、黒柳君はこっちに顔を向けて「待て」と言い終わる前に気絶して地に伏せる。初めて人を撃ってしまった...ごめん黒柳君。

 

『仲人の攻撃。...琢磨は気絶。10カウント...1...2』

 

「へ?」

 

ジャッジぃ...カウントをとるの!? 見捨てると云う心の準備...覚悟が出来ていないのに...このままじゃ、拙い。

 

『...4...5...6』

 

「“た”のつくものは中に入れ!」

 

カウントをとっているジャッジを横目に、叫びながら黒柳君の元へ走った。通常【バリヤーポイント】の隔壁は誰でも入れないが、使用者の許可で中に入れるようになる。

 

『...9...10! 仲人の勝利。......琢磨は斬首』

 

カウントを終えたジャッジは、僕の勝利と知らせた後...大鎌を掲げて両目を赤く光らせ、処刑宣告と共にこっち(正確には黒柳君の方)へ急接近した。メチャクチャ怖いんですけど!? 今日の夜は悪い夢を見そうで不安だ...

 

だが、ジャッジは【バリヤーポイント】の隔壁によって弾かれる。

 

『琢磨は斬首。琢磨は斬首。琢磨は斬首。琢磨は斬首(ry』

 

「琢磨は斬首」と連呼しながら何度も隔壁にぶつかるジャッジを尻目に、頭を抱えて悩む。如何しよう...やっぱり黒柳君を見捨てるしかないのかな? でもなぁ...う~ん。

 

「ひょうが」

 

「!?」

 

何者かの声が聞こえた時、ジャッジは青白い光の柱に飲まれて氷塊に閉ざされた。完全に機能が停止したからか、少しでも動く様子はない。行き成りでビックリしたな...それより、さっきの声は...?

 

「大丈夫ですか? 仲人」

 

「あっ、セレンさん!」

 

何時の間にか、ジャッジを閉じ込めた氷塊の左隣にセレンさんが立っていた。助かった...のかな? 僕と黒柳君は。しかし、誰でも入れないこの空間に如何やって? あっ、最高神だからか...それなら納得出来る。

 

命の危機は去ったので、【バリヤーポイント】のスイッチを切った。その隔壁が無くなった事に気付いたセレンさんは、ゆっくりとこっちに近付く。

 

「お二人共、無事で何よりです。しかし...琢磨がジャッジを使って仲人と死の決闘を行っていると、リインフォースから聞いて驚きました」

 

言う始めは微笑んでいたが、途中で呆れた表情になるセレンさん。話によると、仕事をしている途中で携帯電話が鳴り、リインから緊急連絡を受けて此処に駆けつけて来たとの事。そう云えば、やむを得ない緊急事態であれば直接電話で構わないって、言われてたっけ。

 

「セレンさん...如何して黒柳君は、僕と翔を殺そうとしているんでしょうか? 勝手な性格は仕方なくても、仲良くしたいのに...納得出来ません」

 

黒柳君があんな酷い人だとは、思わなかった...道具が無ければ死ぬ所だった。だから涙目になって訴えた。聞いてくれるセレンさんは悲しそうな顔をしている。

 

「其処まで本性を現した以上...見過ごせませんね」

 

気絶している黒柳君に目をやって、彼の処遇について思案するセレンさん。

 

「ふぅ...琢磨は“地獄”で更生させますか」

 

「っ!?」

 

セレンさんは一息入れた後、パンパンと手を合わせ叩きながら黒柳君の処遇を告げた。地獄と云う単語を聞いて体に衝撃が走る。じ、地獄だって!?

 

「地獄って...鬼さんが居て血の池や針の山とか、ある所ですよね?」

 

「はい。他に溶岩の海や極寒の氷山など、色々ありますよ」

 

セレンさんは頷いて質問に肯定した。うわぁ、溶岩の海とか...本当に恐ろしくて行きたくないな...うん。

 

「へ、下手したら...死んでしまうのでは?」

 

「その辺りはちゃんと“考慮”しますので、心配要りません」

 

考慮ねぇ...どんな事をされるのか、想像出来ないや。それ以前に、生きたまま地獄に堕ちるとか...普通はないと思う。体験みたいなものかな?

 

気絶している黒柳君は、セレンさんによって青い正八面体のクリスタルケージに閉じ込められた。浮遊しているそのケージは、ドリルみたいに水平回転しながら地面の中へ沈んでいく。その様子を見届けてゾッとし、黒柳君を哀れに思えた。残った円柱剣(乖離剣エア)はセレンさんが預かるらしい。

 

「さて...仲人。私との話は此処までです。早く元の場所へ戻り、貴方の帰りを待っているリインフォース達を安心させて下さいね」

 

セレンさんは近くの地面に青白い八芒星魔方陣を出現させた後、こっちに微笑んで帰還を促す。その魔方陣に乗れば、元の場所へ帰れるとの事。

 

「あっ、はい。そうですね...ありがとうございました!」

 

僕はセレンさんにお礼を言った後、早足で八芒星魔方陣の上に乗ってリイン達六人の待つ臨海公園内の広場へ転移するのだった。別れがアッサリとしているのは、セレンさんは仕事から抜け出した為、早く戻らないといけない。したがって今は時間が無いのである。

 

・・・・・

 

転移の光が収まった時、リイン達六人が目の前に居た。わわ...行き成りでビックリした...探す手間が省けたから良いけど、近過ぎだよセレンさん。

 

「「「「「仲人!/仲人君!」」」」」

 

「パパぁ~!」

 

こっちを見たリイン達五人は笑顔で「おかえり」と言った。同じくリアンは泣きながら僕に抱き付く。締める力が強い...余程心配だったみたいだ。

 

「皆、ただいま! ......リアン、この通り怪我が一つも無いから安心して」

 

「え~ん...」

 

笑顔でリイン達五人に「ただいま」と返して、それからリアンの頭を優しく撫でる。

 

「なぁ、仲人。黒柳は如何なったんだ?」

 

「黒柳君なら、地獄へ送られたよ...セレンさんに」

 

「「「「!?」」」」

 

「(結局、そうなっちゃったね...これから始まる鬼姫のフレイアさんからの厳しい矯正教育に耐えてね。頑張れ琢磨)」

 

神妙な顔で翔の質問に答えると、翔達四人(ドラ丸を除く)はショックで呆けた顔になる。リアンは聞いていないし、まだ泣き止んでいない。

 

「あ、言葉が足りなかった。地獄へ送られたと云っても、更生の為であって黒柳君は死んでいないよ。何をされるのか、分からないけど」

 

セレンさんに殺されたと勘違いしたかもしれないので、言葉を付け加えた。それを聞いた翔達四人は少しホッとする。

 

「...でも更生やのに、地獄はハードとちゃうか? 死んでしまうで?」

 

「うん。血の池や針の山や地獄の釜なら、如何考えても...」

 

「ベルカの伝承にある地獄では、火あぶりや鉄の処女等あるが...そんなモノから生還出来るか、怪しいな」

 

「死なないように考慮するって、セレンさんが言ってた。だから大丈夫だと思う...たぶん」

 

怯えながら地獄について話したはやてとアキラとリインに対して、苦笑しながら応える。そうなってしまったのは、黒柳君の自業自得だし。

 

「皆。怖い話は此処までにして中央広場へ行こうよ。琢磨の事は心配しないで。何時か...友好的で立派な大人に成長して帰って来るから」

 

楽しいピクニックだから怖い話は終わりにしようと、皆に呼び掛けるドラ丸。友好的な黒柳君か...それは楽しみだな。その時に、今日の事は水に流そう。

 

「そうだね。......リアン、もう大丈夫?」

 

「うん。...えへへ~、いっぱい泣いてスッキリしたですぅ」

 

泣き止んだリアンは笑顔になって応え、抱き付き状態を解いた。鼻水が出ているので、ハンカチでリアンの顔を拭いて綺麗にする。......これでよし。

 

「っ!?」

 

歩こうとしたら、転んで地面に手と膝を付き、四つん這いになった。中央広場を目指して足を進めた皆は驚いて、また僕の元に集まる。

 

「あれぇ? 足に力が入りにくい...」

 

「それは恐らく、命懸けの戦闘による緊張が抜けた反動だろう。......仲人、肩を貸そうか?」

 

「あ...ありがとうリイン」

 

言葉に甘えてリインの肩につかまって二人三脚みたいな体勢になった。それから頑張って足を動かし、前に進む。

 

「...リイン」

 

「ん、なんだ?」

 

「こんなに密着しているからドキドキしてきた...顔も近いし」

 

「っ...い、行き成り何を言うんだ!? それを意識したら、ドキドキしてきたじゃないか」

 

「ははは...リインの顔真っ赤や~」

 

「あ、仲人も照れてる...(男の子なのに可愛い...)」

 

「ははっ...二人共、良い雰囲気で似合ってるぜ」

 

「リアンもパパとママの間に入りたい...けど、我慢ですぅ(リアンは空気を読める良い子なのです)」

 

「(二人の様子を写真に残したいけど、勝手に撮ったら怒られるかな?)」

 

僕の気持ちを聞いたリインは顔を赤くして、そっぽを向いた。はやてはリインを見てニヤニヤし、アキラはジーと僕を見詰め、翔は笑顔でこっちを見守り、リアンは羨ましそうで、ドラ丸は【四次元ポケット】からデジタルカメラを取り出して悩んでいる。

 

「と、兎に角...前に進むぞ」

 

「わわっ、リイン。足が早いよ~」

 

僕達七人は目立たないこの広場を出て、近くの中央広場へ向かうのだった。先頭に立つと皆に見られ続けるから恥ずかしい為、僕とリインは後列となっている。あと翔は、はやての車椅子押し。

 

・・・・・

 

中央広場の直ぐ前まで着いたんだけど、困った事が起きた。それは...

 

「「「「「イエーイ!/イヤッホー!/ヒャッハー!」」」」」

 

派手なバイクに乗った青年の男達五人が、中央広場を走り回っていた。しかも速いスピードで運転。危なくて中に入れないでいる。勿論、僕達七人の他に数人の利用者も困っている様子。

 

「迷惑運転ときたら、貴重なガソリンの無駄使いだろ...ありゃ」

 

「うん、全くやな...此処は静かな場所やのに、エンジン音が煩いわ~」

 

バイク乗り五人組を見た翔は顔を顰めて呟き、はやても不満な顔でそれに賛同した。僕もリインも皆もエンジン音が煩いと不快に思っている。バイクで楽しむのなら、余所でやって欲しいよ...と云うか、公園内は二輪車や自動車の進入禁止じゃなかったっけ?

 

「...リイン、もう良いよ。足の感覚が元に戻ったから」

 

「む、そうか...解った。感覚が戻ったからと言って無理はするなよ」

 

少し心配な様子で、肩を貸してくれている体勢から解放するリイン。彼女は心配性かもしれない。黒柳君から強引な決闘で僕がいなくなった時は必死だったと、少し前にドラ丸から聞いたし。

 

「コラーーーッ! 此処は二輪車の進入禁止だぞ!」

 

「うおっ!? やべぇ! サツが来たぞ。ずらかれ!」

 

西の方(僕達七人の後ろ)から、自転車に乗った男性警察官(中年)が怒鳴り声を上げた。その声を聞いたリーダーらしきバイク男(赤バンダナ)は指示を出して、四人のバイク男と共に東へ走り去ってしまう。誰かが通報したらしい。

 

これで静かになり、安心した利用者達は次々と中央広場に入って行く。警察官は通信機で応援を呼び、バイク男五人組を追いかけて行った。公務員さん、毎日お疲れ様です。...管理局に入ったら、僕も公務員かな?

 

「皆。噴水の前で記念写真を撮ろうよ」

 

「あっ、名案だね。撮ろう、撮ろう」

 

「ん~、此処の噴水は大きいから、少し離れて撮らないとダメだね」

 

「だな。そうしないと噴水が写真に納まりきらねぇ」

 

ドラ丸は【四次元ポケット】からデジタルカメラを取り出して言った。アキラは笑顔でドラ丸の提案に賛成する。大きいツリー型の噴水を眺めながら注意点を言ったら「確かに」と頷く翔。

 

ドラ丸はデジタルカメラに三脚を付けてセットした。写真を撮る位置で左から僕・リアン・リイン・はやて・アキラ・翔の順に並ぶ。

 

「ドラ丸~。大きい噴水を囲む八個の小さい噴水が上がっている所を、見計らって写真を撮ってな~」

 

「はいよ~。......皆、少し左へずらして」

 

ドラ丸は噴水のタイミングを見計らって、デジタルカメラの自動シャッターを設定したら、走って翔の右隣に立った。そして僕達七人はカメラに向かって笑顔。はいチーズ!

 

10秒後、カメラのシャッター音が鳴った。今は明るいので、ストロボーはフラッシュしない。良い写真撮れたかな~?

 

「そう云えば、ウチの家族やなのはちゃん達との記念写真はまだやったわ......ドラ丸~、機会があったら写真撮りを頼むで~」

 

「うん。その日が決まったら、僕に言ってね」

 

思い出したはやては、自分の家族や友達と記念写真を撮って欲しいとドラ丸に約束を取り付けた。なのはとフェイトとアリサとすずかを加えて此処に来る日は何時になるかな? ...近い未来、雲の王国が完成した時に記念写真を撮るのも良いな~。

 

「はやてちゃん。リアンはお腹ペコペコですぅ...」

 

「そ~か、そ~か、ウチも同じやよ~。みんな~、次は南にある海辺のレストランへ行くで~」

 

はやては笑いながら腹ペコリアンに応えて、それから南の方に指差して「レストランへ行こう」と皆に呼び掛けた。北東の時計台を見ると、午後12時半過ぎ。僕もお腹が空いた...歩くだけでなく、想定外の戦闘もあったし。

 

僕達七人は中央広場から南にある海辺のレストランへ行き、昼食を摂るのだった。そのレストランで、綺麗な海を眺めながらの御飯は最高だね~。特に、海が好きなアキラは気に入ったそうな...

 

午後は、はやてのリハビリで臨海公園のウォーキングコースを周ったり、ついでにお土産を買ったり、寄り道のスーパーで夕食の買い物をしたりして過ごした。朝と違って、トラブルは一つも無かったから平和だったよ。因みに、荷物持ちは僕と翔とドラ丸だ。【四次元ポケット】に入れたら楽だけど、普通生活で余り秘密道具に頼ってはいけない。

 

~SIDE OUT~

 

 

場所は変わって、とある城の牢獄牢屋の中。広さは六畳位で壁と床は紫が掛かった青白いレンガで造られており、右には鉄格子(檻)がある。左の壁に三つの青白い火の明かりが並んでいて、不気味かつクールな雰囲気だ。

 

その牢屋の中央にある台の上で、仰向け“大”の字状態に磔(拘束)された琢磨(まだ気絶している)が居た。何故か、彼の服装は白いTシャツ・白い半ズボン・裸足に変わっている。寒そうな格好だが、此処の気温は少し暑い。

 

「...ん(...知らない天井だ)」

 

琢磨は意識を取り戻し、目を覚ました。

 

「!?(手と足が動けねぇ...如何なってんだ?)」

 

手と足が拘束されている事に気が付いて驚き、困惑している琢磨。其処で牢屋外の通路を通っていた青白い火のカンテラ(浮遊している)が、方向を変えて檻をすり抜けて彼の元へ近付く。

 

「...は?(カンテラが浮いてやがる...火が青白くて不気味だぜ)」

 

「ケケケッ、漸くお目覚めカイ。小僧」

 

琢磨は、自分の右に止まったカンテラを見て目を丸くした。不気味な声と共に、青白い火のカンテラを左手に持った短い腕と尻尾のある白い球体オバケが、不可視から可視へシフトして現れる。そのオバケの顔は“うらめしや~”的な目をしており、少し大きい口で鋭い牙が並ぶ上の歯丸見えに、ペロッと舌を出していて怖~い...のか? 全長は666ミリ。

 

「んなぁっ!? て...テレサだと!?」

 

オバケ...テレサを見た琢磨は驚愕した。何故なら、スーパーマリオシリーズで登場する敵キャラクターのテレサが、実在して目の前に居るからだ。

 

「ケケケッ、オレの名を知っているとは...驚いたゾ」

 

「おい! 早くこれを外しやがれっ!」

 

「主サマに怒られるから、それはヤダ」

 

琢磨は大声で「拘束具を外せ」と、テレサに怒鳴った。だが拒否される。主サマ...如何やらテレサは、使い魔みたいな従者のようだ。

 

「主サマだあ!? ふざけんな! あのトゲカメ野郎!」

 

「ケケケッ、煩い小僧ダナ...オレの主サマは大魔王クッパではナイ」

 

テレサは否定して「かつてクッパ軍団の一員であったが、改心した」と話した。それで琢磨はキョトンとする。悪いテレサじゃないのは確かだ。

 

「...じゃあ、てめぇの主サマって...何モンだよ!?」

 

「地獄神サマのお姫サマと云う御方ダ」

 

「んなぁっ!? ......って事は、此処は“地獄”なのか?」

 

「ケケケッ、そうダ。オマエは最高神サマに嘘をついて、同胞を殺そうとシタ...だから地獄に堕チタ。まぁ、死んではいないガナ」

 

琢磨は驚いて、恐る恐るとテレサに訊ねた。テレサは肯定して、自分の体を左右に揺さぶりながら理由を答える。同胞とは転生者同士の事。

 

「そんなオマエに、主サマからのきつ~いお仕置きが待っているゾ」

 

「嫌だぁ! お仕置きは嫌だぁ! 死ぬのは嫌だぁ!」

 

テレサから「お仕置き」と聞いた琢磨は恐怖し、駄々をこねる様に暴れ騒いだ。手と足が動けないから顔を横に激しく振っている。その様子を見ているテレサは愉快そうだ...ドSなのだろうか?

 

「オレは主サマに報告して来ル。お仕置きの準備が出来たら迎えに行ク。その時まで、楽しみにしているんダナ...ケケケッ」

 

そう言い残したテレサは、右の檻をすり抜けて通路から牢獄を出て行った。琢磨の牢屋の向かいにも牢屋がある。其処には...頭の上に“天使の輪”がある人相の悪い金髪(染めた)リーゼントの男が、琢磨と同様に磔されている。彼はまだ気絶しているようだ。

 

「ちくしょう...ちくしょぉおおおおおおおおお!」

 

琢磨の叫び声が、牢獄全体に響き渡った。牢獄の近くに居た女兵士やメイドは聞こえていたが...同情する事無く、無視である。因みに、彼女等の容姿は人間に見えるが、本物の“鬼”だ。角は無いものの、吸血鬼な牙がある。

 

 

~アキラ SIDE~

 

うみなみ寮で、夜...夕食を食べた後、仲人とドラ丸はお風呂掃除で、私は翔と一緒に夕食の後片付けをしている。あとリインとリアンは、はやての家に帰っているので此処に居ない。少し寂しいけど、もう一つの家族だから一緒に過ごせる時間があるのは良い事だよね...うん。

 

皿洗いが終わって、今は食堂のテーブルを拭き終えた翔と皿拭きと棚戻しをしているよ。いつもより二人分少ないから、少し早く終わる。

 

「...なぁ、アキラ」

 

「...ん、なに?」

 

「実はその...な、言いにくい事なんだけどよ...この世元にも、俺の居た世元と同じ様に“魔法先生ネギま!”のマンガがあるって、知ってるか?」

 

「うん、知ってる。先週の日曜日の夜にドラ丸から、そのマンガを全巻貰ったよ。あの時、ビックリしちゃった...信じられない位に」

 

「(転生して次の日かよ...俺と仲人の心配と不安は一体、何だったんだろうな...けど、杞憂で良かったぜ)」

 

おずおずと神妙な顔で質問した翔へ、顔を縦に振って答えた。

 

あの日の夜...ドラ丸が私の部屋に来て、未来の私から贈り物があるって言われた。その贈り物は、信じられない事に“魔法先生ネギま!”のマンガ全巻。似顔絵のような感覚だけれど、親友の裕奈達を含めた中等部の頃のクラスメイト達やネギ先生や高畑先生...皆が出ていた。ショックだった事と、裕奈達クラスメイトの皆が此処では架空人物だから、心が痛くなる程寂しくて泣いてしまった。...でも、未来の私から手紙で励まされて、今度こそ割り切ったよ。そのマンガは馴染むから、私の一生の宝物だよ。...ただ、ハレンチな描写が多い所は気に入らない。あと、私の立ち位置らしいキャラクターの小山内コハクに嫉妬してしまったのは本当だ。

 

「もしもの話...そのマンガに、替えキャラクターじゃなくて大河内アキラが出ていたら如何する?」

 

「う~ん...髪型を変えようかと考えていたと思う」

 

あんな質問をしてくるなんて、思わなかったな。もしも、小山内コハクではなく私だったら...恥ずかしい思いをするかもしれない。名前の方は同姓同名の偶然で何とかなるとして、髪型を変えないと周りから何か言われそうだ。試しにツインテールしてみようかな...

 

「ねぇ、翔はどんな髪型をした女の子が好みなの?」

 

「好みの髪型か......黒髪ロングヘアーの方で、ストレートでも良いけど...やっぱりポニーテールだな」

 

「えっ!?」

 

翔から答えを聞いた時、ドキッとしてしまった...髪型の特徴が私に当てはまるから。...う~、心臓がパクパクしてる。

 

「ん? アキラ...顔が赤いけど、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫...だよ。さっきの答え...わ、私の事だよね?」

 

「あ~、その...なんだ。アキラが俺の彼女になれたら良いな~って、思っていたからな。ほら、成行きで婚約してしまった仲人とリインを見てたらさ」

 

顔を少し赤くして、右手で頭を掻きながら答える翔。な、成る程...私も、あの仲人とリインを見て「翔が私の彼氏になれたら良いな~」って、羨ましく思ってしまった覚えがあるよ。と、取り敢えず...

 

「すぅ...はぁ...」

 

「おろ? (アキラのやつ、深呼吸を始めたぞ?)」

 

深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。あとは勇気を出して...

 

「あ、あのね...私と翔...恋人関係を目指して頑張ってみる?」

 

「お......おう! 努力して、貴女と相応しい男になってみせるぜ!」

 

「ふふ...逆に私もだよ! これから時間を掛けて、仲を深めようね。仲人とリインの仲みたいに...」

 

翔から、なんとOKの返事が来た。お互い決心し、握手をして笑い合う。

 

ふぅ~、心のモヤモヤが消えたような気がする...うん、告白して良かった。翔と出会って、まだ一週間なのにね...でも、これから仲を深めればいい。小学生に若返って、時間が沢山あるのだから...

 

~SIDE OUT~

 

 

うみなみ寮リビング...家事を終えた仲人達四人はソファに腰掛けて寛いでいる。仲人と翔は北のソファで、アキラとドラ丸は南のソファ。電源が入っているプラズマテレビで、今はCMが流れている。お菓子の新発売とか...

 

「あっ、そうだ仲人。今日の朝、琢磨と戦ってレアスキルの“王の財宝”をコピー習得したと思うけど...説明は必要かい?」

 

「そうだね...説明を頼むよ(詳しい事は判らないから聞いておこう)」

 

ドラ丸は“王の財宝”について説明した。琢磨の方は色々な物(転生させた神様から頂いた物)が入っているが、仲人の方は何も入っていない。物に触れて「収納」と言う又は念じれば、中に収納できる。一度に入る大きさはエアバス級ジェット旅客機位まで。生きている物(菌や死体は別)は中に入れられない。収納出来る数量に制限は無いとの事。更に、収納されている物は時間停止状態になると云う特性がある。

 

「ドラ丸の【四次元ポケット】みたいだね...“王の財宝”って能力」

 

「【四次元ポケット】は布地の伸縮限界を超える大きい物は入れないし、中で時間停止はしないけどね」

 

感想を述べたアキラに対して、ドラ丸は苦笑しながら訂正する。色々な面で“王の財宝”は【四次元ポケット】より優秀なのだ。燃えたり破れたり失くしたりして使えなくなるとか、超空間の異常で一時的に使用不可能とか、そう云う欠点が無いのだから。

 

「ねぇ、翔。自分の魔力が満タンの時は、強力かつ特上なアイテムを作って“王の財宝”に溜めておく方法は、有効だと思わない?」

 

「おっ、頭良いな。作り置きがあれば、いざという時に魔力を使わなくて済むって、節約する考えか~」

 

仲人の秘策的な提案に賞賛する翔。確かに魔力が満タンの場合、使わないと時間経過で回復する分の魔力が勿体ない。そのタイミングは、魔力の回復速度が速い就寝の前がベストだろう。

 

『本日の午前11時頃、連続強姦殺人の疑いがある種下容疑者(29)は交通事故で死亡しました』

 

仲人達四人は談笑している中...プラズマテレビでは、ニュースが流れていた。その画面に、人相の悪い黒髪リーゼント男の顔写真が表示される。あれは確か...地獄で琢磨の牢屋の向かいにある牢屋で気絶していた男だ。

 

・・・・・

 

場所は変わって、琢磨が囚われている牢屋の中。

 

「うぅ...(俺はどうなっちまうんだ...? 想像しただけで恐ろしい...)」

 

琢磨はテレサが去ってから、ずーと怯えていた。処刑される自分の姿を、何度も想像してしまったらしい。地獄に居るんだから、精神的に追い詰められるのも無理はない。

 

ーーギィィィィ...

 

「!?」

 

擦る音を立てて檻が地面にめり込むように開く。それでドキッとし、ピクッと反応する琢磨。通路の方では、青い武闘チャイナドレスで身を包んだ青髪ポニーテールの女性が立っていた。彼女の右隣にテレサも居る。

 

その女性の容姿は、青髪でアキラと全く同じポニーテールであり、赤瞳で顔はかなりシグナムと似ていて凛としている。スタイル(体格)は大人のアキラ並みに良く、身長はセレンと同じ180㎝と高い。鬼の一族であるが、肌は白肌色で角は無く吸血鬼な牙がある。服装は武闘家マァムっぽいチャイナドレスで、青を地に黄色いラインが入っている。腕に肘丈ロンググローブ。脚に黒スト+膝丈ロングブーツ。そのグローブとブーツも、青を地に裾の部分は黄色である...形状はセーラームーンっぽい。衣装全体に少し光沢有り。

 

「待たせてすまないな。黒柳琢磨」

 

「ケケケッ、迎えに来たゾ」

 

磔で横たわっている琢磨の右隣まで近付いて話し掛ける女性とテレサ。テレサは相変わらず愉快そうだ。やっぱりドSだ...こいつ。

 

「あ...あんたが、そのテレサが言った主サマ...なのか?」

 

琢磨は冷や汗を流しながら、震えた声で女性に訊ねた。恐怖で余裕がないからか、女の子を見てもニタニタした顔にならない。

 

「その通りだ。私は地獄神の第一王女フレイア。この城の主であり、“処刑の執行者”を務めている」

 

「ヒィッ!?」

 

フレイアから「処刑の執行者」と聞いて短い悲鳴を上げる琢磨。彼は今までにない恐怖で失禁してしまい、半ズボンが濡れる。...悲惨。されるのは処刑ではなくお仕置きなのだが、勘違いしているようだ。

 

「お漏らしとは...情けナイ(そうなってしまう亡者も、偶にいるけどナ)」

 

「...お仕置き“三日間ヨットで溶岩の海漂流”は、シャワーと着替えをさせてからだな(矯正教育の際に、根性を鍛えて貰うとしよう)」

 

テレサとフレイアは無様な琢磨を見て呆れた後、彼の拘束を解いた。隙を突いて逃げるチャンス...しかし、あの状態では無理だろう。

 

それからテレサは清掃員を呼びに行き、フレイアは片手で琢磨のTシャツ後ろ襟を掴んでシャワールームへ連れて行くのだった。こんな状態...琢磨の身体が大人だったら、男の威厳が丸潰れである。

 

・・・・・

 

地獄...とある城の廊下。此処にも壁と床は、紫が掛かった青白いレンガで造られている。廊下の幅は4m、高さ3mあって広い。左右の壁に青白い火の明かりが3mごとに並んでいて、天井中央には一本の吊りレールが付いている。牢獄から歩いて5分の所にシャワールームがあり、その近くに執行室(処刑を行う部屋)がある。

 

白いTシャツ+半ズボン+サンダル姿の琢磨がシャワールームの出入口から出て来た。良くない事があったから、彼は元気がない。

 

 

~琢磨 SIDE~

 

「はぁ~~」

 

シャワーを浴びて落ち着いたから恐怖心が大分マシになったんだが、代わりに男のプライドがズタズタだ。女が見ている前で糞尿漏らしてしまったその挙句、女に片手で俺のシャツ後ろ襟を掴んで持ち上げられる恥晒し...そう思ったら、溜め息が出る。

 

かぁーっ! 情けねぇ...今の俺は子供の身体だから良かったものの、大人だったら「もう、お婿に行けない」と、自殺したくなるぞ...これは。

 

「黒柳琢磨」

 

両手で頭を抱えて顔を横に振りながら唸っていると、誰かに呼ばれた。その声は...さっき俺を持ち上げた青チャイナドレスの武闘家女だ。名前は確か...フレイアだったか? シグナム並みに、凛々しい美人なんだが...なんかヤバイ感じがして、俺のハーレムに入れたくねぇな。

 

「遅くなったが...フレイア城へようこそ。此処は、全ての世界において我等女性に仇なす亡者を裁いて断罪する場所だ」

 

「はあ!? ちょっと待て! なんで俺は此処に居るんだよ!? 女の敵になった覚えはねぇぞ!」

 

フレイアは微笑んで歓迎と紹介をした。その紹介内容に納得出来ず、大声を出して抗議する。俺は良い女が好きで、愛して幸せにするんだからな。傷つけるとか、酷い事はしねぇよ!

 

「ほぉ、女の敵になった覚えはない...ねぇ。馴れ馴れしい態度でしつこく付きまとい、同年代の女の子を困らせていたと聞いているが?」

 

「そんな事はねぇっ! なのは達は恥ずかしがり屋なんだよ」

 

フレイアは腕組みし、疑いの眼差しで言った。その態度にカッとなって、力強く反論する。そう、なのは達は照れているんだよ。嫌がっている筈がねぇ!

 

「自覚ないんだな......まあいい。お前が此処に居る理由は、私が面倒を見る事になったからだ。女たらしで自分勝手な性格が直らないかぎり、此処で処刑される亡者の予備軍でもあるしな」

 

呆れたフレイアに、酷い事を言われた...そんなに性格悪いか? 俺は。

 

「...話の続きは、お仕置きを済ませてからにしようか。私は忙しいし、テレサを待たせて悪いからな」

 

「っ...お、俺は死ぬのか?」

 

「別に殺すわけでもないから安心しろ。処刑ではなく“お仕置き”だ」

 

恐怖心が戻って震えながら訊ねると、フレイアは「違う」と右手を振りながら答えた。処刑されないと判ったから、ホッとしたけどよ...

 

「お仕置きって...何をされるんだ? 定番のお尻百叩きか?」

 

「お尻百叩き? 八雲仲人って子を殺そうとした罪と釣り合わないぞ。お仕置きの内容は、地下の“ノルフェア”に着いてから伝える。私に付いて来い」

 

ノルフェア? 何処かで聞いた事があるようなないような...なんか嫌な予感しかしねぇぞ......よし、逃げよう!

 

俺は全速力で、あっちに行くフレイアと反対の方向へ逃げ出した。初めてフレイアの後ろ姿を見たが、ポニーテールなんだな...しかも、アキラの髪型と同じだ。偶然か?

 

「ぐえっ!?」

 

「何処へ行く気だ? 私に付いて来いと言っただろう」

 

...しかし、Tシャツ後ろ襟を掴まれて持ち上げられた。逃げてまだ5m超えてないのに...ちくしょう。何度も片手で俺を持ち上げやがって...怪力女め。ダイ大のマァム以上か?

 

「持ち上げたまま、連れて行くから大人しくしていろ。暴れると“制裁”を加えるぞ。この馬鹿者が」

 

「ひぃっ!」

 

フレイアは俺を持ち上げた右腕をひねり曲げて、空きの左手でガッチリと俺の顎を掴み、強制的に顔を向き合わせた。殺気を出してこっちを睨み付けながら、ドスの利いた声で脅してくる。こ、怖えぇ...あと顎を掴まれる握力も強いからメキメキと骨がきしんで痛ぇ。

 

俺はフレイアに片手で持ち上げられたまま、抵抗しないで大人しくお仕置きの場所へ連行されるのだった。制裁は鉄拳なのかと思って、フレイアに訊いてみたら、顔を横に振って「潰れない程度の加減で、強く股間を蹴り上げる」と答えやがった。しかも「この青いロングブーツの硬い爪先で突き刺す様に蹴る」だと!? マジで鬼畜だな...この鬼女ぁ。

 

~SIDE OUT~

 

 

場所は変わって、地下のノルフェア。此処は地獄の最下層で、全体の九割は真っ赤なマグマ(溶岩)の海だ。その海面は一定時間ごとに、時速3.6㎞の速さで満潮と干潮を繰り返す。その高低差は約200m。海なので波があり、あちこちの場所で溶岩柱が噴出したり、プロミネンスが発生したりする。海面から10㎞離れた天井まで届く赤茶けた巨大な岩柱の数々が、散らばる様にそびえ立つ。あと陸地らしい足場になる小さい岩柱も、海面上に散らばっている。此処の気温は、大火事が発生したビルの中と同じ灼熱地獄。

 

元は暗い所なのだが、海面から天井までの空中で散らばる様に浮かぶマグマの星や超小型太陽の数々が、赤と橙の光を照らす。マグマの海からも赤い光を溌するので明るい。マグマの星と超小型太陽の大きさは、最小で直径0.1㎞のものや最大で直径4㎞のものがある。勿論、プロミネンスも出る。

 

溶岩海面の上に立つ、満潮ギリギリの高さで直径30mの灰色円柱塔。お城の見張り台に似た其処の頂上には...青白い火のカンテラを持ったテレサが居て、その右隣に全長4mのヨットが置かれている。そのヨットの黒い帆に「お仕置き」の赤い毛筆フォント文字がプリントされていて凶な感じ。

 

頂上の中央に八芒星の転移魔方陣...少し時間が経ったら青白く光り輝き、琢磨を片手で持ち上げているフレイアが現れた。其処に気付いたテレサは「待ちくたびれたゾ」と言いながら、彼女に近付く。

 

「うぁっ、あぢぢぢぢ!? 何だよ此処......って、な...なな何じゃこりゃあああああああっ!?」

 

顔を歪めて暑がった琢磨は、満潮へ迫り上がっているマグマの海を目の当たりにして、驚愕しながら大きな悲鳴を上げた。ノルフェアが誇るド迫力な光景だから、当然の反応である。初めて来て、驚かない人間は一人も居まい。

 

「慌てるな黒柳琢磨。マグマの海は此処まで上昇しない」

 

「ケケケッ、主サマの言う通りダゾ。小僧」

 

フレイアとテレサは琢磨を宥めるが、暫くは無理のようだ。此処、ノルフェアは気温がかなり高いのに、フレイアは平然としている。あとテレサはオ~バ~ケ~だから除外。

 

時間が無いのでフレイアは早速、琢磨をヨットに乗せる。それからヨットに不可視の隔壁を張った。ヨットから落ちないようにし、降りかかる溶岩やプロミネンスで火傷しない為の安全処置である。

 

「ま、まさか...お、俺をあの恐ろしい海へ流す気...か?」

 

「うん。それがお仕置きの“三日間ヨットで溶岩の海漂流”だ」

 

「ケケケッ、そのヨットに水と食料を用意して置いたから、頑張って耐えナ」

 

顔を青くして訊ねた琢磨に向けて、微笑みながら頷いて答えるフレイア。次にテレサは、ヨットのマスト近くにある樽3個に指差しながら、琢磨に伝えた。ノルフェアは熱いので、水が沢山必要となる。よって樽2個分だ。

 

「い、嫌だぁー! 無理だぁー! 降ろしてくれぇー!」

 

「ふん。必死でお願いされても、お仕置きを止める気は無い。......まぁ、情けで一週間を三日間に縮めたから、潔く受けろ」

 

ガンガンと不可視の隔壁を叩きながら命乞いをする琢磨を見て「ふん」と鼻を鳴らして、そのお願いを断るフレイア。元々は一週間を予定していたらしい...厳しいのか甘いのか、分からない御方だ。

 

「おわぁっ!? (この怪力女、俺が乗っているヨットを持ち上げやがった!? どんだけ力持ちなんだよ!?)」

 

フレイアは両手で、琢磨が乗ったヨットの船底重心部分を掴み、軽々と頭の上へ持ち上げた。その時に掛け声を上げる様子もない。琢磨は下を見ながら、其処まで力持ちだと感じてビックリする。

 

フレイアはヨットを頭の上に持ち上げたまま、足場の端まで移動した。それから右足を上げて、ガードレール的な役割を持つレンガの上を踏み、投げる体勢になる。見た目はマッチョでもない女性なのに、何と豪快な...

 

彼女は右足を上げているので、青いパンティが......と思いきや、黒いストッキングの上に着たブルーレオタードの下部分だった。その着方は、バニースーツ(網タイツの上にハイレグ)と似ている。

 

「良いか? こまめに水分を補給するんだぞ。脱水症で倒れたら救急を出すが、お仕置きのやり直しになるのだからな」

 

フレイアは上を見て、注意すべき事を伝えた後...持ち上げているヨットをマグマの海(現在は最高度の満潮)へ放り投げた。それで飛んだヨットはマグマの海面上に着いて波で揺れながら、ゆっくりと沖の方へ流されていく。

 

「ひぃっ! 揺れる揺れる...だ、誰かぁー! 助けてくれぇー!」

 

右足で外周レンガを踏んだままのフレイアは両手でパンパンと叩いて青いロンググローブ手の平に付いた汚れを払い落としながら、テレサは何処からか取り出した白いハンカチを振りながら、ヨットのマストにしがみ付いて泣きながら叫んでいる琢磨を見送る。彼を助けてくれる者は誰も居ない。

 

数分後...干潮へ下がっていくマグマの海面。あちこちの場所で、海面が上がる時に沈んでしまった小さい岩柱の数々が再び出てくる。マグマの海面の高さが変動するこの時は、凄まじい光景だ。

 

「さて、次の仕事は...今日、私の城に堕ちた種下育夫に処刑執行だな」

 

「主サマ。その準備は終わってイル。後はレールクレーンで、あの亡者を牢獄から執行室へ運ぶだけダ」

 

「うん、お疲れ様(処刑最初の去勢は...踵落としで潰そう)」

 

フレイアとテレサは、種下育夫(強姦魔)への処刑について打ち合わせをした後...足場(円柱塔頂上)の中心にある八芒星魔方陣で転移し、地獄の中層にあるフレイア城へ戻るのだった。

 

1回以上罪のない女性に強姦した事実。重婚が許されている国であっても、3人以上重婚した事実。離婚再婚の特例もなく、1回以上妻以外の女性から子供を作った事実。幾つかの性的悪条件を1つ以上満たした状態で死を迎えた男は、セレンの逆鱗に触れて容赦なくフレイア城へ送られる。其処で執行される処刑は“去勢”から始まるのだ。その刑は、女性を何だと思っているような悪男(ケダモノ)に相応しい。しかも、処刑の執行前に“痛み10倍”と“気絶しない”の呪いをかけられる。正に地獄よ。


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