力持ちの人魚と祝福の風も神様転生   作:峻天

13 / 15
013 ハーレムを目指す少年

2月4日(土)...仲人と翔とアキラとリインが、セレンの世元へ転生して一週間になる。午前3時になっても、修行が始まる事は無い。そして、夜が明けた。東に日が昇り、空に雲の数は少ない。今日の天気予報では...気温が冬の中で高い方にあり、良い天気になりそうだ。

 

 

~仲人 side~

 

午前9時前になり、僕達六人はうみなみ寮の庭に集合した。セレンさんから頂いた呪文書は僕とリインが持っている。昨日...僕は魔方陣のシートを作る為に必要で日本語版の呪文書を借り、リインはドラゴンクエストの呪文に興味津々で英語版の呪文書を借りた。作ったホイミの魔方陣シートとメラの魔方陣シートは、クリアファイルに挟んで呪文書と一緒に持っている。

 

「ドラ丸。魔方陣シートを地面に置くから【ビッグライト】で大きくして」

 

「はいよ~。......ビッグライト~」

 

僕は皆の集まりから出て、ホイミの魔方陣シートをクリアファイルから取り出して地面に置いた。数歩下がった後、ドラ丸は【ビッグライト】を【四次元ポケット】から取り出してスイッチを入れ、ライトの光をホイミの魔方陣シートに照らす。すると、ホイミの魔方陣シートはムクムクと大きくなった。

 

「照らして大きくする光...か。道具の名前とそのままだな」

 

「そうだね。反対の【スモールライト】も、名前は効果とそのままだし」

 

リインとアキラの話を聞く。確かに...名前が効果とそのままの秘密道具は多いね。あ、税金“取り”する“鳥”を【税金鳥】でダジャレにした名前もあったな~。他に、殺し屋を【転ばし屋】とか。

 

因みにホイミの魔方陣の模様は、五芒星で中心の逆正五角形に十字架が入り、五芒星の外周に二重線の円で囲んでいる。メラの魔方陣は、六芒星で中心の横正六角形に火の玉の線画が入り、六芒星の外周に二重線の円で囲んでいる。

 

「なぁ、仲人。呪文の契約は誰からやるんだ?」

 

「パパ~。リアンが先にやりたいですー!」

 

翔に言われて順番を考えていると、リアンは元気良く手を挙げて名乗り出た。じゃあ...契約の順番はリアン、リイン、僕、翔、アキラで進めるか。

 

「解った。......リアン、呪文書を渡すから魔方陣の中心に立ち、右のページにある詠唱文を朗読してね。多分、これで契約は出来ると思う」

 

「はいですー!」

 

ホイミのページまで呪文書をめぐり、呪文書を逆さに回してリアンに渡した。呪文書の文の上に漢字の読み方も書かれてあるので、まだ難しい漢字が解らないリアンとリインでも読める。僕も、まだ知らない漢字があるけどね。

 

呪文書を受け取り、踵を返したリアンはワクワクしている様子でシートの上に踏み入れ、魔方陣の上に立った。僕達四人は唾を飲んでドラ丸と共に、リアンの様子を見守る。リアンは呪文書を読みながら契約の詠唱を始めた。

 

「我はホイミの契約を求めし者なり。呪文を司る神アスペルよ、我は契約の合言葉を告げる。鍵となる数字は二番、労わりの心を持ち、負傷を治す温かい癒しの光。...ホイミの資格を我に、ライセンス・イン!」

 

リアンは唱え終わると、魔方陣が白く光った。其処の地面から白い光の粒子が湧き出てリアンを包み込む。暗い所でやったら、より幻想的かも......兎に角、ホイミの契約は成功かな?

 

暫く経って光が止んだ後、リアンはこっちに振り返って戻って来た。

 

「リアン。契約の際、どんな感じだった?」

 

「行き成り、金縛りに遭ってビックリしたですぅ...その間に“ホイミの資格を与えよう”と声が聞こえて、頭の中にホイミの情報が刻まれたです~」

 

「ふむ、成る程。呪文の契約は問題なく、成立したと見ていいな」

 

リアンは開いたままの呪文書を僕に反して、自分の頭に手を当てながら答えた。質問したリインは理解してウンウンと頷く。謎の声は聞こえなかった...どうやら契約者しか聞こえないらしいな。しかし、頭の中に何かが刻まれるって...不思議な体験だね。

 

「イメージと違って瞑想をしなくても、契約は出来るみたいだな」

 

「うん。瞑想だったら、詠唱文を暗記しないといけないよね」

 

「ははっ、違いねぇ...瞑想は目を瞑るから、呪文書を読めねぇもんな」

 

翔とアキラの話を聞いて僕も苦笑する。暇がある時に呪文書を読んでみて、初級呪文の契約詠唱文は合言葉が短いから直ぐに覚えられるけど、呪文のレベルに比例して合言葉が長くなるから、朗読の方が楽だ。

 

契約詠唱文についてだが、前の“我は□□の契約を求めし者なり。呪文を司る神アスペルよ、我は契約の合言葉を告げる”と合言葉の始めにある“鍵となる数字は○○番”と後の“□□の資格を我に、ライセンス・イン”は全ての呪文に共通している。□□の中に当てはまるのは、契約対象の呪文名。詠唱文の英語版(ミッド語)があるから、正確に翻訳出来ればドイツ語(ベルカ語)やフランス語や中国語等、外国語でも通るかもしれない。

 

「早速、ホイミを試してみたいですぅ」

 

「試す為に、わざと怪我をするのもなぁ...俺は嫌だぜ」

 

ルンルンしてホイミを試したいリアンに、顔を引き攣らせて応える翔。続けて僕とアキラとリインは同感して顔を縦に振る。わざと怪我をするなんて痛いし、馬鹿げてる行為だよ。けれど日常生活において、ニキビや虫刺され等の治癒で役に立つと思う。特に、身体のルックスが命な女性にとってはね...

 

「皆。話は後にして、とっとと呪文の契約を済ませようよ」

 

ドラ丸の一言により、話は中断してリイン→僕→翔→アキラの順にホイミの契約を行った。次にドラ丸の【ビッグライト】解除モードでホイミの魔方陣シートを元の大きさに戻し、それと取り替えたメラの魔方陣シートを大きくする。後は、ホイミの契約の時と同じ順番でメラの契約を行った。

 

呪文の契約をして感じた事は、リアンが言っていた通りだった。ホイミとメラの情報が頭の中に流れ込んで来たので、呪文の使い方は知っている。早速、呪文を使ってみたい...そんな気持ちが湧き上がって来るよ。

 

因みにメラの契約詠唱文は“我はメラの契約を求めし者なり。呪文を司る神アスペルよ、我は契約の合言葉を告げる。鍵となる数字は二番、勇気ある心は紅蓮に染まり、上がって行く摂氏温度の光。...メラの資格を我に、ライセンス・イン!”である。

 

ドラ丸の【ビッグライト】でメラの魔方陣シートを元の大きさに戻し、クリアファイルに挟み入れた後...

 

「非殺傷の印~。......皆、これを渡しておくね。お守りの一種だから、持っているだけで効果があるよ。あと、家に向けてメラを放っても、燃え移らないから大丈夫」

 

ドラ丸は、未来の僕と翔が作った【非殺傷の印】を5つ【四次元ポケット】から取り出して僕達五人に配った。【非殺傷の印】の見た目は、神社で貰う朱色のお守りと似ていて、札に“絶対安全”と書かれている。安全祈願のお守りと変わらないね...未来の僕と翔がこれを元に作ったとなると、デザインを考えた人は......如何考えても、答えが見つからないや。

 

「攻撃呪文を使う前に、これを忘れていないか...確認して置かねぇとな」

 

翔は手に持った【非殺傷の印】を見詰めながら、注意する様に言った。僕達五人はそれに同意し、真剣な顔で頷く。安全の為に、忘れないようにしよう。

 

「皆。ホイミは何時か、怪我した時に試すとして...今は南の塀に向けてメラを使ってみよう」

 

「パパ~。リアンが一番乗りですー!」

 

【非殺傷の印】をズボンのポケットに入れて皆に言うと、リアンは手を挙げて私が先にやりたいと言ってきた。ははっ...しょうがないな~。

 

と云う訳で、リアンを一番手にメラの試し撃ちを始めた。彼女は南の塀に向けて三歩前進し、次は両腕を伸ばして前方に翳す。僕達五人は静かに、その様子を見ている。今のリアンは意識を集中してメラの魔力を前方に集め中。

 

暫くして、リアンの両手の平からオレンジ色に燃え盛る火の玉が出現した。その大きさは、直径60㎝位。今この場は、焚き火をあてていると同様に温かい。目の当たりにした僕達四人(見た事があるドラ丸は除く)は、それが本物のメラと認識する。最近見たバギクロスの竜巻は想像以上だったからメラゾーマの火の玉は、かなり大きいだろうな...

 

「メラッ!」

 

リアンは唱えたら、火の玉が南の塀へ真っ直ぐ飛んだ。南の塀に着弾すると小さな火や火の粉が飛び散る。見た目...非殺傷じゃなかったら、強くない生き物に対して大火傷してしまう威力だ...初級呪文だからって、バカにしてはいけないと云う事か。

 

「ねぇ、ドラ丸。塀でメラが当たった部分が焦げているんだけど...」

 

「大丈夫。塀が燃えてないから、布で磨けば焦げた部分は取れるよ」

 

メラが着弾した塀の部分を見たアキラは、顔をしかめてドラ丸に訊ねた。だが、問題は無い。ふぅん...非殺傷のメラに当たった対象は、焦げた鍋底と同じ例えになるみたいだな。

 

「次からは結界か、的を用意した方が良いな。でないと後始末が面倒だ」

 

「だな...質にもよるが、焦げた部分を取るのに一苦労だぜ」

 

翔は苦笑してリインの考えに賛同した。うん、それは一理ある。

 

そう云う訳で僕はアイテムクリエイションで的を作ってから、皆とメラの試し撃ちを行った。やってみて判った事は、ドラゴンクエストの呪文を使おうとする意思で自動的に魔力の性質が変化する所。その通り、術式を組まないからデバイスは要らないと云う訳だ。もう一つ、呪文のコントロール性が固かった。回数を重ねて熟練度を上げれば、ダイの大冒険で登場するポップとマトリフのようにいけるかもしれない。まぁ...ミッド魔法とドラゴンクエスト呪文の二つで、練習が忙しくなったな。

 

「そろそろ時間かな......皆。中に戻って出かける準備をしようか」

 

「「「「「おう/うん/ああ/はいです」」」」」

 

携帯電話の時計で今の時刻を確認した後、皆を呼びまとめてうみなみ寮の中に戻った。時間が無いので、帰ってから塀の焦げを取る事にする。作った的はドラ丸の【四次元ポケット】に入れて貰った。

 

~side out~

 

 

場所は変わって、黒柳琢磨が住んでいる海鳴駅前のマンションの1013号室。黒柳琢磨は先述の通り、仲人達四人より一年早くセレンの世元に訪れた転生者である。

 

其処のキッチンで、水色ロングヘアーの女性...セレンは朝食の準備をしている。まだ仲人達うみなみ寮組に伝えていないが、毎月第一土曜日になったら彼女は琢磨の様子を見に来ているのだ。その事もスケジュールに入っているので、忙しい仕事の方は問題ない。

 

「おはよう。琢磨、もう朝の9時を過ぎていますよ」

 

「美味しそうな匂いが流れて、来てみれば...おお! 愛しの津名魅よ~。また一ヶ月ぶりだな...会いたかったぜ」

 

銀短髪で虹彩異色で歳の割にフケた...いや、イケメンの少年...琢磨はボリボリと髪を掻きながらキッチンに入って来ると、セレンは微笑んで挨拶した。彼女を見た琢磨は、歓喜して嫁さんと話すのと同じように接する。

 

「琢磨...今月も、その名前ですか...何度も言いますが、私はセレン・ブレイス。津名魅ではありません」

 

「別に良いじゃねぇか。名前は...津名魅とそっくりなんだしよ」

 

セレンは困った顔をして“また”名前の訂正を要求した。だがしかし、琢磨は理解してくれない。身長は違うが、容姿は似ている所為で...彼はセレンをアニメの天地無用または魔法少女プリティーサミーで登場するキャラクターの津名魅に投影しているようだ。

 

「はぁ...もうすぐ朝食が出来ますので、食堂で待っていて下さい」

 

「おう!」

 

セレンは溜め息をついて言うと、琢磨は最高の笑顔で応えた後にキッチンを出た。彼女は最高神であっても、人間と同じでストレスが溜まっていると思う。間違いなく...

 

・・・・・

 

今は食堂で朝食中...セレンは行儀良く食べている逆に、琢磨はガツガツ食べている。彼は料理が出来ないので、毎日の食生活はコンピに弁当やインスタント麺等だそうで、美味しい手料理を食べられるのは月に一回なのだ。一月は特別で、セレンは元旦に豪華なおせち料理を作ってあげたとか。

 

「琢磨。今日は重要なお知らせがあります」

 

「んぐんぐ......何だよ? 重要なお知らせって...」

 

セレンから聞いた琢磨はお茶を一気飲みした後、首を傾げて応える。重要なお知らせの内容は、仲人達うみなみ寮組(転生者ではないリアンとドラ丸は除く)についてだ。彼はメールを余り見ないので、セレンから連絡のメールは無い。

 

 

~琢磨 side~

 

「なん...だと...!?」

 

俺の嫁一号である津名魅から重要な話を聞いて驚いた。他の転生者だと...!? 為す術も無く、救えなくて悔やんだ...嫁の候補に入るリインフォースと、魔法先生ネギま!のヒロインの大河内アキラが転生した衝撃的な事実で一番驚いたが...まあいい。

 

「フ...フフ...」

 

何と云う幸運。くくっ...笑いが止まらねぇ...意外と俺のハーレム要員が二人増えたからな。今の所は、まだ不明のユーリとマテリアル三人組も出てきたらサイコーだぜっ!

 

「琢磨。私としては、皆さんに仲良くして頂けると嬉しいのですが...」

 

「おう! そう言われなくても解ってるぜ」

 

ただぁーし! 仲良く...愛するのはアキラとリインフォースだけだ。他二人のモブ野郎は知らん。寧ろ、ハーレム計画の邪魔になるから早い内に始末するか。真のオリ主は俺一人だっ!

 

~side out~

 

 

「......(やっぱり、不安ですね...今まで以上に、強い悪意を感じましたし...)」

 

下卑な笑みを浮かべている琢磨を見ながら...最悪の場合は如何しようかと、心配して思案するセレン。琢磨は地獄行きフラグが立つかもしれない...果たして、それを回避できるのだろうか?

 

あと...琢磨はセレンを自分の嫁と思い込んでいるが、二人の関係は仲人達と同じ保護者である。決して結婚はしてない! 全く以って迷惑な話だ。

 

 

~仲人 side~

 

僕達六人は今、うみなみ寮玄関の外に居る。僕は玄関の戸締りをした。リインは今日...リアンと一緒で八神家へ帰省する為、その二人の着替えが入ったバッグを持っている。一日分だから、そんなに重くない。あと...リアンはピンク色の【寒くないコート】を着ている。

 

「「......」」

 

「ん? アキラ、リイン。顔色が悪いようだけど...大丈夫?」

 

「体調が悪かったら、僕に言ってね。秘密道具の【お医者さんカバン】で、直ぐ元気になるよ」

 

青ざめた顔をしたアキラとリインを見て心配になり、その二人に訊ねた。続けてドラ丸は【四次元ポケット】から【お医者さんカバン】を出して言う。

 

「うん...体調は大丈夫。突然、寒気がしただけだから」

 

「私もアキラと同じだな。何で寒気がしたのか、判らないが...」

 

「よ、良かったですぅ...」

 

アキラとリインから、体調は悪くないと聞いて胸を撫で下ろすリアン。うん、僕もホッとしたよ。しかし、原因が判らない寒気は一体...?

 

「おっ、黒猫だ」

 

「!? 黒猫...(あれに進路を横切られたら良くない事が起こるって、聞いた事があるけど......気にしない気にしない。迷信だし...)」

 

呟いた翔とアキラから聞いて南の方を見ると、黒猫が塀と門の屋根の上を渡って東へ進んでいた。うみなみ寮の塀は長いから目立つね...

 

東へ走って行った黒猫の姿が見えなくなった後、皆とうみなみ寮門を出て南にある八神家へ向かった。

 

・・・・・

 

八神家の玄関で僕達六人とはやて達五人は、お互い「おはよう」と挨拶した後...守護騎士達(シャマルは会っている)にリアンとドラ丸の紹介をした。

 

「初めましてですぅ。ヴィータちゃん、シグナムお姉様、ザフィーラおじ様」

 

「初めまして。ヴィータさん、シグナムさん、ザフィーラさん」

 

「おう。よろしくな」

 

「ああ。リアンとドラ丸の事は、主はやてから伺っている。よろしく」

 

「...リアンよ。出来れば、おじ様ではなくザフィーラで呼んでくれ...以後、よろしく頼む」

 

互いに笑顔で握手するリアンやドラ丸と、ヴィータやシグナムやザフィーラ。リアンはザフィーラにおじさん呼び...か。そう云えば、セレンさんにお婆ちゃん呼びと知った時、翔やアキラもビックリしたけどね。

 

「シャマル。これをリビングに置いて貰えるか?」

 

「ええ、解ったわ。......ねぇ、やっぱりリインちゃんと呼んでいい?」

 

「何度でも言おう......却下だ! リインかリインフォースと呼べ」

 

リインはその様子を見た後、シャマルに着替えの入ったバッグを渡した。矢張り、リインちゃん呼びを断固拒否されてガッカリするシャマル。ははっ...諦め悪いなぁ...と苦笑してしまう。成長してリインが大人に戻るまで、そんなやり取りは続きそうだな。

 

「ははは...シャマルは、まだ諦めてないんやな」

 

その左に居たはやては、シャマルとリインを見て苦笑した。それから車椅子を動かして、玄関外に立つ僕と翔とアキラの所まで移動する。前日あげた【寒くないコート】の御蔭で、外に出ても“寒い”って顔をしていない。

 

「リインフォース。私達の代わりに、主を頼んだぞ」

 

「ああ、勿論だ。命に代えても主をお守りする......ってのは言い過ぎか」

 

「ふふっ、そうだな。今は戦乱時代でもないのに、それは言い過ぎだろう」

 

命に代えても主を護る...騎士らしいセリフだね。カッコイイな~リイン。

 

リインはシグナムと互いに微笑みながら会話した後、リアンやドラ丸と一緒に此方へ移動する。これでお出かけのメンバーが揃った。

 

「家族の皆、留守番頼んだで。......行ってきまーす」

 

「「「「行ってらっしゃい」」」」

 

はやてを加えた僕達七人は、守護騎士達四人に見送られながら八神家を出て東へ進み、南東にある臨海公園へ向かった。歩行の陣形はドラ丸とリアンが先頭で、アキラとリインははやてを挟む位置で真ん中に、僕と翔ははやての車椅子を交代で押すから後列となっている。

 

・・・・・

 

はやてから案内の元、数十分歩いて臨海公園に辿り着いた。その公園の造りについて、海と隣接しているのは勿論...中央広場に大きな噴水があって並木道(ウォーキング・ジョギングコースを含む)は多く、各地でグラウンド・市民プール・小さな動物園と水族館・遊具とアスレチックの広場・レストラン・お土産の店等の施設がある。正に広大な公園だ。偶に露店や屋台も出るらしい。

 

因みに僕達七人のいる現在地点は臨海公園の北西入口。

 

「はやて。緑が多くて綺麗な公園ですね」

 

「うん、そやね。最初はアレに乗ろ~か? 公園全体を一望出来るで」

 

公園に入って十一時の方向、とある施設に指差ししながらリインに応えるはやて。皆は首を傾げて、その方向に視線を向けた。あっ、アレは...

 

「“ヘ”の字を逆さにした様な形のアームの上にある展望台...(何処かで見た事があるようなないような...)」

 

「た、確かに...アレなら公園全体を一望出来ますね」

 

「わぁ~。見ただけでも、楽しそうですぅ」

 

「お、三重県にある長島温泉で見た事があるな...懐かしいぜ」

 

「遊園地じゃないのに、あのアトラクションがあったなんて...驚いた」

 

「へぇ~。見た目は楽しいデザインだね」

 

“へ”の字を逆さにした様な形のアームの角度がどんどんきつくなり、ゆっくりと水平回転しながら高度45メートルまで上昇して行く円回廊展望台。それを見てアキラ・リイン・リアン・翔・僕・ドラ丸の順に反応を見せる。

 

「あの展望台はウチのお気に入りなんよ。気晴らしに最高や~」

 

自慢気に笑顔で話すはやて。中々飽きないから、偶には気分転換でシグナム達と一緒に乗るらしい。冬休み、なのは達と一緒に初めて乗ったフェイトとアルフも気に入ったとか。

 

「じゃあ、皆。始めはあの展望台に乗ろう」

 

そう言い出すと、皆は満面の笑顔で賛同する。そして僕達七人は、回転展望台乗り場へ向かった。場所は違うけど、乗るのは久しぶりだな~。

 

因みに料金は御一人200円。足が不自由なはやては身体障害者手帳があるから御二人まで半額(100円)だ。彼女の足の障害が回復する見込みで身体障害者手帳の使用は、これで最後かもしれない。

 

・・・・・

 

回転展望台の中...今は高度45メートルである。

 

「わぁ~、綺麗な海ですぅ...」

 

高い所から見下ろすので、地上からは木々や建物で隠れて見えなかった南の海が、今ははっきりと見える。リアンは海を見て目を輝かせた。そう云えば、リアンは生まれて初めてだったね。

 

「此処に噴水があるって、はやてから聞いたが...でかいな」

 

「うん、そうだね。葉っぱの様な物(皿?)が沢山あって、まるでツリーだ」

 

「うん、何度見ても飽きないね」

 

翔と僕とドラ丸は中央広場の方を見ながら、思った事を述べる。雲の王国造りで、アレに負けない凄い噴水を作ろうかな~。

 

「あっ、ウォータースライダーだ!」

 

「アキラちゃん。あの滑り台が好きなん?」

 

「うん! (初等部の頃、夏休みの家族旅行で長島温泉のジャンポ海水プールで遊んだ時から好きになったんだよね...また行きたいな~)」

 

「ははは...ウチも滑ってみたいと、前から夢に想っていたんよ。近い内、足が治るから今年の夏が待ち遠しいわ~」

 

市民プールにあるウォータースライダーを見ながら会話するアキラとはやて。雲の王国でプールを造る際に、それを建てようかな...僕も好きだし。

 

「ママ~。あの広場で遊んでみたいですぅ」

 

「アスレチックか...想像していたモノと違うな」

 

「リイン。因みにアスレチックで何を想像してたの?」

 

遊具とアスレチックの広場を見ながら会話するリアンとリインに割り込んで、リインに訊ねる。彼女の想像していたアスレチックは、まさか...ね。

 

「...巨大ハンマーやギロチンやファイアバーがあると思っていた」

 

「ブッ!」

 

あ~、やっぱり誤解していたか...第一印象がアレだからなぁ。リインの答えを聞いた翔は吹いてしまった。...まぁ、これで正しく理解出来ただろう。

 

「リアン。はやての足が治ったら、休みの日に皆で遊ぼう。今は我慢して」

 

「はいです! パパ~、リアンは楽しみにしているですよ~」

 

リアンは残念そうだったが、笑顔で了解してくれた。皆とアスレチックで遊べるのは...早くて3月ぐらいかな? 正直言って、僕も遊びたい!

 

「あっ、そうや! リイン。アスレチックの広場に“スカイサイクル”って、

言う二人乗りの乗り物があるんや」

 

遊具とアスレチックの広場を見て何かを思い出したはやては、リインにスカイサイクルを紹介する。スカイサイクルとは、二人乗りのマシンで自転車みたいにペダルを回して高架レールの上を進むアトラクション。

 

「そんで臨海公園デートに最適やから今度、仲人君を誘ったらええよ」

 

「成る程! 流石はやて。それは良い考えですね」

 

笑顔で両手ではやての手を握りながら答えるリイン。確かに...スカイサイクルは二人で協力して進むようなものだからデートにピッタリだと思う。

 

ん~、スカイサイクルか...数年前に大津のびわ湖タワー(遊園地名)が無くなって以来、見かけた事はない...いや、大阪の万博公園にあるエキスポランドで見かけたか? 兎に角、乗るのなら久し振りだ。

 

「...なぁ、アキラ。良かったら今度、俺と一緒に乗らないか?」

 

「えっ? ......ううん、いいよ」

 

翔の誘いに対して、頬を紅く染めて応えるアキラ。この二人はもしかしたら、上手くいけば良いカップルになれそう...応援するよ翔。あ、その時にはやてはニヤニヤしていたと云っておく。

 

...しかし、この臨海公園は遊園地と言って良いかな? メリーゴーランドや観覧車やジェットコースターは無いけど、小さい動物園・水族館に加えて2つのアトラクションがあるんだし...

 

それから1分後...決められた展望時間(最高度で5分)が過ぎ、僕達七人が乗っている展望台はゆっくりと地上へ下降するのだった。

 

~SIDE OUT~

 

 

回転展望台から降りた仲人達七人は今、東にある中央広場を目指して並木道を通っている。老婆、白杖を扱う視覚障害者、デート中のカップル、ご家族一行など色んな人達とすれ違った。良い天気だから散歩日和である。

 

「おい! 其処のモブ野郎二人! 俺の嫁達から離れろー!」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

不意に後ろから怒鳴り声が聞こえて驚いた仲人達七人は、後ろへ振り向いた。後ろの方、さっき通り過ぎたT字交差点右(北)から、黒ズボンに赤いジャンバーを着た銀髪の少年が走って仲人達七人に近付く。

 

「っ...く、黒柳君や...」

 

後ろを見たはやては強張った顔になって呟いた後、車椅子もたれ部分の横から素早く顔を引っ込めて琢磨と顔を合わせないようにする。彼女もなのは達と同様、琢磨の事が苦手なのだ。

 

「モブ野郎...? 俺と仲人の事か? (目の色が左と右と違うな...)」

 

「他に誰がいるってんだよ! 野郎は男だけだろうが!」

 

自分と仲人を交互に指差しながら確認する翔に、琢磨は機嫌が悪い様子で答えた。彼の機嫌が悪いのは、ただ仲人と翔に対して気に入らないだけ。ドラ丸に対しては、転生特典で貰ったドラえもんと思っているようで対象外だ。

 

「兎に角っ! 俺の嫁であるはやてとリインフォースとツヴァイとアキラに手を出すんじゃねーぞ。あと、なのはやフェイトやアリサやすずかやシグナムやシャマルやヴィータや津名魅に対してもだっ!」

 

「「「「「......」」」」」

 

「はぁ~、またかいな...(予想通り、リインとリアンとアキラちゃんも嫁に入れられとるし...どんだけ女ったらしやねん)」

 

「タクマ...(酷いね...これがタクマの言いたくなかった黒歴史...)」

 

琢磨の大胆発言で、仲人と翔とアキラとリインフォースとリアンは目を丸くした。声も出ない。はやては頭を抱え、ドラ丸は寂しそうな目で琢磨を見ている。何があったのかは不明だが...未来の琢磨は性格が直ったらしい。

 

「く、黒柳君。何で沢山の人と結婚するつもりなの? 良くないよ」

 

「そうだよ! 沢山の人と結婚なんて不潔だよ」

 

我に返った仲人とアキラは、琢磨に「重婚(一夫多妻・ハーレム)は良くない」と反論した。一夫多妻は愛を分ける形となって薄くなってしまうし、夫を巡る取り合い喧嘩などトラブルが多い。とまぁ...それは問題の一つだから、認められている国は稀少である。

 

「うるせぇ! 文句あんのか!? ......愛しのアキラよ~。裕奈や亜子やまき絵と、死に別れになって寂しいか? そんなもん、さっさと忘れて俺と嫁達で幸せになろうぜ」

 

「っ!?」

 

琢磨は仲人に威嚇した。それから態度を変え、ニタニタした表情でアキラに応えた。「親友と死に別れ、そんなの忘れろ」の言葉で心にグサッと刺さったアキラは俯いて泣きそうになる。悲しみを乗り越えた彼女なのだが...あの言葉はキツイ。そう、「親友と死に別れ」は変えようがない現実だからしょうがないとして...「そんなの忘れろ」はNGだ。

 

「「「「「アキラ.../アキラちゃん.../お姉ちゃん...」」」」」

 

「黒柳! 露骨過ぎるぞ。言葉は凶器にもなり得る。よく考えろ」

 

仲人と翔とはやてとリアンとドラ丸は、悲しいアキラに集まって心配そうに慰める。琢磨の前に出て、厳しい目つきで注意するリインフォース。

 

しかし...

 

「あーっ!? 野郎共は俺のアキラに近付くんじゃねぇっ!」

 

琢磨は人の話を聞いていないようだ...馬の耳に念仏とはこの事か。

 

「はぁ...(腹が立つな...これは)黒柳。ちゃんと人の話を聞いているか?」

 

「ん、何の事だい?」

 

「はぁ...(ニタニタした顔は止めて欲しいのだがな)もう一度言うぞ」

 

リインフォースは、自分に向けてニタニタする琢磨に二回目の溜め息をついた後、言葉について注意すべき事をもう一度言う。琢磨は女の子のお願いを聞いてくれるようだ。

 

「な、何てことだ...俺はギャルゲー的に選択肢をミスったのか...こりゃ、アキラに悪い事をしてしまったな」

 

「ぎゃるげー...? よく解らないが、そう云う事だ。気を付けてくれ」

 

「しまったぁ」と両手で頭を抱えながら天を仰ぐ琢磨。ギャルゲー(恋愛シミュレーションゲームのこと)について知らないリインフォースは首を傾げたが、改めて彼にお願いした。

 

「おう! 解ってる(ギャルゲーと違ってセーブ・ロードは出来ねぇ...ハーレムを目指す為にも、好感度下げは避けねぇとな)」

 

琢磨は顔を縦に振ってリインフォースに応えた後、コロッと態度を変えて仲人と翔に視線を向けた。全く...男女差別にも程がある。

 

「おい! 其処のモブ野郎二人、話がある」

 

「えっ、僕と翔に? どんな話をするの?」

 

「決まってんだろ。転生者で男同士の話し合いだ」

 

キョトンとして問う仲人に、琢磨は相変わらず不機嫌な様子で答えた。それで仲人と翔は、お互い顔を見合わせる。

 

「如何する?」

 

「僕は話をしようと思う。黒柳君とお互い理解していなければ、ケンカになりそうだし...」

 

「そうだな。話し合いは大切だもんな...俺は賛成だ」

 

こうして仲人と翔は、琢磨と話し合いをする事になった。もし、仲人と翔が前世で二次創作を読んでいたら警戒はしていただろう。この展開は、勿論...

 

「折角のピクニックやのに...まぁ、ええわ。話し合いは早く済ませてな」

 

「喧嘩しないで仲良くなれたら良いな...頑張って!」

 

「リアンは、お先に中央広場で待ってるですよ~」

 

「(態度を見るかぎり、黒柳は男が嫌いらしいな...不安だ)」

 

「(何時になったら、琢磨はタクマの性格になるのかなぁ?)」

 

はやては渋々な様子で、アキラはハンカチで涙を拭きながら、リアンは右手を上げて元気良く、仲人と翔に言った。リインフォースとドラ丸は、考えながら男性陣の様子を見ている。リインフォースは不安な様子だ。

 

それからはやて達五人は先に中央広場へ行き、仲人と翔は琢磨に付いて行くのだった。今度は代わって、ドラ丸がはやての車椅子を押している。

 

・・・・・

 

中央広場の近くにある小さな広場。建物の裏で目立たない場所なので、周りに人は居ない。其処で琢磨は偉そうに腕を組み、仲人と翔に相対する。

 

「さて...モブ野郎共! 話し合いは嘘だ。嫁になるなのは達を賭けて勝負を申し込む...コレを使ってな」

 

「「あ、アレは!?/げっ!?」」

 

琢磨は腕組みを解いて指を鳴らすと、右隣の空間が歪む。彼の特殊能力の“王の財宝”から、両手で大鎌を持った下半身のない白い骸骨っぽい三つ目(額の目は閉じている)の機械人形が出てきて低い空中で静止した。それを見た仲人と翔は目を見開いて驚愕する。

 

「ダイの大冒険で登場する審判機械のジャッジ...」

 

「な...何で、あんな物騒な物を持ってるんだよ!? 早く仕舞え!」

 

「ククッ...管理局も誰にも邪魔されねぇから、勝負に丁度良いだろ?」

 

冷や汗を流して怯えている仲人と翔に対して、不敵な笑みを浮かべながら言い放つ琢磨。彼は邪魔な二人を始末する気満々のようだ。

 

「ち、ちょっと黒柳君。正気なの!?」

 

「ま、負けたら首を切られるんだぞ!?」

 

「ふん。最強のオリ主である俺が敗北など、辞書にない......やれ!」

 

『仲人対琢磨と承認...決闘の場へ転移』

 

琢磨の命令を受けたジャッジは起動し、手に持った大鎌を掲げて黒い転移フィールドを形成した。その黒い半球は仲人と翔と琢磨を包み込む。

 

暫くして黒い半球が晴れると...その場に翔だけ立っており、仲人と琢磨とジャッジの姿はなかった。

 

ジャッジ決闘は一対一なので、こうなった訳だが...もし、仲人が負けたらジャッジの大鎌で空間を切り裂き、翔を決闘の場へ引きずり込むだろう。キルバーンが待つ決闘の場へ引きずり込まれるアパンの様に...

 

負ければ死ぬ...そんな決闘で仲人と琢磨の運命は如何に...?

 

 

つづく...


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。