力持ちの人魚と祝福の風も神様転生   作:峻天

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テンプレですので、==========の行まで飛ばして結構です。


001 神様転生そして出会い

全方向を見渡す限り、地平線...いや、雲の上一面だから雲平線。空は明るい青空なのに、太陽が無い不思議な場所。其処に佇む黒い学生服を着た二人の高校生は今の状況が理解出来ず、困惑している。右の八雲仲人(やぐも なこと)は八神はやての兄かと思えてしまう程、似た茶髪ショートヘアの男性。左の麻宮翔(あさみや かける)は漫画のToLOVEるで、出てくる結城リトと似た黒髪ショートヘアの男性。

 

 

~仲人 side~

 

「......なぁ、仲人」

 

自分の周りを見回していると、僕の親友である翔は困ったような顔で話しかけてきた。勿論、僕も困っている。

 

「うん、言いたい事は判るよ。此処は何処なのか...って」

 

「ああ。学校から帰る時、いつもの道を通っていた筈なのに...気が付くと、知らない場所に居るからな。夢でも見ているのか?」

 

翔は腕を組み、少し前の事を思い出して答えた。夢...か、そうであって欲しいな。何回思い出しても...今日、家に着いた事が記憶に無い。

 

「おーい!」

 

「「!?」」

 

悩んでいると、上から呼び声が聞こえた。僕と翔は気が付いて顔を上の方に向く。其処に神様の格好をしたお爺さんが空から降りて来た。...は?

 

「じ、爺さんが飛んで来た!?」

 

「......」

 

翔は驚愕と同時に腕組みを解いて呟いた。僕も目を見開いたまま、声が出ない。もし...これが夢じゃなかったら、世の中は広いな。

 

「八雲仲人よ...言っておくが、これは夢ではない。お主の思った通り、世の中は広いぞ。想像を絶する程にのぅ」

 

「!? 如何して僕の名前を? それに、考えていた事が解るのですか?」

 

前に着地したお爺さんは僕の方に向き、カシの杖を持っていない左手をNOと振って話した。名前を知っていた事と心を読んだ事で、驚いてお爺さんに訊ねる。神様は心を読めるらしいけど、まさか...ね。

 

「ふぉっふぉっふぉっ...その通りじゃ。儂は人の心を読めるぞぃ。隣の人は友人の麻宮翔で間違いないな?」

 

「はい、合っています(何者でも、年上には敬語で話さねぇとダメだな)」

 

お爺さんは笑って答えた後、翔に向かって確かめた。翔は気を引き締めて答え、お爺さんは頷く。神様と云う可能性が高まってきたな...

 

「本題に入る前に、自己紹介をしておこう。儂は最高神を務めるグランオータン・ランドリールじゃ。呼びにくいのであれば、神様と呼んで良いぞ」

 

お爺さんは本物の神様だった。僕と翔は推測が当たって納得する。グランオータン...猿のオランウータンと間違えそうな名前だね。

 

「ふぉっふぉっふぉっ...部下になったばかりの者に、オランウータンと呼び間違えられた事が多いわい。儂は気にしていないがの~」

 

神様の一言で、僕と翔は苦笑してしまった。失礼な事を考えて、すみません。

 

「ゴホン...さっき申したが、これは夢ではない。夢であるのなら、自分の体を動かしにくかったり、意識がハッキリしない所があったり、意思を無視して時間制限が付いたり、決定打になるものは痛みや体重を感じる事なのじゃ。だがしかし...今は如何か?」

 

「あ、確かに...いつまで経っても、自分の意思を無視した空間変化が起こりそうな気配が...しませんね」

 

「そうだな......試しに跳んでみたり、腕を叩いてみたりしたが、現実と同じで感覚がハッキリしているぜ」

 

軽く体操をして周りを見回した後、思った事を神様に話した。翔も体を動かしてアクションを取り、感じた事を僕に伝える。これで夢ではないと理解したけど...何で、僕と翔は此処に居るんだろう?

 

「うむ、理解出来たようじゃな。次は、此処に居る理由を説明するぞ」

 

神様は説明を始める。死亡認定の事務処理で、今は関係ない僕の書類が混ざっていた事に気が付かず、ハンコを押してしまった。その結果、僕に雷が落ちて死亡。更に翔も、僕の横に居たから巻き添えを喰らって死亡。そんな衝撃的な事実を知った僕と翔は驚いて硬直し、言葉を失う。

 

「書類は山積みで処理を速くしないと終わらないから、確認しないでハンコを押した...と言うのは、見苦しい言い訳か」

 

神様は空を見上げて呟く。次は正座をしてカシの杖を右に置き、顔を此方に向けた。神様はケジメをつける真剣な表情なので、誠意を感じた僕と翔も正座をして神様と向き合う。この様子じゃ、生き返らせて欲しい望みは無さそうだ。泣きたい...泣きたいけど、如何にもならないよね...

 

「八雲仲人、麻宮翔。儂の不注意でお主等の人生を潰してしまった事を、責任持って謝罪する。この通りじゃ!」

 

神様は土下座で謝罪する。許す許さないかで、如何返したら良いか...分からず、僕と翔は黙って謝罪の言葉を聞く事だけだった。怒りや悲しみの感情はあるけれど、神様を責める事は出来ない。

 

「お主等のこれからについてじゃが...二人で一緒に、異世界へ旅立って貰おうと思う。その理由は...」

 

神様はこれからについて伝え、理由を説明した。天国へ送って従来の転生をすると、前世の記憶を失ってしまう。更に翔と離れ離れになってしまうから、お詫びにならない。神様としては気が収まらないとの事。家族と別れてしまったのに、更に親友と別れるなんて嫌だから...

 

「翔。僕は神様の提案に賛成するよ」

 

「おっ、仲人もか。俺は異世界に興味があるからな。其処へ行けるなら...普通の転生より、そっちを選ぶぜ」

 

翔は笑って、異世界行きを選んだ。僕も異世界に興味があるよ。どんな世界かな? 魔法がある世界なら、魔法を使ってみたい。

 

「ふぉっふぉっふぉっ...決まりじゃな。お主等が行く異世界は、どんな世界か...言っておこう。あと、座る姿勢を楽にして良いぞ」

 

僕と翔と神様は、座る姿勢を正座から胡坐に変えた。それから神様は、異世界について説明を始める。異世界は無数に在って、マンガ・アニメ・ゲーム内の物語と似た世界も存在するとの事。其処を中心に、クジで決めるそうだ。つまり...作り話の世界が現実として、実体験出来ると云う事か...ワクワクしてきたな~。翔も同様で、キラキラと目を輝かせている。

 

説明の後に、神様は右に置いたカシの杖を振り、前方に煙ポンッとクジ箱を出した。手品に見えるけど、そうでもないから凄いよね...本当に。

 

「仲人よ。クジを一枚、引きなされ。お主等にとって、馴染みのあるモノしか入っておらんから、心配は無用じゃ」

 

「はい、解りました」

 

神様に返事した後...ドキドキしながら、クジ箱の穴に手を突っ込む。

 

クジ箱から引いたクジの内容は『魔法少女リリカルなのは』と書いてあった。

 

「おっ、これ...レンタルビデオ店で人気作品とあったから、興味があってレンタルしたDVDのアニメだ...」

 

横から覗くように見た翔は、思い出して呟いた。このアニメ...妹のDVDで見た事がある。第一作...第二作も、感動する最終回だった。更に、第三作が出ると妹から聞いたけど...どんな話かな?

 

「異世界へ転生させる前に、特殊能力を与えよう」

 

そう言った神様は、さっきと同じ動作で別のクジ箱を出す。その理由は二つ...一つ目は、殺してしまったお詫びである事。二つ目は、異世界での戸籍やお金を用意する事は出来ないそうで、生活に困らないようにする事。と神様から聞いた。戸籍とお金か...何か力が無いと生きていくのは難しいな。

 

「一人一枚じゃ。先ず、翔から引きなされ」

 

「はい!」

 

翔は神様に返事した後、クジ箱の穴に手を突っ込む。良いのが出ると良いね。

 

翔はクジを一枚引いて、直ぐに読んだ。

 

「なになに...アイテムクリエイション?」

 

「おおっ、良いのを当てたな。それはイメージした通りの性能を持ったアイテムを無から作り出す能力じゃ。例えば、ドラえもんの秘密道具の再現とか」

 

「やったぜー! 仲人、大当たりみたいだぞ。例えドラえもんの秘密道具だったら、衣食住に心配は要らねぇ」

 

「あはは...そうだね。衣食住なら【着せ替えカメラ】とか【グルメテーブルかけ】とか【キャンピングカプセル】とか...」

 

歓声を上げた神様の説明を聞いて、ガッツポーズをする翔に苦笑した。戸籍もお金も要らないね...いや、強引に戸籍を作るのも可能かもしれない。

 

「次は仲人じゃ!」

 

「はい!」

 

神様に促されてクジを引く。その内容は『スキルコピー』だった。

 

「スキルコピー? 人の能力をコピーして自分のものに出来るのかな?」

 

「うむ、その通りじゃ! 一度見た能力をコピー出来るから...まぁ早い話、翔のアイテムクリエイションもコピーして、自分のものにしてしまうな」

 

「おおー! やったな仲人。また大当たりだぜ」

 

クジの紙を見ながら自分の予想を呟くと、神様は頷いて肯定した。聞いて歓声を上げた翔と喜び合ってハイタッチをする。これから行く異世界で、特殊能力を持った人と出会う日は来るのかな? その可能性は低そうだけど...

 

・・・・・

 

転生についての話し合いが終わり、僕と翔と神様は立ち上がった。

 

「仲人と翔よ。今から異世界へ転生させる。心の準備は良いかの?」

 

「「はい!」」

 

神様はカシの杖を構えて確認を取ってきたので、僕と翔は元気良く返事をした。そして、お礼も言う。いよいよか...冒険に出かけるみたいで、ハラハラドキドキするな~。

 

「ふぉっふぉっふぉっ...よろしい。頑張って、充実した第二の人生を送るんじゃぞ。......せいっ!」

 

「「!?」」

 

神様は応援の言葉を伝えた後、僕と翔に向かってカシの杖を振り翳した。その時、行き成り視界が真っ白になって強烈な眠気を感じ、意識を手放した。

 

~side out~

 

 

仲人と翔は白い光に包まれて消えた後...神様は顎髭を撫でながら呟く。

 

「仲人と翔を送った先の、異世界の最高神は優しいといいのぅ...何せ、人を家畜扱いにするような傲慢最高神がおっても、おかしくないしのぉ」

 

==========

 

海鳴市の北部にある山...天鳴神社の裏にある林で、半球杖の白い光が出現した。それは直ぐに収まり、小学生になった仲人と翔が現れるが...今は倒れたまま、気を失っている。二人の服装は学生服ではなく、長袖のトレーナーに長ズボンの私服。服の色について、仲人は上白下黒、翔は上黄下紺だ。

 

 

~仲人 side~

 

「おい仲人! 早く起k...ハーックションッ! 今は冬らしいから、早く起きないと風邪を引くぞ!」

 

「......~っ!?」

 

意識を取り戻すと、突然体が冷えて思わず両腕で体を覆った。寒い寒い...

 

「さみーさみー...やっと起きたか」

 

横を向くと目を見開いた。其処に、小学生になってしまった翔が僕と同じ状態で立っている。何で、小学生に...?

 

「か、翔? 何で、小学生に?」

 

「俺だけじゃねぇよ...仲人、お前もだ!」

 

「え?」

 

翔に言われて首を傾げたまま、周りを見ると林のようだが...目線が低く、木が高く見える。自分も、小学生になってしまったようだ。

 

「そのようだね...ハーックション! コートが無いからキツイ...」

 

「全くだ...ハーックション! 何とかならねぇのか?」

 

「そうだ! 神様から貰った特殊能力があるよね...使ったら?」

 

「あ!」

 

神様の事を思い出して提案すると、気が付く翔。寒いのを我慢していて、気が付かなかったんだね...それで仕方ないよ。

 

「取り敢えず、コートを出して」

 

「おう! アイテムクリエイション!」

 

僕のお願いに応えて、翔は頷いた後...フォークリフトみたいな体勢で意識を集中し、白いコートと黒いコートを作り出す。バッと出てくる感じだ。

 

因みに、今ので翔の特殊能力“アイテムクリエイション”をコピー習得した。

 

「初めて見たけど、凄いね...それ」

 

「ああ、俺も思うぜ。......ほらよ」

 

「サンキュー」

 

翔から白いコートを受け取って、直ぐに着た。翔も黒いコートを着る。その時、寒さを感じなくなった。この不思議な効果が凄い...

 

「このコート、暖かいね。北極や南極でも平気かも...」

 

「ははは...言い過ぎだろ! それ」

 

寒さは解決して、僕と翔は笑い合った。着ているコートをオリジナルアイテムの【寒くないコート】と名付けよう。そのままだけど...

 

・・・・・

 

「なぁ、仲人。魔法少女リリカルなのはの物語が始まったのか、終わったのか、気になるんだが...如何思う?」

 

物語の時期はどの辺りなのか...気になった翔は、僕に意見を求めた。それを知る為には、調べないといけないよ。先ずは、日付を知る為に街へ...いや、今日が平日だったら面倒だ。昼だから、間違いなく補導される。う~ん...

 

「ん~......そうだっ!」

 

良い方法が頭に浮かんだので、翔からコピー習得したアイテムクリエイションで【○×うらない】を作る。これなら、確実な情報を得られる筈だ!

 

「○と×の形をした板......あっ、成る程な~。それは質問一発で、知りたい事が判るから、かなり手軽だ」

 

「うん。その代わり、達成感が無くなってしまうけどね」

 

【○×うらない】を見て思い出した翔に応えながら、○と×の板を地面に置く。今回は仕方ないけど...今度はなるべく控えよう。推理小説を読む前に、犯人が判ってつまらなくなるのと同じだからね。

 

「海鳴市で、ジュエルシードと呼ぶ宝石に関わる事件が起きた。今は終わっている。○か、×か、どっちだ?」

 

『ピンポーン』

 

【○×うらない】に質問すると、○の板が飛び上がった。その板に白い光が点滅している。第一作の物語は、もう終わったとハッキリしたな。

 

「次は、俺が質問するぜ......海鳴市で、闇の書と呼ぶ魔導書に関わる事件が起きた。今は終わっている。○か、×か、どっちだ?」

 

『ピンポーン』

 

翔は【○×うらない】に質問すると、○の板が飛び上がった。その板に白い光が点滅している。第二作の物語も終わっているようだ。あとは...

 

「今は、闇の書の事件が終わって一年経っている。○か、×か、どっちだ?」

 

『ブブー』

 

【○×うらない】に質問すると、×の板が飛び上がった。その板に白い光が点滅している。その後に「今年のお正月は終わっている」と質問したところ、○と出た。と云う事は...今日は一月か二月の辺りかな?

 

「仲人。これで今の時期は、大体判ったが...これから如何するんだ?」

 

「うん。それは僕と翔にとって、重要な事だよね。う~ん...」

 

僕と翔は腕を組んで、これからの事について考える事にした。

 

第一ルート...【としの泉ロープ】で高校生に戻り、秘密道具で戸籍を何とかした上で高校生活をやり直すか。

 

第二ルート...何とか魔法少女達と接触して時空管理局に入り、特殊能力を役に立てるか。

 

第三ルート...【宇宙救命ポート】で宇宙を旅するか。

 

等々と特殊能力のアイテムクリエイションがあるから、進路の幅が広い。如何するかな...

 

・・・・・

 

「お悩みのようですね...八雲仲人、麻宮翔」

 

「「!?」」

 

考えている時...後ろから声を掛けられたので、僕と翔は後ろの方へ振り向いた。其処に、藍色の羽織と白に近い水色の着物を着た、腰の下までストレートに伸ばした水色の髪の女性が立っている。瞳は金色で顔つきにキツイ感じは無く、身長は180㎝位で高い。ビックリしたけど、それより...何で僕と翔の苗字と名前を知っているんだろう? 此処、異世界だよね?

 

「お姉さん。如何して、僕と翔の苗字と名前を知っているんですか?」

 

「簡単な事です。予知で貴方達二人の存在を知りました」

 

「よ、予知って...お姉さん、何者?」

 

驚いた翔はお姉さんに質問した。確かに...とても正確な予知が出来るのなら、只者じゃない。僕もビックリだよ。

 

「申し遅れました。私の名前は、セレン・ブレイスといいます」

 

自己紹介をして御辞儀するセレンさん。凄く丁寧な礼儀作法だ...

 

「どうも。僕の名前は、八雲仲人といいます」

 

「あ...俺の名前は、麻宮翔です」

 

僕と翔は頑張ってセレンさんに、慣れていない丁寧な御辞儀で返した。緊張するな...これ。上手く出来たか、自信ないけど...

 

「私は何者なのか、其処の○と×で証明します。見ていて下さい......私は此処の最高神です。○か、×か、どちらに?」

 

『ピンポーン』

 

「「......」」

 

僕と翔とセレンさんは【○×うらない】の方を見る。そして、セレンさんは【○×うらない】に質問すると、○の板が飛び上がった。その板に白い光が点滅している。それを見た僕と翔は絶句した。セレンさんの正体は神様だったなんて...【○×うらない】は正確だから、本物で...またまたビックリだ。

 

「と云う訳です。お解り頂けましたか?」

 

僕と翔は、前の【○×うらない】から後ろのセレン様へ視線を移すと、彼女は微笑んで此方に話し掛けた。神様だから...セレンさんじゃなくて、セレン様と呼ばないと失礼かな?

 

「はい! 理解しました! セレン様」

 

「お、俺もです! セレンさ...じゃなくてセレン様」

 

「...出来れば、セレンさんと呼んで下さい。その理由は、私が責任持って貴方達二人を保護しますので、関係が親代わりになると云う事です」

 

「「え!?/は!?」」

 

セレンさんは苦笑した後、強引に保護者宣言をした。僕と翔は予想外の展開で、呆然としてしまう。彼女からの話によると、予知でこっちの存在を知ってから、戸籍や住居を用意してあるらしい。つまり、僕と翔がこの異世界に来る前から決まっていたのね...でも、戸籍を得られて嬉しい。

 

「仲人。予想外で驚いたが、ラッキーで良かったな。......そう云えば、今居る場所は、何処なんだ?」

 

「そうだったね......セレンさん。今居る場所は、何処ですか?」

 

「此処は第352宇宙...長くなってしまいますね......此処は、日本の静岡県にある海鳴市北部の天鳴山です。少し南に進むと、天鳴神社があります」

 

セレンさんは宇宙から言い始めるが、改めて国名から現在の居場所を教えた。それから南の方に指差し、其処に神社があると付け加える。あっ、本当だ...南の方を見て、神社らしき建物が見える。

 

「なぁ、仲人。静岡県に海鳴市なんて市町村、在ったっけ?」

 

「う~ん...無いと思う。流石に県外の市町村まで、完全に把握出来ないよ」

 

「ははっ...そりゃあ、そーだ。実際に県外まで、細かく把握出来ていたらスゲーよ」

 

翔は苦笑して、ツッコミを入れたように応えた。難しいからこそ、凄いんだけどね......まぁそれは兎も角、前の世界の静岡県に海鳴市が在った感じはしない。逆に、前の世界で住んでいた市町村が無い可能性だってある。

 

「仲人、翔。話の続きは、用意した住居でしましょう。待たせている人が二人おられますので、直ぐ向かいます。私に付いてきて下さいね」

 

「「はい、解りました」」

 

セレンさんは此方に呼び掛けて、新住居へ向かおうと促した。僕と翔は返事をして【○×うらない】を回収した後、南の方へ歩き出すセレンさんの後を付いて行く。新住居に待たせている二人は、ホームヘルパーかな? 優しい人だといいな~。

 

・・・・・

 

「仲人。セレンさんは...アニメの天地無用で、出てくる津名魅と似てねぇか? 背が高いけど」

 

南へ歩いている途中...翔が訊ねてきた。突然だね...

 

「うん。僕も、セレンさんと会った時から、彼女と似ているな~と思ったよ」

 

「だよな~。...うわっと!」

 

笑っている翔は木の根っこに躓いたが、踏ん張って転倒を回避した。危ないな...林を抜けるまで、足元に気を付けよう。

 

それから数分経って林を抜け、神社の鳥居をくぐって石階段を下りた。その石階段は百段以上あって、登る時は大変そうだ。神社と長い石階段で思い出したけど、アニメでジュエルシード騒動があった神社は此処かな?

 

・・・・・

 

西へ続く歩道を歩いている途中...斜め左の方の歩道(道路の向こう)に、気になる四人を見かけた。車椅子に座っている少女は...

 

「ねぇ、翔。斜め左の方、道路向こうの歩道を進んでいる四人は、三人の魔法少女とシャマルじゃない?」

 

「ん? あっ、本当だ...その様子じゃ、【○×うらない】の答え通りだな」

 

指した方向を見た翔は、少し驚いた顔で呟いた。道路向こうの魔法少女達...シャマルははやてが座っている車椅子を押し、なのはとフェイトは両側に立つ陣形で会話しながら進んでいる。羨ましい程、仲が良いね~。はやてが身に着けている変わった十字架のペンダントを見たら、アニメの最終回を思い出して涙が出そうになったけど...

 

そう云えば、昼間に小学生が外を歩いていると云う事は...今日は休日か。土曜日かな~? 日曜日かな~? 祝日かな~?

 

・・・・・

 

住宅街に入り、西へ進んで目的地の前に辿り着いた。表札に“うみなみ寮”と書かれた門をくぐる。その門の外見は和風...瓦の屋根があって、外塀と共に木造である。塗られているニスの光沢が美しい。

 

「此処が新しい住居、うみなみ寮です」

 

「おおー!? でかいな~。庭も広いし」

 

「うん、そうだね。見事な木造りで綺麗だ」

 

門から玄関まで12m続く石造りの道の真ん中で...セレンさんは踵を返してこっちに振り向き、笑顔でうみなみ寮を紹介した。僕と翔はうみなみ寮と庭を交互に見て感嘆する。うみなみ寮の外見は...横幅が15m位ある三階建てで、外塀と門に合わせた和風の木造り。門をくぐって右の庭は、広いから草むしりが大変そうだ...でも、落ち着く感じで気に入ったよ。

 

「ふふ...中に入りましょうか(外見は美しい木造ですが...材質は違う)」

 

「「はい!」」

 

うみなみ寮の中に入ろうと微笑んで促すセレンさんに、僕と翔は嬉しさ満々で返事をした。踵を返して玄関へ進むセレンさんの後を付いて行って、うみなみ寮の中に入る。

 

中の玄関も、六畳部屋並みに広かった。東側は下駄箱があって、西の壁に少し大きい富士山の絵画がある。玄関内引戸の両端に、観葉植物もあった。玄関を上がって真っ直ぐ2歩進んだら東へ続く廊下の上で、その北に上りの階段が見える。うみなみ寮全体の壁は白い。その材質が木だけではなく、現代の一般マイホームにあるような物が殆ど。外側と内側の空間が違う感じだ。

 

・・・・・

 

玄関の東へ曲がって廊下を通り、セレンさんは右(南)一番目のスライドドアを開けて部屋に入って行った。僕と翔は唾を飲んで気を引き締め、セレンさんを追って部屋に入る。いよいよ、お世話になる二人とご対面だ。

 

入った部屋の中は、2つの横長いソファが向かい合うようにあるリビングだった。南のソファに、銀髪ストレートロングヘアの少女と黒髪ロングポニーテールの少女が座っている。歳は僕や翔と同じか...ホームヘルパーではなさそうだ。しかし...その二人、何処かで見た事があるようなないような...

 

銀髪の少女の服装は、黒いトレーナーに白いスカートで黒いニーソックス。黒髪の少女の服装は、白いトレーナーに青いスカートで紺色ハイソックス。

 

リビングの内装・レイアウトは...廊下側と同じ白い壁で、青い絨毯が敷かれてある十畳部屋。東側はビデオデッキ付きの薄型プラズマテレビ、その上の壁に時計。南東と南西の隅に観葉植物。南は縦真ん中に、端から端まである横長い窓。西の壁中心に、水平線がある大海の絵画。木製のテーブルを真ん中に、三人分のベージュ色ソファが北と南で2つ配置されている。

 

「「セレンさん。おかえりなさい」」

 

「ただいま。アキラ、リインフォース」

 

「「え!?」」

 

二人の少女とセレンさんは笑顔で、互いに帰宅の挨拶をした。知っている名前を聞いて僕と翔は、硬直して愕然する。こ、これは...如何云う事???

 

「こちら茶髪の子が八雲仲人、黒髪の子が麻宮翔。此処の同居人になりますので、仲良くしてあげて下さいね......ん?」

 

僕と翔の紹介をしたセレンさんは、此方を向くと不思議そうな顔をした。

 

「仲人、翔。驚いている理由は分かりませんが、早く挨拶をして下さい。出会いは第一印象が大事なのですよ」

 

「あ、ゴホン......失礼。僕の名前は、八雲仲人です」

 

「俺の名前は、麻宮翔だ」

 

「「宜しくお願いします!」」

 

セレンさんに促されて、僕と翔は気を取り直して自己紹介した。そして一礼する。これで良かったかな? 出会いで第一印象が大事なのは尤もな話だけど...悪かったとしても、誠意を持った行動でフォローしていけば良い。

 

「私の名前は、大河内アキラです」

 

「私の名前は、リインフォースだ。此方に訳あって苗字は無い」

 

「「宜しくお願いします!」」

 

大河内とリインフォースは笑顔で頷き、ソファから立ち上がって自己紹介した。そして一礼する。それから、此処に来て1時間経っていないと聞いた。ふ~む...その二人に、如何云った事情なんだろうか?

 

「さて、話す事が沢山あるでしょう。皆さん、ソファに座って」

 

「「「「はい」」」」

 

大河内とリインフォースはそのままソファに座り、僕と翔は【寒くないコート】を脱いで北のソファに座った。セレンさんは膝を地面に着くようにしゃがみ、テーブルの下にある円柱椅子を引き出してテーブルの東に置いて腰を下ろした。僕達四人が座っているソファの配置は、東から順に南のソファで大河内とリインフォース、北のソファで僕と翔。

 

「......」

 

セレンさんは一息ついた後、真剣な表情に変わった。雰囲気も変わって、僕達四人は思わず息を呑む。うっ、緊迫する感じ...これが最高神の威厳か...

 

「出会う際に自己紹介しましたが、改めて名乗りましょう。私はセレン・ブレイス。この世元の最高神を務める者です」

 

威厳を感じる言葉で僕達四人は黙って頷く。世元? 聞いた事がない単語だ。

 

「代表して、異世元からの来訪者である皆さんを保護及び歓迎致します」

 

「「「「はい。ありがとうございます!」」」」

 

「ふふっ、ようこそ私の世元へ」

 

改めて保護者宣言を受けた僕達四人は、頭を下げてお礼を言った。セレンさんは聖母のように、温かい笑顔で迎え入れる。神の緊迫した雰囲気は無くなって、いつもの優しいお姉さんだ。和やかになって力が抜けたよ。

 

「セレンさん。さっき仰った世元の単語は初めて聞きます。如何云う意味でしょうか?」

 

「解りました。説明の前に...先ず、平行世界について御存知ですか?」

 

世元(せいげん)の意味を知る為に、手を挙げてセレンさんに質問した。彼女は了解して、平行世界の意味を確かめてから説明を始める。無限に広がっていく平行世界だが、それが発生する最初の分岐点は最高神の誕生を指している。其処で最高神が違う大きな平行世界の区切りが「世元」と呼ばれる。最高神の誕生が世界の元として「世元」と名付けた。例えば、時間航行の手段で平行世界へ行っても、セレンさんの世元内である。過去へ行く時間逆行が出来ても、世元の起源(始まり)へ到達出来ない。成る程...グランオータン神様が世元について知っていたのなら、教えて欲しかったな...

 

「其処で、皆さんに質問します。私の世元へ来る前に、居た世元の最高神とお会いした事はありますか? そうであれば、特徴もお願いします」

 

「はい。あります。七、八歳位の天使みたいな女の子でした」

 

セレンさんの質問で、最初に大河内が手を挙げて答えた。七、八歳位の天使みたいな女の子? 吸血鬼エヴァンジェリンの天使版ってイメージかな?

 

「私もあります。二十代前半の女神様でした」

 

大河内が言い終えた後に、リインフォースは胸に手を当てながら答えた。ふむふむ...リインフォースの方は、セレンさんみたいな女神様か。

 

「仲人...」

 

「うん。......僕と翔の方にもあります。神様と云うイメージ通りで、カシの杖を持った白い羽衣のお爺さんでした」

 

翔と顔を見合わせて頷いた後、セレンさんに振り向いて答えた。

 

「なんと!? 全員も...一年前の来訪者といい...事故では無く、神為的によるものと考えるべきですね」

 

セレンさんは短く目を見開き、少し考えて応えた。一年前の来訪者?

 

「一年前って...俺達と同じ様な人が、この世元に居るんですか?」

 

首を傾げた翔は、僕の思っていた通りの質問をした。すると、セレンさんは疲れたような...難しい顔をする。何か問題でも、あるのかな?

 

「ええ。一年前の来訪者の名前は、黒柳琢磨という銀髪の少年です。皆さんと同じ歳で、特徴は瞳が虹彩異色になっています(とても格好良い方なのですが...)」

 

「(虹彩異色か...大昔、対面した聖王や覇王と似ているな)」

 

「セレンさん。彼は寮に居ないようですけど、今何処におられますか?」

 

大河内は周りを見回した後、セレンさんに訊ねた。問題の彼は、この寮に居ない。玄関を通る時...下に揃えてあった靴は、大河内とリインフォースので2足しか無かったからね。兎に角、彼は別の家に住んでいるのかな?

 

「此処から、北東にある海鳴駅近くのマンションで暮らしています。彼をうみなみ寮へ引っ越させようかと考えていましたが...性格に問題があってトラブルを避ける為、別居と云う事にしました」

 

「性格に問題? どのような人なんですか?」

 

どんな人か...気になったので、セレンさんに訊いてみる。

 

「自己中心的で気が短い方ですね。そんな彼に注意したくても、面目が立ちません。何故なら、別の最高神...同僚の不手際で殺してしまった被害者なのです」

 

「「「!?」」」

 

最高神の不手際と云う一言に、僕と翔と大河内は目を見開いた。...大河内も? もしかして彼女も、僕や翔と同じ境遇...か?

 

「セレンさん。大変申し上げにくいのですが...」

 

「俺と仲人も神様の作業ミスで一度、死にました」

 

「(八雲君と麻宮君も同じなんだ...)私も、そうなんです」

 

「はぁ...(此方も、そう云った失敗はありますが...対象の命に影響は無い。しかし、他の世元は無限で何でも有りですから、仕方ありませんね)」

 

僕と翔と大河内は悲しそうに申告すると、セレンさんは頭を抱えて溜息をついた。そう云えば、セレンさんの生死管理は如何しているんだろう? その様子じゃ、書類ミスで死なせてしまった! なんて感じはしないけど...

 

「せ、セレンさん! お気を確かに。私も一度死にましたが、神様の不手際と違います。もう一度、主と会って一緒に生きたいと云う願いを叶えて下さり、この世元にやって来ました」

 

「ふふ...良かったですね。近い内、八神はやてと再会出来るでしょう。...ああ、伝えておきたい事があります」

 

リインフォースはセレンさんを慰めて、転生の理由を話した。セレンさんは微笑んで祝言した後、伝えたい事を思い出す。

 

1ヶ月前...クリスマスの時に死亡したリインフォース(セレンさんの世元の住人)と会い、願いを叶える話と同じで異世元へ転生させた。その理由として...リインフォースと云う存在が2つあると、厄介事になるから特例措置をとったとセレンさんから聞いた。単なる住人の入れ替わりだな...これ。でも、あっちのリインフォースも楽しい第二人生を送れるといいね。

 

「そうですか...ありがとうございます...」

 

リインフォースは涙を流して、セレンさんにお礼を言った。後に大河内は笑顔で、リインフォースにハンカチを差し出す。良かったね...翔と共にその一言しか、言えないけど...

 

「いえ、お気になさらずに......皆さん、少し休憩しましょうか」

 

セレンさんは微笑んで応えた後、話し合いの休憩に入った。彼女は紅茶とお菓子を取りにリビングを出て行き、リインフォースは大河内からハンカチを受け取ってお礼を言った後に涙を拭く。翔は両腕を上げて背伸びをしていて、僕は此処に居る三人の様子を見ているだけだった。

 

・・・・・

 

数分経って...食事台車を押しているセレンさんが戻ってきた。その台車の上には...五人分の、小皿に乗せたシュークリームと紅茶を淹れたティーカップが並べられている。ウェイトレスかメイドさんみたいだね...

 

「お待たせ。お菓子はシュークリームになります」

 

セレンさんは、ウェイトレスみたいに微笑んで言った。そして、シュークリームの小皿と紅茶のティーカップを台車からテーブルの上に並べる。配る動作がプロ並みの速さだ。流石は最高神...なのかな? 関係ないかも...

 

こうして、休憩時間はティータイムとなった。

 

~side out~

 

 

因みにセレンが持って来たシュークリームは、高町家が運営している翠屋の品である。仲人達四人はまた食べたいと言っていたそうな...セレンも大変気に入っているらしい。お、恐るべし...高町桃子。

 

 

つづく...

 




「世元」について意味が分からないコメントを頂きましたので、解説します。
平行世界が発生する最初の分岐点は最高神の誕生を指しています。世界の始まりから仲人と翔の最高神、アキラの最高神、リインフォースの最高神、黒柳琢磨の最高神、セレンさん、他の最高神と分岐してそれぞれ世界が広がっていく。その区切りで最高神が違う大きな平行世界という意味です。最高神の誕生が世界の元として「世元」と名付けました。(読み:せいげん)
例えば、人類が発明したタイムマシンで過去・未来・平行世界へ行ったりしますが、セレンさんの世元内であり、違う最高神の世元へ行くのは不可能となっています。最高神自ら、世元間移動は出来ないが...力を以って、住人を別の世元へ移動させる事は可能。意外で事故による、世元間移動はあるらしいが...その発生確率は、宝くじが当たるより滅茶苦茶低い。

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