現在の時刻は午後6時。”使徒十字”の発動の時刻は刻一刻と迫って来ている。
「(とにかく時間が無い…上条君には悪いけどこっちも出し惜しみはしてられないな…)」
一夏はそう考え彼女の死角に移動しながら攻撃を繰り出していく。
今までならば高速召喚爆撃などを封じ上条の安全を確保しつつの戦闘を行っていたが、発動までの時間が迫り早期に決着を付けなければならないと彼は判断したからだ。
そしてオリアナへと向かっていた上条もまた一夏の攻撃が激しくなった事を身を以て体験する。
今までならば自分を援護するような攻撃だったものが、激しさを増しうっかりしていると自分も彼の攻撃に巻き込まれかねない攻撃だ
「(うおっ…織斑の攻撃がだんだん激しくなってきたな…だけどまだ足りない…こっちの手数を増やさないと…!!)」
彼らはそう思いながらも戦闘を繰り広げる。
するとオリアナは彼らの攻撃をかわしながら
「だいぶ激しくなってきたわね…でもそんな攻撃はお姉さんには届かないわよ」
彼女はそう言いながら彼らの攻撃をかわしていく。かわすと言うよりも、上条を引き付け上手く一夏の攻撃に当たらせようとしているのだ。
某ルーン使いの魔術師ならば問答無用で纏めて攻撃するかもしれないが一夏の場合味方に攻撃すると言う事は避けているため彼はどうしても寸前で攻撃をためらってしまい結果的に彼女への決定打を打ち込むことが出来ずにいる。
手数が足りず決定打が入らない。
その状況は一夏もよく理解している。以前IS学園でのタッグマッチの際、対戦相手のラウラがパートナーを無視したような攻撃を一夏も繰り出すことが出来るのならば少しは状況が変わるであろう。
一夏にはどうしても味方をないがしろにしたような攻撃が出来ないのだ
そう、一夏には。
この場にはもう一人先ほどまで戦闘に加わっていたルーンの魔術師がいる。
彼はオリアナの攻撃を受け先ほどまで地面に倒れていたのだが、ダメージが多少は回復したのかオレンジ色の炎と共に彼が立ち上がる
「ステイル!!」
その異変に気づいた上条もまた声を上げる
オリアナは現在正面から接近する上条に対し後ろに下がり一夏の追撃を防ぐように移動している。
そして彼女に対し巨大なオレンジ色の炎が接近してくるが彼女は
「お姉さんには蝋燭攻めを喜ぶような趣味は無いわよ!!」
そう言いながら上条の拳を避ける
彼女としては上条を楯として利用したいのであろう。
そしてそれを見ていたステイルは
「オリアナと共に死ね上条当麻」
「うおっ…ふざけんなテメェ!!」
ステイルは上条などお構いなしに攻撃をする。
上条があわてて身をかがめた直後、彼の切り札である”イノケンティウス”の右腕が横殴りに振るわれる。
「なっ…!?」
オリアナは驚きあわてて回避するが今度は上条がその巨人を右腕で殴り軌道をずらす
そして一夏は
「あいつ等戦闘中にまで足引っ張り合うなよ…」
とあきれつつも彼女に対し攻撃を続行する。
そして彼らの攻撃にオリアナの様子が変わる。
上条とステイルの不規則な攻撃パターンに対しオリアナは一瞬硬直してしまい、その隙を突き彼の拳が彼女のガードした腕に当たる。
動きを止めるのはマズイと彼女は判断する。彼らの動きに戸惑い動きを止めてしまえば、一夏の放つ高速召喚爆撃や岩の大剣や水の槍と言った魔術攻撃の絶好の的になるためだ。現に先ほど彼女が上条の拳をガードし一瞬動きを止めてしまった際には頭上から岩の大剣が彼女に降り注いできたのだ。
上条は拳を当てた直後にに回避しオリアナは単語帳をめくり水の楯を使い攻撃を防御する。
ここにきてようやく自分たちの方に流れが来たと一夏は感じる。彼女を突破する方法が彼には何となく思い浮かんだのだ。
「(成る程、オリアナが苦手なのは多分アドリブだ。さっきのコンビネーションなんかは一種のマニュアル道理とも受け取れる攻撃だけど、上条君とステイルの攻撃は違う。不規則だからこそ読めないんだ。となると俺も上条君達を無視して攻撃した方が良いのかなぁ…いやでも味方を攻撃したくはないし…)」
オリアナの欠点それはアドリブなどには弱い事であろうと一夏は考える。簡単に行ってしまえば台本などで決められたセリフなどは話せるが、とっさのアドリブなどには答えられないタイプの人間がオリアナなのであろうと一夏は考える。彼女の場合使い捨ての術式を使う事からアドリブを考え実行することは出来るが、自分がそれをやられた時には対処に困るタイプなのであろう。
一夏はそう考えながらも自身の魔術攻撃のパターンも徐々に変えていく。
今までは”天使の力”を込めた属性攻撃を打ち込み隙が出来れば高速召喚爆撃をお見舞いすると言う展開であったが、今度は高速召喚爆撃を放ち次に速度のラグを出すため通常の召喚爆撃、最後に属性攻撃と言うパターンにしてみたりする。
そして上条たちはと言うと互いに接近戦を挑んだ結果体がぶつかりお互いに邪魔だと罵り合いながらも彼女に対して接近していく。
オリアナもとっさに氷の剣を呼び出しステイルの炎の剣を受け止め、攻撃を防御しつつ後退。
そして氷の剣を横なぎに振るいステイルの腰を狙う。もし交わされたとしてもその剣は姿を変え彼の回避軌道をふさぐ形となる。これでステイルは撃破できる。彼女はそう判断する
しかし、彼女は忘れていたのだ。
本来ならば絶対にしないミス。彼らの不規則な動きに惑わされたからこそ、ある程度規則的な動きをしていた背後にいる一人の魔術師の存在を見落としてしまう。
その見落とされた魔術師、一夏は短剣を振るうとすぐに彼女の氷の剣は爆発し飛び散る。
「なっ…しまった…!!」
彼女はその状況に驚きあわてて新たな剣を生み出そうとするが、もう遅い。
彼女の目の前には上条とステイル。二人の拳が迫って来ていたのだ。
直後、彼らの拳を受けた彼女は地面に転がる。
その光景を見ていた一夏は
「おお…これは入った。女性に対しても容赦ないな」
そう言いながらも十分に警戒しつつ彼女を取り押さえようと接近する。
その直後であった
「Basis104(礎を担いし者)!!」
その叫びを彼は明確に聞くことが出来た。
叫びの正体は一夏達にとってみればもっとも重要なで有りある種のキーとなるその言葉の正体は魔法名。
今の言葉が彼女の魔法名なのであろう。
そして一夏は慌てて短剣を下に振るう
「くそっ…間に合え!!」
そう言いつつ防御するために炎の障壁を呼び出しあわてて後退し今度は風の障壁を自身の前に天愛すると言う二重の防御態勢をとる。しかし、魔法名を名乗った魔術師の攻撃を防ぎきる事など出来ない。しかも彼女が放った攻撃は無数の水の刃。
無数の刃は彼が用意した障壁を突破し突き刺さる。
二重防御のおかげか大半の刃を止めることが出来たがすべてではない。そのいくつかは彼の腕や足、そしてわき腹に突き刺さり彼はそのダメージのせいで地面に倒れてしまう
「---!!」
途中誰かが自分を呼んでいた気がするがそれに気づくことは出来なかった