IS~科学と魔術と・・・   作:ラッファ

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第79話

オリアナが彼らに対しそう言い放った時、グラスを叩いたような澄んだ音が鳴り響く。

その瞬間

 

「がッ…!?」

 

そう言いながら土御門の体がくの字に折れ曲がり倒れる。わき腹を抑えながら倒れる彼はそれでもオリアナを睨みつけている

 

「土御門!!」

 

上条は慌てながら土御門に駆け寄り、一夏は霊装を構えたままオリアナを見る

するとそれを見ていたオリアナは

 

「あら、てっきり怪我を負っているのは貴方たちの方かと思ってたんだけれど、使い道を誤ってしまったかしら?」

 

「(怪我をした人間に対し徐々にダメージを与える呪術みたいなものか…)殺すつもりは無くても怪我さしてればその場でダウンさせて自分は逃走に専念できるって事か」

 

一夏のその言葉にオリアナは薄い笑みを浮かべながら

 

「そう言う事。種明かしをするなら一定以上の怪我を負った人間を昏倒させる術式よ。さっきの鈴の音が発動キーなんだけど…あの坊やと言い君といいそれ程ひどい傷は無いみたいね」

 

彼女がそう言っている間に上条は土御門の体を右腕でなでるが何の効果もない、と言うより右腕で打ち消しているがすぐに効果が復活してしまっていると言った方が正しい。

この術式は直接ページを潰さなければ効果は無いらしい

 

「(一定以上の傷を負っている人間を昏倒させる術式…)」

 

つまり術式の発動要件の一つである”土御門の体についている傷”をどうにかしなければいけないと言う事になる。彼の右腕では傷を消すことは出来ない

一夏もその事は分かっているのだが、彼の場合、回復魔術の使用には下準備が必要だ。そしてこの状況ではそのような下準備をしている暇などある訳がない

そのような状況でオリアナは術式のページを後方へと投げ捨てる

 

「テメェ!!」

 

「彼を助けたければ一刻も早くお姉さんを倒すこと、それ以外に方法は無いわ」

 

上条の言葉にもオリアナは表情一つ変えずに答えを告げる

彼の怒りはますます増えていく。土御門にしろステイルにしろ、一夏にしろそして先ほど倒れた吹寄にしてもオリアナが事件を起こさなければ大覇星祭を楽しむことが出来たはずだ。もちろんプロの魔術師にしてみればそんなものは些細な事なのかもしれない。だが、上条は告げる。

 

「刺突杭剣の価値なんて俺には分からない。だけどこれだけは分かるそんな下らない物のために誰かが傷つくなんて間違ってる、その剣がそんなつまらない結果しか生まないような道具なら俺がこの手で砕いてやる!!」

 

「それもあるけど、俺は皆が楽しみにしてる行事を自分の目的のために利用する輩は許せないんだよ。やりたいなら自分たちの世界でやれ、そんな事に無関係な人間を巻き込むな(…それでもこの人の場合は罪悪感を感じてたし、束さんよりはマシだな)」

 

上条の言葉に一夏も続く。一夏にしてみればその思いは上条以上に強いだろう。IS学園でのクラス対抗戦や臨海学校ではとある天災のせいで楽しみにしてた行事が台無しになり、無関係な人間が巻き込まれ、学園祭では自分の機体を狙うと言うつまらない目的のために何の関係もない人間が戦闘に巻き込まれた、彼にしてみれば戦いの世界に無関係な人間を巻き込む無のがどうしても許せなかったのだ。

 

だからこそ二人目的はただ一つ。目の前のオリアナを倒し、取引の物品を破壊する。

 

そして上条は右腕を構えオリアナに向かい、一夏も短剣を使い上条を援護する形で術式を構える

彼らとの距離は10メートルもないしかし彼らの攻撃はオリアナに届くことは無い

 

なぜならば彼女は単語帳の一つを加えると彼らを遮るように巨大な氷の壁が道路一面に広がる。その壁を通し彼らとオリアナの視線が交錯するが、彼ら無視する

上条は右腕を叩き込み氷の壁を破壊すると一夏は短剣から風の刃を取り出すと大きな破片を次々と破壊していく

しかし、壁の向こう側にはオリアナの姿は無い。砕けた氷と一緒にその姿が崩れていく

そしてその光景に上条は悪寒を覚える

 

「(氷の役目は…光の屈折か!?)織斑お前も…!!」

 

「なっ…!?」

 

彼が最後まで言い終わる前に真横から風切り音が炸裂する。上条は振り向きざまに右手を振り回し襲い掛かる風の刃を防ぐが一夏はそうはいかない

彼にしてもとっさに左手に持った杯から水を呼び出し楯のように利用するが、それでもすべて防げるわけではない。いくつかの刃は彼に直撃する

 

上条は頬を切られただけで済んだが一夏の場合はわき腹と左足付近を切られ出血している。

 

そしてその様子を見たオリアナは

 

「ふふっ、なかなかに良い切れ味でしょう?。そう言えば君は初めて見た時にも感じたけど学園都市は魔術師以外にも随分と珍しい子を集めているのね」

 

彼女は上条の右腕の事を言っているのであろう。しかし上条にはその言葉にこたえる余裕はなく、一夏もいつも以上に警戒している。

なぜならば彼女は一定以上の傷を持った相手を昏倒させる術式を持っているのだ。そして二人の傷は決して浅くは無い。だからこそ上条はおもわず耳をふさぎ、一夏はいつでも高速召喚爆撃を放てるように用意する。

昏倒術式はページを取り出した後に鈴の音がするのが特徴だ。それだけのラグがあれば一夏にとっては十分すぎる。そして彼女はページを口でくわえると

 

「次は影の剣、飽きさせないわよ」

 

破り彼女が左手を振るうと同時、手からは闇の剣が出てくる

そしてそれらは彼らの陰に刺さると、すぐさま地面が爆発する

勿論彼らは吹き飛ばされ、上条は護身術の真似事でどうにか受け身を取り、一夏はIS学園で最低限の受け身を習っていたことからそれを活かし何事もなく地面に着地する。しかし彼は足の傷のせいか着地と同時に痛みのため膝をついてしまう

 

上条は痛みにこらえながらも

 

「(なんだ、どうしてあの術式が来ないんだ!?)」

 

そう思っていた。そしてその不可解な事実に上条はますます不審に思う。せっかくのチャンスをなぜ自分から手放すのか、そのような風に考えているとオリアナは

 

「んふ。お姉さんは同じものを何度も使う趣味は無いの」

 

「近代西洋魔術の5大元素なんてポピュラー、その気になれば誰だって覚えられるからな。覚えるのが簡単なら妨害も簡単、だからあんたは大量に手札を構えてるって事か…」

 

「そう言う事、近代西洋魔術を使う君ならわかるでしょ?象徴武器を重点的に使う君ならね」

 

上条には彼らの話は理解できないが、ただ一つだけ彼らはお互いの特徴をとらえていると言う事だけは理解できる

そして上条はオリアナめがけて一気に走り出すが、彼女は新たなページを咥えると上条の後ろから突風が吹き彼は体制を崩してしまい、その隙を彼女は突き、上条にアッパーカットをお見舞いする

 

「ぐ…アッ…!」

 

上条もまた地面に倒れてしまう。途中オリアナが何か言っていたが彼にはそんな事を覚えているような余裕はない。幸いなのはまだ立ち上がれると言う事か。そして彼の頭には一つの疑問が浮かぶ

 

「ちくしょう…どうして…一度使った魔術は二度と使わないのに何でそんなに組み合わせのパターンが多いんだよ…?」

 

その言葉にオリアナではなく一夏が補足する。

 

「色と名前だけじゃない、多分紙を加えたときの角度なんかも関係しているんだ…近代西洋魔術には占星術なんかも含まれてたりする。星座と惑星はその角度で役割が変わるなんて考え方もあるからね」

 

一夏のその言葉にオリアナは

 

「そう言う事、まぁ補足するならお姉さんの術式はページ数の数秘的分解も取り入れているから、厳密な意味で同じ術式は二度と使えないの」

 

彼女は何のためらいもなくそう告げていく。自分の攻撃方法を見破られ、ましてや自分からネタばらしをしても余裕を浮かべる。つまりは彼女にはまだまだ奥の手が有ると言う事だ。基本を押さえ、常に新しいものを生み出すために努力を重ねる。並の人間には決してできない真似であるのは勿論、魔術師であっても真似をするのは難しいであろう

 

そして彼女は新たな術式を構える

その効果は彼らが動けば必ず死ぬ。

そして一夏はそのような状況の中でも

 

「(同じ魔術は二度と使わない。これは十分アイツを攻略するためのヒントだ。上条君もおそらくは気づいているはず。となるとまずはこれを破壊してもらわなきゃな。別に立てなくてもやれることはあるんだし)」

 

そう考え、上条もまた己の気持ちを確認すると、立ち上がり、一瞬一夏の方を見て、視線を確認するとそのまま彼女めがけて走る

その光景を見てオリアナは彼を憐れみ、術式が起動するが彼の体は切断されない

 

そしてここからは彼らの反撃

一夏は高速ではなく普通の召喚爆撃を使い、付近に爆発を起こす。もちろんこれは彼女の目くらましと攻撃が繰り出されるであろう場所に配置しているのだ。そしてそれでも防げなく、彼女の光景が繰り出されるが、それを上条は右腕で破壊する

 

その光景に今度はオリアナが驚く。

 

「(どうして、どうして彼らは私の攻撃に対処が出来ているの、魔術師の坊やならともかく、特殊な右腕を持つ素人にここまで読まれるなんて…そうか、私は同じ魔術は二度と使わない、つまり同じ地点には攻撃がいかない…それを読んで…やるわね坊やたち!!)」

 

彼女は一度使った魔術は二度と使わない、つまり一同攻撃が来た場所に二度と攻撃は来ない。ならば攻撃が放たれていない場所に召喚爆撃を放ち、攻撃手段を削り、まだ残った箇所の攻撃は上条が右腕で破壊する

彼らの無意識のコンビネーションをオリアナも内心で称賛する

 

そして上条はオリアナの正面まで到達し、彼女と上条の体術での戦いが始まる

彼女は看板を利用し上条の後頭部を狙うが彼は身をひねり攻撃を回避、そしてそれと同時に

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

上条は叫び、拳を彼女の顔面に叩き込む

そして直後、オリアナは後ろへ吹っ飛び、地面を転がっていく


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