一夏はあれからも運び屋であるオリアナを探そうとしたが一向に見つかる気配が無い
魔術の使用も戦闘以外ではなるべく避けたいと考えているがそろそろマズイと思っているのだ。
そうしてしばらく歩いていると携帯が鳴る、相手は土御門であった
<もしもし、見つかったか?>
<今、上やんが跡を付けている所だ、場所は今送る。>
「了解(やっぱ上条君の競技を見るのが正解だったか…!!)」
彼は心の中で舌打ちをしつつ電話を切る。
そうするとしばらくした後一夏の携帯電話に上条の現在位置と思われるデータが送られてくる
学園都市の携帯電話のサービスにはGPSを利用し”友人の現在位置を探す”というサービスもある
ただしこのサービスはサーチされる携帯電話の方から専用のコードを含むメールを受け取らなければならず、肝心のコードも30分おきに新しいものに更新されるようになっているのだ。
上条は始めそのコードを土御門の携帯に送り、土御門は一夏の携帯にそれを送りつけたのだ。
「だいぶ遠いな…しかも俺は土地勘もない…」
そう言い名がらも彼は地図を見つつなるべく広い道を移動し、裏路地の出口となる部分を見つけそこで待機し出てきたところを奇襲する。一見すると運任せのようにも見えるが、オリアナ本人は上条や土御門たちに追われ、逃げることに専念しているのだから待ち伏せを受けた際には一瞬対応が遅れると彼は判断したのだ。あながち彼の考えは間違っておらず土御門やステイルもおそらく似たような考えを持っているだろう。あらかじめオリアナの格好もメールで受け取っていたのでうっかり見逃すと言う事もない、そうして待ち伏せをしているが一向にオリアナが現れる気配が無い
「(ミスった…ここじゃなかったか…)…ん、電話…?」
彼が自分の失態を反省していると再び携帯電話がなる。相手は土御門であった
<一夏、今どこにいる?>
<ルートの出口にいるんだ…だがスマン。オリアナは出てこなかった>
<こっちも見失った。さすが追跡封じ、やってくれる…!!>
そう言う彼の口調はどこか苛立っていることから状況はかなり悪い事を一夏も感じ取る
そして彼は土御門に対し
<どうする、俺の方でも索敵してみるか…どこまで行くかは分からないが…>
<いいや、索敵は俺たちの方でやる。精度はこっちの方が上だしな。そうだ後伝えなきゃならない事が有った>
<なんだ>
<オリアナの使う術式についてだ>
そう言いながら彼は一夏に対し、先ほどステイルの身に起きた出来事と、それを出来るであろう可能性について告げていく。彼女の使う霊装は魔導書の原典、とはいっても途中で崩壊するような中途半端な原典ではあるが彼女はそれを使い魔力の逆探知などを行っているという報告をする
それを聞いた一夏は
<要は使い捨ての魔導書を大量に使った術式って事か?>
<まぁ大雑把にいえばそうなるな>
<(つまり相手は俺と同じような高速発動型の術式を大量に構えているって言う事になるのか、向こうの戦法も俺と同じような奇襲特化と考えてもいいな…)>
非常に厄介だと彼は感じ取る。相手は一夏のように奇襲特化の術式を構えるのは勿論のこと、恐らくステイルのルーンカードのように配置することで効力を発揮するような術式も構えていると言う事も彼は予想する。
そして一夏は土御門に対し
<それで俺はどうする、話が本当ならオリアナの奴追っ手を撒くためにそこらじゅうに速記原典を使った術式を構えていると思うし…片っ端からぶっ壊すのか?>
<仕掛けた方は俺と上やんで対処する…本当ならお前も参加させたかったがあいにく相手にさっきの競技者も居ることだしな…>
<はぁ?どういう事だ、競技者がいるって>
<いや、こっちの話だ。それより一夏にはオリアナを直接対処してもらう。可能なら撃破、もしダメそうなら物品の破壊でもいい。とにかく、オリアナにダメージを負わせるんだ、相手は今術者は迎撃術式でダウンしてるって思い込んでる、そうならここからはお前の得意な奇襲の時間だ>
<了解。>
そう言いながら彼は通話を切り、足を進める
そうしていると上空に浮かんでいる飛行艇からは競技開始までの時間が記されている、そしてそのカードの中には有名校の常盤台中学も含まれており、来場者たちも大勢見に行こうとしているせいか自然と人通りも少なくなっていく。
「(戦闘するには十分だな…いたいた、金髪の看板を持った女…それにしてもどうして競技場から出てきたんだ…まぁいいや)」
そう言い名がら彼は金髪の女、オリアナの後を付けていく
そしてもちろん彼女もすぐにそれに気づく
「(また追っ手…成る程待ち伏せしてたのね…お姉さんわくわくしてきちゃった)」
そうしてしばらく追いかける、場所は第7学区、この先には駅が有ったはずだ。あいにく今は競技中と言う事もあるせいか周りに人は居ないが一夏は念のため人払いの結界を張る
すると女性も足を止め一夏の方を振り向くと
「ストーカーは感心しないわね、魔術師さん」
「気づいていたくせによく言うね」
「こんな人の少ない場所に誘い込んでどうするの?…お姉さん体が熱くなってきたわ」
彼女は冗談ぽく言うが一夏にしてみれば冗談には聞こえない、と言うよりこんな事を真昼間から堂々と言う人間に悪寒を感じた為、一夏は懐から短剣を取り出すと素早く高速召喚爆撃により彼女の懐に一撃を叩き込む
そして付近には煙が立ち込めるが一夏は安心しない
「(手ごたえあり…さてどう出る…)」
彼はそう言いながら様子を探ると爆風は突然吹き飛ばされる、その風には熱すら含まれていた
「こういう強引な手を使うなんて、こんな男の子もいたのね。女尊男卑の影響で最近だとヘタレな男が多くて退屈だったのよ」
そう言いながらも彼女の口には単語帳ほどの大きさの紙が咥えられている、恐らくアレが速記原典なのだと彼は判断する
彼は書かれている文字に驚く、そこには”赤い文字”で”wind symbol”と記されていたのだ
「(赤い文字で風の象徴だと…、間違える事での暴発を利用した術式か…?)」
そう本来ならば赤は火の象徴であり風の象徴は黄色だ。しかし彼女は意図的に間違えることによって発生するバグを利用した術式を組んでいたのだ。
「バグの組み合わせや正規の組み合わせでの術式…あんた一体どんだけ術式を構えているんだよ?」
「さぁ、どれだけでしょうね?」
彼女はそう言いながら新しく原典のページを一つ取り出すと、新たな術式を組んでいく、今度は地面が抉れそこから先端が鋭利な根のようなものが飛び出してくる
そしてその数はおよそ20、それらが一斉に一夏めがけて襲い掛かってくる
「くそっ…!!」
そう居ながらも一夏は左手に杯を構えるとそれを振り水の柱を呼び出し攻撃を受け止める。とはいえオリアナの攻撃も威力があるのかその柱を徐々に貫いている。しかし一夏にしてみれば一瞬音の動きが止まるだけで十分である、彼は右手に構えた短剣を横に振ると一瞬閃光が走ったのち爆発が起き、すべての根を粉々に破壊する
今使ったのは高速召喚爆撃に比べ速度は劣るがその分威力が上がっている普通の召喚爆撃だ。
そして爆風を彼は短剣から風を呼び出し振り払うと、そこにはすでにオリアの姿は消えていた、そうするとどこからともなく声が聞こえてくる
「いいわぁ、久しぶりに熱くなってきたわぁ。本当ならもっと遊びたいんだけれど生憎、今は仕事中。これが終わったらまた遊んであげるわ、坊や♪」
そう言うと彼女の居た地点にある紙切れが燃える。今のは即席の通信用の護符であろう
そして一夏はそれを聞き終えると
「逃がすかよ…!!」
そう言いながら彼女を追う、あいにくここから駅までは一直線、見失う事もないので彼は走って駅まで向かう