第62話
法の書の事件が終了して二日後。ついにIS学園の学園祭が開催された
一般開放はしていなく、花火は上がらないがそれ以上に彼女たちのテンションは高かった。
理由としては言うまでもなく一夏のクラスの出し物が原因だ。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞお嬢様♪」
そう言いながらシャルロットも人を中へと案内していく。
接客は彼女以外にもセシリア、箒、ラウラ、一夏、布仏、谷本である。ラウラは提案者と言う事で、箒に関しては珍しく自分から立候補したのだ。今までの罪滅ぼしと言う事もあるのであろう。
ちなみに一夏の格好は燕尾服であり彼は念のために服の中に霊装を仕込んでいる
「(しかしまぁ、メイド服と言うのも見てるとなんというか心に来るものがあるな…もしかして俺はメイド萌か!?…仕事しよう。)」
彼は頭に浮かんだ雑念を振り払うかのように仕事に専念する。と言うよりほとんどのお客が一夏目当てでやって来ているので彼が忙しくなるのは当然であった。
廊下では雑務のスタッフがクレームに対応しているため彼としては本気で心配になってきた
彼がそうして仕事に専念していると
「さて、来てやったわよ一夏。」
「鈴か…どうしたんだその格好?」
そう彼女はチャイナドレスを着て一夏のクラスまでやって来ていたのだ。彼は二組が何をやっているのか聞かされていなかったので彼女の服装に疑問を持ったのだ
「うちのクラスは中華喫茶やってるんだけでアンタらのクラスのおかげで客が来ないのよ。せっかくティナとかほかのクラスメイトと協力して準備したのに…」
「うっ、すまん。」
「まぁ始まったばっかりだし、昼ぐらいには来るって信じてるから気にしなくていいわよ」
彼らはそんなやり取りをしているが、一息つくと
「それでご注文はいかがいたしますかお嬢様?」
「そうねぇ…それじゃぁ執事にご褒美セットって奴にしようかしら。面白そうだし」
「了解しました」
彼はそう言いながら服に忍び込ませてあるマイクを使い厨房に連絡をとる。この辺は女子特有のこだわりと言う奴であろう。ちなみに内装はすべてセシリアが手配したと言う事もありかなり高価な物でありふれていた。そのため厨房やほかのスタッフは手の震えが止まらないんだとか。
そして一夏は”執事にご褒美セット”であるアイスティーとお菓子を持って鈴の前に座る
「聞くの忘れてたけどコレってどういうセットなわけ?」
「言ってなかったっけ。俺にお菓子を食べさせられる。終わり」
彼女の疑問に一夏は普段の口調で内容を告げる。ちなみにこれだけで300円でありちょっと高いかもしれないと一夏は思っていた。
告げられた鈴の顔は少し赤くなっている
「えっと…それだけ?…」
「あぁ…悪い。先に内容を教えとくべきだったよな、これは最初に言わなかった俺のミスだし嫌なら交換することも出来るぞ」
「いや…ありがたくやらせてもらうわ」
彼女は一夏にそう言いながらお菓子を食べさせる。一夏としてもこれはやりにくかったのだ。そうしてしばらくしていると同じく接客担当の谷本が一夏のところまでやってくると
「織斑君、本物のお嬢様が来た!!」
「はっ?」
「ほらあそこ、今、本音が接客してる人、あの人絶対に本物だって」
そう言いながら彼と話を聞いていた鈴は彼女の指をさす方向を見る。そこにはメイド服で接客をしている本音とその横にはパーカーにジーパンと言うラフな格好の金髪の女性がいた。格好や言葉は普通なのだが雰囲気が明らかに違い過ぎていた。ちなみに本音は気づいていないがほかのスタッフや周りの人も全員が見とれている。
「そう言えばあの人誰かに似ているような…」
そう言いながら谷本は独り言をつぶやいている。すると鈴は
「あの人誰の招待客なのかしらね?一夏、聞いてきたら?」
「俺!?まぁ良いけど…」
そう言いながら彼は本音が居るテーブルに向かっていく
その頃等の本人たちは注目されていることなど知らず、のんきに雑談をしていた
「へー、レイシーさんはイギリスから来たんだー」
「昨日、日本に到着したばっかりなのよ。それで今朝一番の奴でここに来たの、それにしてもコレ随分高価な物ね。こんなの使って大丈夫?予算的な意味で」
「大丈夫なのだー」
本音はレイシーと呼ばれたイギリスからやってきた女性と仲良く話している。
彼女たちは案内されて席に着くとすぐに仲良くなったのだ。この辺は両者の人柄の良さのおかげで有ろう
「(さて、娘のクラスに行く前にこっちに来たのは正解ね。えーと護衛対象は…廊下の子と今、織斑君と話してるあの子ね。どうにかして一緒に行動できるといいんだけれど…)」
彼女がそんな事を思っていると目の前に一夏が現れる
「失礼します。お嬢様」
「あっ、おりむー、来てくれたんだね。それじゃぁ私は別の人の接客に移るのだー。レイシーさん、またお話ししようねー」
「うん、じゃぁね本音ちゃん」
彼女たちは手を振り分かれる。ちなみにその後本音は裏に連れて行かれているが見なかったことにした。
そして彼女は一夏を見ると
「はじめまして。織斑一夏君。」
「はっ、初めまして」
彼は緊張しながら挨拶をする。セシリアとは違う雰囲気の女性に一夏も緊張しているようだ。
すると彼女は笑いながら
「そんなに力まなくていいのよ、私なんてそんなお嬢様じゃないんだし。ただの一般市民よ」
「そっ、そうなんですか?てっきり名家のお嬢様か何かと思っていたんですが」
「あら、そんな風に思われてたの?」
「えぇ」
一夏はそう告げるとやはり彼女は笑みを浮かべる。どうやらこの状況を本当に楽しんでいるようだった。そうしていると厨房のスタッフが水を運んでくるが緊張のためか足がかなり震えており、見ていても危ない
「お二人とも、水をお持ちいたしました…」
「リアーデさん危ないよマジで」
そう言いながら一夏は水の入ったカップを受け取ろうとするが、この時リアーデは手を滑らせてしまう
「あっ…!!」
彼女が気づいた時にはもう遅い、滑り落ちたカップはそのまま床に落下、カップは砕け床は水浸しになる、はずだった
「よっと…」
するとレイシーは置いてあった鞄からすぐにワイヤーを取り出すとその先端をカップの持ち手めがけて放ち上手にひっかける。後は力よく引っ張るとカップは水平になり、水は一滴もこぼれずに無事にテーブルまで置かれる。
「「「おおーっ!!」」」
その光景を見ていた全員が見とれ、すぐに拍手が巻き起こる。それは手品のようにすら見えていたがこの時一夏は
「(今のは…結界!?この人マジで何者だ!?)」
するとレイシーはリアーデに
「失敗するの恐れて動きが硬いわよ。もうちょっとリラックスしなきゃ。別に落としたって死ぬような物じゃないんだし。」
「はっ、はい。あの本当に大丈夫ですか?」
「えぇ、なーんにも問題ないわ。」
彼女はそう告げるとリアーデは一礼して裏に戻っていく。
暫く拍手の余韻に浸っていると、一人の女性が中に入ってくる
「お邪魔します」
そう言いながら中に入ってきたのは、生徒会長、更識楯無であった。扇子を広げるとそこには”お見事”と書かれていた。ちなみに格好は一夏のクラスと同じメイド服である
「あっ、楯無さん。手伝いに来てくれたんですか?」
「いえ、お茶しに来ただけよ。」
彼女はそう言うと、一夏はため息を吐くが、さらにここでもう一人別の生徒が入ってくる
「はぁ、こんな所で何してるの?”母さん”」
そう言いながら入ってきたのは二組のティナであった。ちなみに彼女もチャイナドレスを着用している
そして一夏達はとんでもない一言を聞いてしまう。それは
「えっ…”母さん”」
「そうよ。私の母親。言ったでしょ学園祭に呼ぶって。全く母さんも着いたなら着いたで連絡くれればいいのに…」
するとレイシーは一礼して
「紹介が遅れたわね。私はレイシー・ハミルトンよ。いつも娘がお世話になってます」
「「「「「ええーーーーーーーっ!?」」」」」
瞬間クラス中で絶叫が響き渡った
波乱の学園祭は始まったばかりである