大天使の水翼の攻撃が彼らを襲う
しかしそれらの水翼は神裂は叩き切り一夏は爆破するが大天使にとってみれば水翼の破壊など大したことではない。壊された羽などすぐに直せるからである。
”神の力”と彼らの距離は10メートルほどある。どうやら天使はこの距離を維持したいらしい。
そして大天使は水翼の乱撃を繰り出す。
水翼は神裂の背後をとるが彼女は体ごと回転するように振り返り両断、一夏は正面から向かってくる複数の水翼をすぐさま爆破する。そして彼らのすきを突いたかのように神の使いは真上から時間差を空けて6本の水翼を振り落す
時間差とはいってもその差は100分の1単位である並の人間ならばその”差”を感じることさえできない速度、しかし彼らは反応する。とはいえ天使も馬鹿ではない、水翼を自壊させるとその時に飛び散った複数の破片で彼らを攻撃する
「なっ…!?」
「流石に同じ戦法ばっかりじゃないか…!!」
そうして彼らは刀の豪雨へ対応しようとするが神裂に関してはさらにその瞬間彼女の意表を突くように水翼が刀の豪雨を追い抜くようにして飛んでくる。
「くっ…」
彼女はどうにかして水翼を両断するが、刀を鞘に収める暇はな、そうしてしまうと刀の豪雨の迎撃が間に合わないはずなのだが、彼女の目の前に突然巨大な炎の壁が現れ豪雨を防ぐ。
それは一夏は短剣を振り呼び出した炎である。しかしそれでも防ぎきれない破片のいくつかが砂浜へと落ちる。そして爆発音とともに付近の砂が一気に巻き上げられる。それはまるで砂漠の砂嵐のように一面の視界を埋め尽くす砂の壁。
そしてその砂の壁を引き裂くように左右から水翼が襲い掛かる
そして戦局はそこで固定されてしまった
彼らと”神の力”の距離は10メートル。それは神裂の攻撃は”神の力”には届かず、一夏に関しては防御で精一杯で”神の力”を攻撃するだけの余力などない。その二つが意味するのは”神の力”の攻撃が一方的に彼らに襲い掛かる、と言う事だ
一夏は表情には出さないが、内心では焦り始める。確かに彼は魔術師だが、実戦経験はおそらく誰よりも少ないと自覚しているし、自分の実力を過信していない。だからこそこの状況がいかにまずいのかなど容易に想像できてしまう
「(マズイ…確かに持ちこたえるだけって言うなら何も苦労する必要なんてないけど、そうはいかない。残り30分。その時間内にあの儀式場をどうにかしないと一掃が発動する。そうなれば俺たちの負けだ。しかも俺たちが戦っている今この瞬間も一掃を発動するための準備が進んでいるんだ。頼むぞ…この際方法はどうでもいい。一刻も早くこの大魔術を止めてくれ!!)」
そうこの戦いの勝利条件は大天使に勝つことではない。30分間。その時間内にほかのメンバーがこの大魔術、”御使堕し”を止めること、それが彼らの目的だ。
そうして彼らが死力を尽くして戦っている頃、海の家でも事態は進んでいた。
上条と父親である刀夜が海の家に戻ってくると、中にいた全員が眠らされていたのだ。
そして上条は刀夜に”御使堕し”について尋ねるが肝心の彼自身何が起こっているのか理解できていない。そしてその事で上条も訳が分からなくなってしまう。するとそこに
「やめとけよカミやん、そいつは何も知らないはずだ」
「まぁ知らないからこそ起きてしまったんだけどね…」
そう言いながら土御門とティナが彼らの後ろから現れる。
すると土御門は
「ちなみにそこらで倒れてるのは俺がやった。下手に一般人を巻き込む訳にもいかないんでな。」
そう言う彼の声はいつもと違っていた。さらには
「その様子だと真相には気づかん、と。まぁカミやんは魔術に関しちゃ素人だしな」
さらにその言葉も加わったことで亀裂が走る
そこにいるのは彼の知る土御門元春ではない。得体のしれず正体もつかむことすらできない一人の魔術師であった
すると上条は
「ちょっと待て、土御門。お前父さんの様子がおかしいって事にも気づいてんのか?なぁもしかしたら”御使堕し”の犯人って言うのも別人なんじゃぁ」
「いいや犯人は間違いなく刀夜だ。ただ本人が無意識のうちに発動させたから気づかんようだが」
彼のその言葉に刀夜は激昂する。それもそうだろう、見ず知らずの人間にいきなり犯人扱いされて、怒らない人間など誰も居ない
そしてその後も土御門と上条がやり取りをしている。やはり上条は状況を理解できない。彼の発する言葉一つ一つを上条は信じることはできない。
すると土御門は
「そうさ、俺がここまで言ったのはこじつけに過ぎない。そしてそれはティナやここにはいないが織斑ですらそう思っていたんだ」
ここにきて初めて土御門の表情から余裕が消えるが、上条が驚いたのはそこではない。真相を一夏が知っていた。その事について驚いたのだ
そしてここに来てティナが
「ねぇ、上条君。確かに土御門が言ったように今の話は全てこじつけや言いがかりなんて言われても仕方が無いわ。でも実際にこの大魔術は発動してしまった。奇跡的に…ね。ところで貴方、万一の偶然。それを信じることは出来るかしら?」
「なんだよそれ、ある訳ないだろ!魔術なんて知らないけど、電子回路や精密機器はテキトーじゃ完成しないだろ!!」
「そうね。けれど”御使堕し”は発動してしまった。ならこう考えることは出来ないかしら。その一つの奇跡を100%確実に起こす方法があるんじゃないかって。」
「な…に…?」
彼女のその言葉に上条の思考が止まってしまう
するとその様子を見ていた土御門は笑いながら
「上条宅にはいろいろな”お土産”があったそれは別に”御使堕し”を発動させようとして置いたわけじゃない。何となく飾っただけなんだろうな」
そしてその後も土御門は淡々と真相を話していく。今回発動したのが”御使堕し”だから良かったものの最悪の場合だと世界規模の大災害すら発動する可能性もあったのだと言う。そして締めくくるように
「素人のカミやんならともかく魔術師、それも風水のエキスパートである土御門さんや儀式や結界専門のティナですら分からない魔法陣が大量にあったんだ。決して発動してはならない類のものなんだよ」
そして彼はさらに説明していく。あの状況はかなり危険な状況で会った事。だが上条は必死で否定するが土御門は軽くあしらってしまう
彼の理想としては、上条を家から遠ざけ、刀夜も保護。ミーシャと和解しその後神裂や一夏の協力の元儀式場を破壊するのがベストだったと言う
そして彼はこう結論付ける
「結局、運が悪かった。それだけの話だろうが」
上条はその言葉の意味が一瞬理解できなかった、しかし徐々に思考が再開されていく
運が悪かった、たったそれだけの理由で”神の力”が暴れまわり火野神作はとばっちりを受けた。
「ふざ、けるなよテメェら…!!」
上条は首を横に振る、それでもこの”御使堕し”は止めなければと思う
魔法陣は実家そのもの。ならば贅沢は言ってられない。何の魔法陣が作動するか分からないがとにかく実家に帰り”御使堕し”の魔法陣を破壊する。そうすれば一掃は止められる。だが
「やめとけよ。もう遅い、ここからカミやん家までどの位の距離があったか忘れたのか?いまからじゃ走っても間に合わんよ」
「貴方、土御門の話を聞いていなかったの?下手にやればこれ以上の大事件が起こるのよ」
彼らのその言葉に上条は
「じゃぁどうしろってんだよ!!出来るかどうか、じゃなくてやるしかないだろ!!それで何が起きたってな、それとも何か方法があるのか!?」
「それはあるだろ。」
「えぇ、方法はあるわよ」
土御門はニヤニヤと笑い、ティナは薄く笑う
なぜそんな事すら分からないのだ?と言う顔で部屋の中に踏み込んでくると
「「この場にいる誰かさんが犠牲になってくれれば」」
その言葉に上条はゾッとする
言葉の意味を理解することは出来ないが自然と彼は刀夜を庇うために彼の前に立つ
そんな上条を見て土御門は笑いながら
「いやぁ本当に良かった。神裂と織斑がバカ天使とぶつかってくれて。特に神裂なんざ目の前で殺人が起こるのが許せない人間だからな。こんな事を言えば止めるに決まっている」
その後土御門は上条に言葉を発し、そして最後に
「カミやん、本当にやる気か?怪我するだけだぞ」
「あきらめるなら今の内よ」
「うるせぇ、一秒でも無駄にできないんだ。一撃で沈めてやる!!」
上条は決して魔術師を侮っているわけではない。ステイルやアウレオルスの力を目の当たりにした上条はその恐ろしさを知っている
だが土御門は魔術を使えない、さらにこんなことを言っては彼女には失礼だが、ティナ自身、目だった礼装を持っておらず、先ほど土御門は彼女を結界専門と言っていた。つまり彼女は戦闘は得意ではない。彼はそう考えている
それに対し土御門は
「ふぅん、そんなものが、プロと素人の差を埋められる理由になるとでも?」
「近衛の娘の私も舐められたものね。確かに私は戦闘は得意じゃないし。攻撃用の魔術は使えないわ。だから対魔術師戦になると前線には立てないだからここにいるのだからね。そう魔術師戦は…ね」
土御門と彼女はそう言う。すると土御門は確認するように
「最後に確かめておく。カミやん。もうこれ以外に方法が無いとしても、それでも俺達を止める気か?」
その言葉に彼は奥歯を噛み締める、視界の隅では刀夜が緊張しているのが分かる。刀夜は彼らが何を言っているのか分からないが自分が関係しているのだけは理解できた。すると土御門は残酷な笑みを浮かべながら
「あぁ、お前も…」
事実を言おうとしたのだが
「そう…分からないなら教えてあげる、結論だけ教えてあげるわ。上条刀夜、あなたのせいで大勢の人が死ぬ、私の大切な人や大切な友達もすべて…ね」
上条は何かを叫びたくなったがそれすらできない。彼女の周りには得体のしれないオーラが漂っているのだ。そして土御門ですら冷や汗を浮かべているが一呼吸置くと
「さ、さぁどうする止めるか否か」
すると上条は即答する
「止めるに決まってる、認めない。誰かが犠牲にならなきゃいけないなんて残酷な法則があるのなら、先ずはそんなふざけた幻想をぶち殺す!!」
その言葉を聞いたとき土御門は一瞬笑い、ティナも感心したような表情になるが、彼女の場合目がうつろである。
そして土御門は
「それではこうしようカミやん」
彼の笑みは一瞬で消え
「10秒、耐えることが出来たら褒めてやる」
さらに彼女は
「さて、そこのお父さん。あなたにもちょっと痛い目を見て貰うわよ。…大丈夫、殺しはしないし命に関わるような攻撃もしないわ、ちょっと痛いだけよ…」
そう言いながら刀夜へと狙いを定める
こうして海の家でも戦いが幕を開ける