IS~科学と魔術と・・・   作:ラッファ

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第47話

織斑一夏と神裂火織。彼らが対峙している相手は”神の力”距離にしておよそ10メートル程である

しかしその光景は十字教を知るものが見たのならば、誰もが無謀と言うだろう。それは彼らが弱いとか大天使が強いとかそう言う次元の話ではない。戦う相手が間違っているのだ

それは、人間では神に逆らう事は出来ない。全く異なる神に仕えるならともかく、彼らのような十字教の人間では同じ十字教の天使に逆らう事が出来ないなど当然の事である。

彼らが教会に所属している時点で”神の力”には絶対に勝つことはできない。

そしてこの天使は目の前にいる彼らに何も告げず憐憫の笑みすら浮かべない

”神の力”はただその背から生える水翼の二本を天高く振り上げ狙いを定める。その行動に迷いはない。青を司る大天使は一瞬の迷いもなしに振り上げた70メートルもの”水翼”を振り下ろすとそれは恐るべき速度で神裂と一夏の頭上へと振り落される

 

それで終わりのはずなのに

 

小気味のいい音と共に水翼が横一線に切断される

さらにもう一つの水翼に至っては閃光と共に内側から爆ぜる

 

それらの光景を一体誰が予想できたであろうか。動きを止める”神の力”に対し彼らは呼吸を持って答えるのみ神裂の腰に下げられた2メートル近い刀それが引き抜かれた瞬間70メートルもある巨大な水翼は竹筒のように切断される。そして一夏の右手にあるのは刃渡り40センチ程の短剣、それを下に振り下ろすその簡単な動作で水翼が内側から爆ぜる。

彼らは何一つ告げない。

その後も”神の力”は横一閃に背中の水翼を振るうがそれも切断され、あるいは内側から爆ぜてしまう。

その光景に天使の動きが止まる。すると神裂は天使に対し挑発するように

 

「むしろ私としてはこの程度で驚かれるのが心外です。どうもあなたは神裂火織と言う生物を過小評価していませんか?」

 

だが一夏は何も話さない。しかしその表情は戦闘が始まる前と比べどこか安堵の表情を浮かべている。

”神の力”は彼女の言葉に答えずその後も水翼での攻撃を続けるがそれらもすべて切断、あるいは爆破される。

その光景に天使は眼球を動かす。一本、二本ではない。すでに八本の翼が切られ爆破された。それは偶然ではなく必然だから矛盾がある。十字教徒は十字教の天使には逆らえないはずである。

逆に神裂は涼しげな顔で、さらには余裕すら見せながら

 

「そもそも私をただの十字教の人間として見ていることが間違いなのです。我が術式は天草式十字凄教のもの。江戸の世にて弾圧されしキリシタンが生み出した日本独自の十字教様式です」

 

十字架を持つだけで処刑されるほど弾圧が厳しかった時代に信者たちは木札を十字架に見立てるなど様々なカモフラージュを行い続けてきた天草式はその結果、一種独特の創作宗教を作り上げてしまっていた。多角宗教融合型十字教術式・天草式十字凄教

要は十字教の術式で天使に勝てないならば、十字教の術式など使わずに”天使の出てこない宗教”の術式を使い攻撃をすればいいだけの事

そうしてそれぞれの宗教の弱点をカバーしていくことで神裂は十字教徒に天使は倒せないと言う前提を突破しているのだ。

 

そしてようやく一夏も

 

「そもそも俺の使う近代西洋魔術ってのは十字教の裏ワザみたいなもんださらに俺は霊装の部分でも裏技を加えているんだ。ここまで裏技を重ねた術式がはたして十字教の術式として作用するのか、って話になる。さらに貴方は俺に対して枷を外すって言ったんだ。おそらく”ただの人間”が体内に宿せる天使の力の量を増やすと言う意味か、そもそも上限をなくすか。そのどっちかなんだろうな。そして今の攻撃でわかった。貴方は俺が体内に宿せる”天使の力”の量を増やしたんだ」

 

そう彼の使う近代西洋魔術とは十字教の裏ワザ的な魔術であり、異端視されるような魔術を使うのだ。さらに彼は風と短剣の霊装を一つにまとめると言うかなり強引な裏ワザまでしているのだ。そうなってしまうと彼の使う術式は十字教から大きくかけ離れたものになっているのかもしれない。

さらに彼は天使がミーシャにと名乗っていた時に枷を外してもらっているのだ。それが何の目的で外したのかは分からないが、その結果彼の体には”ただの人間”が体内に宿せる量の数倍の天使の力を肉体に宿せるのだ。それほどの”天使の力”を込めた攻撃の威力は凄まじいものになってしまう

 

彼らの言葉に”神の力”の視線が凍る。そして左右と頭上に有る水翼を彼らにめがけて同時に振るう

しかしそれも彼らの攻撃により破壊されてしまう。

 

彼女は天使に対し言葉を投げかけていくが、一夏は何も話さない。と言うより話すことが出来ない

確かに彼は天使の恩恵により莫大な天使の力を使用できるが、それでも”ただの人間”聖人の神裂ほど余裕な立ち回りなど出来る訳がない。

 

「(移動力これは今後の課題だな。高速で移動できる術式を組み立てる必要がありそうだ。…っと危ねぇ!!)」

 

彼は心の中でそんな事を考えながらも素早く天使の水翼を破壊していく

一夏と神裂、彼らの共通の考えはただ一つ、天使のワンサイドゲームにはさせない。

そして”神の力”は黙って敵を見据える。破壊された水翼は海水を取り込むことで元のサイズと形を取り戻す。

それに対して彼らに準備は不要。神裂は腰に下げた長大な刀の柄へ軽く指を触れるだけで良い

そして独特の呼吸法を用いて体内で魔力を練り自分の身を”神を殺す者”へと作り変える

 

対して一夏は右手に短剣を持ちながらそこに天使の力を注入していく。本来ならば魔力を生成しなければ天使の力を呼び込むことはできないが、枷の外れた彼の体にはすでに大量の天使の力が宿っているのだからそれを籠めればいいだけの事である。今の彼は”天の力を宿す者”とでも言えばいいだろう

 

そして静寂が訪れる。常人には理解できぬわずかな静寂の後

 

”神の力”と”神を裂く者”、”天の力を宿す者”は命の削り合いを始める




最近忙しくて更新ペースが遅れ気味ですいません
IS学園の学園祭は五月になってしまうかもしれません

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