IS~科学と魔術と・・・   作:ラッファ

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第41話

彼らが無防備な所を一人の男はじっと眺めていた。その主は海の家の床下に隠れている

すると男は

 

「エンゼルさま、エンゼルさま。お聞かせください」

 

そして木の板を釘でひっかいたような音が響く。この声の主には余裕がなかった、彼も好きでこのような場所にいるのではない。本来なら仲間のもとに行く予定だったのだが警察が予想以上に速く動いてしまったため身動きが取れなくなったのだ。

 

「エンゼルさま、お聞かせください」

 

しかし声の主に不安や恐怖は存在しない。右手にナイフ、左手には木の板、そこにナイフの先端で木の板に傷を走らせながら声を上げる

 

「エンゼル様どうすれば警察に見つからずに仲間のもとへ行けますか?」

 

その声に反応するように自分の意志とは無関係に動く右手の先を確認すると

 

「エンゼルさま、それでは今回もイケニエをささげればいいんですね?」

 

そして刻まれる文字に声の主はいつも従って生きてきた。エンゼルさまの言う事はいつも正しい、そのためなら殺しもしたのだから

 

「エンゼルさま、それではイケニエはあの少年たちでどうでしょう?」

 

すると”YES”の文字が刻まれる、声の主は顔が曇るがその行動にためらいは無い

声の主、脱獄死刑囚・火野神作は床下にある太い電気ケーブルにナイフを突き立てる

 

 

そしてすべての電気が消える

 

「なんだ、停電か?」

 

「(誰か…居るのか…でも、どこに?)」

 

上条は一瞬眉をひそめ一夏は突然感じた人の気配に反応し周りを見渡す。

そして上条は意味もなく沈黙した天井の蛍光灯に視線を向けようとするが、その時上条の足の下から木の板をひっかくような音が聞こえる、上条は思わず腰を浮かせて視線を向けようとするが

 

「避けろ!!」

 

一夏はそう言いながら上条を後ろに突き飛ばし自分と場所を入れ替えるとその直後にナイフの刃が一夏の左足に突き刺さる

 

「グッ…」

 

「おい、織斑!!」

 

「大丈夫、すぐに回復する!!」

 

上条はあわてて一夏のもとに近寄ろうとするが一夏はそれを制すると、どうにか足を動かし距離を取る

どうやらナイフは一夏の足から引き抜かれると、今度は床下全体を切り込んでいく、そして穴が開いた床下から狂ったような眼球がこちらを覗きこんでくる

 

「ひっ…」

 

「このタイミングで登場とはな…」

 

上条はどうにか落ち着こうとするが、そうはいかず一夏も足にダメージが有るのかうまく立つことが出来ない

するとナイフは今度は上条を狙ってくる

 

「(落ち着け、落ち着け!それに俺よりも織斑の方が大変なんだ、俺がビビッてどうするんだよ!!)」

 

上条は呪文のように繰り返すが余計に体を縛り付ける。

 

「(とにかく床の上にいるのは危険だ、なんならテーブルにでも飛び乗ればいいんだ。現に織斑も椅子の上に飛び乗ってる)」

 

彼はそう思い立ち上がろうとするが、その瞬間、床板が大きく爆ぜ割れ飛び出してきた腕が上条の足首を掴み取る

 

「いっ、!?」

 

その衝動に彼は心臓が口から出そうになる。必死に足を動かしても足首をつかむ戒めからは外れない

相手が怪力なのではない、自分の足がしびれたように動かなくなっているのだ

 

「(落ち着け、敵が誰だか知らねーが得体の知れない存在じゃねぇ、床板にナイフを突き立てるのも人間に不可能な事じゃないんだ、だから…)」

 

そこまで考えたとき彼は自分の足首をつかむ手を見てしまった。ある爪は割れ、ある爪は剥がされ、そのほかにもさまざまな傷がある手は最近に侵された死人のようにすら見えた

 

「ぁ、うぁ…ッ!!」

 

「(クソッ…回復に集中したいけどこの状況だと上条君が危ない…こういう狭い場所で俺が魔術を使えば建物ごと吹き飛ばす可能性もある、ましてISなんて展開してそれを見られたらもっとややこしい事になる。となるとこの状況でできる行動はただ一つ!!足が負傷してるとは言え一応の格闘術が使えるんだから大丈夫だろう…そしてその隙に異変を察知した土御門や神裂さん、ティナさえ来ればこっち勝ちだ)」

 

一夏はそう思うと右ポケットから自慢の霊装である短剣を取り出し、一夏は勢いよく床に着地する。この時負傷している足に激痛が走ったがそんな事は気にしない。

 

「おい、織斑何してんだ!?」

 

「ちょっくら足元の人間を潰してくる、そんな顔するなよ。俺だって武術の心得はあるんだ。素人に負けるほど俺は弱くないってことを下にいる人間に思い知らせてくるよ」

 

 

そして彼は床に穴をあけるとそこから下に降り足をつかんでいる人間に向かっていく

すると上条の足をつかんでいた人間は手をはなすと降りてきた一夏を視認する

 

「エンゼルさま、エンゼルさま、生贄がやって来てくれました。そうですか、ならば最初は彼に生贄になって貰いましょう」

 

そう言うと影は一夏の方に真っ先に向かっていくが、彼は片足を引きずりつつも回避するが、その動きにキレがない

 

「(さっきはあんな大見得切ったけど、この足じゃ勝ち目はゼロに等しいぞ、相手はこういう状況を好んで殺しをする人間。ここは相手のホームだ、それに対し俺は魔術が使えずISも使えない、手持ちには霊装の短剣、杯、ペンタクルのみ。なかなかにシビアだぜこいつは)]

 

彼はこの人間を倒すことなど考えていない、助けが来るまでの時間稼ぎのために自分を囮に使ったのだ。

彼がこう考えている間にも影は一夏を刺すために必死でナイフで攻撃を繰り出していくが、一夏は回避、時には短剣でいなし、何とかダメージを回避していく。そしてしばらく攻撃をいなし続けていく。

そして今回も影は一夏を刺し貫くために向かい、一夏はそれをいなそうとするが、影はナイフを下ろすと一夏の左足を勢いよく踏みつける

 

「いっ…てぇ…!!」

 

そして一夏はそのまま膝をつく形になり、影はその隙を突き心臓を貫こうとするが、一夏はすぐにそのナイフをはじき鳩尾に攻撃を叩き込む

 

すると影は後ろに飛ばされるが一夏は

 

「(あの野郎…今のはかなり痛かったぞ…しかし、マズイなこのままじゃ俺がやられるのは時間の問題だぞ…)」

 

 

一夏が床下に突入するまでの一部始終を見ている者がいた

150メートル離れた砂浜に寝そべるようにして海の家を眺めている人物、それは赤いシスターだった。歳にすれば13歳の少女緩やかにウェーブする金髪に白い肌、それだけならかわいらしい少女なのだが身に着けている物すべてが異常である。本来修道服の下に着るべきインナースーツの上に外套を羽織っただけの服装。腰のベルトには金属ペンチや金槌、L字型のバールやノコギリなどが刺さっている。それらは工具などではなく魔女専用の拷問具だ。

無数の拷問具に彩られた少女には焦りの表情があった、それはツンツン頭の少年ではなくもう一人の少年が足を刺されたあたりから焦り始めた。うつむいているために表情はよく見えないが小さな口が一つ大きな深呼吸をする。

気配を探る。海の家の二階に気配が多数、異常が起きたことを察したようだが一階に降りるには6秒ほど時間がかかるだろう。それだけの時間ならば襲撃者は床下にいる負傷した少年の心臓を貫く事は可能であろう。

少女は深く息を吐くと、ゆっくりと立ち上がる。すぐにでもあの少年を救わなければならない

何の動作もなく少女は6秒よりも早く150メートルの距離を詰める、秒速50メートル

石弓の矢と同じかそれ以上の速さで少女は駆ける

 

その行動にためらいは無かった


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