第36話
いよいよ夏休みも終盤にかかったある日の朝、彼は起きてすぐに異変を感知する。そしてティナほどの精度は無いものの、結界で自身を覆う。そして家の外に出てみるがこれと言って変化はない。しかし、彼はすぐに異変を目の当たりにする。それは…
「なっ、何でラウラが隣の家から出てくるんだ!?」
そう彼の隣の家は若い青年が一人暮らしのはずにも拘わらず、そこから彼のクラスメイトであるラウラが出てきたのだから驚かないわけがない。
そこで彼はラウラに話しかけるが…
「…ッ、何て言っているのか分からない…」
彼女の姿をした彼は何かを話しているがそれを理解できない、彼の耳には雑音にしか聞こえないのだ
さらには自宅に帰ってテレビをつけるが、そこは摩訶不思議な光景が繰り広げられていた。
アメリカのロベルト大統領がいつものごとく政治スキャンダルを起こしたためそこ解説を朝のニュースでやっていたのだが、行っているのはいつものキャスターではなく、カエル顏の医者、現場にはピンクの髪の毛の女性が現地実況を行っている。
「なっ…なんだよ…コレ」
彼がそう戸惑っていると、彼の携帯電話が鳴る。相手はティナだ。しかし彼は今現在人の声がすべて雑音に聞こえてしまう状況であるため、電話には出ず、彼女にメールで状況を伝えると、家に向かうから待っていろと言う内容のメールが送られてくる。
そして彼が一時間ほど待っているとティナが家にやってくる。するとティナは一夏に会うなりいきなり彼の腕をつかむと何かを呟く。そしてしばらくすると
「…どう、これで聞こえるかしら?」
「あっ、あぁ聞こえるよ。ありがとな」
彼がそう伝えると彼女は安堵の表情を浮かべる。そして彼はティナを家に入れると、彼女は状況を説明する
「とりあえず、この異変は世界中に広まっているわね。私も朝、寮で起きたら驚いたわよ、何せ隣で女性ものの下着を付けた土御門がいたんですもの」
「うえっ、それは…ご愁傷様だな。俺もそんな感じだ、隣の家の若いお兄さんの家からラウラが出てきたんだぞ。それよりも何なんだコレ?」
「人の姿形が入れ替わる大規模な魔術…かしらね。さらに驚くのは全員がその異変に気づいていないって事。寮にも何人か生徒が居るんだけど、その全員が入れ代わっているわ。IS学園の寮で騒ぎになっていないのも夏休み中とあって人が少ない、かつ私のルームメイトを除いて全員がIS学園の生徒内での入れ替わりになっているのが原因ね」
全員が入れ替わりに気づいていたならば今頃世界中は大混乱に陥っていたことは間違いないだろう。
そして一夏は彼女の言葉で気になった事を聞く。
「なぁ、女装した土御門…違う、鈴はどうなった?さすがに部屋から出ればあいつは逮捕されるんじゃぁ…」
「それなら心配いらないわ。ちょっと強力な催眠をかけて眠らせたわ。起こす方法は私が部屋に入る事。そうでなければ確実に目覚めないわ。さらに部屋には厳重に人払いを張ったわ」
その言葉で一夏も一安心する。彼女としても自分のルームメイトが逮捕されるのは避けたかったのだろう。
そしてさらに彼女は言葉を発する
「おそらく一夏が周りの声が雑音に聞こえた理由としては結界の精度が足りないことね。結界を張ったわ良いけどそれで外部の影響を完全に遮断しきれずに音声がノイズになったって所ね。ちなみに私があなたの腕をつかんだのは私が結界に干渉して精度を補強したからよ」
「そうか、やっぱ慣れないことはするもんじゃないな。この手の結界なんてほぼ勘で張ったからなぁ」
彼がそんな事を言うと二人の携帯が同時に鳴る。そこには土御門からのメールが来て
「成る程、今日中にこの場所に来い、か。それとこの大魔術は御使堕し(エンゼルフォール)と名付けた…か」
それ以外にもこの魔術は今現在も世界規模で広まっていることなどが記されていた
すると二人は携帯を閉じると
「さて、それじゃぁ行きますか」
「そうね。さっさとこのおかしな現象を食い止めましょうか」
そう言うと二人はすぐに準備をし、記された場所に向かうため、まずは駅に向かうがその途中彼は気になったことを問う
「そう言えば、俺たちは一体誰と入れ替わっているんだ?」
「私は寮での話を聞く限りじゃぁ篠ノ之さんらしいわ。あなたに関しては分からないわ。まぁ街を歩いた時のリアクションで予想しましょ」
彼はそう言いながら駅まで向かっていくと、そこでは会いたくない入れ代わりを起こした人物に会う。それは
「あーっ、モッピーと隣の人は誰だー、モッピーの親戚かなぁ?」
そう言いながら現れたのは一夏の友人の弾であるが口調からしておそらくこの人物は布仏本音なのであろう。
<また女装した男…一夏相手は任せるわ>
彼女がそう通信用霊装で話したため、一夏は違和感のないように彼女に対応する
「始めまして、私達そんなに似ていますか?」
「すっごく似てるよー、あなたの方がちょっと身長高いけど、髪形なんかとてもそっくりなのだー」
その言葉で一夏は誰と入れ替わったのか直ぐに理解する
「(成る程、俺は神裂さんに見えるのか。しかし箒と神裂さんが親戚だって勘違いされるのも何かなぁ…仕方ない)いえ、その私達親戚ではないのですよ、近くの道が分からないためちょっと彼女に道を尋ねていたのです」
彼はそう事実を伝えると
「そうだったのかー。うーん似てるからすっかり親戚だと思ったよー、それじゃぁまたねモッピー」
彼女はそう言いながら彼達の向かう駅とは逆方向の道に歩いていく。するとその光景を見ていたティナは
「それじゃぁ急ぎましょうか。あまりもたもたしてると日が暮れるわ」
「あっ、あぁ、それにしても俺が神裂さんかぁ…」
彼はそう思いながらも駅に向かっていくがその途中でも様々な悪夢を目にする。頭に花飾りを付けた女性が暑苦しいCMに出演していたり、目の付近にに独特な刺青を入れた男性がボクシングの世界タイトルに挑戦していたり。篠ノ之束が魔法少女のコスプレをしてドラマに出演していたり、その中でもイギリスの女王がISに乗ると言う光景があったがそれを見たティナは小声で
「あの人ならやりかねないわね…」
と言っていた。
こうして彼らは海に向かっていくのだった。