広い部屋にて対峙する上条とアウレオルス、上条は最初一夏も助けることで少しでも自分に有利なようにしようと思っていたが、一夏に静止され、今動けるのは上条だけだ。そしてなぜ一夏は上条の救出を拒んだのかと言うと、今この場で自分が動くことで彼の足手まといになると考えているからだ。
「(俺はあいつの錬金術を防ぐことはできない、それに俺が動くことで余計な負担になりたくないしな…それにしても)」
彼は今上条とアウレオルスの戦いを見ているが、その光景に彼は何かが引っかかる、アウレオルスは上条に対し窒息死や感電死と言った言葉を吐き、彼はそれを何とか回避する。しかし錬金術師は彼の致命的な欠点に気づくと
「成程、新設その右手私の黄金錬成も例の外に漏れず打ち消すらしい、ならばこそ右手て触れられない攻撃なら打ち消すことは不可能なのだな?」
上条はその言葉に凍りつくかと思った。それほど彼の言う事は的を得ていた。今まで打ち消した攻撃はすべて右手で触れることが出来た、だからこそ打ち消すことが出来たのだ
そして錬金術師は鍼を首に差し込むと
「銃をこの手に、弾丸は魔弾。用途は射出、数は一つで十二分」
彼がそう言うと右手には現代にある拳銃ではなく大昔に海賊が使っていたような暗器銃が握られる
上条はとっさに警戒をするが
「人間の動体視力を超える速度にて、射出を開始せよ」
その言葉と同時に彼の頬を高速で何かが通過する、その速度に上条は全く反応できなかった。
するとアウレオルスはその光景に満足したのか
「先の手順を量産せよ。十の暗器銃にて連続射出の用意」
そう言うとアウレオルスの両腕にそれぞれ五丁、合計十丁もの銃が握られる
「(逃…げ…!!)」
危険性を判断した上条はすぐさま回避をしようとするが、そばには姫神、後ろにはステイルや一夏がいる。そのせいで一瞬動きが止まる
「俺たちの事は良いから早く回避するんだ…じゃないとアレが来るぞ…!!」
一夏がそう叫ぶのと同時に
「準備は万端。十の暗器銃、同時射出」
「ぐっ…がっ…」
その言葉と同時に彼の体を十の衝撃が襲いかかる。しかしこれだけの攻撃を受けながらも彼が動ける理由はただ一つ、彼は上条をじっくりと痛めつけてから殺そうとしているからだ。だからこそ上条に対し、簡単には殺さないと言ったのだ。
すると今までの光景を見ていたステイルが不意に
「チッ、なんだそれは、先の記憶操作や、今までの攻撃の流れを見る限り、本当に言葉一つで思い通りに現実をゆがめているんじゃないか」
「ふん。黄金錬成など錬金術の到達点にすぎん、到達には困難を極めるが道を進めばたどり着けるのは自然であろう」
「馬鹿な、黄金錬成は完成しても呪文が長すぎる。100年や200年の年月で完成させることもできなければ呪文をこれ以上短くすることもできない、そして作業を分担しようにも必ず歪みが出る儀式のはずだ…」
ステイルはそう言いながらも倒れている上条に目を向ける、これはただの時間稼ぎに過ぎない、そして上条もこの短い時間でどうにかして打開策を見つけようと必死に知恵を絞る
「だからお前はこんな場所を自分の拠点にしたのか…」
一夏のその言葉にアウレオルスはどこか感心しながら
「ほう気づいたか。そうだ100や200の年月で儀式を完成させることもできない。一人で行えばな、だが何も一子相伝にする必要もあるまい」
「どういう事だ?」
ステイルが眉をひそめるとインデックスが忌々しそうに告げる
「グレゴリオの聖歌隊だよ、2000人もの人間を操って呪文を唱えさせれば効率は二千倍、四百年かかる儀式だとしてもこれなら70日程度で完成させられるもん。」
彼女はそう告げる、その後もステイル、アウレオルスのやり取りが続いていくが、その話を聞いていた一夏は
「(要はコイツの魔術もステイルのルーン同様数が多いことで威力を発揮するタイプって事か。三沢塾の生徒が2000人だったのは不幸中の幸いだな。これがもっと人数の多い場所ならばもっと早くに完成させられたんだからな、さて後はあの鍼の正体だ、あの鍼が直接魔術に作用するのかどうかさえ分かれば…っておい!!)」
一夏が考えをあきらめた理由は簡単、まさにアウレオルスが攻撃をしようとした瞬間ステイルが大声を上げ、攻撃を中断させる、するとアウレオルスはステイルに狙いを定め、言葉を発するとステイルの体が宙を舞う、もちろん上条はステイルを助けようとするが距離が離れすぎているせいでそれが出来ない。しかし彼は
「馬鹿者、今の君なら一夏と同じようにアウレオルスを倒すことが出来るはずだ、奴の弱点はあの鍼だ、医学に関しては君は一夏以上に分って…」
彼はそう叫ぶがアウレオルスはそんな彼を睨みつけ
「弾けよ、ルーンの魔術師!」
そして小さな爆発音とともにステイルは内側からはじけ飛ぶ、普通なら即死物だが驚くことに血管はつながっている、そして心臓も動いている。あのような状況だと言うのにステイル=マグヌスと言う男は生き続けている
アウレオルスは直ぐに一夏に狙いを定めればいいにも関わらず、それをしない、何かを必死で探すように手を動かしているのだ。
「(なんだ…アイツ?何でおれを攻撃して来ないんだ…)」
「(鍼、医学…?)」
一夏はアウレオルスの行動の意味を理解できず上条はステイルの言葉を必死で思い出していた
一夏が鍼の知識が無い理由は簡単、彼の通うIS学園の授業において教わる医療の知識は傷の塞ぎ方や心肺蘇生、応急手当など治癒的な知識を重点に教わっているため鍼の使用法に関しては全くと言って良い程分からない。しかし、能力開発を重点的に行う学園都市では薬や医学に対してもかなり常識はずれな所があり、記憶喪失の上条でさえ鍼の知識に関しては沸いて出てくる。
医学としての鍼治療と言うのは簡単に言えばさすことにより興奮作用を引き起こし痛みを軽くすると言った効果がある。
「(けれど、それが一体何だって言うんだ?鍼治療なんてそんなにすごい効果は無いんだし、せいぜい刺激して不安を取り除くことぐらいしか…不安?)」
「内容を変更、暗器銃による射出を中止。刀身を持って外敵の排除」
前に進むことさえ忘れステイルの成れの果てを眺めていた上条はその一言で彼の方を向く、銃の形が変わっていくが上条は気にしない
「(そうだ、おかしい)」
姫神やステイルは”死ね”や”弾けよ”の一言で殺された、しかし一夏は違う、こんな状況でも床にひれ伏し動けないだけだ
「(なにかがおかしい)」
それになんでも思い通りにすることが出来るのならば吸血殺しや吸血鬼を必要とする理由なんてどこにもない、自分で作ればいいだけだ
「(そうだ絶対におかしい…!)」
もし、アウレオルスイザードが本当に思い通りにすることが出来るのなら、なぜインデックスはアウレオルスの方を一度たりとも振り向かないのか?アウレオルスの言葉通りに現実をゆがめる黄金錬成ではなく、ただ単に思った通りに現実がゆがむ魔術だとしたら
「ま、さか、そうか…」
だからステイルは上条に今の君なら一夏と同じようにアウレオルスを倒せるはず、と言った
彼は知っていたのだステイル、インデックス、姫神とは知り合いであったからこそ彼らの実力では何をした所で自分には勝てないことを知っていたが、一夏や上条は違う。彼らとは今日初めてここで出会った。だからアウレオルスは一夏に攻撃をすることが出来なかったのだ。彼の使う術式を知らなかったから、下手に攻撃を加えればそこからカウンターを食らうとでも思ったのだろう。つまりアウレオルスにしてみれば彼らは得体のしれない人間なのだ
そしてそんな彼らを不安に感じないわけがない
「そう言う事だったのか…」
上条が立ち上がったことを確認するとアウレオルスは
「貴様の過ぎた自信はその得体のしれぬ右腕だったな、ならばまずはその右腕を切断。暗器銃その刀身を旋回射出せよ」
そして右腕を振った瞬間上条の右腕は切断される
「(俺の腕を切り落とした、なんでも思い通りにできる癖に、右腕を切り落とすことを優先したってことはやっぱり)」
上条がそう考えている内にも切断面からは大量の血が噴き出す、しかし彼の顔には恐怖も何もなかった。自分が今やらなければならないことが分かったのだ
ならばあとは簡単だ、上条は頭の中でスイッチが切り替わるような音が聞こえた気がした