IS~科学と魔術と・・・   作:ラッファ

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第26話

彼らの目の前に突然現れたアウレオルスイザード

その存在は彼らの本能に危機感を訴えるには十分だった。そして上条は姫神を庇うために前に出ようとし、一夏は短剣を取り出し戦闘体制に入ろうとしたが

 

「寛然。子細ない、すぐにそちらへ向かおう」

 

その一言でアウレオルスは上条と姫神の間を引き裂くように距離を詰める

 

「なっ…!」

 

そして突然現れたアウレオルスに彼らは言葉を失う

それは移動と言う言葉では表せない、それほど現実離れした光景なのだ

 

「当然、疑問は沸くだろうが答える義務は無し。姫神の血は私にとって重要なものだ。むざむざ貴様に渡すつもりはない」

 

「テメェ…!!」

 

その言葉に上条は姫神とアウレオルスを引き離すために一気に距離を詰める、アウレオルスとの間は1メートル弱、十分に届く距離だ

 

「迂闊すぎる…!!」

 

そして一夏は突撃した上条を援護するかのように短剣を構え突撃しようとするが、錬金術師は表情一つ変えずどこか落ち着いた様子で

 

「これ以上、貴様たちはこちらに来るな」

 

その言葉と同時に変化は起きた、上条がアウレオルスに向かって行っているはずなのに一向に距離が縮まらない、それはランニングマシーンの上を走り続けているような感覚に近い

 

「(なっ、これは一体!?)」

 

一夏は今自分自身に起きている現象を理解できず、上条も焦る、彼の右腕には異能の力を打ち消す幻想殺しがあるが、それで一体何を殴ればいいのかが分からない。

そこで一夏は動きを止め、召喚爆撃を行いアウレオルスを攻撃することも考えたがこの距離で放てば姫神を巻き込む可能性がありた躊躇わざるを得ない。

 

「必然、私のどこが取り返しのつかないと語るか?」

 

アウレオルスのその言葉に上条も思わず動きを止める。そしてそんな彼らの表情をアウレオルスは感情のこもっていない目で見つめる。すると彼は突然ポケットから髪の毛ほどの細さの鍼を一本取りだす

 

「(アレがさっき姫神さんが言ってた鍼か、どう使うんだ、考え付くのはナイフのように投げつける、それかあれで壁にでも文字を刻むか、最悪あの偽物みたいに俺たちを突き刺して黄金に変えるかのどれかか?…それにしてもなんだこの臭い…消毒薬か何かか)」

 

一夏はアウレオルスが取り出した鍼を見ながらそれの使い方を予想すると同時に、突然漂ってくる消毒薬の臭いに困惑する。するとアウレオルスはその鍼を自らの首に何のためらいもなしに突き刺す。

それはまるで自分自身にスイッチを入れるかのような動作だ

そしてその行動に上条は思わず下がろうとするがそれすらかなわない、どれだけ進もうとしても一向に距離が変わらないのだ。

 

「憮然、詰まらんな。吹き…」

 

「待って。」

 

まさにアウレオルスが彼らに死刑宣告のような言葉を告げようとしたところで姫神が待ったをかける。

 

その後アウレオルスと姫神はやり取りを繰り広げ、その後上条に対し事務作業のように言葉を続けて行き、その後姫神が彼を庇うかのようにアウレオルスを糾弾する。どうやら彼女はアウレオルスの理想を信じ、もし守らないのならば自らの命を絶つとまで言い出したのだ、するとアウレオルスは彼らを倒すのをあきらめたのか首に鍼を刺しながらも独り言を続けていく

 

「必然。こんなところで時間を裂く必要は無し。懸念すべきは侵入者ではなく禁書目録の扱いか。ただ叩き潰すなら得意だがアレの扱いにはいつまでたっても慣れることは出来ん」

 

「(まて…禁書目録?、アイツまさかここに!?)」

 

「(どうしてこの状況で禁書目録が出てくる…待てよ、助けたい人、一年ごとに記憶を消していた禁書目録、吸血殺し、吸血鬼と交渉するためのカード…まさかコイツの目的は吸血鬼の捕獲ではなく…)」

 

上条は思わずアウレオルスに掴み掛ろうとするが距離は縮まらず、一夏は彼の目的の真相に気づきかけているのか動かずじっとアウレオルスを眺めている。

そして錬金術師は再び上条と一夏の方に振り向く、もちろん姫神はアウレオルスと距離を詰めるように進むが、特に気にもかけない。

 

「案ずるな、殺しはしない、少年たちここで起きたことは」

 

「(くそ、冗談じゃねぇ!こんな状況でリタイアできるか!)」

 

「(悔しいけどこの場は俺たちの負けか。リベンジ出来るかどうかはその右腕次第…か)」

 

錬金術師は、小さく笑うと彼らに告げる

 

「すべて忘れろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

彼らが気が付くと辺りはすでに夜になっていた

 

「?」

 

「アレ…ここどこだ?確か学園都市に来たところまでは覚えてるんだけど…」

 

上条は席から立ち上がり周りを見渡す、そしてようやく自分達はバスの中にいた事に気づくがその理由が分からない

そして上条達はどうしてここに来たのか分からない。そもそも上条は進学塾と無縁の存在である。そして上条は一瞬記憶喪失と言う言葉が浮かび上がる

 

「病院に行くか。」

 

「俺もとりあえずココから出なきゃまずいな」

 

彼らはそれぞれそう呟くとバスから降りる、が見える光景は上条にとっては全くと言っていいほど見覚えが無い。

 

「(病院行くとなると保険証がいるな、ってかこの時間って病院開いてるのか?いやそれ以前にインデックスの奴飯抜かれてキレてるんじゃないのか!?)」

 

「(とにかく早くここから出ないとまずいよな…でもせっかく学園都市に来たんだしもうちょっと街並みを見て行きたいよなぁ…ティナとか鈴達にも思い出話を聞かせたいし)」

 

二人はそう思いながらも上条は一夏をつれいったん学生寮に戻る事にする、が上条は何かに呼ばれた感じが、一夏はとてつもない忘れ物をした気がして後ろにある建物三沢塾の方を振り返る

 

「あの建物、なんか大事な事を忘れている気がするんだよなぁ」

 

「織斑、お前もか、俺もそう思うんだよ何なんだろうな」

 

上条はそう答えるがどうにもおかしい。とてつもなく大切な事を忘れている感じがする。それは一夏も同じなのか三沢塾を眺めている。

 

「まっ思い出せないってことは大した事じゃないんだろうな。とりあえず織斑お前はどうするんだ?」

 

「この時間に動いている交通機関はなさそうだしなぁ。何よりこのまま歩いてたら警備員(アンチスキル)って奴に捕まりかねないし…上条君の部屋で一晩置いてもらってもいいかな」

 

「まぁ一人くらいなら何とかなるだろうし別にいいぞ」

 

「なんかゴメン、いきなり押しかける形になって」

 

彼らは適当にそんなやり取りをしつつも歩き出す。上条は同居人のシスターの機嫌をどう直そうか真剣に考え、こんなことなら参考書なんて買わなきゃよかった。そう思いながら右腕で頭を掻く。

そう異能の力であるのなら神の加護さえ打ち消す右腕で

 

その瞬間彼の頭には一気に今日の記憶がなだれ込む

 

「…ッ!!」

 

「どうした上条君?」

 

上条はあわてて三沢塾を振り返り、一夏は彼を怪しそうに見る。とりあえず彼にはまずやらなければならない事が有る

 

「織斑、頭にゴミがついてるぞ」

 

「マジで?、どの辺だ?」

 

「俺がとってやるよ、とりあえず動くなよ…」

 

彼はそう言いながら一夏の頭を右腕でつかむ、すると一夏も彼同様に今日会った出来事すべてを思い出す

上条が右腕で触れるまで彼らは本当に忘れていた、アウレオルスの”忘れろ”たったその一言で。

周りには一夏以外誰も居ない。そして思い出す錬金術師が言っていた禁書目録を手に入れたという意味に近い言葉

 

「とりあえず三沢塾まで戻るか、話はその後だ」

 

「あぁ!!」

 

そして一夏と上条は三沢塾へと走り出す、一体どのくらいの時間が経過したのか分からない。今の三沢塾にいるステイルは無事であろうか?そんな事を考えながらも三沢塾へと向かう彼らだが途中で違和感に気づく。夜とは言え学園都市の繁華街に人が誰も居ないのだ

 

「(なんだ…)」

 

「(これは、人払いの結界か。ステイルみたいにルーンで刻むと言うよりもティナのように直接結界を張るって言う方が正しいかな?)」

 

そんな状況でも人はいた。塾を取り囲むかのように何人もの人間が立っている。

 

「(なんだ、あいつら)」

 

「どうやら本隊が到着と言った所か、仲間がやられて敵討ちをしに来たって所か」

 

「どういう事だ?」

 

「三沢塾の中でやられた騎士がいただろ、あの騎士の仲間だよきっと」

 

その言葉に上条は付近を取り囲む人間を見つめていくと、確かにすべての人間が三沢塾で死亡した騎士と似たような恰好をしている

そして上条は記憶を飛ばされた間に状況が変わったのかもしれないと思い騎士に話しかけることにした

この時一夏が止めなかった理由としては、情報収集をするのならば魔術師の自分よりも表向きはただの民間人と認識されるであろう上条が話しかけた方が効果的だと判断したからであり、仮に騎士が上条を攻撃してもすぐに上条を連れて逃げられるよう最低限の準備は怠っていなかった


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