IS~科学と魔術と・・・   作:ラッファ

31 / 126
第25話

少女が鏃によって貫かれ黄金へと変換される。そしてその光景を見たときに上条は何かを叫び、一夏も今まで以上の敵意をアウレオルスに向ける。一夏自身もここまで敵意をむき出しにしたのは初めてでだろうと内心思っている。

そして二人のその様子に焦ったアウレオルスは一瞬鏃を戻すのが遅れる。だがその一瞬のうちに上条は鏃ではなく黄金の鎖を左手でつかみ取る。

そして上条は力ずくで鎖を引っ張るそして鎖が綱引きの綱のように伸びきったところで鎖を強引に踏みつける。するとアウレオルスは一瞬体勢を崩し、黄金へと足を入れ、動きを止める

そしてそれは一夏が召喚爆撃を当てるには十分すぎるほどのスキであった

 

「これで終わりだ、偽錬金術師!!」

 

一夏はそう言いながら短剣を振り下ろすとアウレオルスの足元で爆発が起き、上条は一瞬顔を伏せる

そして爆風が消えると、そこには大きな穴以外何も残ってはいなかった

 

「おい、織斑あいつは…」

 

「さぁ…多分死んだと思うよ、あれを死んだって言っていいのかどうかわからないけど」

 

一夏のその言葉に上条は言葉をなくすが一夏は一応の補足を入れる

 

「言っておくけど、アイツは多分人間じゃないぞ」

 

「なっ、どういう事だよ!?」

 

「姫神さんが言ってただろう、気づかなければアウレオルス=イザードでいられたのに。ってつまりあれは本物のアウレオルスが作成した影武者って事だよ…であってるよね?」

 

一夏は彼に解説するが念のため姫神に確認を入れる。理由としては姫神が最もアウレオルスと関わって人間でありアレが本物かどうか分かっていると思っているからだすると彼女は

 

「彼の言うとおり、あのアウレオルス=イザードきっと偽物。会った事があるからわかる。本物は無闇に人を殺さない、それに鍼を常用してる。だから偽物、本物はあんなに安っぽくない」

 

「(成る程、だから姫神さんはあの時にあれほど落ち着いていたのか、俺の予想通り、本物を知っているからこそできた行動って事か。しかし鍼…一体何に使うんだ?錬金術の素材か…それとも文字を書くのではなく刻むための道具なのか)」

 

彼女のその言葉に一夏と上条も言葉には出さないが一応の納得をする。

なぜなら錬金術師が三沢塾を隠れ家としているのだから、そこにいる生徒をグレゴリオの聖歌隊と言う魔術を使い全滅させたら隠れ家事態を破壊することになってしまう。

 

だが上条にしてみれば帰ると言う希望があるのだからこれ以上敵の存在を認めるわけにはいかない

だが彼女は彼らに

 

「けど、あれは自分の目的以外には興味を持たない。帰るなら止めることは無い」

 

彼女のその言葉に上条はようやく冷静さを取り戻すが、彼女の今の一言はおかしいと上条だけではなく一夏も思う

そして上条は

 

「ちょっと待て、お前も一緒に帰るんだろ?アイツの目的が吸血殺しである以上、アウレオルスが俺たちを見逃すわけねーだろ」

 

「何で?」

 

「何で…って」

 

「見逃すわけない、ではなくお前も一緒に帰ると言う所に対する疑問」

 

「「なっ」」

 

上条だけではなく一夏も絶句する

偽物とは言え敵を退けたのにも関わらず、彼女は三沢塾から逃げ出すことを考えていないのだから驚かないはずがない。

 

「勘違いしないでほしい。私も私の目的がある。ここから抜け出すのではなく、ここでなければできない目的、あの錬金術師がいなければ達成できないと言うのが正しい。」

 

その言葉には何にも迷いがなくアウレオルスを知り合いとすら見てとれる。そしてその光景に上条以上に一夏が驚いていた。一夏も以前監禁された事が有り、彼女自身がこの状況をおかしいとさえ感じることが出来なくなってしまったのではないかと思い、疑問をぶつける

 

「どんな目的なのかは俺には分からないけれど…その目的のために君を監禁するような人間、ましてや人を物のように扱う偽物を作り出す奴を俺は良いやつとは思えないな」

 

「織斑の言うとおりだアイツはお前の事を仲間なんておもっちゃいねーよ」

 

「ココが乗っ取られる以前私がどんな扱いを受けていたか知りたい?聞けば俗物すぎて君たちはきっと耐えられないだけどあの錬金術師が来てからは違う。私は何もせず、ただここにいるだけ外に出ないのは必要性を感じられないから。不用意に外に出ればアレを呼び寄せる」

 

その言葉に上条はステイルから言われたことを思い出す。吸血殺し、魔術側では伝説とまで呼ばれる生き物を瞬殺できる能力。そしてこの三沢塾は完璧に偽装された結界であることを。

 

その後も上条と姫神のやり取りが続いていくが、話を聞く限りではどうやら姫神とアウレオルスの目的があっているらしくここにいること、そして姫神は三沢塾から逃げ出していたわけではないと言う事だ

 

「(まぁ、魔術師はそもそも全体よりも個人を優先する人間が多いからな。姫神さんとアウレオルスの目的が合致していると言う事は姫神さんの身は安全と言う事か。しかし…どうして吸血殺しを必要としたのか…その理由がわからないな。やっぱり錬金術を完璧に完成させることなのか?)」

 

一夏がそう思っていると姫神は二人にこんな疑問を投げかける

 

「一つ疑問、どうして君たちはここまでやってくれる?特にそこの君なんて私と会った事すらないのに」

 

「助けるために決まってるだろ、理由なんてあるか」

 

「上条君の言うとおりだ。それに俺は監禁とかそう言うのが特に嫌いでね…昔の出来事のせいかもしれないけどね」

 

「どういう事だ?」

 

彼がそう打ち明けるがその言葉はどこか他人事のような感じである、そしてそれに対し上条は疑問をぶつける

すると

 

「まぁ、俺の姉が学園都市の外部ではちょっとした有名人なんだよ。それで姉が二連覇をかけた世界大会の決勝戦の日に俺は誘拐され監禁。そしてあろうことか日本政府は俺の監禁を知っていたにも関わらず放置。要は姉の名誉と俺みたいな凡人を天秤にかけて姉の名誉をとったのさ。」

 

「それじゃぁ織斑、お前は…」

 

「まぁ、あと少しで殺されるところだったのは確かだね。その後イギリス清教に助けられいろいろあったんだよ。その時の事もあるのかな、俺は特に誘拐とか監禁とかをする人間を許せなくなったのは。だからあの時の止めの一撃も結構本気でやったのさ。まっそのおかげでステイル達とも会えたんだしそんな顔するなよ。っと、悪いな、いきなりこんなつまらない話をして」

 

そんな彼らを見ていた姫神は

 

「私は大丈夫、閉じ込められているわけではないから。だから君たちは安心して帰って。それに彼は言った、助けたい人がいるけど自分の力だけじゃどうにもならないって。彼らの協力が必要だってだから私は約束した。初めて殺すためじゃなく、助けるためにこの力を使うんだって」

 

「…」

 

「(まぁ話を聞く限りじゃぁ俺たちが勝手に解釈して助けにきたってことになるのか。しかし…)」

 

彼らはその話を信じきることができない。確かに話を聞く限りではアウレオルスは善人と言う事にはなる。そして彼女が嘘を言っていないにしても、先ほどのような死と隣り合わせの戦場を作り上げた張本人だ、その事を考えると彼女の話と現実はかけ離れている

だが、もしもアウレオルスが姫神の語るような人間なのだとしたら、これ以上道を外させるわけにはいかない、上条と一夏はそう思い、上条が彼女を説得する

 

「もし、本当にアウレオルス=イザードがお前の言うような人間なのだとしたらもうこれ以上道を外させるわけには行かない。一回失敗した人間は二度と救われないなんて言わねーけどこれ以上アウレオルスを進ませちまったら本当に取り返しのつかないことになるぞ」

 

「姫神さん、もしかして…だけれど本当は気づいているんじゃないのか?アウレオルスの理想と現実がずれ始めていることに。さっきの光景を見たならなおさらだ。人を救う人間があんな無闇に人を殺す偽物を作るのはおかしいって。」

 

その言葉に彼女は何も言えなかった。彼らの言うとおりもしかしたら気づいているのかもしれない、アウレオルスの掲げる理想と現実のズレに。目の前で起きた戦場を見て、誰も傷つけないなどと言う理想そのものが崩れ始めていることに。

するとそこに

 

「間然。一体いかなる思考にして私の思想に異を唱えるのか」

 

降りかかってきたその声は上条の思考を断ち切り、一夏を警戒させるには十分だった

声がしたのは姫神の後ろ距離にすればおよそ30メートルと言った所だろう。しかしそこは誰も居ない場所のはずだ、しかし彼らが瞬きしたその瞬間に人間が立っている

 

「お前…」

 

「成る程、どうやら今度は本物が来たようだね(それにしても、何が起きた?姿を消す術式…それとも高速移動術式…でも魔力は感じなかったぞ…)」

 

 

そこにいたのは先ほど倒したはずのアウレオルス=イザードであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。