上条と姫神がやり取りをしてしばらくした時、階段の奥から何かを引きずるような音が聞こえてくる
さらには荒い息遣いや声はよく聞こえないがそこには負の感情が含まれていると言う事だけは理解できた
暫くすると何かを引きずる音とともに男は非常階段の入口から廊下へと歩いてくる。その男は白のスーツを着、緑の髪の外国人。しかし左腕と左足は切断され、金色の歪な棒を傷口に強引に接続し技手と義足にしているのだ。しかし男の顔には苦痛の色はない
「うっ…」
そしてその光景に上条は絶句してしまう。が上条はそれ以上に男の両腕にそれぞれ3人ずつ血まみれの生徒たちの襟首をつかんでいたことに対して絶句していた事の方が強い
そして男は上条を見ると
「なんだこれは、なぜただの少年がここにいる。こちらにいるのは魔術師のみだろう。貴様もあの炎やそこの少年の関係者か」
「お前のその傷、どうやらステイルに相当ひどくやられたみたいだな。まぁ命からがら逃げ延びてきたって所か?」
しかし男は一夏の言葉など気にも留めない。
「お前、そいつら…」
「当然。ただの材料だ、錬金術には材料が必要だ。なぜ材料を見る必要がある、貴様たちはアウレオルス=イザードの瞬間錬金に照準を定められているのだ。私は完璧だ。なのになぜ貴様たちには余裕がある。」
その言葉に上条は驚き身を引く。しかし姫神の表情は何一つ変わらない。自分を監禁している象徴であるのもかかわらず。そして姫神は表情一つ変えず男に告げる
「かわいそう。気づかなければアウレオルス=イザードでいられたのに」
「き、さまぁ!!」
その怒号と共に右腕の袖から巨大な黄金の鏃のようなものが飛び出ると、鏃は錬金術師の周りを高速で回転していく。そして連なっている黄金の鎖は結界のようなものを発生さる・それはアウレオルスが引きずっていた血まみれの生徒たちを貫きながら、そして貫かれた生徒たちは貫かれた瞬間、溶解し水銀のような液体へと姿を変える
「なっ…テメェ、自分が何をしたのか分ってるのか!!」
「やっぱり…衰えてるとは言え錬金術師の罠があんな大勢の生徒を使った攻撃だったのはおかしいと思ってたんだ!聖歌隊のためじゃなくて、自分の魔術のために必要な素材を確保するためにこれだけの大人数を確保してたのか!!」
その光景を見ても二人は生徒の事しか見ていない。そしてアウレオルスは己の必殺が少年たちの眼中にないことにさらに苛立ち
「当。然、絶命!!」
その言葉と共にさらに黄金の鏃と鎖が竜巻でも発生したかのように高速で回転すると周囲にあった黄金の泥は宙へ舞い上がると、それはアウレオルスを中心とし天井まで届くほどの巨大な津波の花となり彼らを飲み込もうとするがそれは失敗に終わる。なぜならば一夏が短剣から風を発生させ短剣を振り下ろし壁を作りだし泥を向かわせないようにする
「さて、ちょっと俺の相手をしてもらうぞ偽錬金術師!!」
「貴様!!」
「おい、織斑!!」
「最強の楯は使いどころが肝心ってね。逃走の際は戦闘要員が殿をするって言うのが常識なんだよ。とりあえず俺は攻撃を食い止めつつ追いかけるよ。俺も攻撃を向かわせないように食い止めては見るけれど、それでも上条君たちの方に向かったらその時は頼むよ」
「分った!!」
「きをつけて。」
二人はそう言うと、怪我人を抱えつつもどうにか走り去っていく
「(さっきの状態を見る限り、アレに触れるとお陀仏になるって訳か。それ以外は分からないがひとまずは距離を取りつつ攻撃をしていくのがベストか…)」
一夏はそう思うとすぐさま上条たちを追うように距離を取りつつ、短剣を振り落すとアウレオルスのいたであろう場所が大きく爆発する。そして一夏は間髪入れずに先と同じ方法でとにかく付近に爆撃を叩き込んでいく。そして黄金の泥は跡形もなく消え去っていく
しかし黄金の鏃はものすごい速さで一夏に向かってくる
「上手く鏃が巻き込まれてくれれば良かったんだけれど…そうはいかないか」
「自然、貴様を倒すのは後。まずは素材を確保する」
アウレオルスはそう言うと一夏の方に向かって鏃を飛ばす
しかし、一夏は短剣に風をまとわせると鏃をはじくため下から上に大きく振る、すると鏃は弾かれたとのが突然軌道を変え後ろに向かっていく
「…ッ!!上条君危ない!!」
一夏は上条と姫神を視界に入れる範囲まで下がって来ていたので鏃の方向に上条がいることにすぐに気づけた
そして一夏の声に反応し振り向いたた上条は避けようとするが体制を立て直すことができない。なので彼は顔面に襲いかかってきた鏃の一撃をとっさに右腕でつかみかかる。そして鏃は抵抗を見せ上条の手のひらを切り裂くがその一瞬の動作の停止でも一夏にとっては大きなチャンス、動きを止めた鏃を一夏は短剣に炎を纏わせるとそれを振りおろし鏃を断ち切る
「上条君大丈夫!?(鏃に触れても上条君の体には何も変化がない…ステイルが言ってた最強の楯って言うのはこういう事か)」
「あぁ、なんとかな。それよりも泥はどうなった?」
「あれなら吹き飛ばしてきた。あの泥が全部って訳じゃないだろうけどね」
二人がそう話していると
「悄然。な、んだそれは?」
だが彼らの目の前に立つアウレオルスにとっては泥を吹き飛ばされた事よりも鏃に触れたのにもかかわらず何も変わらないことに大きく焦っていた
「自然。なんだその右手は、なぜ変換されん?我が瞬間錬金は数ある錬金術の理想のカタチ…」
「(りめんまぐな?)」
上条は己の傷を見ながらも考える。錬金術師の言う変換とはさっきの泥のようなものなのかと。
「は、愉快!面白いぞ少年。そこの魔術師など後だ。まずは貴様だ!この魔術師にそのすべてを解き明かさせよ!!」
そう言いながらアウレオルスは右手を振るうと今度は二つの鏃が上条と一夏それぞれへと狙いを定め襲い掛かってくる
「(コイツ相当混乱しているのか、言ってることとやってることが滅茶苦茶だぞ!!)」
一夏はそう思いつつ上条の方を見ると彼もどうにかして鏃に対処している。一夏も援護に行きたいが鏃が一夏の周りを囲うように動いているため下手に動くことができない。一夏には上条の幻想殺しのような能力がないためアレに触れればすぐに生徒と同じようになってしまう事は容易に想像できた
「なるほど、足止めって事か。上条君はかなり気に入られたようだね」
そうこうしている間も鏃は一夏の周囲を回っているだけで一切攻撃をしてこない。どうやら上条を仕留めた後でゆっくりと痛めつけるのだろうと彼は想像する。しかし一夏にとってみればこの程度の鎖を破る方法が無いわけではない
「この威力になると下手すれば自分もまきこむ可能性があるが…そんな事を言っている暇はないな」
一夏はそう思うと再び短剣に風をまとわせると今度は振り下ろすのではなく、刀身を上に向けるように構えるだけ。そして一度深呼吸をすると徐々に力を籠めまとわせた風を大きくし、自身を中心としその周りに大きな渦をつくると、今度は風の流れを早めていき内部で大きな竜巻を発生させる。そしてその規模はとどまることを知らず、最終的には鏃を強引に引き千切る事で脱出に成功する
そしてその瞬間付近にも暴風が流れ、上条を狙っていた鏃も全くの別方向に飛び出す
この時上条と姫神、そしてアウレオルスも飛ばされないように床に体重をかけている
「おっ、おい!いくらなんでも強すぎないか!?俺らまで吹き飛ばすつもりかよ」
「ごめん、アレ破るにはあのくらいの力を籠めなきゃ無理だと思ってね。それよりもまぁよく右腕一本で十は超えてる鏃の攻撃に耐えれたね」
「まぁギリギリだけどな」
そう言う上条の右腕は血まみれであり、かなりギリギリの状態であることがうかがえる
そのような状況だと言うのにアウレオルスは心から楽しんでいるように笑っている。それは前人未到の境地に達したような表情である
「はは!貴様達の、計測するには手数が足りん!!」
すると鏃はさらに速度を倍加し上条そして一夏へと狙いを定める。
上条の手はすでにボロボロ、恐らくまともに物を握ることができないであろう
なので一夏は炎を纏わせ、それらを吹き飛ばそうとするが鏃は彼らの後ろを通っていく。
それは手元が狂ったという訳ではない、彼らの後ろには姫神秋沙が立っている。つまり相手は姫神へと狙いを変えたのだ
その時上条は姫神に声をかけ、一夏もあわてて後ろを向くがもう間に合わない
そして鏃は確かに貫いた。
しかし貫いたのは姫神ではない。
貫かれたのは、上条や姫神が手当てをした少女だった。