IS~科学と魔術と・・・   作:ラッファ

104 / 126
第98話

一夏が魔法名を唱えた瞬間付近に熱風が吹き荒れる。

この現象の正体は一夏は”天使の力”の中でも火を司る大天使、”神の如き者(ミカエル)”の力をもっとも得意としているからこそ起きたものである。

するとそれを見ていた少年とジュノンは

 

「織斑さん、本気と言う事ですね…」

 

「(天使の力を使う魔術師だとしてもこんな事が起こり得るの…確かに魔法名の開放は見方によっては術者の力を底上げする物だけどここまでド派手になるものなの…?)」

 

それぞれそう思う。少年の方は魔法名を開放した魔術師の戦闘に興味があるため。彼は支援専門であり数少ない魔法名を持たない魔術師である。故に魔法名を名乗った魔術師が行う戦闘と言うのは常に興奮してしまうのだ。

そしてジュノンはこの現象に別な見方をする。彼女は自身の経験から魔法名を開放した魔術師であったとしてもここまで力の底上げが行われるとは思っていなかったからだ。

 

そして沈黙が走るがそれを破ったのは槍を構えた男の一言であった

 

「魔法名を開放したか。だが、しかし所詮ただの人間の君では私に勝つことなど不可能だ!!」

 

男はそう言いながら魔槍の穂先を一夏達に向けて構える。

そして先ほどと同じように穂先から無数の棘が飛び出してくる。

とはいえ今回はさっきの攻撃とは比べ物にならないくらい棘の数が多い。棘の現れるスピードが先ほどとは比べ物にならない位スピードが上がっているのだ。

 

「(奪った術式とはいえ流石と言った所か…でも!!)」

 

一夏は内心毒づきながらも向かってくる棘を召喚爆撃を使い薙ぎ払う。

今までならばそれで終わっていたが今回はそうはいかない。薙ぎ払っても新たな無数の棘が彼に向かってくる。

少年は一夏の居る方向に向かってきたため一夏に協力する形で棘を防ぎ、ジュノンは棘の上に飛び乗り、向かってくる棘を槍で切り落とす、しかもその行為を汗一つ書かずに行うと言う人間離れしたことを平然と行っていた。さすがは聖人と言った所であろう

一夏はそれを召喚爆撃で破壊しつつもかなり焦っていた。その理由は

 

「(マズイな…長期戦に持ち込まれたらこっちが断然不利だ)」

 

そういくら魔法名を名乗っているからと言っても一夏はただの人間。しかも高度な技術が必要な召喚爆撃を乱れ打ちしていては早いうちに疲労で自滅してしまうと言う事は彼が一番理解していた。

 

だからこそ一夏は早々に決着をつけるために魔法名を名乗ったのだが無数の棘に阻まれ術者本人に狙いを付けることが出来ない。

彼のプランでは魔法名を開放し早々にケリを付けようと考えていたのだが一夏の予想以上に相手の魔槍の精度が高かったのだ。決着を急ぎ過ぎた彼のミスであり、それを自覚したからこそ小さく舌打ちをする。

一夏はどうにかこの状況を打ち破るべく策を練っていると唐突に少年が一夏に対して

 

「織斑さん、召喚爆撃を最大パワーで放てばこの無数の棘を一気に薙ぎ払う事は出来ますか?」

 

「ん…まぁできないことは無いけど…」

 

一夏がそう答えると少年は一夏に対して

 

「このまま防いでいてもキリが無いです。あなたの最大パワーの爆撃で棘を薙ぎ払ったとこで僕があの人が相手を制圧しようと考えているんですが…どうでしょう?」

 

流石に少年も持久戦に持ち込みたくないと考えたのだろう。一夏に対し簡単な案を提案する。

この状況で確実に相手を倒すには聖人のジュノンに頼る以外に策は無い。

ちなみに彼らが反している間ジュノンはと言うと彼らに向かってくる棘を無言で切り払っていた

その槍裁きは手慣れたものであり縦横無尽に槍を動かし無駄なく棘を切っていく。

 

そしてその様子を見ていた一夏はジュノンに

 

「ジュノン!今から最大パワーの召喚爆撃で棘を吹き飛ばす。止めは任せた!!」

 

「私が倒してもいいの?アレ、貴方の獲物なんじゃない?」

 

「良いよ。それにジュノンもアイツには借りがあるだろ」

 

「分ったわ。一撃で決めてあげる」

 

そう言い終わると一夏は短剣を握り魔力を込める。

これからやろうとしていることは膨大な魔力とそれ以上に正確な力加減が求められる。だからこそ一夏はいったん攻撃を止めたのだ。そして少年も鞄から札を取り出し。ティナほどではないにしろ強力な結界を張り一夏の援護をする

彼らの会話を聞き様子が変わったため男は

 

「何か策でもひらめいたようだが…もう手遅れだ!!」

 

そう言い放つとポケットから十字架のようなものを取り出しそれを地面に置く。

すると彼らの足もとに巨大な十字架の模様が描かれ地面が赤く光る

 

すると今まで軽快な動きをしていたジュノンが突然動きを止め膝をつく

 

「また…この術式…」

 

彼女の言葉で一夏達は即座にこれが対聖人用の術式であると言う事に気が付く。

そして彼女が動きを止めてしまったため無数の棘が彼らに向かってくる。辺り一面を覆うそれは当たれば確実に彼らの命を奪うであろう。

 

「(そんな…ここまで来たのに…)」

 

少年は敗北を覚悟する。策を練ったが肝心のジュノンが動きを止め一夏はまだ準備中。自分の結界ではこの攻撃は防げない。だからこそ少年は敗北を覚悟したが、一夏は違った

 

「ジュノン、どうにかして上に飛ぶんだ!!」

 

そう言い終わると一夏は短剣を下に振り下ろす

すると地面の一部が白く光りだす。そしてその後に地面が爆ぜ、大量の岩や砂が巻き上げられる

それは彼らの居る場所から男の居る場所へと徐々に広がっていく。

そしてその影響もあるのか赤く光っていた地面は元に戻り十字架も破壊される

 

そこから状況は動く。

術式が解けた為ジュノンは素早く起き上がり、巻き上げられた岩を足場にし男に接近していく。バランスを崩せば落下し大怪我を追いかねないそれを彼女は行う。さらにその足場を頼りにし高く飛び上がると、自らの槍を男の槍めがけて全力で放つ

 

聖人が全力で放った槍の速度は音速を超える。そのような物をただの人間が避けられるはずがない

棘も先ほどの一撃でほぼ失っている

彼女が放った槍は男の槍に直撃し、男の槍は砕け散る。

 

「自らの霊装を手放すとは愚かな!!」

 

男はそう言いジュノンの霊装に手を掛けようとするがそうはいかない

触れようとしたその瞬間、正面から風の球体が男めがけて向かってくる。油断していた男にそれを避けるすべはなく球体が直撃後ろに吹き飛ばされる。

 

「油断しすぎだ…」

 

そう言ったのは先ほど爆撃を放った一夏である。

かなりボロボロである命に別状はない。そして彼は少年の肩を借りてようやく立っているのだ。

そんな状況でも攻撃を当てるのだから一夏もなかなかの実力である

地面に着地したジュノンは槍を取ると一夏に

 

「あら、私に譲ってくれたんじゃ無いの?」

 

「…気が変わった。それにあのままだと霊装奪われそうだったからな…生憎二回も味方の作った武器に攻撃されたくないんでね」

 

彼女の軽口に一夏は応える

状況はどうあれ、こうして彼らの戦闘は幕を閉じたのだった

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。