遠征勢と別れ、適当に時間をつぶし朝食時間。とりあえず俺は、ラウンジへと足を運んだ。
すでに何十人もの艦娘が、わいわいと談笑をしながら食事を楽しんでいる様子が見えた。つうか多いな…こんだけ艦娘いるのか…と、まあ圧巻の光景だ。
「あ、提督さんおはよう」
と、後ろから肩をたたかれる。この言い回しは瑞鶴だ。ツンツンな様子はなく、普通に接してくるあたり、日をまたいで整理がついたんだろうか。いや、単艦演習で堪えたのだろうか?
「おう、おはよう。しかしすごいなこの量。昨日の夕方ごろとは大違いだ」
「そうでしょ?みんな提督さんが集めた…と言ったら少し失礼ないい方だけど、実際そうだからね。誇れば?」
確かに瑞鶴の言う通りかもしれない。提督業を始めて三年。ずいぶんと人も装備も集まった。それには彼女らの大きな功績もあって、逆に頭も上がらない。俺はただ、簡単に組まれたパターンから成る指示を出していたに、過ぎないのだから。
そのまま瑞鶴に連れられ、食券を買い、伊良湖から受け取る。今日の当番は伊良子だということなのだろうか。
「男の方って…大盛がいいんですよね?間宮さんから聞きましたよ!」
そう伊良子は言ってどばっといろいろ盛ってきた。朝から大盛はラグビー部やら野球部くらいの強靭な胃袋がないときついわ。と、いうか重いわ。
とは思うもの突っ込まず「あんがと」と感謝の気持ちを見せつつ受け取り、座席へと座る。まあ彼女は善意でやってくれたはず。それを無下にはできないのが俺の性格だからね。
さて手前には瑞鶴が座り、要するに向かい合わせで食うのか…と苦笑い。
「なに?私と向かいで食べるのは嫌?」
不服そうに瑞鶴はジト目でこっちを見てくるので、「いやいや」と首を振る。まあ純粋に、こんな経験全然ないから緊張するって事よ。蒼龍とはまた違う感じだし。でも瑞鶴はどっちかと言うと、友人と言うかなんというか、そういう目で見れない。まあ向こうもそう思ってるんじゃねぇかなぁと、解釈。
「あ、提督さん今日暇?実は…」
瑞鶴が何か言いかけた時、俺の隣にカタリと食盆が置かれる。静かな様子で席に着いたのは、加賀だ。
「おはようございます提督。本日は出撃の指令がありましたよね」
こう、露骨に瑞鶴の言いかけたことをつぶしにかかってきた。こわいなぁ。静かに言うあたりが、また怖い。と、いうかそんな予定勝手に組んであったのね。
「…なに?私はそんなことも知らなかったマヌケみたいな言い方してくるわけ?加賀さん」
はじまったというのが正しいのだろうか。つうか瑞鶴完全な言いがかりだよね。それ。
「さあ?それはあなたの想像次第よ。瑞鶴」
朝からピリピリした様子を見せる二人。なんで俺の近くでそんなことするんだよ気まずいだろ。
「隣、いいだろうか?」
居心地の悪さを感じていると、さらに横から声がかかる。この独特な凛々しい声は――
「グラーフか。いいよ。俺の隣でよければ」
「むしろそれがいい。深い意味はないが」
あくまでもキリっとした様子なグラーフ。かっこいいねぇお前は。そういうところは見習いたいぜ。男でもね。
「提督さん人気だねー。男前じゃないのにねー」
にやにやとした様子でいう瑞鶴。茶化すねぇ君。つうか事実だけど面と向かって言えば悪口だからね、それ。
「そうだろうか?私はアドミラールの顔つきは好きだ。サムライはこうした顔なのだろう?そうか…ズイカクとは好みが違うのかもしれない」
スパンと言い放つグラーフの言葉に、思わず照れくさくなる。侍っつうかまあ日本人男性特有の顔をしてますがね。しかし、そういうこと切り込む様にいうんだねグラーフ。かっこよすぎかよ。お前男に生まれたほうがよかったんじゃ。いや、これだからいいのかもしれない。
「五航戦の子は見る目がないもの。仕方ないわ」
加賀はふと怒りの燃料を投下するように、無表情でつぶやくように言う。瑞鶴がさらにムッとしているから、やめてくれよ…。
「ふむ…それは決めつけというものだカガ。人には誰でも好みがある。珈琲でも同じだ。浅炒りに深入り、苦みに酸味…。求めるものは違うのだ。人は、そういうものだと思うぞ」
あくまでもどっちつかずのグラーフだが、加賀も瑞鶴も何も言わなくなった。グラーフはそういう立場に落ち着いているのかもしれない。加賀と瑞鶴の衝突を抑える、そんな立場だ。これは向こうの世界からじゃわからなかったな。
「ところでさ加賀。出撃どうとかのことだけど、それ初耳なんだけど」
「ええ、だって私も武蔵に先ほど聞いたもの。あとで今日の予定を飛龍に聞くことになるだろうけど」
飛龍が今後秘書艦になるだろうから俺の予定を管理するのはわかる。でも加賀さんは聞く必要がないような気もするけどね。いわないよ。にらまれそうだし。
「じゃあさっさと食っちまうかね。しかし…重いなこれ…」
なんだかんだ言って、食べ切れそうではある。パンものならまだしも、ご飯物だから割と行ける。
ちなみに空母勢だけど、総じて全員大盛りだったりするが、深くは突っ込まないでおこう。食べる子は育つんだ。うん。瑞鶴はそうじゃないみたいだけどね。どことは言わないけど。
*
朝食後。執務室に戻り朝礼が終わるのを待ちつつ、女神さんを弄っていて数分後え、ようやく飛龍が顔を見せた。いうまでもなく、今日の予定を伝えに来たようだ。
つらつらと述べてい行くのはどうかと思うので、要点をまとめるとこうだ。
まず艦隊司令の見学。要するにまだ指示を出すには経験不足というかトーシローなので見てろとの事。
次に雑学の勉強。こっちに来ても学生の領分である勉学は逃れられないようだ。まあ、俺の為にわざわざ特別講師を香取と鹿島がしてくれるらしい。まだ会ったことないので、どんな性格をしているか、面と向かって見れそうだ。
最後にこれはどうなのかと思うが、射撃訓練らしい。え、艤装つけるの?いや、そんなわけはない。どうやら空母勢が弓道を訓練項目に入れているように、艤装ではない武器を使った訓練を行うのだという。剣術はどうあれ、日本で一般人が実銃を撃てる機会など、米国圏や御隣の国での射撃場で高い金を払うか、または猟銃免許等を取ってなおかつ長い長い検査を受けてやっとだとか、それくらいだ。ミリオタくんな俺にとってこれは期待感が持てる。
さて、そんなこんなでまず最初は艦隊司令。指令室は庁舎にあるらしく、一階の奥とのこと。
任務も鎮守府近海の哨戒。あくまでも触りとの事らしい。すでに大淀、武蔵は持ち場についているらしく。開いている席はあからさまな場所というべきだろうか、室内の中央にででんとマイクスタンドが置いてある指令席が、そこにはあった。
「これに、座る感じ?」
「そうだ。むしろどこに座るというのだ?お前は提督だぞ?」
武蔵は相変わらずに呆れ顔でいう。うん。そうだね。雰囲気的にはそこなんだよね。でもほら、座っていいのとか聞きたくもなるよ。
「まあ、鎮守府近海の哨戒任務です。別に気負う必要はありませんよ。そこで堂々と座っていて、言葉を投げかけてあげればいいんです」
優しい口調で、大淀はフォローの言葉を投げかけてきた。なるほど、こんな感じでってか。ついてきた飛龍も、「そうそう」と言葉を合わせる。
「じゃあ、失礼します」
座るや否や、武蔵が何をかしこまる必要がと表情をまたもや呆れる。すいませんねこういう時はあらよっととはいけないもので。
「よし、初めよう。第一艦隊、聞こえるか?」
武蔵がそう、彼女の持ち場にあるマイクに声をかける。通信機特有のクリアではない音声が聞こえてきた。
『こちら第一艦隊旗艦阿武隈。準備おっけーです』
「そうか。では提督の言葉がある。清聴するように」
そういって、武蔵がこっちに視線を送る。え、もうやるの?前準備もなく?何も考えてないんだけど。
「何を戸惑っている。早く言葉を投げかけてやれ」
「あ、はい。えっと、マイクの音量大丈夫?チェックしなくてもいいの?」
なれない動作でぼそぼそつぶやいていると、スピーカーからくすくす笑い声が聞こえてくる。
『提督、霧島さんみたいですねー。私的にはとっても面白いんですけど』
阿武隈がにやにやしている様子が思い浮かぶ。まあそんな子じゃないとは思うけど、やっぱりこう、笑われるとね。どうしてもそう想像してしまうのであって。
「きみねぇ…。俺はまだやり慣れてないの。わかる?俺民間人よ?本来。ま、聞こえてるならいいけど」
『はい。感度良好です。みんなも聞こえているみたいです』
ならいいか。しかし何を言おうか。要するに緊張をほぐしてやる程度の軽口が良いんだろうけど、そこまで頭の回転フルマックスなピカピカ頭ではないからね。どうしようか。
「あ、そういえば阿武隈って、まだ面と向かっては会ってないな」
『え?ええ、まあそうですけど…。私的に挨拶くらいは、機会があればしようかなって。鬼怒ちゃんには会ったんですよね?聞きましたー』
「おう、そうだな。アレだよな。面と向かって会うと、普段見慣れているのとは違う印象を受けるっつうか、新鮮で面白い。うん、改めてスゴイと思ったね」
『何がスゴイんです?…ともかくこの任務が終わったら挨拶しに行きますね?報告も義務ですし。ホウレンソウって奴ですよね?』
「ん。わかった。つうかそれビジネスマナーだぞ阿武隈。軍隊的にはどうなの?…ともかく、どうせならほかの隊員も連れてきて構わないよ。どうせ一人じゃ…いや、まあ飛龍がいるけど、とりあえず広くて居心地が悪いしさ」
『だってみんな!よおし、帰る楽しみができたね。みんなも意気込んでますよ』
ならよかったのかな?まあ大所帯で押し込んで来られても困るが、六人くらいで来てもまあ余裕だろう。
「飛龍、後でなんか菓子でも持ってきてな。これ命令」
「え、もー。命令とか言われたら断れないじゃん。職権乱用だよ?パワハラだよ?訴えるよ?」
不服そうにいうも、実際はそうでもないだろう飛龍の回答が返ってくる。さて、ではそろそろか。武蔵も視線で促してくるし。
「まあおしゃべりはここまで。怪我しないようにしてくれよ。健闘を…つっても近海哨戒だし、大方お前らなら朝飯前だろう。がんばってこい」
『わかりました!第一艦隊旗艦阿武隈、発艦します!』
阿武隈がそう叫ぶと同時に、ごううんと音声が響く。おそらく発艦時の音なのだろう。艤装ってすげぇ。
*
さて、もはや言うまでもないが、敵艦と会敵後の戦闘はあっという間に終わった。まあ、そうだよね。近海だしね。イ級チャレンジとかしないからアレだけど、少し同情の念も覚えるよね。
阿武隈達は帰還するとの報告をして、いったん通信は終わりとなる。思わず椅子にもたれ掛り、息を吐いた。
「どうした?別段なにも、疲れるような事はしていないだろう?」
武蔵が茶化すように、言ってくる。コイツ分かってるんだな。今の俺が念頭にある気持ちをさ。
「まったく。言わせんなよ。やっぱり初陣はどんな場所でも緊張するさ。轟沈は無いにしろ、彼女らが大きなダメージを負うところを想像すると、見たくない」
「それもそうだな」
同意するように、武蔵は言う。俺は少し間を開けて、「あとさ」と言葉を続けた。
「怖いねやっぱり。俺は戦闘には出てないけど、そうした怖さじゃない。俺が無知だから怖いんだよ。だからこそ、鹿島と香取の講義は、早く受けたくなったかな」
正直な話、通信から入る状況下の想像が全くできなかった。言ってしまえば専門用語の塊が列を成して、突撃をしてくる感じだろうか。
無論、わからなかったわけじゃない。少なくともミリオタと言うのだから、用語その物は理解が追いつく。だがそれでも、百聞は一見にしかずと言うように、生から成る戦闘の音声や緊迫感は、場数を踏まなければ慣れることはできないだろうね。そうした意味でも、練習艦勢の講義を受けるのは、軽々しく考えてはいけない様に思えたわけ。たかが近海だと思ってたけど、近海だからこそ掴めた気がする。
「ふむ、その意気だな。だからこそ、この機会を設けた甲斐あったというものだ。だが提督よ、落胆はしなくていいぞ。戦いは臆病なくらいが丁度いい。ある意味ではそうした臆病な気持ちも大切なんだ。臆病だからこそ、強くなれるのだからな」
意外にも優しい言葉を投げかけて来た武蔵。確かにそうかもしれない。剣術でもそうだが、臆病なほど、強くなる。それはある意味、死にたくないから強くなるとも、似たようなものだ。もっとも武蔵はグイグイ前へ行くタイプだと思ってたが、違うようだね。
「望君も私たちが大変だったってことに気が付けてよかったよかった。どう?敬う気になった?」
飛龍がここぞとばかりに、軽口を挟んでくる。正直言い返しにくい所を突いて来るから、ぐぬぬと黙ってしまう。腕を上げたな。
「さて、提督。時間が余ってしまったな。…まあ、ある意味では計算づくではあるんだが」
ふと、武蔵がそう切り出す。どういう事だろうかと、首をかしげた。
「つまり?」
俺がそう聞くと、武蔵は得意げな表情で、眼鏡を上げる。
「迎えに行ってみないか?彼女らを」
どうも、お久しぶりです。飛男です。
投稿にずいぶんと時間が開いてしまいましたね。申し訳ございません。リアルに少し変化が起きて、言ってしまえばすごく大変だけど新しい一歩を踏み出した。そんな感じでしょうか。
そのため、執筆そのものがうまくいかなかったり、考え込んだりと、苦労してしまいました。ここまで待ってくださった観覧者の皆様には、心からのお詫びを申し上げてたいです。
おそらく、また投稿は未定になると思います。ゆっくり時間をかけて、納得いけるように書いていきますので、気長にお待ちいただけることを切に願います。
ではこのあたりで。また次回お会いしましょう。