酔っぱらった飛龍を運び終えた望は、そのままキヨさんと一緒に煙草を吸う為、外へと出て行きました。室内で吸っても構わなかったんですが、酔っぱらった飛龍への配慮かと思うと、まああの人らしいと言えばあの人らしいかもしれません。もうちょっと一緒に居たかったけど、会おうと思えばいくらでも会えますしね。隣の隣なんですし、お部屋。
「あ、そうだ。お土産とか整理しないと」
気を取り直して、先ほど購入したお土産の袋へと手を伸ばします。家族は勿論の事、望のお友達―大学の方々やゼミの先生、バイト先の方にも買ったので、わかりやすい様に整理をしといたほうが、良いかと思います。
「えっと、まずこれは家族の方々に…。それでこれは大滝さんのだったかな?えっとそれで…」
ごそごそと音を立てて、私は望がつぶやいたり口にした言葉を思い出して、分け始めます。誰か忘れてる人、いるかな?
「うーん?なんのおとぉ…?」
そうこうしているうちに、敷布団でごろごろしていた飛龍が、気がついた様です。むくりと立ち上がったと思うと、またバフっと布団へと座り込みます。
「お土産の整理かな?それより飛龍、飲み過ぎだよー。全く着物もはだけちゃってさぁ…」
お食事へいく前に浴衣へと着替えていたのですが、もう色々とはだけそうになってます。飛龍はいっつもこう。お酒に飲まれると、こうしてグータラになっちゃうの。
「えへへぇ…ねー蒼龍」
和やかな笑顔をしながら、飛龍は私へと声をかけてきます。
「どうしたの?眠いの?別に寝てもいいわよ」
「ぶー。私を早く寝させて、なにするつもりなのー?こっそり部屋を抜け出して、提督の部屋にでも行こうとしてるの?」
口元を尖らせて、飛龍は言います。そんなわけない―こともなかったかも…。いやでも、流石にそこまでぐいぐいは行く気がないかな。はしたない女の子とか、思われたくないし。あ、でも恋人同士に、そういう遠慮っているのかなぁ…?いまいち線引きが分からないや。
「そんなわけないじゃない。酔っ払いの扱いが面倒なだけよ」
私は呆れた様に言いましたが、飛龍はにこにことしながら「ほんとかなぁー」と惚けた様な声でつぶやきます。
「ねーそうりゅー」
再び飛龍が、のほほんとした感じで私へと言葉を投げかけてきます。完全に酔っ払いの姿ですね、典型的過ぎると言いますか、典型的だからこそ、面倒なんですが。
「はいはい。なんですか酔っ払いさん」
とりあえず、お土産の仕分け作業をしつつ、私はそっけなく返事をします。
「んー、蒼龍はさぁ…。本当に提督の事愛してるぅ?好き?大好き?」
何気ない、酔っ払いの言葉のように聞こえますが、どういう意味で聞いたんだろうと、思わず詮索する思考がよぎりました。でも、結局酔っ払いの無意味な質問だと思いなおしました。
「んー。大好きだよ?と、いうか一生一緒に居たいかな。なーんて、思ってもいるわ。この先どうなるかはわからないけど、時間というか、なんというか…許す限りはずっと一緒に居たいかな」
私の素直な思いです。本当にこの先どうなるかはわからないけど、それでもずっと、一緒に居たいんです。きっとあの人は、運命の人なんだなって、あの夜から、ずっとそう感じていました。
「そっかぁー。うん、そうだよねぇーやっぱり。うんうん」
なんというか、本当に飛龍は酔っているの?と、思いたくなるくらい納得したような、かつ意味深な口ぶりで言葉を返してきます。ひょっとして飛龍がこっちに来たときに行っていた事の、確認なのでは…?
「飛龍?あなた本当に酔ってるの?」
と、振り返って彼女へと問いましたが、その様子は火を見るよりも明らかでした。うん、ぐでーってしていて、顔は室内のオレンジライトに照らされていてもわかるくらい、赤い頬をしています。
「ねーそうりゅー」
でも、再び、三回目の問いかけを飛龍はしてきます。私は「はいはい」とそっけないように答えましたが―
「わたしさぁー。提督と二人っきりではなしたいんだけどー。いーいー?」
*
「やれやれ、やっと一服できるな」
飛龍を運び終えた俺は、旅館の外にある灰皿へと足を運んだ。満点の星空に煌々と暗闇を照らす月は、やはり良いものだよね。あ、照月の事を言ってるわけではないんだけども。
やっぱり酔っ払いと蒼龍の前で吸うのは少しばかり抵抗があって、まあ下の階層へとわざわざ降りて、いっそ外で吸ってこようと思ったわけ。これならば、文句は言われない筈。特に飛龍とか。酔っ払いの相手は御免だね。
ちなみにキヨはと言うと、別れた後に飲み物を買いに行くと言い残し、同じく一階のロビーまではともに行動をしていた。途中、ヘルブラザーズも居たし、そいつらと合流をしたんだと思う。
「ん・・・。メールか」
スマフォがブブッと揺れた感覚を覚えたので、ポケットから取り出すと電源を入れる。見れば明石からのようで、何かしらの進展があったと、件名が記されている
『コエールくんですが、クールタイムがもう少しで終わりそうです。と、いうか思っていた以上に装置が安定していた様子で、予定が早まった感じですね』
とのことだった。おそらく明石の事だし、コエール君をかなりのペースで把握してきているんだろう。となればまたこっちにくる艦娘とかも出てくるわけで…少々苦笑いがこみ上げてきた。どう説明すればいいんだよ。
「あんれ?七星さんじゃないすか」
そんなこんなでメールを眺めていると、ふと声をかけられる。声から察して、思った通り拓海だった。仕事はどうしたんだろうか。方向からして、道路側から歩いてきたようだが…。
「あ、いま休憩中です。サボってなんかないですよ!?で、そういう七星さんは?」
ああ、どうやら怪しんでいるのが顔に出てたらしい。まあ、普通はそう思うよね。
「あー。キヨが下に用があったみたいで、ついでについてきてここで待ってる感じ。どうせ暇だしねー」
特に用事もないし、その場の流れで友人について行くってのはある話だと思う。拓海も納得いったのか、「あー」と声を上げた。
「今夜は、月が綺麗ですね」
月を見上げ、拓海はそうつぶやく。現地人からしても、今夜の月は美しいらしい。…だが。
「おまえ、それ意味わかって使ってる?」
思わず突っ込みたくなった。いや、ほら、月が綺麗ですねってそういうことですよね。
しかしまあ、拓海は「フェ?」と首をかしげた。ああ、やっぱり知らないみたいだ。ホモかと思った。
「あーこういう時はこうだろう。“月は出ているか!?”だ」
意味深なにやつき俺は拓海に見せると、拓海もまた理解したような表情となる。
「ああ。えーっと…“は?”」
「お―“月は出ているかと聞いている!”ってな」
俺たちはにかっと笑いをこぼす。まあ、わかる人にはわかるよね。元祖髭ガンダム。
「まあそれはいいとして、今日、楽しかったですか?」
おいおい、せっかくフォローっぽいことをしてやったが、特に反応なしか。まあいいさ。
「そら、まあな。楽しくないなら俺はその場で口にすると思う」
「あーそういえばそういった方ですよねぇ。七星さんって」
「そりゃどういう意味だよ」
そう返答した俺だったが、笑いがこみ上げてくる。そして拓海も、つられて笑った、
「そういうお前は?大和と一緒に出掛けれて楽しかったんじゃないのか?まあ、いつもの事かもしれんが」
こんなこと質問するのもヤボだが、少し気にはなる。男だって恋愛話は興味があるからね。女々しいとか言わない。
だが、拓海は「えーっと」と考え込むしぐさをすると、口を開く。
「うん、今日が初めてでしたね。まあ仕事の関係で行く機会がなかったですし、京都人って別に毎日清水とか行きませんしねー」
正直以外だった。まさかそんなドライというか、お熱くない関係なのか…。もしや熟年夫婦っぽい感じ?と刹那的によぎったが、そんなわけない。いや、むしろ年齢的におかしいだろう。
「じゃあさ、俺たち抜きで…お前と大和の二人で行こうとは思わんの?」
「えぇ?まあそら行きたいですけど…そもそもどう接すればいいのかなぁと」
ちょっと待ってくれ。どう接するだと?なんか、会話がかみ合っていないような気がしてきたが…まさか?まだまだ分からないが…。
「どうって、普通に接すればいいじゃないか。艦これやってた時みたいにさ」
とは口にした俺だけども、さりげなく恥ずかしいこと言ってる気がする。うん気にしない。
「いや、普通に接する方法が、よくわからないんですよ。そもそも女子とかかわりもあまり持ったことないですし」
「ハァ?そんなくだらない事気にしてるのか。考えるだけ無駄だ、むだ。とりあえず、友達みたいに接して、徐々に親睦を深め、恋人らしいことをしていけばいいじゃないか」
「そんな、恋人だなんて…」
照れくさそうに、言葉を返す拓海。これで確信が付いた。おそらく、拓海はこっちになぜ大和が来たのか、理解していなかったらしい。確かに拓海はケッコンカッコカリレベルまで大和を育ててはいなかったが、こっちに来たんだ。意味合いをかみ砕けば、わかるはずだろう。
「まあその…。俺も憶測なんだろうが、なんで大和がこっちの世界に来たと思ってる?まあ、お前に会いたくて来たってのも理由だろうが、そうした行動原理はおそらく大和がお前にホの字なんじゃないのか?」
「えっ…」
絶句する拓海。こいつはひょっとして朴念仁なのだろうか。それなりに顔も整ってはいるし、女子との交流がないとか言っていたが、それが原因な気がする。あ、俺は中学からおひげが濃かったしおっさん顔なんで、そんなこととかまったくと言っていいほどありませんでしたがね。チクショー!
しかしまあ、てっきり相思相愛な感じで、もうそれなりに進んでいたと思っていたが…まさかこんなところで重大な問題を聞かされるとは思いもよらなかった。
「…まあ時が解決してくれるだろうさ。後は、お前次第だろう」
とりあえずこれくらいしか、俺が言える事はない。むしろ、これ以上首を突っ込むのは、それこそヤボな気がしてくる。
「じゃ、じゃあ…自分は…」
拓海が何かぼそりと言いかけた途端。俺を呼ぶ声が聞こえてきた。この声は聞き間違えるはずもない。
「望ー!ここにいたのね!さがしたよぉ…」
そう声を出して、俺の近くまで走り寄ってくるや否や、蒼龍は息を整え始める。酒が入った状態での小走りは、地味にくるよね。
「で、どうしたー?飛龍は寝ちまったか?」
はははっと笑いながら俺は言うが、蒼龍が顔を上げた途端、どこか真剣というか意味深な顔をこちらへと向けてきたことにより、笑うのを止める。
「はあはあ…。ふう。えーっとね、その…飛龍が望に話があるって…」
*
俺は蒼龍に言われるとすぐに、飛龍と蒼龍の部屋へと小走りで向かった。
あらかじめ蒼龍には、彼女らの部屋カギを受け取っているし、すぐに部屋へと入れる。だが、彼女らの部屋の前で、足が止まった。
―なんだ?二人だけで話がしたい?いったいどういう要件だ?
心の中でそうつぶやく。蒼龍の真剣みをおびた顔からして、おふざけで読んだわけでもないだろう。そう思うと、これまでの自分を振り返りたくもなる。
―そういえば、飛龍がこっちに来た理由は『見極めに来た』だったか。つまり、本日その結果を伝えようとしているのか?
正直忘れかかっていたことだが、これまでどこか飛龍に対して負い目を感じていたのは、これが原因だろう。だが、それ以外だとしたら?
「本人に聞いてみなければわからんよな…。百聞は一見にしかずとも言うしな」
と、まあ覚悟を決めた俺は、一つ深呼吸をすると、部屋の扉を開いて中へと入る。
「おーい、飛龍。きたぞー」
しかしなぜか萎縮しているようで、声が小さくなってしまう。いや、まて俺。なぜ緊張している?そもそも、これまでの事を振り返ってみても、蒼龍に対して何もひどい仕打ちはしていない筈だ。つまり、いい結果を期待すればいい。だが、なぜこうしもこの部屋へと入るのが怖いんだ?
部屋の中は、薄暗くオレンジ色のランプで照らされているだけのようだ。寝ているのか?と、頭にはよぎったものの、そんなわけはなかった。
「あ、来たんだ。提督」
まぎれもなく、これは飛龍の声だ。蒼龍と似ているが、やはり聞き分けれる。これは飛龍の声。間違いない。
「おう、で、話ってなんだ?蒼龍に一人で来いとか言われたけど…酒に付き合えとかじゃないよなァ?」
まあいつものノリで、若干ふざけたように言葉を返す。すると、飛龍もまた「うーん、その手もあったねー。あ、どうせならそこのお酒開けちゃいましょ?」
飛龍の指さした方向には、確かにビール缶が置いてある。どこで買ったんだ?いつの間に?と疑問がよぎったが、それを飛龍が解決してくれた。
「ああ、それキヨさんが買ってきてくれたんだー。と、いうか頼んだのよ」
「おまえなぁ…さっきまで酔いつぶれてたくせに。どういう回復力だよ。俺なら今日は飲む気にならんくらいだったのに」
げんなりしたように俺は言うと、飛龍は「艦娘は強いのよ」と、得意げな顔をした。
「ま、座ってよ。私が出した結論。聞きたくない?」
やはりか。と、俺は納得をする。そして同時に、ついに来たかと決心を固めた。
どうも、飛男です
就活も終わり、今期の抗議も終了しました。おそらく今日から、更新速度も速くしたいと思います。
さて、今回は飛龍が酔ってたり、拓海がいろいろといってたり…と言った回でしたね。
拓海の言葉などは、たくみん2氏自身の提案のもとに書かせていただいたものです。いわく、たくみん2氏はここから始まるとかなんとか…まあ、真相は彼の小説に期待ですね。
次に今後の設定および展開についてですが、活動報告で書かせていただきます。一応、結構思い切った?話を考えており、そのアンケート的な書く予定です。
最後に宣伝じみてしまいましたが、割と迷っていることです。どうかよろしくお願いします。
それでは、また次回に!