提督に会いたくて   作:大空飛男

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今回は短いです。また、蒼龍は今回出番がありません。


国籍と戸籍です!

水曜日には昼休みが終わると、次の講義はゼミとなっている。

 

 

うちのゼミは主に江戸時代の農民制度や暮らしを専門としていて、例えば寺子屋とかの教育制度に、物流云々、さらには各地元農民特有の暮らしに、民間芸能の発展など、様々な見方から江戸時代を解いていくってかんじかな。民間芸能はまあ民俗学にもあてはまって、さしずめ歴史的民俗学ってかんじかな。ここまで聞いてきて眠くなったなら、たぶん理系。

 

ちなみに、うちのゼミは五人しかいない。つまり蒼龍がちゃっかり講義を受けることができないんよね。だから今までは学生証を渡して図書館で待ってもらっていたけど、現在は大滝の家に任せることにした。鳳翔と毎週会えることは、蒼龍にとっても良い気分転換になるかな?

 

「おいーっす」

 

おなじゼミ生である木村と一緒に、俺たちの使うゼミ室へと入る。すでにほか三人は部屋にいて、ホワイトボードに何かを書いていた。

 

「あ、七星に木村。おっすおっす、遅かったね」

 

そう言って出迎えたのは、おっとりとした顔が特徴の井関萩典だ。こいつも木村と同じく、おふざけに徹する事が多い。しかし勉学はかなり優秀な男。人は見かけによらないってこのことだと思う。

 

「おーっす。二人とも何してたのさ」

 

パソコンをいじりながら、ゼミのまとめ役的なポジションの岸井敬太も声をかけてくる。こいつは井関よりもさらに優秀で、その実力はたっけーに並ぶほどだ。そんなたっけーをライバル視しているのかって聞いたことあるけど、全くだと言っていた。競争心がないのは、現代っ子の特徴。

 

「いや、飯とか食ってた。あと、蒼龍を大滝の家に送ってた」

 

一応、ゼミのメンバーは蒼龍が艦これの世界から来たことは全員知っていて、周りに公言しないことも約束している。きっかけは岸井が俺といつも近くにいる蒼龍は誰だと聞いたことが始まりで、口が固いことを前々から知っていたし、思わず喋ってしまった。でも見込んだ通り、今の所みんなは漏らしていない様子。まあ口を滑らせたところで、おかしい奴と思われるだけなんじゃないだろうか。と、最近思い始めたり。

 

「まあそうか。蒼龍はここに来れないしね。高杉さんの事だから許しそうだけど」

 

このゼミの教授は高杉さんという。あ、下の名前は忘れました。正直どうでもいいよね?

 

で、その高杉さんは結構年いってるんだけど、かなりノリがいい。酒が入るともう無敵。手が付けられない。まあそんな教授だからぶっちゃけ特別に蒼龍をゼミ室に連れてくる事も出来そうではある。でも、あくまでもこの人は教授であり、大学の関係者だ。もし蒼龍が無断でこの大学にいることをバラしたら、色々とまずい。どうまずいのかは、まあわかるでしょう。

 

「不確定要素だしねー。まあ賭けはしないさ」

 

「いい判断だと思うよ。無謀な賭けはどこぞの誰かさんみたいに金をスるだけだし」

 

にやにやと岸井は言う。あ、これくらっちの事を言っているんだろうなぁ。あいつパチンコスロット大好きで、よく金をスってるらしいし。でも勝つときは十万くらい勝てるらしい。その可能性はいったい何パーセントなんだろうね。

 

「ところで横川くんは?いないみたいだけど」

 

5人の目のゼミ生である、横山甚平の姿が見えなかった。彼はゼミの中で一番物静かであるが、学科内のやんちゃな奴らとつるんでいるよくわからない奴だ。俺より勉学ができるのは確かだけど、いつものほほんとしている。彼の纏う空気は本当にふんわりしていて、なんか和む。

 

俺の問い掛けに萩典は「あー」と言葉を伸ばして、答えてきた。

 

「彼はね、たしか体調不良で早退したはずだよ」

 

「まじか、まあそれなら仕方ないか」

 

人間だれしも、体を崩すことはある。俺も馬鹿だけど風邪はひくしね。馬鹿は風邪をひかないって言葉は、どこから来たんだろうか。そもそも、馬鹿だと風邪ってひきやすいような気もするよね。あ、馬鹿だから風邪をひいたことがわからないってことなんだろうか。

 

「ところでさ、前から思ってたけど…蒼龍がもしばれて、面倒なことになったらどうすんの?キミ、何か対策立ててるの?」

 

岸井の純粋なる疑問に、俺は思わずうぐっと口をごもらせた。

確かに言われてみればそうだ。今までばれないからやってきたが、もしばれたらその時はどうするべきだろう。蒼龍は本来この国にいない人間だし、警察ざたになったらそれこそ前々から危惧していたように取り返しのつかないことになる。国外追放されるとしても、彼女はどこに帰ればいいのだろう。彼女が生まれた国は、紛れもなくこの国なのだ。

 

「まったくだわ。何かいい案ない?」

 

「いやぁ俺に聞かれても困るし、そんなのあるわけないじゃん。そもそも、彼女艦これの世界に来たんでしょ?何かそっちの世界でできないの?」

 

その発想はなかった。確かに画面を超えるくらいの兵器を開発した明石も居るわけで、そう考えると戸籍や国籍を取ることなんて簡単すぎるんじゃないのか?どうしてそんなことを俺は気が付かなかったんだ。明石なら何でもできそうだ。

 

「岸井お前やっぱり天才だな?おう天才。もしうまくいけば、今度ジュースおごってやる」

 

「いや、君が馬鹿なだけじゃないかな?ジュースはもらうけどさ」

 

岸井はあきれたようにそういうと、メガネをくいっと上げた。

 

「あの、俺。今まで何もしゃべれなかったんですけど」

 

最期に木村が、何とも言えない顔でつぶやいた。

 

 

「えー?蒼龍さんの国籍と戸籍登録ですか?」

 

蒼龍を拾い家へと帰り次第、俺は明石を旗艦にして早速聞いてみる。まあさすがに明石もそこまではできないだろうけど、ダメ元で聞いておきたかったんだよね。

 

「そう。蒼龍をこの世界に人間として認可されるために必要な物。むりそう?」

 

『あの…提督。私の事、便利屋だと思ってません?さすがに私はできませんよ』

 

まあそうだろうね。さすがに個人情報の増設みたいなことはできないだろうさ。そもそも国はそういう事しっかりしているだろうし、抜け穴なんてなさそうだ。

 

「ごめんよ。これだけのために旗艦にしちゃって」

 

『え?あ、はい。まあ私はできないって言いましたけど。よかったんです?』

 

…え?つまりお前はできないけど、ほかの奴はできるってこと?ちょっとまて、そんな簡単に行くわけないだろう。コエールくんを開発した我が自慢の鎮守府とはいえ、さすがにそれは…。

 

『きっと大淀さんならできると思いますよ。あの人情報面には強い方なんで』

 

どうやらうちの大淀は、凄腕ハッカーだったらしい。いや、んなわけあるか。でもメール回線の件を詳しく聞いた際、大淀の名前は確かに浮上していたし、まさかとは思うけどそのまさかなの?

 

「ちょっと大淀に変えてみるわ」

 

俺は明石から大淀に旗艦を変えてみる。実は、今回初めて大淀を旗艦にした。…と思う。

 

「大淀、聞こえる?」

 

『はい。感度良好です。聞こえていますよ』

 

透き通るような声である彼女は、まるでオペレーターみたいだ。話がそれるけど、『あなたならできるわ』とか言ってほしい。でも金髪じゃないから、効力は半減するかな?

 

「う、うん。あのさ、大淀もしかして蒼龍の戸籍や国籍をどうにかできちゃうとか…そんなわけないよね?」

 

俺はおそるおそるクリックをして、大淀の返事を待った。つもりだけど―

 

『え?あ、はい。お任せください。時間はかかると思いますけ―』

 

「はいアウトぉおおおおおおお!」

 

思いのほかすらすらと答えやがった。ちょっとまて、そんなあっさりなの?もうちょっと溜めると思ったわ。いや、お前マジで情報戦とかできちゃいそうだな。最近偉大なるなんとかーとか言っている奴らに、サイバー攻撃できそうじゃん。

 

「はぁ…。これまでどうして俺は、お前にその事を聞かなかったんだろうな」

 

頭を抱えて、俺は言う。今までどうにかして蒼龍を公然の場へとバレないようにしてきたつもりだけど、そんなあっさり終わるとは思わなかったわ。いや、てか普通できるわけないわ。艦娘ってホントなんでもできるな。

 

『あ、今私たち艦娘は、なんでもできるかと思いました?私にもできないことはありますよ』

 

おまけに心を見透かされたようなことを言われるし、ひょっとして一番艦娘で怖いのってこいつなんじゃ…。さすがは裏ボスと言われたことだけはあるな!このネタわかる奴は古参だな!たぶん!

 

「あーうん。で、時間ってどれくらいかかる予定だ?」

 

『はい。計算上ですと、約4日ですかね。正確に言うと、国籍と戸籍情報にアクセスして、その偽装工作に1日。反映されるのに3日と言う事でしょうか。お先に聞かせていただきますけど、蒼龍さんの偽名、生年月日や出身地、家族構成などはどうなさいます?特にないのなら勝手に決めさせていただいて、後日蒼龍さんのメールアドレスに送らせていただきますが』

 

なんかもうどうでもよくなってきた。とりあえず偽名は蒼柳龍子で年齢は19歳。出身地はここら辺で、住所は家に。誕生日は蒼龍の着工日をつかって、11月20日だろう。あとは大淀さんに任せておけばいいと思う。

 

「とりあえず詳しいことはメールで送るよ。それにしてもお前すごいね。間宮さんを上げよう」

 

恒例の間宮さんを、大淀にあげてみる。さっそくぴかぴか光り始めて、嬉しそうだ。

 

『わっ、もったいないですよ…。私はその…職務を果たしたまでですので…』

 

そんな職務はない。と、言うかむしろ職権乱用だわ。ぶっちゃけこのことがばれたら、罪をほのめかした罪に問われるだろうけど。ってそう考えると、いろいろと俺の人生がまずい。

 

「なあ、念のために聞くけど…うちのネットワークを使ってやるとかじゃないよね?」

 

『あ、その点はお任せください。こちらではこちらのネットワークを使わせていただきますので。おそらく国に特定される心配もないと思います。お任せください』

 

高揚した言葉で言う大淀の、得意げに言う顔が目に浮かぶ。正直このこ、割とタイプだったりもした。当初はね。

 

「なんか…すっげぇ事解決しちゃったなぁ…」

 

現状最も頭を抱えていた問題が、いとも簡単に解決してしまった。いったいどうやるんだろう。気になるけど、これ以上の詮索はいけない気がする。それこそ国に消されかねん。

 

まあ、俺は文系だし、そんな呪文みたいなことを大淀に教わっても、わからないだろうけどね。

 

 




どうも、飛男です。
しばらく割と真面目に書いていましたが、今回は初心に帰り、無心で書いてました。明石もすげぇ奴なら、大淀もすごい奴というなんとあいまいな理論。つまり、この話は深く考えない方がいいと思います。まあ、国籍戸籍ってすごい重要ですし、取得をするのも大変なんですよね。おそらく蒼龍がそれらを取ることは、ほぼ現実的に考えると無理だったでしょう。たぶん。むしろ良い案があったら、教えてください。

次回はちょっとバトルチックになるかも?未定ですけどね。

では、また次回にお会いしましょう。

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