また、最初の方にはちょっとしたプラモデルの小技も書いてあります。一応安易な説明が書かれていますが…。
パチリと、ニッパーでランナーを切った音が響く。
ランナーから切り落としたパーツのバリを、俺は鉄ヤスリで削り表面をなめらかにする。バリの残ったパーツなど、俺のモデラー美学に反するからね。
まあおおよそわかるとは思うけど、現在俺と蒼龍はプラモデルを作っていた。
事の発端は、汚くなった部屋を掃除している最中、蒼龍が積んでいたプラモデルを見つけたからである。彼女は見つけ次第「なんですか?これ」と俺に聞いてきて、俺はまあ説明するがてらかつて作ったプラモデルを見せていたら思いのほか話が弾んで、こうして2人で作ることになったわけ。
まあ昔からプラモデルを作ることが趣味ではあったんだけど、最近忙しくて作る機会がなかったんだよね。素組み(塗装もせず、ただ単に組む事)派では無い俺は塗装とかにもこだわる訳で、いつも時間がかかり過ぎちゃう。あ、因みに積んでいたプラモデルはガンプラだ。最近色々熱かったよね、ガンプラ。次元覇王流とか。
「むむむ。なかなか奥深いですね。プラモデルって」
蒼龍は真剣な表情で、ランナーからパーツを切り落とす。今回蒼龍はとりあえず俺が作るのを見てみたいと言っていたので、アシスタントを任せていた。因みに蒼龍が作って欲しいと渡してきたのはマラサイ。積んであった中で、なんか気に入ったらしい。かっこいいのは認めるが、目を止めれる様な機体では無い様な…。
「望さん。でもこんなにパチパチ切っていいんでしょうか?説明書通りに作らないのですか?」
黙々と切ってる蒼龍は、俺に問う。まあ、説明書通りに作るのもアリなんだけど、作り慣れてたらいらないんだよね、説明書。大体どういうパーツかわかっちゃうし。
「まあ加工とかパーツ全て切り取っておけば楽なんだよね。とりあえず今回はただ組むだけだけど…や〜っぱり気合い入っちゃうんだよ」
ともかく素組みだけでも、せめてスジ彫り(装甲などのつなぎ目を針などでなぞり、削る技法。モールド彫りとも言う)やモナカ(パーツの繋ぎ目を接着剤で合わせて無くす技法。合わせ目消しとも言う)をやりたくなってしまう。完成度が高ければ高いほど、作った時の達成感も凄いしね。
「そういえば…私はこの「まらさい」が気に入りましたが、望さんはどんな機体が好きなんです?」
パチパチとパーツを切りながら、蒼龍は問う。お、気になっちゃう?そうだなぁ。
「ジム・ガードカスタムかな」
ヤスリがけを満遍なく行い答える。盾本体とか言ったやつ、ガベゲロビに焼かれてしまえ。
「へぇ。どんな機体なんですか?名前からしてゴツゴツしてそうです」
「うーん。ゴツゴツというか、ただでっかい盾持ってるジム。でも、それがかっこいいんだ」
いくつもの複合金属を重ね合わせたガーディアンシールド。男のロマンが詰まってる。設定では一年戦争時最も生存率の高い機体だったとか。わかる人にしかわからない。
「私はまだがんだむをよくわかって無いですから、もっと気にいる機体がいるのかなぁ」
まあそもそも女性がガンダムに興味を持つって相当だとは思う。艦娘は案外背負ってるものが機械だから興味を示しやすいのかもしれないけど、どうせ明石とか夕張とか、メカに強い奴らが主になると思う。つまり総じて言うと、蒼龍がガンダムに興味を持つことに純粋な驚きを感じている訳。
しかも、積んであるプラモには一角獣やライオンを象ったチート機体や、羽に細身の関節金ぴかガンダムとか、粒子をばら撒く俺がガンダムだ機体とかあったのにもかかわらず、マラサイを選ぶ蒼龍に多大ないるセンスを感じるわ。
「俺も聞きたいけど、なんでマラサイを選んだんだ?かっこいいけどさ」
「かっこいいのも確かですけど、やっぱり頭の兜が気に入りましたね!それと籠手も渋いですし、何処か武士って感じがします!」
なるほど。つまりマラサイにどことなく漂う和を感じ取ったという事か。と、なればイフリートシリーズも好きそうだ。わかる人にしかわからないネタばっかり。
「よいしょっと。これで全てパーツ切り終わりましたー」
最後のパチリと言う音を響かせ、蒼龍は床から元俺のベッドへと腰掛ける。現在俺はまあ床で布団を敷いて寝てるのだ。一緒に寝ることはありませんでした。さすがに自重しています。
「さてと、とりあえずモナカが必要なパーツはあらかじめ組んでおいたけど、くっつくのに時間もかかる。よければプラモデルでも見に行くか?」
まあモナカの事を考えると本来三日くらい
「あ、行ってみたいです!私の気にいる機体、あるかもしれません!」
「まあ全ての機体が出てるとは限らんけどね。それなりに多いから、気にいる機体も見つかるんじゃないかな?」
*
車を走らせ、俺たちは近くの家電量販店へとやってきた。
本当は模型屋やおもちゃ屋の方が良いんだけども、家電量販店は品揃えが豊富で、定価よりも安くなっていることが多い。まあそんな家電量販店が増えてきて、模型屋やおもちゃ屋が廃れていってるのは、事実だったりもする。だから本当は、それらの店に行った方が良いんだよね。寒い時代になったもんだ。
さて、店の中へと入った俺たちは店内の軽快なBGMを体に受けつつ、プラモデルコーナーへと向かっていく。途中蒼龍が円盤みたいなお掃除ロボットを不思議そうに眺めていたが、まあそれは触れないでおこう。
「うわぁ。いっぱいあるんですねぇ。プラモデルって」
蒼龍は早速ガンプラコーナーまで歩いていくと陳列棚を見下ろす。確かHGシリーズは200機くらいあって、MGシリーズは260機くらいある。まあMGはリメイク版も多いから若干多いけど、実際はHGの方が種類が多いんだっけか。
「望さん、このえっちじいとえむじいの違いはなんですか?大きさしかわからないです」
早速その違いについて聞いてきたか。折角だし教えてあげよう。と、その前に。
「え?なんだって?MGと何G?」
「その、えむじいとえっち…」
復唱して蒼龍は感づいたのだろう。顔を真っ赤にして、ぽこすかと俺を叩いてきた。初心だなぁ。
「はいはいごめんごめんって。ちょっとからかっただけだって」
「しょーもないからかい方やめてくださいよー!もう!キライ!」
あらら、拗ねてしまった。頬を膨らませて、不機嫌さをアピールする蒼龍も可愛い。ほっぺ突っつきたいな。
「はい。それでまずHGだけど正式名称はハイグレード。まあ約12cmの大きさで、さっきのマラサイもそう。手軽に作れて、コレクションしやすいキットだね」
初心者入門にもオススメで、パーツ数の割に稼働域も高かったりする。また旧キット(過去に作られた色分けされてないガンプラ)と違って接着剤はいらないし、何より色分けされていることも大きい。
「じゃあ…えむじいとの違いはなんですか?」
むすっとした調子で、蒼龍は問う。まだ不貞腐れてるよ。
「あー。MGはマスターグレード。大きさは18cmくらいで、HGより大きいんだ。その分細部まで再現されてて、こだわりがある人はこのキットを買う人が多いね。コレクション性はHG。精密性と再現率を求める人はMGって感じかな」
もちろんMGはその分高いんだよね。HGが600〜2000円くらいが目安の値段だが、MGは2000〜5000円くらいとなかなか値がはる。
「って、機嫌なおしてくれよ」
まだまだむすっと頬を膨らませている蒼龍。可愛いけど、ちょっと面倒だ。
「じゃあ、撫でてくれてら許します」
俺はどうしようかと心の中で唸っていると、蒼龍が解決策を提示してきた。いや、まあそれは構わないんだけど、周りの目がね。近くにはガキどももいるし、ちょいときつい。
「後でで良いかな?」
「嫌です。いま、ここで」
おいおい強情なやつだな。意地になってるぞこれ。
「はぁ…じゃあまあ…」
このままではラチがあかないので、とりあえ優しく撫でてやる。しかしまあ、綺麗な髪だ。
「んふふ、良い気持ちです。気分が良くなりました」
どうやら許されたようだ。撫でると機嫌が良くなるスイッチがあるらしい。乙女スイッチの亜種だろうか。
「あー!にいちゃんとねえちゃんイチャイチャしてるぅ!ひゅーひゅー!熱いねぇ!」
案の定、キッズが俺たちのことを冷やかしてきた。最近のキッズは部をわきまえない。おのれキッズ。照れるからやめろ。
「はぁ…それで、HG?MG?どうするの?入門ならやっぱりHGだと思うけど」
「わかりました!じゃあそうですねぇ…」
蒼龍は棚の前でしゃがみ込み、じぃっとパッケージ箱を見つめていく。因みに今日はズボンを履いている蒼龍。ラッキースケベなどない。いらない。
「あ!これはどんな機体でしたか?」
そう言って蒼龍はアンクシャの箱を指差す。色合いが気に入ったのだろうか。確かに色合い、君と被るね。
「アンクシャ。ガンダムUCっていうタイトルに出てきたやられ役。かっこいいけどやられ役」
「やられちゃうんですかぁ…。可愛いのになぁまるくて」
可愛い?何を言っているのこの子。どこが可愛いんだ?可愛いというかかっこいい部類に入る気がするぞ。蒼龍の思考が、俺にはよくわからん。
「あ、じゃあこれは?」
今度リックドムⅡの緑か。お前絶対色で選んでるだろ。
「それもやられ役。てかなんでそんな微妙な機体をチョイスするんだチミ」
「うーん。とりあえず可愛かったり強そうな奴選んでます!」
リックドムⅡが可愛いかどうかは知らんけど、なんという曖昧な選び方だ。ってまあ蒼龍も俺がたまに見ているガンダムを横で見ているだけだし、仕方ないか。
「それじゃあこれはどうでしょう!」
次はギラ・ズールか。まあこいつはいいキットだった印象あるし、初めてのキットにしては十分かな。てか蒼龍はジオンスキーなのかな。
「やっぱりやめます。ちょっとビスマルクさんやプリンツちゃんを思い出しますし」
なるほど。まあ確かにジオンはドイツ軍がモデルだったはず。だからあの二人を思い出すのも、なんとなくわかるな。ちなみに連邦は、フランス軍がモデルだとか。
「かわいいか…んじゃあこれは?」
そういって、俺はアッガイのキットを手渡してみる。ガンダムのアイドルと言えば、まずこいつでしょう。
「あー。うん。なんかエイリアンみたいですね。熊型エイリアン?」
そういう発想はなかった。てかエイリアンってなんだよ。頭の形状だけしか判断してないやろ。
「これはどうです?強そうですよ」
ドーベンウルフとはまたまたコアな奴を…。いや、すっげぇ好きだよドーベン。ジオン系機体ではトップレベルに好きだよ。でもそいつ、わりとマイナーなんだよねぇ。
「ドーベンか。まあいいんじゃないか?劇中でもかなり頑張ってた機体だし、弱くはないよ。てか強い弱いで判断するの?」
「はい。だって強い方がいいじゃないですか。それにこのどーべんうるふ、顔の赤いところが可愛くないですか?」
赤いところ固定なの?てかなんだろう。この女子高生はとりあえずかわいいとか言ってればいいんじゃね的ノリは。蒼龍が本当はいくつか知らないけどさ。あ、ひょっとして若葉に変なこと吹き込まれたのか?
「それでいいの?」
「そうですね。この機体が気に入りました。早速買いに行きましょう!」
蒼龍はドーベンウルフの箱を抱えて、鼻歌交じりで歩いて行く。やれやれ、やはり女はよくわからないな。
一応俺も陳列棚をすばやく一通り目にすると、先走った蒼龍を追いかける。あいつはお金、持ってないからね。
それからしばらく歩くと、蒼龍がある一角の陳列棚を食い入るように見ていた。あの棚は…。
「軍艦の棚…か」
これこそ興味を持たないのは、無理な相談だろう。そもそも彼女たちは空想の機械ではなく、実在した兵器を模しているからね。いわばあそこに並んでいる船の数々は、すべて知り合いのようなものだ。一部を除く、海外艦以外ね。
「気になるか?軍艦」
「あ、望さん…」
肩に手を置くまで気が付かなかったらしい。蒼龍はあたふたとして、ドーベンウルフをぎゅっと抱えた。
「…自分のプラモデルが、気になるのか?」
言うまでもなく、蒼龍が食い入るように見ていたのは、まさに航空母艦『蒼龍』であった。それなりにでかい奴で、お値段も張る。
「えへへ…気になるというか、懐かしいなって」
「なるほどね…。罰当たりだと思うか?」
実は、前々からこれは思っていたことだ。仮にも日本を守るために華々しく戦った船たちで、後世に残された俺たちは一つ一つに敬意を表さなければいけないだろう。だからこそ、このようなキットは存在していいのかどうか、俺にはわからない。
「…むしろ私はうれしいですよ。本当に」
だが、蒼龍から帰ってきた言葉は、意外にも称賛に価した言葉だった。
「むしろ、私たちがこうしてかつて戦ってきたことを忘れられてしまうのが、怖いですね。一番悲しいのは、忘れられる事…だから、それを形として残そうとしてくれることは、純粋にうれしいかなって」
「蒼龍…。ああ、そうだな。その通りだ」
死とはすなわち、存在そのものを忘れ去られることだと言う説がある。だが、こうしてどのような形でもその存在が確立していれば、それはいまだ生きているのかもしれない。だからこそ、蒼龍はこうしてここにいるのだ。
「あっ…望さん…」
俺は思わず、蒼龍を撫でてしまった。俺にとってこれは、もう愛情表現の形の一つなのだ。そもそも好きな奴じゃないと、こんなことできるわけが無い。
彼女もまた、それをわかっているのだろう。安心したような、また落ち着いたように目をつむりながら、ただ撫でられている。
「あー!まーたにいちゃんとねえちゃんがいちゃいちゃしてるぅ!お熱いこったー!あはは!」
だが、そんな俺たちの空気を、さきほどのキッズがぶち壊してきた。俺たちは言わずと、気まずい雰囲気になる。このクソガキ、いいタイミングで沸いてきやがったなぁ?
「こら!見ちゃいけません!おほほ…すいません…」
すると、キッズの親らしき人物がキッズの口元をふさぎ、キッズを陳列棚の一角へと引きずっていった。親もちゃんとキッズを見ていてください。迷惑です。いろいろと!
「あ、はは…さっさとドーベン買うか」
「そうですね…あ!」
気まずい空気を打開すべくさっさと購入しようと俺は蒼龍に提案したが、蒼龍は何かを思い出したかのように、声を上げた。
「望さん!これ買いましょうよ!」
そういって、蒼龍は先ほどの『航空母艦蒼龍』を指さす。
「え、えぇ…。いやまあその…俺軍艦苦手で…」
軍艦系はガンプラなどと比べ物にならないほど手間と時間がかかる。おまけに難しいったらありゃしない。基本筆モデラーの俺には、ずいぶんときついキットなのだ。
だが、蒼龍はお構いなしに、俺に言い寄ってくる。
「いいですか?苦手は克服することができるんですよ?そんな器用じゃないとか、難しそうとかじゃダメなんです。何事も挑戦ですよ!ちょ・う・せ・ん!」
なにいっぱしのモデラーみたいなこと言ってんだこの子。と、まあ的を射ているので宮の字も出ないですはい。
「うごご…わかったよ…。ウォーターラインシリーズ(軍艦系の定番キットシリーズ。船底がない)でいいよね?」
と、まあこんな調子で、蒼龍のキットを買いましたとさ。
どうも、飛男です。
今回は割とやらかした作品に。わからない方はちょっとつまらない話だったかもしれませんね。それはすいません。ちょっとやってみたかった話でしたので。
しかしまあ国民的アニメなガンダム。多くの人が興味を持ってはいると思うんですよね。つまり、望もそんな類です。
では、今回はこのあたりで、また今度!