名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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のろのろしてたら遅くなりました。
量少な目ですけど、つづき。










二巡先 嘘と真実②

 

 

 

お水の下り云々を終えて、事務所へ。

外に出て体が冷えてしまったから、軽くお湯を沸かすことにした。

 

「失敗せんといてな、竜華」

「う、うん」

 

竜華は拾ってきた薪に新聞紙を巻き付けた。

火の素は、マッチの火。二、三回擦ると、ぱっと火花を散らして、ふんわりした煙の匂いが鼻をくすぐる。

竜華は、なかなか火をつけられんみたいや。

 

「下手やなぁ」

「お湯沸かすのにマッチとか使わんで普通…」

「貸して。一本も無駄にしたくないんや」

 

シュ、それからボッ。

何回もお世話になったから、タイミングは完璧やと自負しとる。

 

「へぇ~…」

「どしたん?」

「いや、上手いもんやなぁって」

「こんくらいはな」

「これくらい器用なら、自炊だってなんとかなるやろ。あ、そういえば、自炊の話!!」

「?」

 

新聞紙は、あっという間に灰になって、螺旋状に空に舞い上がる。

十分に木が熱を持ってくれたのを確認してから、簡易版キャンプファイアーを作って、その上に小さな鉄板を乗せる。

あとは、やかんをスタンバイ。もちろん水は、小川の美味しいお水や。

 

「いや、だって冷蔵庫がないから自炊できんって話やなかったん」

「そんなこと言ってないで?」

「じゃあなんやの」

「単純にウチが料理できへんだけの話やで」

「そんなに?」

「大根切ってみたら、一切れしか残らんかった」

「いや、どういう切り方したらそうなるんや」

「思いのほか不器用やったみたい」

 

皮剥いたらほとんど実がなくなるし、切ったら切ったで形ぐちゃぐちゃになるし。

剥かずに切らずに食べた方が、無駄がないし、いいなと思った。

 

「相変わらずやなあ。怜はダメなことはとことんダメやね」

「冷蔵庫はできたんやけどなあ。あれは作るの楽しかったから頑張ったで」

「自炊も同じ感じで頑張って欲しかった…」

「頑張れんな。今んとこは、何か食べられるものがあればええし」

「まあ、しばらく宮永さんに報酬でもらった食事券があるんやろ?」

「その券が尽きる前に新しい依頼がないと、また生死の境をさまようことになるなぁ」

「むちゃくちゃな生活しとるな怜……自転車操業もええとこや」

「…せやな」

 

じわじわと、やかんの口から白い靄が見えてきた。

そろそろお茶やな、と言おうとしたら、竜華が何が言いたげな顔でこっちを見とるのに気が付いた。

もしかしたら、ずーーっとさっきから見とったのかもしれん。

 

「…なぁ、怜」

「ん?」

「もし、怜がその気なら―――」

「ええ」

「…まだ何も言ってないやん」

「ウチはこうして生きていくことを決めた」

「決めたって、他に選択肢がなかっただ――――」

「竜華」

「…………」

 

そうしてるうちに、蓋が、ポカポカ音を立て始めた。

水蒸気が外に出たくて出たくて、仕方がない音や。

 

「……怜、いつでもウチを頼るんやで」

「ありがと」

「よっしゃ!辛気臭い話は終わり。怜、今日もお花持ってきたで!」

「えーまたお花持ってきたん?」

 

ちなみに、竜華は花屋を自営しとる。フラワーショップの店員さんちゅうやつや。

やからたまに余った花を事務所に持ってきてくれる。

 

「ええやん、何もない事務所なんやし、ちょっと色を添えてやらんと」

「ウチは色気より食い気やな。花より団子派っちゅう諺があるやろ?」

「怜らしいなあ…ま、飾らせてや」

「ええよ、好きにしてーな」

「おおきに、毎度っ!」

「って金取るんかい!」

「ふふっ、うそうそ!」

 

2人して、お茶を飲む。

近くで汲んだ水を、ぼっろいやかんでわかしただけの、何の工夫もない飲み物やけど

その暖かさは、不思議と身体に染み入ってきた。

 

「こうなると、甘いものが食べたいなー竜華なんかないん?」

「アンタついさっき『何か食べられるものがあればええ』とか言うとったやん」

「そうやっけ?」

「調子ええなぁ…ま、実はとっておきがあるんやけどな」

「えっ、ホンマ?」

「ホンマホンマ」

 

とっておき……羊羹?最中?はたまた栗きんとん?いや、そこは変化球でどら焼きとか?

もしかしたら洋菓子かもしれん、ショートケーキ、シュークリームは鉄板やな。もしくは、プリンか――

いや、この際甘ければなんでもええ。

「どんだけ甘いもんに飢えてんねん」

「えっ?」

「声に出とるで」

「ホンマに」

「ふふっ、残念ながら、食べ物じゃないんや」

「なんやそれ。けど、ウチにとってええモンなんやろ?それだけニヤニヤしとるってことは」

「あ、そんな顔しとる?」

「しとる。で、なんなん?」

「えーどうしよっかなー…」

「……」

「教えてほしい?」

 

立ち上がって、ウチの顔を覗き込んで得意げな顔をする竜華。

これが竜華の精いっぱいの意地悪やと考えると、なんかかわええな。

 

「…教えてほしいでーす」

「仕方ないなぁ。怜がそこまで言うなら…」

「竜華がもってきたスペシャル知りたいでーす」

「こほん…それじゃ、竜華スペシャル参ります」

「いよっ」

「これそのものは…食べ物じゃないんや。けど、これは金を、生む話や、つまり―――」

「―――『依頼』や」




ちょっと最近忙しめなので、また次話は時間のできたときに。




名探偵怜-Toki- 情報ファイル これまでの登場人物1

【園城寺 怜(おんじょうじ とき)】 
職業:探偵 西地区の探偵

事情があって少しお金に執着がある。やや病弱。あまり活発には動けない。
基本的に手先は不器用で絵が壊滅的に下手くそ。頭の回転は非常に早い。

備考:人の心理を読み、言動の矛盾を考察しながら犯人を推測する。プロファイル型。推理も得意。

持ち物
手袋、ルーペ、手帳


【清水谷 竜華(しみずだに りゅうか)】 
職業:フラワーショップ店員(自営)

怜の幼なじみ1 
病弱な怜を心配している。よく世話を焼き、探偵業を助けてくれる。



【宮永 咲(みやなが さき)】
職業:学生

File1で初登場。殺人の容疑で誤認逮捕されるところを怜に助けられる。
何か悩みをもっているようだ。

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