名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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解答編。自然と、会話文が多くなってます。
基本的に、このシリーズは読みやすさ重視で行こうと思っております。サクサク感って大事。


一応、これまでの事件メモを貼っておきます。
怜ちゃんの手帳みたいなもの


★事件関係者6名

彼氏…………女Aの恋人。店の常連らしい。今日も彼女とスープスパを食べに来てたって言うてた。

女A…………以下彼女。【被害者】。同じく常連。死因は毒殺。死亡推定時刻はさっきだって聞いたで。

強女…………命名ウチ。この店に来るのは初めてらしい。無料のポスターに釣られたんやろなあ。うまそうに食いおって。 気が強そう。

弱女…………確か名前は【宮永咲】。制服着てるからたぶん学生。ご飯ついでに、のんびりと本を読みに来てたらしい。

マスター……男。この店の責任者で、マスター。人の良さそうな顔しとるわ。

怜………ウチ。


★粉チーズ使用の順番
強女→宮永咲→彼女(→彼氏?)

★店内図
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
           ↑向きにカウンター
         ○|【強女】|○|○|【宮永咲】|○    返却口
入 【怜】 
口                                                                        調理場                                   【マスター】
                                            
        「  |  」「【彼女(死亡)】|【彼氏】
              
           二人づつ座れるテーブル席      ドリンクバー トイレ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



一巡先 心の鍵⑤

「あのな、お前。調子に乗るのもいい加減に―――――」

 

「さて、まずは凶器の話からいこか」

 

「人の話を聞け!」

 

 

刑事さんは、私の腕を離す。

 

手錠を素早くホルダーに戻すと、園城寺さんに詰め寄った。

 

 

「いいか。自称探偵とやら、お前の脳内で勝手に存分にやる分には構わん。けどな、こちらの仕事に手を出さないでくれよ」

 

「さよか。じゃあ存分に話せさせてもらうわ。毒物は水溶性のカプセルに仕込まれとった」

  

「カプセル、そうかもな」

 

「それも熱に弱い奴や。鑑識に回せば分かるやろ」

 

「一体、宮永はどこでそんなものを手に入れたんだろうな?」

 

 

忠告を終えた刑事さんは、園城寺さんの方を見向きもせず応えて、仕舞ったばかりの手錠を、ジャラジャラと鳴らして見せた。

 

堅そうに見えて、実は感情がハッキリと出るタイプなのかな。聞く気すらないって態度がありありと見受けられる。

 

でも、いきなり現れた第三者(?)が、自説を展開し始めたら気にも障るよね。

 

それでも、そんな弘世刑事を他所に、園城寺さんは構わず続ける。

 

 

「普通、水溶性のカプセル言うたらな……水に完全に溶けるのに10分以上かかるんや」

  

「けど、アツアツなスープなら話は別や。入れてから2、3分もすれば溶ける。溶ける前に食べ終わるいうことはない」

 

「一口目、スープをすすって、二口目、パスタ食うたら、三口目以降、毒入りスープスパで……ご臨終や」

 

「……それでどうした。宮永が犯人ということに変わりはない」

 

「宮永咲、お前を殺人容疑で逮捕す―――」

 

 

かけられちゃう―――――そう思ったその瞬間。

 

 

「っっっから、待てやゴラぁ!!」

 

 

唐突な、ヤンキーセリフに、その場の全員の動きが止まった。、

 

見た目のとのあまりのギャップに、私なんかコンマ数ミリ宙に浮いた気がする。

 

お、おトイレいきたくなっちゃうよぉ……

 

 

「なっ、なんだその口の聞き方は!」

 

「……あっ。ま、間違えた。間違えました。待てじゃない。違います」

 

「待ってくれませんか。えっと、お腹がついて、イラついて、つい……出来心なんです」

 

「出来心って、私の中では、むしろ犯人が使う印象なんだが……万引きとか痴漢とかな」

 

「…………」

 

 

 

黙る園城寺さん。

 

し、心配になってきた。こんなことになって、逆に私の立場が悪くなったらどうしよう。

 

園城寺さん~~~~~~~!!! ううぅ、でもここまで来たらもう後には引けないよぉ。

 

 

 

「こほん。気を取り直していくで。彼女さんを殺せたのは……宮永さんだけやない。むしろ宮永さんが殺すはずがない」

 

「………」

 

「彼女さんを殺したんは―――【強女さん】。アンタや」

 

「何?」

 

「!?」

 

「えぇっ!!?」

 

「は、はぁ?! 何言ってるの? 意味分からないんだけど」

 

「園城寺……お前、ちゃんとした根拠はあるのか」

 

「まぁ……八割くらいはな」

 

「なんだその曖昧な数字。お前、もしそれが間違ってたら名誉毀損で訴えられかねんぞ」

 

 

 

根拠八割って聞いたことないよ。だいたい、探偵が皆の前で謎解きをする時って

 

最後の最後まで見つからなかった証拠を、ようやく見つけて、謎は全部解けたとか言って解決編が始まるものだって

 

私ですら知ってるのに、八割って、残りの二割は分かってないってこと?!

 

 

 

「そうよ、こんなの名誉毀損以外の何物でもないわ。無実の私を犯人扱いして……許せない」

 

「だいたい、もし私がそのカプセル? かなんだか知らないけど入れたとしてさぁ」

 

「宮永さんの器に入ったら意味ないじゃん。粉チーズの使った順番考えたら分かるじゃん」

 

「そうだ。園城寺は、食事をしていないから頭に入ってないとは思うが、チーズは最初に強女、宮永、そして被害者の順だったんだぞ」

 

 

★粉チーズ使用の順番

強女→宮永咲→彼女(→彼氏?)

 

 

「これだと、私が毒を粉チーズに入れたとしたら、宮永さんが死んじゃうんだけど~?」

 

「入らへん」

 

「は?」

 

「宮永さんのスープスパには入らへんように、一つアンタはちょっとした仕掛けをしたんや」

 

「………仕掛け?」

 

「マスターさん、確認やけどこの店のオススメな食べ方は、チーズたっぷりかけることやろ?

 お客さんは、だいたいの人がたくさんチーズ使うんよな?」

 

「は、はい。たっぷりかけられる方が多いと思います」

 

「そっか、ありがとな」

 

「で、話を戻すけど、この粉チーズは市販のやつや。この蓋には特徴がある」

 

「特徴?」

 

「それは――――――穴が二種類あることや」

 

「ああ……確かに、ある。検証の時に、それは気が付いてはいたが……」

 

 

いつの間にか、刑事さんも真面目に話を聞いている。

 

園城寺さんの推理に、意外と興味があるのかな?

 

 

「一方はカプセルが通るサイズの、大きい半月型の穴、もう一方は通らん小さい丸い穴。好みによって入れる量を調節できる便利な蓋やな」

 

「これで強女さんがカプセルを缶に仕込んでも、宮永さんが小さい方の穴を使えば器に入ることはないで」

 

 

なるほど、確かにそれだったら、私の器にカプセルは入ることはないね――――って、えっ? 確かに理屈ではそうだけど……

 

 

「……ぷっ、っ……くっ、あ、あは、あははっははっははははっ!!」

 

「な、なにそれ……超お腹痛い。そんなお粗末な推理初めて聞いたわ。そこらの三流推理物でも、もっとマシな見解見せるわよ?」

 

 

手で口元を覆ったかと思ったら、強女さんは失笑していた。

 

途中で堪えきれなくなったのか、周りの目も気にせず、ついには大爆笑し始めた。

「あははっ、ごめんね? あまりに机上の空論だったから。じゃあ聞くけど、例えば、もし宮永さんがチーズいっぱいかけたいって思ってたらどうするの?」

 

「というか、そもそもこの店のオススメの食べ方はたっぷり目にかけることなんだけど」

 

「カプセルが入って、宮永さんが死んじゃうじゃない。それとも私は五割の確率に賭けたとでも言いたいわけ?」

 

「いや、五割以下の確率ね。この店の決まった食べ方なんだから、普通たくさんかけるわよ」

 

「あるいは、私は彼女さんだろうが、宮永さんだろうが、誰でもいいから死んじゃえって思ってる無差別殺人者ぁ?」

 

「最もな言い分やな。だから、アンタは宮永さんに言ったはずや。『小さい方の穴』使ってくださいって」

 

「……呆っれた。こんなひどい推理にこれ以上付き合ってられないわ。ねえ、宮永さん?」

 

「は、はい……」

 

 

私ですら、机上の空論じゃないか……と、そう思ってしまう。

 

私や強女さんだけじゃない。現時点で、園城寺さんの言ってることに納得してる人は、この場に一人もいなかった。

 

 

「宮永さん、缶を渡すとき、私そんなこと言ったかしら? 『小さい方の穴使ってねー』って言った?」

 

「言われて…………ないです。そのとき別段、不自然なやり取りはありませんでした」

 

「まぁ、ウチは実際にその場面を見たわけやないしな。聞く限り、不自然なやり取りはなかったみたいやな」

 

「アンタねぇ。人を馬鹿にするのもいい加減に――――――――」

    

    ・・・・・・・

「けど、自然なやり取りはあったはずや」

 

「え?」

 

「『小さい方の穴使ってくださいね。大きい方使うと毒が入って死んじゃいますよ』 なんて直接言うアホはおらへんよ。例えば」

 

「『ごめんね、私使いすぎちゃった』とか。『ちょっと残り少ないみたい』とか」

 

「『今日は開店記念日だから、チーズが足りないみたいだねー』とか」

 

「っ!!」

 

「あっ……」

 

 

ええと……

 

確かに、言われたかもしれない…? どうだったっけ。

 

その時の記憶を、私は頭の中で再構成してみる。

 

左隣でチーズを使ってる強女さんを横目に、もうすぐ食べられるって思って携帯電話をたたんで、それから――――

 

 

「粉チーズを順番に回したっちゅうことは、スープスパはほぼ同時にテーブルに来たはずや」

 

「確かに……私も、今思い出しました。ご四方、ほぼ同時にお出ししたと記憶しています」

 

「ということは粉チーズを使うタイミングも同じ。強女さんが使って、宮永さんが使ったら

  すぐに彼女さんと彼氏さんに渡したはずや」

 

「宮永さんは思ったはずやで。『私の次にあと二人使う人がいる』『早く次に回してあげないと』『私が使いすぎちゃまずいな』」

 

「ってな」

 

 

 

そうだ、思い出した。あの時、チーズを受け取った時、強女さんに言われたこと―――

 

 

『ごめんね、私使いすぎちゃった』

       

『残り少ないけど、気にせず使ってね』

            

『出来立てに、すぐにかけるのが美味しいから早めに回してあげてね。足りなかったら、また頼んだらいいし』

 

 

思い返せばこんなにも、こんなにも言われていた。

 

自然な気遣いだったせいか、全く覚えてなかった。

 

そして、実際に私は―――――そうだ、次の人の分がなかったら悪いな、と思って

 

小さい方の穴を開けて、控えめに――――――――

 

 

「…………」

 

「なんでもないような強女さんの一言二言に、知らず知らずのうちに宮永さんは行動を制限されとったわけや」

 

「さりげなく心理的に誘導して、行動をロック―――――――まるで、心に鍵をかけるみたいにな」

 

「そして、最後の使用者である、彼女さんと彼氏さんは、次に使う人もおらへん」

 

「遠慮なく、たっぷり使うっちゅう寸法や」

 

「……な、なるほど」

 

 

す、すごい。私が全然覚えてなかったことを、現場にいなかった園城寺さんが、こうも的確に。

 

一体、この人は何者なんだろう。

 

 

「……お、面白い推理ね。で? それがどうしたの?」

 

「………」

 

「それは、私にも犯行可能だったというだけで……私がやったという証拠にはならないわよね?」

 

「確かに宮永さんに缶を渡すときに、そういう風に声をかけたかもしれない」

 

「でもその気遣いっておかしなこと? その気遣いが、人を殺した? 園城寺さん、それはいくらなんでも穿った見方しすぎだと思わない?」

 

「そして、何より私がやったっていう物的証拠はない。全て憶測でしょ? 状況証拠しか、ないじゃない」

 

「……どうなんだ、園城寺」

 

「証拠……か。せやな」

 

 

その時、テンポよく強女さんを追い詰めていた園城寺さんの顔が、初めて曇った。

 

実際のところ、園城寺さんは関係者でありながら、関係者とも言い難い立場だもん。

 

強女さんを犯人と確定させる絶対的な証拠を持ってる方がおかしいよ。

 

むしろ少ない情報でここまで推理した園城寺さんがきっとすごいんだ。

 

 

「………」

 

「なによ、やっぱりないんじゃない!」

 

「なあアンタ、事情聴取の時にこの店に来るのは初めてや言うとったな」

 

「そ、それがなんだっていうのよ」

 

「もしこれが衝動殺人、無差別殺人やなく……計画殺人やとしたら、犯人はこの店に来たことがある人や。刑事さん、そうやな?」

 

「粉チーズの存在は当然、席の配置から、その他色々頭に入ってないと難しいさかい」

 

「あ、ああ。その可能性は高いことになるな。そのトリックを使われたとしたら、だが……」

 

「だから、来たことないって言ってるでしょ!!」

 

「―――言ったな、じゃあ聞かせてもらうわ」

 

               ・・・

「アンタは、あの二人について『今日もスープスパ食べてたわ』って言うてたな?」

 

「はっ……?!」

 

「ふっ、しまった、ちゅう顔やな」

 

 

そういえば、言ってた。

 

しんみりしたムードの中での発言だったから、またそれも自然に聞こえてたけど

 

考えてみると、矛盾してる。

 

 

「あ、あれは……違う。その……」

 

「この店に来るの初めてってことは、当然、今までに誰が何を食べとるか知るわけないわな?」

 

「赤の他人のカップルの食べたもんを覚えとるなんて、普通はありえへん」

  

「あれは、ずっとこのカップルを付け回すくらいせんと出てこんセリフや」

 

「あ、あ……」

 

「その場の空気を読んだつもりやったんやろうけど、不用意な発言やったな」

 

「つまりは、あのカップルは端っから……ターゲットやったっちゅうわけや」

 

 

強女さんは、真っ青になって全身を両手で抑え始めた。

 

震えを、無理やり抑えようとしてるようにも見える。

 

 

「……強女さん。何か反論はあるか。君は事情聴取の際に、嘘をついたのか?」

 

「ち、ちが、ちがっ、わたわたわたしっ」

 

「おい……お前がやったのかよ……お前が、俺の、彼女を殺したのかよ……?!」

 

「ち、違うの! 本当なの、信じてよ!! あなたのタメなの!! あっ……」

 

 

今の一言で、どこかで音が鳴ったような気がした。

 

この場に事件開始当時から積み上がってきた、霧のようなものが、一瞬にしてどこかへ消えていく合図のような。

 

最後の一言は、決定的………これは『自滅』って言っていいのかな。

 

 

「………」

 

「………」

 

「ほ、ほんとに、なの…?」

 

「マジ、なのかよ…」

 

「――――自白、か」

 

「うっ、ううううううう……」

 

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁぁあ゛!!!!!」

 

「強女。殺人の容疑で――――――――お前を、逮捕する。」

 

 

 

三度目の正直、今度こそ刑事さんはガッチリと銀の輪を嵌めて、この場に決着をつけた。

 




こんな感じで、簡単なトリックで書いていこうと思ってます。

目指せ、さらっと読めつつ、楽しいミステリー物!!

というわけで次回で、心の鍵は完結です。

今回もどうもありがとう!

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