名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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つづーきー

今さらながら、咲キャラが普通に事件に巻き込まれるので
苦手な人は注意です。




四巡先 残してくれたモノ④

二日目の朝、ウチはいつも通り6時ごろに目が覚める。

8時になっても、怜はまだ寝たままや。起こそうと思ったけど

せっかくの休日旅行、たまには寝たいだけ寝たらええ。

ウチがおらんときいっつもどうしとるんか知らんけど…

少しすると、襖越しに玄ちゃんの声が聞こえた。

 

「お二人共、よく眠れましたか?おはようございます!」

「おはよう玄ちゃんー眠れたでー。今開けるさかいなー」

「………んぅ、眩しい…」

「あはは…園城寺さんはまだ眠そうですね?」

「朝は……あんま得意やない……ん?この匂いは……」

「朝ごはん作ったので、持ってきました」

 

次の瞬間、怜は立ち上がった。起き上がりこぼしが一瞬で立ち上がったあの感じ。

まるで別人のような動きやった。

 

「待ってました」

「食べる前に目が覚めたら世話ないな」

「もしかしたら、ウチ匂いだけで生きていけるかも」

「アホ怜」

 

それよか、玄ちゃんの前で着替えるのやめん?

羽織脱いで、上下着るだけやしすぐっちゃすぐやけど…

女同士やけど、恥ずかしいやん。

当の玄ちゃんが何も気にしてなさそうなんは助かるけど。

 

「今お味噌汁とごはん、よそいますね~」

 

ほっかほかのご飯は、炊きたてなんかツヤッツヤ。

あったか~いお味噌汁からは湯気が立ち上って、味噌のええ香りが鼻腔を刺激する。

それに加えて、焼き鮭、納豆、のり、お漬物といった、

基本的な和食のメニューを玄ちゃんは準備してくれた

 

「ご飯は、新米を使ってます!つきたて、炊き立て、最高の出来上がりです!」

 

「味噌汁の具は、ネギと油揚げです!ネギはシャキシャキ、

 油揚げは噛み締めるほどにじゅわ~って染み出てきて、口いっぱいに味わいが広がります」

 

「焼き鮭は、北地区から仕入れたものを、丁寧に焼き上げました。

 適度な塩加減がたまらない一品です。皮をパリパリに焼き上げてるので、

 ジューシーな身との対比が際立ちます!」

 

「納豆とのりは違いますけど、お漬物はうちで作ってるものです。

 塩の馴染み加減は先代譲り、ご飯との相性も抜群ですよ」

 

「さぁ、どうぞ、お召し上がりください!」

 

見た目にプラスして、玄ちゃんがあんまりにも美味しそうに説明するから

はしたないとは分かっていながらも、口の中は自然と液で溢れかえった。

怜は、もう垂らしとる。こら、汚いよ。

 

「……ごくりんちょ」

「怜、はしたないよ…でもおいしそう」

「では、外で待機してるので、ご飯のおかわり等、その他何かあればお申し付けください!」

 

「我慢できへんいただきます!」

「ウチもいただきます」

 

あ、アカン。怜の気持ちも分かってしまう…至って普通のメニューやのに

使っとる素材がええんやろうか、玄ちゃんの説明が上手なんやろうか。

たまらずにがっついてしもうた。

 

「おかわひ!」

「う、ウチもごはんおかわりください!」

「かしこまりました~」

 

脂の乗った鮭に、塩加減が最高のおつけものに

ほっかほかのごはんがいくらでもすすむすすむ。

 

「あ、あはん。ほんなにひあわせな、あはごはん、ひはひぶりすぎて…おかはひ!」

「うふふ、園城寺さんよく食べますね。三杯目も大盛ですか?」

「とふもり!」

「あのなぁ…ごめんな、玄ちゃん。こんなんで」

「いえいえ、料理人としては嬉しいですから。清水谷さんも、三杯目いかがですか?」

「え、あ…じゃあウチも…」

「普通盛で?」

 

残るおかずは、鮭が半分と、焼き海苔が二枚と、納豆と、温泉仕込みの温泉卵も――――

 

「……大盛で」

「かしこまりましたっ!」

 

 

   *

 

 

「ごちそうさまでした!」

「お、美味しかった~…」

「えへへ、お褒めに預かりまして、嬉しいです!」

「お腹パンパンや」

「竜華、このあとどうする?」

「そうやなあ…」

 

二泊三日って言っても、特にプランはない。

怜と移動するに当たっては、体調を考慮して想定外ありきで行動する。

やから、これといった計画を立てずに行動するのが癖になっとる。

逆言うと、臨機応変に動けるとも言えるかな。

 

「でしたら、近くに海があるので、お散歩してはいかがですか?」

「お散歩かぁ…怜、どうする?」

「そうやなぁ…」

 

これは、暗に『体調はどう?』と怜に投げかけとるわけや。

見た感じやと、それほどまだ調子は悪くなさそう。

 

「あ、そういえば妹さん。今、この旅館ウチらだけの貸切なん?」

「いえ、もうひと組、お客様がいらっしゃいます」

「へぇ」

「あ、そうなんやー」

「部活の合宿で、うちの旅館を使ってくださってるんです」

「合宿?」

 

合宿な、こんなご飯美味しい所やったら捗りそうやなぁ。

どこの高校やろ。

 

「はいっ!劔谷高校の、茶道部の方々です」

「はぁっ、け、けんたにィ!?」

「竜華、どしたん?」

「どうしたもこうしたもないで!劔谷ちゅうたら、

 風越に並ぶ名門、西地区御三家の一つやないか!」

「そうなん?」

「西地区でも有名なお嬢様高校の一つや!! 学校がすごくお金持ちで、

 生徒も金持ちで…とにかくウチらには決して手の届くことのない存在なんや」

「竜華、やけにそういうの詳しいな?」

「アホ、西地区に住んどるんやったらそんなん常識や!」

 

劔谷レベルなら、必ず日本の『道』に関わる武道はある。

美穂ちゃんも、劔谷はライバルやって言いよったしな。

となると、お花の需要は物凄くあるはず!お茶の席にだって、必要やし。

営業魂、果然燃えてきたで!!

 

「ちなみに御三家って、あとどこ?」

「ん?阿知賀女子学院や。風越・阿知賀・劔谷…西地区のお嬢様学校、

 通称御三家。怜、コレ常識やで」

「ふーん…(なんか、竜華興奮しとるなぁ)」

「それぞれ特色があってな。劔谷の特徴は、その圧倒的なお嬢様感――――

 要は、金持ちなんや!」

「なるほどな。また一つ賢くなったわ」

 

怜は知らなさすぎや、そういうこと。

しっかし、こんなとこでお嬢様方に合えるとは――――

ウチはついとるな。美穂ちゃんに知り合えたのも奇跡的なことやったのに。

 

「私、阿知賀に通ってましたよ。おねえちゃんも、阿知賀の卒業生です」

「へ~二人とも、すごいなあ」

「そうなんや、玄ちゃんが……」

 

え? は??

 

「えええええええっ!?!?!!?」

「っ、りゅーか、うるさいで」

「あっ…ご、ごめん。だって、そんな立て続けに――――」

「と言っても、私はもう行ってませんので!」

「え?」

「やめました!」

「………」

「な、なんで?阿知賀って、相当ええ学校やのに!」

 

そんなアホな話あらへん、阿知賀クラスの学校をやめる理由が、

玄ちゃんには有ったってこと――――――?

 

「……私には、こっちの方が大事だから」

 

「……こっち?」

 

「はっ!そろそろ私、仕事に戻りますねっ」

「それでは、お二人共!失礼しました!」

 

玄ちゃんはそういうと、食器をてきぱきと片付けて、部屋を出て行ってしもうた。

 

「……」

「…宥ちゃんも、玄ちゃんも、なんや色々と」

「うん。思うところがあるみたいやな」

「……怜、散歩しよか」

「そうやな。腹ごなし、しよう」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

海岸線をのんびりと歩く

ちょうど朝凪の時間で無風やから、ちょっぴり蒸しっぽい。

 

「怜は、どう思う?」

「どうって…今んとこよう分からんなぁ」

「いつもみたいに、少ない情報で推理してみてや」

「…………」

 

怜は、目をつぶった、考えてくれとるんかな?

 

「………あー」

「なんか、分かった?!」

「ごめん…ちょっと、休んでええ?」

「あっ、ちょっと疲れた…?暑いしな。休む?」

「うん…最近調子良かったんやけどな…頭と体、同時に使うと…アカンみたいや」

「それじゃあ、そこの木陰で休も?膝枕したる」

「久しぶりやな、膝枕……頼むわ」

「ちょっと、ここでのんびりしよか」

 

高めの木の下に二人で入る。葉っぱは未だ残っとって、ウチらを十分に太陽から隠してくれる。

押し引き繰り返す波の音が、静かな風の音と相まってなんとも心地よかった。

 

「えと、それでさっきの竜華の質問やけど…」

「あ、うん。大丈夫?」

「へいきや。もう大丈夫。それで、松実(姉)さんは…

 たぶんやけど…妹さんの将来を心配しとって…」

「そのために、旅館を畳んだ方が、いいと思っとるんやないやろか…」

「……」

「でも、妹さんは、そうは思ってなくて……旅館を続けたい、て思ってるんやろなあ」

 

確かに、お母さんが残してくれた、言うとったからの思い入れが強いんやろう。

阿知賀女子をやめるなんて、よっぽどのことやろうし。

うーん、ウチらに何か出来ることはないやろうか。

 

 

 

「それでは、午前の稽古を始めます。皆さん、準備はいいですか」

「もう嫌でー」

「友香ちゃん、今日で最後だから頑張ろうよ」

「二人とも、よく頑張ったよもー」

「うん…長かった合宿も、あと少しで終わりだね…」

 

「ん?あれは…?」

「外で、着物着とるなんて珍しいな」

「もしかして…劔谷の人たちやったりして!ここ旅館から近いし!」

 

離れとるのに伝わってくる、風情のある佇まい。

美穂ちゃんからも感じたけど、やっぱり独特な雰囲気があるからすぐに分かった。

あれは、劔谷の人たちやな。

 

「怜、だいぶ良くなった?」

「うん」

「じゃあ、ちょっと話しかけに行こ!」

「…でも、稽古始めるって言ってたで。合宿中やろし、邪魔になるんちゃう?」

「そうかも…いやいや、ちょっとくらい大丈夫!

「たくましいなぁ…」

 

 

もしかしたら今日で帰ってしまうかもしれんし、チャンスは失いたくない。

ウチは不自然じゃないように、普通の感じで歩いて近づいた。

 

 

「すいませーん!」

 

「ん…?どちらさまでしょうか」

 

「あ、この人旅館にいた人だよもー」

 

「あ、あの…私、松実館に泊まってる、清水谷竜華って言います。お邪魔だったらごめんなさい」

「もしかしたら、劔谷高校の方々だったりしますか…?」

 

「ええ。私たちは劔谷高校、茶道部一同です。私は部長の、古塚梢といいます」

 

 

【古塚 梢(ふるづかこずえ)】

劔谷高校茶道部 部長、最上級生。

 

 

や、やっぱり。

ここで会えたのも何かの縁――――――繋いでいくで!!

 

 

 

 

(……ようやるなぁ、竜華)

 

 




つづきはまたそのうちに

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