名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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四巡先、開始です。
物語を動かす、話へ。


◆―◇―温泉宿と松実姉妹―◇―◆
四巡先 残してくれたモノ①


真っ暗な静かな部屋に、不快な高温がキンキン鳴り続ける。

音が鳴り止むと、「それ」を確認して、ふと我に帰った。

きっと、もう動くことはない。いや、私がそうしたんだ。

 

本当はこんなこと、したくなかった

いけないことだって、分かってた

 

でも。それでも。

どうしても――――――――どうしても、許せなかった。

 

 

 

   *

   

 

 

「あ~なーにもすることがない。暇やなぁ」

 

こんにちは、園城寺怜です。只今ちょうど正午を回ったところ、お昼の時間や。

朝ご飯食べてないし、そのくせ昼も作る気が起きへん。というか、ウチにそんなスキルはない。

 

「外の冷蔵庫に、なんか食べられるもん入ってたっけ…でも、出るのめんどいしなあ」

 

あ、お腹鳴った。

しゃーないか。水も切れてきたし

ちょっくら、頑張りますか。

 

今さらながら、ウチには電気・ガス・水道の本来あるべきはずのライフラインがない。

なくても平気って言ってたけど、それにはちゃんと理由がある。

 

まず電気。電気は通ってないけど、ランプがある。

このランプに、マッチで火を灯すことで十分に夜は明るくなる。

朝と昼は明るいから当然必要ないし、何の問題もない。

テレビ、電話、洗濯機とかの電気製品使えんだけや。

そもそも電気製品持ってないけどな…なかなか値が張るから、軽々には買えん。

必需品でもないし、いらんやろ。

ふなっきゅーは依頼集めにネット使うたらどうですか、言とったけどな。

そんな話は、先の先になりそうや。

 

次、ガス。マッチがあるから火はある。何の問題もない。

ただ調理器具はやかんと包丁くらいしかない。

これでよく自炊しようと思ったわ。今考えると恐ろしい。

包丁は、暴漢対策で竜華に勧められて買ったけど、まぁウチには使いこなせんわな。

おさげさんに人質に取られるくらい非力やし。

 

最後、水道。外に綺麗な川があるし平気。この中で最も支障がない。

飲み水は数本ある二リットルペットボトルに川の水を汲んできて、部屋に置いておく。

これをコップについで、飲む。市販のものと違って殺菌とかしてないから、

日持ちはせんけど、一人やったら十分や。

ウチにとって川の存在は重要や。買ったもんは手作りの冷蔵庫に入れられるし、洗濯もそこでする。

お風呂もそこで。ただ、あったかいお湯につかりたい時もあるから…

たまに竜華の家で貸してもらったり、銭湯に行ったりする。 まぁ、基本は水浴びで。

 

 

こんな風に半原始的な生活を送っとるわけやけど、意外となんとかなるもんや。

 

「よいしょ……これでええな」

 

冷蔵庫の水を入れ替えて、ペットボトルの水を補充。

これがウチにとってはなかなかの重労働で…

やっぱり体より頭を使って推理でもしとる方がよっぽど楽や。

もしお金持ちやったら、お手伝いさんとか雇いたいなぁ。

朝はご飯作ってもらって、お水も補充してもらって…いや、そんなにお金あったら、ライフラインを充実させる方が先か。

 

 

「さて…」

 

ソファにもたれて、買っておいたバナナに、かじりつく。

バナナってええよな。安いし、うまいし、栄養価高いし、何より食べるんに手間がかからん。

終わった後は、そこら辺に置いとくと、竜華が滑って転ぶ。

今考えると、包丁より、こっちのが急な侵入者対策にはええかな?

地味に滑って転ぶって痛いからな。

特に不意打ちで転ぶと、ロクに受け身すら取れずに、大怪我することもある。

一回、何の気なしに玄関に置いてみたバナナに、竜華が引っかかってしまったんよね。

本気で怒られてからは、普通に捨てるようになった。そん時の竜華は、ホンマに思い出したくない。

 

…長くなったけど、何が言いたいかって、バナナは優秀な食品やと思う。すばらしい。

 

「福路さんの依頼があって、良かったなあ……う○い棒だけの食生活の時より、だいぶマシやで」

 

依頼と言えば…宮永さん。

元気やろか…あれから事務所にこんなあ。どしたんやろか。

もしかしたら、ウチの手を借りなくても解決したか?

 

その時、バン、っという音がして、誰かが入ってきた。

 

「まいどー」

「なんや、セーラか」

「怜、おるかー?邪魔するでー」

「いません。邪魔するなら帰ってー」

「は~い」

 

いつもの流れをやって、再度セーラは入ってくる。

 

「おるやんけ! ほら、竜華から手紙やで」

「え、手巻き?」

「お前の耳はどうなっとるんや」

 

事務所内に電話がないこともあって、竜華とはいつも手紙でやりとりしとる。

セーラは運送業ついでに、手紙をわざわざウチまで運んでくれるんや。

 

竜華がウチに連絡したいときは、直接ウチに来るか、

手紙をセーラに渡して、ウチに届けてもらう。

配達ルートもあるやろうに…セーラにはホンマに感謝やな。

ちなみにウチが竜華かセーラに連絡したい時は…ちょっと、今んとこ難しいな。

 

「いつもありがとな、セーラって顔やな」

「そんな顔しとったかな…でもありがとう」

「ええってええって、それで返事はどうする?あれば伝えとくで」

 

セーラは、ウチらの情報のハブや、この子を媒介して、三人の情報が共有される。

さしづめセーラは、伝書鳩……いや、伝書人やな。

 

「待って、中身を確認するさかいな」

「なんやって?」

「えーと…なになに」

 

『泉が、バイト先で旅館の宿泊券をもらったらしいんやけど』

『「自分は予定があっていけません、だから先輩方にあげます。

 三枚分あるんで、行ってきてください」やって!』

『怜、一緒に行こうや!セーラも今これ見とるよな? 3枚あるから、皆で一緒に行こ!』

 

「おお、マジか。泉、よくやった!プチ旅行やん!」

「温泉かぁ……」

「やばっ、テンション上がってきたわ!絶対行くで!」

 

うおぉーーとガッツポーズを取るセーラ。

けど、よう見ると期限が迫っとるな。行ける日は、と…

 

「怜はいつ頃行ける?」

「んーと、期限が今月末ってことは…行けるとしたら、ここの二泊三日やな」

「その辺りは……げっ」

 

ん?

 

「な、なんてことや。遠出で配送やん!……なんでその二日に限って!!」

「くっ、オレも怜や竜華みたいな自営業やったら!」

「ホンマか、それは残念やな…」

「はぁ…ま、しゃーないな。じゃあ、怜。

 お金もかからんことやし、竜華とゆーっくり羽を伸ばしてこい!」

「ありがとう、ちゃんとおみやも買ってくるさかい」

 

ということは、二泊三日で竜華と一緒ってことか。

また竜華のオカンスキル発動、間違いナシやな。

 

「もし事件が起こったら解決してきてもええからな」

「のんびりしとるときにそれは嫌や…ま、報酬次第で考えてもいいけど」

「怜らしい返事やな。じゃあ、そろそろオレは仕事に戻るわ」

「気をつけてな」

「おう、ちゃんとメシくえよー!」

 

 

バタン

 

 

「……」

 

 

旅館のご飯って……うまそうやな……小さいころ、連れて行ってもらったきり、や。

どんなんやっけ、朝はご飯おかわりし放題? バイキングってやつ?

さ、最近はびゅっふぇとかいうお洒落な言い方もあるとか竜華が言いよったな。

夜は、何? 殻付きの伊勢海老とか出てくるん?

もちろん食前酒とか出てくるコース料理?? 肉? 魚??

デザートは地元の新鮮な果物を使ったシャーベットとかいいな。鮮度を活かして、生のもままもありや。

やっぱりバナナうまいけど、たまにはメロンとか食べたいな。メロン。

んでもって、こっそり夜鳴きそばとか食べに外に出たりして――――

でも、竜華が許してくれるかな?

そうなったら、竜華が寝てからこっそり行こ、それこそ『夜鳴き』っちゅうもんや――――

 

「……アカン、きりがないほど妄想が止まらん」

「楽しみになってきた――――とりあえず、落ち着くために、お昼ご飯食べよ」

 

 

   *

 

 

そういうことで、ウチと竜華の二人は西地区の外れにある、温泉宿に行くことになった。

 

ウチの住んどるところは西地区やけど、他にもいくつか地区がある。

 

西地区の隣にくっついてる「東地区」、北に山を越えると「北地区」、

海を挟んで南側にある島「南地区」

 

西地区だけでもかなり広くて、いろんな場所がある。

栄えた町もあれば、今回の旅行先のような辺鄙な田舎もある。

 

 

「着いたな~バスで三時間、そこそこの距離やったね」

「ここが松実館な」

「ウチはここに来るん初めてや。怜も?」

「そうやで。この辺はあんま来たことないしな」

 

未踏の地、それだけでなんやいい響き。

竜華もウチも、こんなに心が浮ついとるのも久しぶりやったと思う。

 

 

「じゃあ行こか!二泊三日の温泉旅行、スタートや!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな楽しいはずやった旅行―――――

まさか、ウチの人生を変える出来事になるとは、この時は考えもつかんかった。

 

 

 




続きはまた、そのうちに。

いつも読んでくださってありがとうございます。


名探偵怜-Toki- 情報ファイル  怜の住むセカイ


「西地区」「東地区」「北地区」「南地区」の4つに分かれている
西地区と東地区は陸地で隣合わせ、北地区は東地区の大きな山の北側にある。
南地区は島になっていて西地区から船で渡る必要がある。

日本列島の北海道、北陸が「北地区」
     関東から中部が「東地区」
     中部から関西が「西地区」
     四国から九州が「南地区」

と考えると分かりやすい。 

怜は西地区に住んでいる。
咲の高校や風越高校も西地区に存在する。

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