名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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書きたいことは活動報告に書きました、
あとは竜華の活躍ぶり(?)をご覧ください。


三巡先 欺きの折り紙⑦

生来、運が悪いなんて思ったことあらへん。

両親に愛されて、友達にも恵まれて、何不自由ない暮らしの中で育って。

その後色々あったけど、自分の納得のいく仕事に就けて。

 

この世にはきっと、理不尽な思いをしながらも、毎日を生きている人がいる。

ウチはその立場におらんから決して実感することはありえんし、したいとも思わん。

ともかく、誰かのと比べることに意味があるかどうかは置いておいて、

自分は割と幸運なんじゃないかと思っとる。

 

長々と、どこぞの伝記から引っ張ってきたような言葉を並べてみたけど

結局、何が言いたかったというと。

今のこの、ウチの状況は――――――一言で、不運と片づけられるようなレベルやなかった。

 

 

 

「はい、あなたの番よ?」

 

 

手が、震える。

 

これまでの勝敗、第一セットが8-2で

第二セットが7-3でウチの勝ち。そして迎えたこの最終セット。

 

第10ゲーム目、先行はウチ。

それまでの勝敗結果、なんと『0-9』。

 

                       

「さっさとしてもらえるかしら。ここまで二連勝のなんとかさん? さぁ―――――」

 

 

口元の笑みを隠さずに、おさげさんは言う。

 

 

「かる~く、ご祝儀、当てちゃって?」

 

 

 

   

   *

 

 

 

 

「だまされた…」

「いつまで言っとるんや、怜」

 

それからオレと怜、二人で竜華を探しとるわけやけど、一向に見つからん。

鳥居の端っこから探して、色々な人に聞いてはみたけど、手掛かり一つない。

もしかしたら先に帰ったことも考えた。けど、もしかしたら、オレらを探しとるかもしれん。

 

「ホンマどこ行ったんやろな」

「もう、屋台も畳んでしまっとるやん」

「そらな」

 

客足はとうに消え去り、薄明りの中、祭りの余韻を引きずりながら

とっくりに酒を酌み交わす連中やら、後片づけに余念がないないバイトの人やらで

なんとも言えない虚しさの中、オレと怜はそこらを彷徨い続けた。

 

「ちっ…あかんな、全く見つからんわ。怜。どうする?」

「…」

「…怜?」

「あ、なに?」

「もしかして、疲れたか?」

「いや、大丈夫やで」

 

体調がいいとはいえ、やっぱりちょっと疲れが見えるな。

それは無理もないな、今日は一日動いたからな。

荷物を毎日運ぶオレにとっては、今日の作業量はボーナスデーみたいなもんやけど

怜にとっては、重労働やったはずやし。

 

「セーラ」

「…」

「…、セーラ」

「お、すまんすまん。どした?」

「まだ、あっちの方行ってへんよ」

 

怜は、祭りの屋台から大きく外れた方向を指さした。

確かに参道の一部やけど、そんなとこ見てもしょうがないと思って、後回しにしとったけど…

 

「怜が言うなら、行ってみよ」

「うん」

「これで見つからんかったら、きっと竜華は先帰っとるわな」

「そんときは、二人でお好み焼きやね」

「ふっ…怜。乗るか?」

 

俺は、背中を怜に向けて、軽くしゃがんだ。

竜華と二人でいるときは、いっつもじゃんけんをする。

決して、罰ゲーム的な意味合いはなかった。怜は紙みたいに軽くて、負担にならへんからや。

 

 

「乗ってもいいよ」

「アホ、オレのセリフや」

 

 

     

      

      *

 

 

 

「はい、貴方は外れね」

「っ、う、うそや。こんなん信じられへん!」

「次は私の番ね。これで、もし私がここで当たり引いたらどうなるか分かる?」

 

信じられんことが、目の前で次々と起こった。

ベース1万円で始めた、この第三セット。

それまで、ろくずっぽあたらへんかったおさげさんが、当てる当てるの9連勝。

しかも、先行のときは全部一発、後攻の時もウチが外してから、次に必ず当てよった。

 

もし、ここで当たられた場合、おさげさんの勝ち金は

10勝×ベース(1万円)+ご祝儀1万円×5回=15万円?????

 

「あら、あなた勘違いしてるわよ」

「え?」

「忘れてないかしら…”全勝ボーナス”を」

「………っ!?!?」

 

え、ちょ、ちょっと待って?

これでこの最終ゲームがおさげの勝ちで終わったら…?

 

10勝×ベース(1万円)×10(全勝ボーナス)

+ご祝儀1万円×5回=105万…??

 

「釘をさしておくけど。全勝ボーナスは、『お祝儀』にも適用されるわよ」

「はぁっ?!そ、そんなこと言ってへんかったやん!」

「言ってるわよ、ちゃんと」

「い、いつ!?」

「私はこう言ったはずよ、『ゲーム清算後、そのゲーム内で本来貰える額が10倍』されるって」

 

…言ってたかも。つまり、なんやの?

ゲーム精算後、本来もらえる額の10倍、やから、

 

{10勝×ベース(1万円)+ご祝儀1万円×5回}=×10(全勝ボーナス)150万……?!?!

 

「ふ、ふざけとる! お祝儀なんて、ゲームの綾みたいなもんやん!!」

「それで45万の差が出るとか、どう考えてもおかしいやろ?!」

「そういわれても。だってこれがルールだもの。」

 

飄々とウチの抵抗を躱し続けるおさげさん。なんとか言い返さんと――

 

「いや、ルールと言っても、流石にこれは…」

「あら、私、何かおかしいこと言ってるかしら?」

「っ、おかしいとかやなくて、常識的に考えて――――――――」

 

「――第一戦と、第二戦。私は、きちんとルールに則ってお金をあなたに支払ったわよね?」

 

おさげさんの声が、ワントーン下がった。

蔑むような冷たい目線に、心臓がトクンと跳ねる。

手のひらからは汗がじわりと滲んで、行き場を失った水分は、

手首の方に、這うように垂れてきた。

 

「それが何かしら?」

 

「調子のいい時には、こっちに不利な条件突き付けといて、

  いざ負けの段になったら、常識がルールがどうのこうの?」

 

「ふざけないでくれる?」

 

「っ…」

 

確かに、おさげさんの言う通りやった。

今思い返してもこの勝負、はっきり言って運の要素が強い。

やからこそ、こういう結果だってありえた未来やったはずやのに。

それを、想定せずに、自分に都合のええことばかり言って―――

ウチは、なんて愚かなんやろうか。

 

一旦そう思い始めるとと、急に、自身が恥ずかしくなってきた。

軽い気持ちで賭けに手を出したこと、調子に乗ってベースアップに応じたこと

そもそも、怜やセーラを置いて、一人で楽しい思いをしようとしとったこと――――

 

うん―――ちゃんと、最後まで戦わな。

そして、出た結果には、きちんと責任を負う。

それが、今ウチができる最善や。

 

「…取り乱してしもうたね。続き、やろ」

「あら、意外と潔いのね?」

「これでも一家の大黒柱なんよ」

 

まぁ、一家って、相手なんておらんけどね。

 

「…ふふっ、そんなあなたに最後のチャンスをあげてもいいわよ?」

「へ?」

「最後の、ビックチャンス。もしかしたら、私の勝ち金が0になるかもしれないビックチャンス」

 

ま、まだ、ウチにも挽回できるチャンスが―――?

 

「そ、それはどういう――――」

「『バイチャラ』よ」

「バイチャラ?」

「ええ。この10ゲーム目。もしあなたが勝ったら、私がもらうはずのお金はチャラでいいわ」

「え、ええの?!」

「ただし!」

 

ウチが大声を上げるやいなや、手でそれを制された。

 

「もし私が勝ったら、『ゲーム清算後、そのゲーム内で貰える額をさらに2倍』するわ」

「…つまり、負けたら300万失うってこと?」

「ええ。ただこのままもし私が勝ったら、貴方はタダで150万失うことになるわ」

「それがなくなる可能性があるなら、賭けてみる価値はあると思うけど―――?」

 

もしウチが勝ったら、10万ちょっとの負け。

負けたら、150万以上の負け。結局、この賭けに乗って、勝つのが一番ダメージは少ない。

けど…本当に、それでいいんやろうか?

 

「い、今決めなあかん?例えば、あと2、3枚どちらかが引いてからとかーー」

「却下。今すぐ決めて――いや、あと10秒で決めなかったらこの話はなしよ」

「え、じゅ、じゅうびょ?!」

 

「10、9、8、7―――――――」

 

「ちょ、ちょ、あっ―――――――」

 

 

ど、どうしよ?!?!

 





そろそろ、この話も終わりが近づいてきました。

短くてすいやせん、つづきはまた、早めに。
できればあしたに

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