名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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思ったより早く書き終わったので、昨日に続き投稿。

今まで、台本形式で書いてたので、地の文を入れて書くのが

すごい難しい。頑張って慣れたいと思います。





一巡先 心の鍵②

 

非日常は、突然目の前に滑り落ちてくる。

 

一瞬早すぎず、一瞬遅すぎず、起こることがもう決まっていたかのように、自然に起こる。

 

それは、誰に止めることは出来なくて、後はなすがままにその身を委ねる―――――――――

 

ふと、そんなどうしようもない考えが、頭をよぎった。

 

 

胸がチクリと痛んでから、すぐに我に返る。

 

非日常となった日常に、再び吸い込まれるんや。

 

 

 

 

「う、ぅわあ!? 女A、どうしたっ!?」

 

「きゃあああ!!!!」

 

「な、何が起こったの?」

 

「お客様、どうされましたか?! こ、これは……」

 

 

 

我に返って、5人の姿が、目に入ってきた。女性が3人、男性が2人。

 

女Aと呼ばれている女性は、床に、倒れとる。

 

テーブルから、そのまま横倒しになって、ピクリとも動かん。

 

必死に呼びかける男は、きっと彼氏。今にも泣きそうな、必死な顔で、女Aさんの肩をゆすっとる。

 

 

 

「え、ど、ど、どうすれば……」

 

「ちょ、ちょっと。死んでるんじゃないの?! ナニコレ事件?! 早く警察を!」

 

「はい!すぐにお呼びします。皆さんはここでお待ちください!」

 

「お、おいっマスター!! 救急車も頼む!!」

 

「分かりました、直ちに!!」

 

 

 

ちょっと気の強そうな女性と、気の弱そうな女性、この店のマスター。

 

人のよさそうなマスターは、彼氏さんと女の人に言われて、一目散に電話口に駆けていった。

 

そして、しばらくしたら警察と救急車が来た。

 

ウチはずっとドアの前で突っ立っとった。見張りのつもりやった。

 

警察が来るまで、ウチなりに、事件発生時の様子を頭で思い描いてみる。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

           ↑向きにカウンター

         ○|【強女】|○|○|【弱女】|○    返却口

入 【怜】 

口                                                                        調理場                                   【マスター】

                                            

         「  |  」「【女A】|【彼氏】

              

           二人づつ座れるテーブル席      ドリンクバー トイレ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

カウンターがウチから見て左側に、約6席。そこに気の強そうな女の人と気の弱そうな女――――強女と弱女って略すわ。

 

右側にテーブル席が二セットあって、女Aさんとその彼氏さんが座っとった。

 

調理場にはマスターだけやな。ほんで入り口には、ウチ。

 

店はすこぶる見通しが良くって、ここから調理場のマスターの様子まで、観察できる。

 

 

    

「刑事の弘世だ。関係者はここにいる六名か……マスター?」

 

「そうでございます……」

 

「まぁ、死者を含めると、だが……」

 

「おい……なんだその言い草は」

 

「おや、失礼した。正確に数えたつもりだったんだが」

 

「てめぇ……」

 

美人やけど。見るからに堅そうで、冷徹そうな刑事はんやな。

 

彼氏さんは、死者という言葉に相当腹が立ったみたいで、事情聴取中、ずっと刑事さんを睨んどった。

 

事情聴取で分かったことを、メモしてみた。

 

 

 

 

★事件関係者6名

 

彼氏…………女Aの恋人。店の常連らしい。今日も彼女とスープスパを食べに来てたって言うてた。

 

女A…………以下彼女。【被害者】。同じく常連。死因は毒殺。死亡推定時刻はさっきだって聞いたで。

 

強女…………命名ウチ。この店に来るのは初めてらしい。無料のポスターに釣られたんやろなあ。うまそうに食いおって。

 

弱女…………確か名前は【宮永咲】。制服着てるからたぶん学生。ご飯ついでに、のんびりと本を読みに来てたらしい。

 

マスター……以下店員。男。この店の責任者で、マスター。人の良さそうな顔しとるわ。

 

怜………以下怜。ウチ。

 

 

 

 

 

 

★店内図

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

           ↑向きにカウンター

         ○|【強女】|○|○|【宮永咲】|○    返却口

入 【怜】 

口                                                                        調理場                                   【マスター】

                                            

        「  |  」「【彼女(死亡)】|【彼氏】

              

           二人づつ座れるテーブル席      ドリンクバー トイレ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

             

 

 

事情聴取が終わって、再びウチらは集められた。

 

刑事さんが、これまでの調査結果をもとに、話を進めるみたいや。

 

 

「スープの中に毒物が仕込まれていたようだ」

 

「そ、そんな……」

 

「一体誰がそんなことを……許さねえ」

 

「一通り話を聞き終わったので、詳細を聞かせてもらうが。マスターよ、スープの中に毒物が入っていたのだが」

 

「す、スープの中に、ですかっ?!」

 

 

ギロリ、と彼氏さんがマスターの方に目を飛ばす。

 

 

「わ、わ、私は…私はやってません」

 

「証拠はあるのかよっ!!!」

 

「やってないとしか……ほ、本当に何も知りません。本当です、彼氏さん」

 

「信じられるかよっ、食い物の中に入ってたんだぞ!?」

 

「そういう、彼氏さんはどうだ。目の前で一緒に食べていたのだろう。お前こそ、怪しいんだが」

 

「隙を見て、毒物を仕込むくらい訳ないんじゃないか?」

 

「な、なに言ってんだ?! 俺がそんなことするわけない。

 だいたい普通に考えて、付き合ってる彼女を殺すなんて……ありえないだろうが!!」

 

「どうかな? 愛の果てに心中したカップルや、三角関係が縺れに縺れて、とんでもない殺人事件を起こした奴らを私は知ってるぞ?」

 

「くっ、お前、本当にぶん殴るぞ!!!!」

 

「やってみろ」

 

「っ!!!」

 

 

刑事さんのセリフに、彼氏さんは、殴りかかった――――――が、拳一つ分、額の前でその手は止まった。

 

何か言いかけたが、口をつぐむと、目線を下に落として何も言わなくなった。

 

彼女さんのことを、急に思い出したんかもしれん。

 

 

 

「……埒が明かんな。おい、マスター。この店に監視カメラとかないのか?」

 

「ええ、ウチには設置してません。こんな物騒な事件が起こるなんて思ってもみないんで……」

 

「こうして実際に起こっているがな……目の前で見ていた彼氏。何でもいい。何か気がついたことはないのか」

 

「………」

 

「おい、聞いてるか?」

 

「……そう言われても、普通にいつもどおりのデートだったのに、なんで、彼女が……っ」

 

「な、なんて言ったらいいか…お気の毒です」

 

 

初めて、弱女さんが口を開いた。確か、名前は宮永咲。

 

丸っこい頭によく似合う、可愛らしいショートヘア、とでも表現したらええんか。

 

そういう表現するセンスみたいなんは、竜華とかのが上手そうやけどな。

 

 

「お二人共お店に何度も足を運んでくださる常連で……とても仲の良いカップルだったのに」

 

「アイツは、ここのスープスパ大好きだったからな……」

 

「……ええ。今日もスープスパ食べてたわ。お気の毒に……」

 

 

強女さんも、ここで初めて口を開いた。

 

ウチと一緒で、無料記念ってことでふらっと立ち寄った人の一人やな。

 

気の強そうなこの人も、流石に居たたまれない顔しとる。

 

「ううっ……彼女っ……」

 

「………感傷に浸ってるところすまないが、何か思い出せることはないのか。些細なことでもいいんだ」

 

「普段と何か違っていたこととか。そういえば変だと思ったこととか。他に何でもいい」

 

「他に、と言われてもよぉ……一緒に食べてたら、急に苦しみだして――――――――あっ」

 

 

一つだけぽっかりと抜け落ちてしまった大切な記憶が

 

突然ある日、何かの拍子に蘇ってきて、それがまだ、自分の正しい記憶かどうか、思い出せない

 

そんな、妙に得心したような、なのに戸惑ったような、正とも負とも取れる顔つきをしていた。

 

 

「……そういえば」

「何か思い出したのか?」

 

「そうだ。一つだけ――――――――そういえば、一つだけ」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「俺の彼女は、粉チーズに―――――っ」

 

 

最後は、聞かなくても、顔がそう訴えかけていた。

 

 

 

――――――――殺されたのかもしれない。

 

 




明日も、夜に時間があれば、23時くらいには更新できたらいいな。

見てくれた人ありがとうございます。

キャラの簡単な紹介とかは、ストーリー進んだら、あとがきでちょいちょい書いていこうと思います。

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