名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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遅くなりました。

三巡目の続きです。
ここから、全く新しいストーリーとなります。


三巡先 欺きの折り紙④

 

「おぉー」

「こんな田舎でもやっとるんやなぁ」

 

ロシアンルーレットがひと段落してから、

することがなくなったウチらは次の時間つぶしの方法を考えることにした。

セーラも言っとったけど、事務所ですることは限られとる。

酷い目におうたけど、なんだかんだ盛り上がったゲームやったんやないか。

ただ、これ以上事務所におってもすることないから、

せっかく車もあるんやからってことで、外に行ってみよう、ってなった。

 

「何食べようかな~」

「怜、ほどほどにしときよ?」

「ええやん、せっかくの夏祭り」

「せやせや、竜華堅いデー」

 

ドライブ中に、怜が地元の夏祭りの案内板を見つけて、

調べてみたら場所もそんなに遠くないっちゅうことで。

他に名案もないウチらは、そこに行って今日を締めくくろう、とやってきたわけや。

 

「見てみて竜華、お好み焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き!」

「粉もんばっかか!」

「おい怜、あっち見てみ鈴カステラ!」

「ホンマや、行きたい!」

「そうと決まればいくデ、竜華留守番よろしく!」

「えっ、ちょ――――」

 

あ―――――あーあーあーあ。そう言った次の瞬間には、もう背中が見えへん、行ってしもうた。

小学生みたなはしゃぎ方に、ついつい呆れてしまう。二人とも、テンション上がりすぎや。

 

ただ、ウチとしては安心なこともある。というのは、あれだけ動き回れるっちゅうことは

怜の体調がええ、ってことやからな。その点、今日は安心や。

そもそも、今日は久しぶりに三人で外に遊びに来たわけや、多少ハメを外しても――――ええか。

 

「そうと決まれば、ウチもなんか買いますかー」

 

夏祭り、おひとりさまご案内。

 

 

  *

 

 

「ふんふん、この焼きそばはなかなかええな…紅ショウガもちゃんと美味しい…」

「綿あめは、普通やな。まぁ、綿あめで特別美味しいとかないし」

「焼きトウモロコシ、いけるやん!!バター醤油の香ばしい香りがいかんともしがたい」

 

そこには、焼きそばをほおばり、綿あめを食い、焼きトウモロコシにかぶりつき、

ついでにお面を顔の横に引っかけて祭りの通りを一人で歩く女の姿があった。

い、いや、だってせっかく来たんやから楽しまな損やんね?

 

「あ、鈴カステラ…」

 

これがさっきあの子らが見つけた奴か。確かに、ええ香り…これはいっとくか。

あ、いや待って、ウチ今日どんだけ食べた?

饅頭二個、焼きそば、綿あめ、焼きトウモロコシ二本、

たこ焼き、チョコバナナ――――――カロリーどんだけや。

ここで鈴カステラ頼んだりしたら、さらなるカロリー上昇は避けられへん―――――

 

 

 ・・・・・・・・

  ・・・・・・

   ・・・・

    ・・

     ・

 

 

「鈴カステラ一つ」

「ありがとうございますっ」

 

もぐもぐ…あー美味しい。カロリーなんてなかった。

さーて、そろそろあの子らと合流したいところやけど。一体どこにおるんやろか。

今さらやけど、怜は携帯電話なんてハイソなものはもってへん。

セーラもそういう系のデバイスあんまし好きやないから、よほどやない限り持ち歩かんみたいや。

 

当たりを見回してみる。夢中になって食べ歩いてるうちに、

いつの間にか人気の少ない、通りの外れに来とったみたいや。

いきなり冷たい風が吹いたと思うと、葉っぱが顔面にぺったりと張り付いてきた。

 

「わっ…わわっ……」

 

急に目の前が真っ暗になったウチは、足元をふらつかせながら、二、三歩後ろによろめいた。

袖で目元を素早く払う。泥っぽいような、それでいて不思議と不快でない、秋の訪れを告げる落ち葉の匂いが鼻に、すっと入ってくる。

 

「ふぅ…そうか、もうこんなに涼しくなったんやね」

「季節は、巡る、か―――――――」

 

そして何気なく、横を見た時。すぐ隣に、人がおったことに初めて気が付いた。

 

「やっほーー」

「わぁっ!??!」

「やっと気が付いたわね」

「なっ、なっ、なっ………?!」

「あら、そんな不審な顔しないでよ。私が不審者みたいじゃない」

 

朱色の髪を、夏色の風になびかせてその女は立っとった。

齢は――――いくつか。ウチとそれほど違うようには見えへん。

 

「だ、誰やアンタ!!」

「あら、誰だとはご挨拶ね。私はここで屋台やってるだけよ?」

「は、屋台……?」

 

落ち着いて、現状を確かめようと目を凝らす。

闇夜に紛れてよく見えへんかったけど、確かに小さな机が一つ、椅子が一つ。

ネームプレートほどの、小さなお店の看板が一つ。それぞれ、色が黒っぽかったし、明りもついてなかったから、全く気が付かんかった。

 

「『ゲーム屋』…?」

「そうよ。よかったらやってかない?」

「は、はぁ。」

 

このおさげの女性は――――便宜上、名前も分からんし『おさげ』って呼ぼうか。

ウチが答える前に、このおさげはパチッとスイッチをはじいて明りを付けた。

真っ暗な場所に、円状のスタンドから明りがふんわり漏れて、不思議と見とれてしまった。

 

「きれい…」

「ええ。だから、ここにお店出してるのよね」

「そうなんですか?」

「だって、向うでやったらうるさいし、妙に明るくて―――そういう気分に成れないもの」

 

おさげさんは、どこからか二つ目の椅子を出して、ウチの目の前に置いた。

自分はさっさと席に着くと、鞄から綺麗な折り紙を取り出した。

 

「座らないの?」

「……」

 

言われるがままに、まるで電灯に群がる虫のように、

柔らかいスタンドの光に惹かれて、ウチは座ってしまった。

 

「それじゃ、戯びましょうか」

「って、もしかしてその折り紙で…?」

「ええ。あなた『神経衰弱』って知ってる?」

「し、知ってます」

 

トランプの遊びの一種よな、それ以外でこの言葉をウチは聞いたことがない。

考えてみると神経衰弱って物凄い名前やけど、ゲーム自体は割と普通なんよな。

ただやってると確かにイライラすること多いし、常に気が抜けんから、言いえて妙な気もする。

 

「トランプの、ってことですよね?」

「もち」

 

おさげさんは折り紙を一枚袋から取り出した。

小学生が使う、お徳用の50枚のものじゃなくって、和紙のような

色鮮やかさには欠けるけど、どこかしみじみと味わいのあるものやった。

 

「それじゃあ、やりましょうか」

「え、でもやるんは神経衰弱って――」

 

ええ、そうよと言って、おさげさんはニッコリ笑った。

 

「これから私たちがやるのは」

  「一枚神経衰弱だから」

 

 

 

   *

 

 

「あ~~くったくった」

「うまかったなぁ…」

「にしても、怜。随分と食べこんだなぁ。普段そんなに食ってないんか?」

「水とバナナ中心の生活やさかいな。あとは草とか木の根とか…

 まぁ、よっぽど酷くなければそんなことないけど」

「米送ったるで? オレも一人暮らしでそんな食わんし」

「米炊くだけの火力がないねん」

「あぁー……」

 

二人は祭りの喧騒から離れて、近くの河川敷まで来ていた。

腹ごなしの散歩がてら歩き、今はこうして芝生に寝転がっている。

 

「あぁ、かゆっ」

「噛まれたんか?」

「ちょっとな。蚊さん、ただでさえ少ないウチの血を吸いおって…」

「いや、血の量ってそれは変わらへんやろ?だいたい怜は準備が悪いんよ?

  そういう時は虫よけスプレーを持ち歩いとくんがどうたらこうたら」

「…竜華のマネ?」

「おう!」

「ちなみにセーラ虫よけ持っとる?」

「オレが持っとると思うか?」

「せやな」

「血くらい、いくらでも吸ったらええねん。減るもんやない」

「いや、流石に減ってはいると思うけど…」

 

 

セーラの希望で、怜のこれまでの事件の解説がはじまった。

竜華はそれぞれの全貌を知っていたが、

セーラにはタイミングも悪く、まだ説明できていなかった。

蚊除けを期待して、河川敷に沿って、ゆっくりと歩いていく。

 

 

「…ってなわけで、犯人は強女さんやったわけや」

「なるほどなぁ…」

「しかもえらいことにな」

「ま、まだなんかあったんか?!」

「スープスパ、結局食べそこなってしもた」

「ってそこか!」

「ウチにとっては神様に見放された瞬間やったで」

「でも代わりに色々と貰ったんやろ、その宮永さんに」

「そう! それがまた最高に素晴らしい報酬やったんや」

「それは良かったなぁ」

「…その話しとったら、またお腹空いてきた」

「早っ!!」

 

 

   *

 

 

「一枚神経衰弱?」

「そ♪」

 

聞いたことのない名前だった。そもそも、神経衰弱は、ババ抜きの変化形のジジ抜きや

大富豪の地方ルールみたいに、アレンジの仕様がないゲームだと思っとったけど、どうやら違うみたいやな。

 

「それじゃ簡単にルールを説明するわね」

「お願いします…あ、ちなみにお金って」

「んー」

 

言うや否や、手を広げて制止された。

予めそう言われるのを想定しとったような素早さや。

 

「それも、説明に入ってるから。とりあえず、先に聞いてくれると助かるわ」

「はぁ」

「もちろん、やりたくなかったら、やらなくてよし。それはあなたの自由よ?」

「…分かりました」

 

とりあえず話だけ聞いて、怪しかったらとっとと帰ろか。

だいたいこんないかにもな場所でお店構えとる時点で、不自然やし…

 

「一枚神経衰弱…通称『未来映し』」

「それは、あなたの、未知なる不思議なチカラを試す、そんなゲームよ」

 

おさげさんは折り紙を掲げて、ウチに説明を続ける。

未来映し、なんて占い師の水晶玉を思い出さるな。

 

「折紙って、正方形でしょ? これを9分割して、それぞれのエリアに1から9の数字を書くの」

「それは、正方形を『井』のように均等に区切って、ってこと?」

「ご明察。そして、それは二人で書くの」

「二人で?」

「ええ。一人でもいいんだけどね。公平を期すため、とでも言えばいいかしら」

「公平?」

「そうよ。説明を続けるわ。それで1~9の数字を各エリアに書きこむでしょ」

 

トライアルとして今回は私がやるわね、と言っておさげさんは折り紙に数字を書いていく。

なるほど、1~9までの数字を順番にやなくて、ランダムに埋めていくんや。

 

「で、これを次は…」

 

ものさしを取り出して、紙に合わせて丁寧に切っていく。

あっけらかんな喋り方の割に、随分と器用にその作業を進めていった。

綺麗な一つの正方形が、九つの綺麗な正方形に早変わりや。

 

「これで準備完了よ。これで、後はひっくり返して…シャッフルする」

「ふんふん」

「はい、ここからがゲームなわけだけど…さっき未来映しなんて言ったけど」

「あくまでこれは『一枚神経衰弱』というゲームよ」

「それで、そこからはどうやってやるん?」

「ふふっ、ちょっとノってきてくれたわね」

 

何やかんやと言っても、ウチもこういう遊びは嫌いやない。

そもそも今日はお祭り、多少ハメを外してもいいと心のハードルは低かった。

説明を聞いとるうちに、段々と乗り気になっとる自分にちょっぴり笑ってしまう。

 

「神経衰弱なら、要は絵柄合わせやろ? 一枚でどうやってやるん?」

「ふふ、それがこの『未来映し』よ」

「どういうこと」

「引くカードは、各ターンに一枚――――その代り」

「もう一枚、それはあなたの心の中にあるカードよ。」




また早いうちに書けたらいいな。
遅い執筆ですが、応援よろしくお願いします。

感想とかなどもいただけると、参考になるので何かあればぜひ。

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