名探偵 怜-Toki-   作:Iwako

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ロシアンルーレット、②は竜華視点で、胡散臭さ折り紙付きでお送ります。


三巡先 欺きの折り紙②

セーラが持ってきたお茶菓子のお饅頭。

どうやら、タダで食べさせてくれるわけやないらしい。

ウチと怜は、セーラの説明に耳を傾ける。

「饅頭…」

「…ロシアンルーレット?」

「そうや。全部で6個の饅頭があるんやけど」

「この中に恐ろしい【あたり】が1つある。それを食べた人が負けや」

 

なるほど、たこ焼きの中に一個だけわさびとか入れるやつな。

昔、よくそういう遊びが流行ったなぁ。あれ、けっこうエグイやんな。

辛いもの、ウチはあんまし得意やないし…

 

「ちなみに、当たりって何?」

「………聞きたいか?」

「い、一体何やのん?」

 

セーラは、苦虫をかみつぶしたような顔をして、ゆっくりと、

それはもうゆっくりと、間をたっぷりとって、ウチらに語り掛ける。

 

「練り唐辛子……しかも……世界一辛いと言われた…

 伝説キャロライナ・リーパー…これを練りこんだやつや…」

「キャロ…?? 聞いたことないな。うまいん?」

「ウチも。ハバネロなら聞いたことあるで。それが世界一辛いんやないん?」

「勝負の世界だって、常に王者がそのポジションに君臨し続けることなんてあれへんやろ?」

「食べ物の世界でも同じことなんや。常にチャンピオンは目まぐるしく入れ替わる、ちゅうこっちゃ」

「辛いもので言うと、ハバネロは今は全然たいしたことないレベルらしいで」

「へ~」

 

なるほどな。確かに、食べ物だって今はすーぱーフードとかいう高栄養の食べ物が話題やし

昔は知られてなかったものが、いつの間にか社会に浸透して色々と常識っちゅうものも変わるもんなんやろうな。伝統だって、変わっていくように。

 

「じゃあ前置きはこの辺にしてそろそろやるか」

「ちょ、ちょっと待って」

「なんや竜華。水さしやなぁ」

「い、一個確認させてや。これ【あたり】食べたら…どうなるん?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………」

 

えっ、何その沈黙、その悲痛な顔。一遍地獄を見てきたみたいなその表情は何やのん?!

 

「えらく沈痛な面持ちやな。もしかして食べたん?」

「オレはもう二度とたべたくない。しんでもいやだ。ぜったいに。」

「なんでそんな代物をウチらに食べさせようとしとるん?!」

「だって…見たいやん?親友(みちづれ)が悶絶しとるところ」

 

今、今、絶対親友のところの読み方おかしかった!

複雑な表情浮かべとるつもりかもしれへんけど、口元が笑っとるでセーラ!!

 

「ウチの知っとるセーラはそんな器の小さな漢やなかった!漢らしいセーラはどこいったん?!」

「だってオレも女やしなぁ」

「くぅっ、なんか上手く返されてムカつく!!」

「まーまーゲームやと思って」

「そ、そういう問題やないって!食べたら絶対火吹くって!!」

 

※問題の唐辛子の写真がこちら

http://i.gzn.jp/img/2013/09/23/carolina-eaper-hottest-pepper/01.jpg

 

「いやや、いややパス!絶対パス!!なんやこの自然界に存在しなさそうな色!」

「確かに赤いなぁ」

「怜もこんなんが入っとるんは嫌やろ?!」

「いや、ウチはやってもええで。お腹空いたし、その赤いのだって食べられんものやないんやろ?」

「うっ、せやった怜はそういう子やった……」

 

アカン、状況がアカンすぎる。これでウチは少数派、ゲーム開始は避けられん!

なんとか、なんとかこの場を繋いで、起死回生の一手を――――!

 

「ど、どうしてもやらなアカン?」

「逆に、どうしてもやりたくないか?」

「やって、辛いもの苦手やし…」

「じゃあ竜華、なんかこの家で他に娯楽提供できるちゅうんか?」

「は、娯楽?」

「そうや。この部屋で何か他にできることあるんか?」

 

セーラに言われて、事務所を見回してみる。

見回すのもつかの間、広さも物もあったもんやない、その間たったの5秒弱。

この家でできること――――アカン、少々の家具が置いてある以外、外におるのとそんなに変わらん!

 

「………」

「な?」

「い、いや。例えそうやとしても、普通にお喋りすれば―――」

「じゃあ」

 

セーラはウチにさりげなく寄ると、耳元に口を近づける。

『竜華、お前、怜の悶絶する顔、見たないか?』

『は?』

『いつも冷静沈着、天変地異が起こっても、明日は明日の風が吹く、とか宣ってもおかしない、マイペース園城寺……』

 

せ、セーラにしてはなんかそれっぽいこと言ってくるな。

しかも怜やったらホンマに言いそうや。

 

『これがあれば、そのクールな仮面が剥がれ落ちるのまったなしや』

『……』

『ちょっと涙目の怜、見たくない?』

『な、涙目の……』

『「りゅ、りゅーか。アカン、口の中ぁ……」』

『………』

『もしかしたら、怜の弱点が分かれば、色々竜華のいう事聞いてくれるようになるかもやで?』

『………!』

『どうや?』

『……ちょっとだけやで』

『っし、竜華ならそう言ってくれる思た。ええか、そのために………こうやって……』

 

い、言っておくけどな、これは決してセーラに乗せられたんやないで?

間違っても、怜の涙目が見てみたいとか、可愛い反応が見てみたいとか、そんな小学生が好きな子にちょっかいかける理由の最たるもの的な何かやなくって

そういうのやなくってな、ただちょーっとだけ、園城寺怜さんの、普段と違った姿を拝見することで、今後のウチの展望が、ともすれば開けるかもしれんっていうか

………って、ウチは誰に何を言い訳しとるんや。

 

「二人とも、なにこそこそ話ししとるん?甘いもん食べられるんやったら、ウチはなんでもええで」

 

『ええな、打ち合わせ通りで!』

『OK』

 

「竜華?セーラ??」

 

「……しゃーない、セーラの遊びに付き合ったるわ」

「おっし、決まり!」

「よっしゃーやるからには、絶対勝つでーー!」

「お、おう…急にやる気になったな。竜華?」

「ホンマヤナーナンデヤロナー」

「??」

 

「じゃ、細かいルール説明いくデー」

 

 

【キャロライナ・ルーレット】

 

・当たり(唐辛子入り)は6個中1個

 

・一つづつ順番に食べていく

 

・当たりを引いたらその時点で終了

 

・まんじゅうがなくなるまで続ける

 

 

「なくなるまで続けるんか。絶対誰かが当たり引くっちゅうこっちゃな」

「せやでー」

「なるほど、なかなかスリルありそうやね。これって市販のやつなん?」

「市販やで。面白パーティセットみたいなやつの一つや」

「悶絶パーティになりそうやけどな…」

「ん?ビビッとん、竜華?」

「び、ビビッてへんし!!」

 

はっ、悪いけど、怜。今回、アンタに勝ち目はないで。

セーラと協力できるとなれば、百人力や。ビビることはない。

待っとき。目にもの言わせたるで。ふふふ、楽しみやなぁ。

 

「はい、じゃあジャンケンで順番決めるデー」

「順当に、勝った順から食べるってことにしよかー」

「それじゃあ、ジャンケン!」

 

 

「チョキ」:怜

 

「グー」:竜華

 

「パー」:セーラ

 

 

「あいこデ」

 

 

「パー」:怜

 

「パー」:竜華

 

「チョキ」:セーラ

 

 

「おっ、オレが最初やな。あとは二人でどっちが二番手か決めてな」

「分かった。それじゃ、怜。いくで」

「……」

「ジャンケン」

 

「チョキ」:竜華

 

「グー」 :怜

 

 

★食べる順番★

セーラ→怜→竜華

 

 

「順番は、オレ、怜、竜華の順やな」

「りょうかい!」

「それでセーラ、その饅頭はどこにあるんや?」

「ああ、すまんすまん、肝心のブツを出すのを忘れとったわ。カバンに入れとるんや」

「ブツって…」

「これやで。じゃあ、早速開けてっと……」

 

持って来とった鞄から、おもむろに取り出すセーラ。

見ると、外見はまったく普通の饅頭にしか見えん。

けどこの中に、悶絶するほど辛い伝説のキャロライナさんがいらっしゃるっちゅうわけか。

 

「全部で6個。この中に当たりが1つか…」

「それじゃ、まずはオレやな。んと~そうやなぁ」

「これにしよか…いや、これ……うーん」

「えらい迷っとるなセーラ。まだ当たる確率は1/6やし豪快にいったらええやん」

「それもそうやな。せやったら、オレはコレや」

 

何個か饅頭を指で差しながら、セーラは一個に的を絞った。

実際に『当たり』を引いたことがあるからか、慎重になっとるようや。

 

「いただきます」

「……ごくり」

「…怜、お腹すいたん?」

「空いた。早よ食べたい」

 

そんな怜を尻目に、セーラは恐る恐る口に入れた。

一口、二口……それから、もう一口。

セーラは、親指を立てて、勝利のポーズを取った。

 

「……うまい!いやー、こら竜華の入れたお茶との相性ばっちりや!」  

「おーセーラきっちり外してきたなあ」

 

【残り5つ】

 

「次は怜やで、おまちかねの饅頭やな?」

「やっと食べられる!」

「せやけど、当たりを引くかもしれんでー?」

「うーん、願わくば普通の饅頭であってほしいなぁ。まあ別に当たってもええけど…どれがええか」

 

怜が当たりを引く確率は、もちろんセーラの時より少し高くなる。

せやけど、これやったらいくら勘でも、当たり引かんと思うわ。

よっぽど運がなかったら別やけどな。

 

「いただきます………もぐもぐ」

「ど、どないや?」

「…………さいっこーにうまい!!」

 

まあ、さすがにここで当たりは引かへんか。

構わんで……怜、アンタは次に確実に引くことになるんやから――――!!

 

「いやーこれいけてる饅頭やなあ~~セーラおおきにな、こんなにうまいもん食べられるウチは幸せや。生きててよかった」

「そーかそーか、それは持ってきた甲斐があるで。でも、勝負の途中なんは忘れんといてなー」

「む~怜、ウチがお花あげた時とえらい反応違わへん?」

 

生きててよかった、とまで言わせるこの饅頭は何なんや。

セーラじゃなくて、饅頭の力や、これは!饅頭憎い。

 

「だってウチは、団子か花が崖から落ちそうなときやったら、間違いなく団子を助ける派やし」

「何の派閥や」

「ちなみに、怜。竜華と花が崖から落ちそうやったら?」

「なんやその質問。竜華に決まっとるやん」

「怜…!」

 

嬉しいこと言ってくれるな、怜!

ウチも同じ立場やったら、お花屋さんやからと言っても、そっちには目もくれずに怜を助けるで!

 

「…じゃあ竜華と団子が崖から落ちそうやったら?」

「いやセーラ、いくら花が団子になったって怜がウチを見捨てるわけないやろ?なぁ、怜…」

「だ、団子……竜華……」

「と、怜?!!」

 

そこには、目を泳がせながら回答に苦しむ怜の姿があった。

ううううと呻きながら、究極の二者択一に直面したかのような―――――って、待たんかい!!

 

「むぅ…」

「いや悩む内容ちゃうやろ!!」

「怜、団子にはみたらしもつけるで」

「み、みたらし?!やったらだn……いや、竜華!」

「なんで一瞬迷うんや!!」

「ちなみにオレか団子やったら?」

「なんやその質問。セーラに決まっとるやん」

「なぁっ?!?!」

「見たか、りゅーか。これがオレの実力や」

「怜ぃぃぃぃ、どういうことやのん!!」

「いや、こう答えるのがお約束かな、と…」

「そんなお約束、求めてない!!」

 

なんでそんな所で、空気読むんや!

美穂ちゃんと握手するときは左でやったくせに…!

もう、絶対許さへん!!

 

「むぬぬぬぬ」

「ほら、竜華の番や」  

 

【残り4つ】

 

「……じゃあ、ウチはこれにする」

「お茶冷めてきてしもうたな、出涸らしかもしれんけど入れるデー」

「ありがと。それじゃあ、いただきます」

 

んむ…あ、ホンマや、美味しい。

やや薄めのもちもち皮に、たっぷり餡子が入ってる。

餡子の甘さは控えめで、ちょっぴり皮が甘くていい感じにバランスが取れとる。

パーティ用とは思えん完成度…どっかの和菓子職人さんが作ったんやろうか。

もしそうならロシアンルーレットに使われたりして、ちょっと悪いな。

…でも、今回は絶対怜を負かしたるから、許してな職人さん!

 

「………?」

「怜、どうかしたか?」

「いや、なんでも」

「ふふん、セーフや、どうや!怜、あんたにだけは負けへんで」

「熱くなっとるな、竜華。これで一周したんか」

「そうやな。これであと残り3つや…結末は3つや。オレが食べるか、怜が食べるか」

「それか、竜華が食べるか、か」

 

 

【残り3つ】

 




ロシアンルーレット前半戦終了
次回後半戦、セーラと竜華の計画とは。
そして、怜の反応は。

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