そんなオカルトありえません
一点だけ
今回は途中で視点が
三人称⇒竜華に移ってます。
*
竜華が小川に水を汲みに行ってから、すぐ後のこと。
唯一の知り合い同士の片割れがいなくなって、畏まったように空気が張り詰めていた。
「で。本題に入らせてもらってええですか?」
「………」
「福路さん」
「キャプテン。代わりに私が話してもいいんですし?」
「い、いや私が話すわ。ありがとう、華菜」
「それならいいですし」
美穂子は軽く深呼吸をすると、ポン、と頬を抑え、覚悟を決めたように怜の方に向き直る。
「このことは世間には全く知られていません。なので口外しないと約束していただいていいかしら?」
「守秘義務か。内容によるな」
「約束していただけないのなら、話せません」
「……分かった。こっちも話してもらえへんのは困るさかい。誰にも言わんと約束します」
「ありがとうございます」
「絶対言うなし!!約束だし!!」
「それでは、話します。実は先日、ウチの部員が一人…亡くなりまして」
「亡くなったて、それは殺人事件?自殺?」
「今からお話します。私はその場に居合わせなかったので、正確には話せません。
それに、あまり情報もお渡しできない、というか…」
「そうやろな」
「……おい。またお前適当なことを言ってるのか」
池田華菜。華道部部員の、次期部長筆頭のエース。
今回、華菜は美穂子のバックで、所々サポートするだけのつもりだったが
余りの事務所の悲惨さ、怜の掴みどころのない態度などを見て、完全にスイッチが入ってしまっていた。
美穂子の手前にもかかわらず自分を抑えきれず、思ったことをすぐ外に出してしまう。
「適当?」
「適当じゃないか、まだ何にもこっちは話してないだろ!!」
「この状況から、簡単に推理できることや」
「何だと?」
「ウチは見ての通り、辺鄙な田舎にぽっつんある、風が吹けば倒れるような、あばら事務所やで」
「わざわざそんなところに来るっちゅうことは、公に触れさせたくない、タブーな何かってことは想像できる」
「さしづめ―――名門。世間に知られたくない。真実隠蔽、守秘義務。華道部部長。難しい立場。建前と本音」
「こんな感じのキーワードで理解したらええんかと思ってな」
「なっ!?」
美穂子も華菜も、怜の発言に驚いて目を丸くする。
「……概ね、そうです。竜華さんの言ったとおり、ですね」
「ええよ、続けて」
「そして後日、私は苦労して一枚の現場写真を手に入れました。
現場の状況も、粘り強く警察の方に聞いてみて、最低限のことは聞き出せました」
「ふむふむ。つまりその事件の真犯人を見つけて欲しいってこと?」
「し、真犯人というか…真実というか…ええと…」
「…?」
「と、とにかく。私の大切なチームメイトが一人亡くなったのに、まるで、なかったようなことにされてしまって…」
「それが、とても悔しくて。だからこうして園城寺さんに頼らせていただいてるわ」
「………それじゃあ、依頼内容は【その事件を解き明かすこと】【事件に関わることを口外しない】でええの?」
「はい…」
「百万」
「……えっ?」
「報酬や。これ以上まからへんで」
*
「ふ――――ふざけるなしっっ!!!!」
「学生にそんな大金払えるわけないだろ!!」
池田さんはえらい剣幕で、怜に怒鳴りつける。
一体、何がどうなっとるん?!
「帰りましょう、キャプテン!!こんな汚らしいところから、早く!!」
「おかしいと思ったんです、こんな寂れた場所に探偵事務所なんて―――――」
「―――百万円、ですか」
「百万円。百円じゃないで」
な、なるほど。報酬のことで、池田さんが怒ったんか。
百万―――とはえらいふっかけたなあ、怜。
池田さんの殺気をものともせずに、じっと座っとる辺り流石というか。
「何を悩むことがあるんですか、これまで通り、警察から少しづつ地道に情報を集めればいいんですよ!」
「こいつに頼る必要なんかないですし!!」
「……分かりました。払います。どんなことをしてでも」
「キャプテン?!」
「華菜、私は真実を知りたいの。これはお金の問題じゃないの。私の気持ちがそうしなさいと言ってることなの」
「そのために、真実を知るために、お金が必要だというのなら」
「払うしかないでしょ?」
「でも、よりによってこんな奴に頼らなくたって……」
「こんな方?あったその日のうちに、その人の全てを分かった気になるのは良くないわ」
「華菜、お金のことなら心配しないで。大丈夫だから」
「キャプテン…」
どうしても納得がいかないのか、池田さんは拗ねたようにほっぺたを膨らませとる。
それでも、美穂ちゃんが頭を撫でながらしばらく諭すと、ようやく落ち着いたみたいや。
まるで猫のしつけを見とるような、そんな気分。
「…キャプテンがそう言うのなら。華菜ちゃんはもう何も言いませんし」
「契約成立やな。約束やで。反故は堪忍な」
「…華菜ちゃんは認めたわけじゃないからな。これで何も分からなかったらタダじゃおかないぞ」
「お手柔らかにお願いします」
「チッ…」
もうのん気にお茶を飲む雰囲気じゃなくなってるし、こっそりコップだけ置いておく。
お陰様でお茶の味に関しては取り越し苦労になった、悪い意味で。
というか依頼人の機嫌損ねてどうするんや、さっき注意したばっかりやんか。
まあ、でも。それでも。
怜なら、きっとなんとかしてくれる。頼んだで、怜。
「それじゃ写真。拝見します」
「これです、どうぞ」
「ん」
そうして美穂ちゃんは、一枚の写真を怜に渡した。ウチも一緒に見ていいんかな?
気になるけど、これはお仕事やしウチは関わらん方がええか…………でも気になるなあ。
「ええと、竜華さんも…見てもいいのよ?」
「えっ?!ええのん?」
「そんな風にもじもじされると、なんだかこっちも気になってきちゃうわ」
「うう、ごめんなさい…」
「いいのよ。でも、見ていい気持にならないのは覚悟してね」
「!」
言われてみれば、人が死んだ場面の、写真。当然、見て楽しいもんやない。
軽々しい気持ちで見ていいもんでもない、けど、それでもウチは―――
「―――ウチも美穂ちゃんの力になれるかもしれんし。お願いします」
「やったら、りゅーか、ウチの隣に来ぃ」
「そうさせてもらうわ」
にしても、ウチそんなにソワソワしとったんやね。
怜もちょっと苦笑いしとったし。池田さんに至っては呆れ顔やった…仕方ないやろ、ウチだけ除け者は淋しいやん!
よし、どんな写真なんか、怜の手元をそーっと、そーっと……
「っ!」
それはもう、ひどい有様やった。
部屋中引っ掻き回された形跡があって、ぐしゃぐしゃ。
机や椅子はひっくり返り、棚は引き出しが全部空いて備品が床に放り出されとる。
高そうな掛け軸はビリビリに破かれてしもうて、もはや見る影もない。
花瓶(?)も割れてしまって、破片が飛び散り、元々入っとった水で所々が濡れとる。
部屋にある窓は割られて、ガラスが窓の下に散らばっとる。外から入ったんやろうか。
ガラスってこんなに粉々になるんやなぁ。細かい砂みたいや。
そして――うつ伏せで部屋の真ん中に人が倒れとる。頭から、赤黒い、糊みたいなものがべっとりついとる。床は血まみれやった。
花瓶の破片には血がついとる。これで殴ったんやろか…
「……っ、し、死んでる…んやんな…」
写真とはいえ、初めて死体を見てしもた。
胃から食道に、酸っぱい何かがこみ上げてくるのを、つばを飲み込んで抑える。。
「りゅーか、みんでええよ」
「だ、大丈夫。これくらいはへーきや…」
「これ、倒れとるのは部員さんなん?」
「そう。ウチのレギュラーの一人で…Aさんよ」
「レギュラー?華道に試合あるん?」
「試合というか、コンクールね。全国華道コンクールがあって、それに作品を出せるメンバーを選抜するのよ」
「この子はその選抜メンバーの一人よ」
「ちなみに華菜ちゃんもその選抜メンバーの一員だし!!」
あ、そうなんや。これまでのイメージ的に、池田さんの得意分野って華道よりも武芸かと思った――ってそれは失礼やな。
ということは、この人もやっぱり凄い人、なんやろうなぁ。
「この部屋は?」
「選抜メンバー…これからはレギュラーって呼ぶわ、レギュラー専用の部屋よ。
レギュラーは全員で6人いたわ。今は、その、5人になったしまったけど…」
「そっか。じゃあこの事件に関して福路さんが知っとる限りの情報教えてくれる?」
ウチは、怜が覚えきれんことをフォローしようと思って、メモの準備をする。
かたや怜は全くメモを取る気配すら見せとらん。そんなんでええんか、怜!
「はい。事件が起こったのは一週間前。その時私は風邪で寝込んでしまっていてその場にいなかったの」
「死因は…その、頭部強打によるショック、出血死だそうです」
「撲殺、な。この破片は…花瓶の?」
「ええ…もしかしたら、この…花瓶で…」
「血ぃついとるしな。その可能性はある」
なるほど、死因は出血、とショック?
あと凶器は花瓶の可能性あり、と……
★Aさんの死因★
ショック&出血死(ぼく殺) きょう器:花びん(?)
こんな感じてええやろか?
「ちなみに華菜ちゃんは買い出しにいって学校にいなかったし。
帰ってきたら警察がいてびっくりしたし。現場には入れなかったけどな」
「他のメンバーが学校におったの?」
「ええ…ただその日はフリーの日で、元々はレギュラーでコンクールの打ち合わせをする予定だったのだけど」
「私は寝込んでしまっていて、華菜は買い出しでいなくって。結果的に、レギュラーの4人がコンクールの準備をしてたの」
「…それじゃあ、容疑者はその中に?」
「……いえ、3人とも部室の方に居たと言っていたわ」
「レギュラー専用の部屋と、部室は違うってこと?」
「ええ、レギュラー専用の部屋は、本当にレギュラー専用。あまり言いたくはないけど、VIPルームのような感じで」
「部室は、皆が入れるように、とても広いの」
★お部屋★
レギュラー専用部屋⇒せまい、Vipルーム、Aさん発見そこで
部室 ⇒ひろい、事件の時に、Aさん以外のレギュラーがおった
「他の三人は部室におったってことは…第一発見者は?」
「警備の人、らしいわ」
「そうか。キャプテンのアンタには知らされんかったん」
「体調を崩してる私には知らせない方がいいって、顧問が…そして、次の日に学校に来た時には、もう」
美穂ちゃんは、唇を噛み締めて悔しそうに言う。
そら辛いわ。当たり前や、大事な大事な後輩がこんなよう分からん形で命落とすなんて。
いや、形なんて関係あらへん。どんな形であれ、後輩が亡くなったりしたら美穂ちゃんはきっと悲しむやろう。
これ血がいっぱい出て…痛かったやろな。
「それで?どうなったんや」
「部員の皆には、これは外部の人による犯行という説明がされたの。
それで一週間前にその場で捜査は打ち切られたのよ」
「もみ消し、か。なんでそうなったんやろか」
「もしかしたら、もうすぐコンクールがあるからそのことが影響しているのかもしれないわ…」
「そもそも本当ならこんなところで油を売ってる暇はないんだし?」
名門の事情…か。あんまり口出すつもりはないけど。アレやなぁ。
個人的には取引相手としては大口やし、ありがたいけどなんか複雑な気分になってきたわ。
「私もこんなことがあったのにコンクールだなんて、と言ったのだけれど…学校側が許してくれなかったわ…」
「キャプテンが出せば、入賞どころか最優秀は間違いなしだから…学校としてはコンクール不参加は避けたいわけだし」
「不祥事で学校の名前に傷がつくことも避けたい、けど優秀な生徒の存在は誇示したい、ちゅうわけか…」
「……」
「…この写真のことは他の部員は知っとるん?」
「いいえ、私と華菜だけよ。これは私がわがままを言って手に入れたものだから。
絶対に流出させないこと、コンクールには出ることを条件に…」
「実際にこの現場見た人は誰か他にいる?」
「ごめんなさい、分からないわ。でも私と華菜は見てないことは確かよ。レギュラーの残りの三人は……」
「見てる可能性はある?」
「……」
怜の質問に美穂ちゃんは口をつぐんだ。
どうしたんやろか、答えにくい質問やったかな?
「美穂ちゃん?」
「…分からないわ。でも、三人はずっと部室にいたらしいから、それぞれアリバイがあるわ」
「現場を見たかどうかは直接聞いたわけじゃないから、分からないけど…ずっと部室に居たのなら、見てないと思うわ」
「さよか」
ふむふむ。
★第一発見者★
警備員さん
やね。これまでの状況を、ウチなりに整理してみると――――
<いつ>
事件は、一週間前にあった。
<出てきた人たち>
みほちゃん ⇒部長さん、事件の日はおやすみ
池田さん ⇒レギュラーの一人、事件の日は、買い出しでいなかった (ちょっとねこっぽい)
Aさん ⇒レギュラーの一人、【レギュラー専用部屋】で、頭から血を出して、ばたり
b,c,dさん(仮)⇒残りのレギュラー。事件発生時は【部室】にいた
警備員さん ⇒第一発見者。
<お部屋>
レギュラー専用部屋⇒せまい、Vipルーム、Aさん発見そこで
部室 ⇒ひろい、事件の時に、Aさん以外のレギュラーがおった
<死因>
ショック&出血死(ぼく殺) きょう器:花びん(?)
<写真>
部屋中、めちゃくちゃにかき回されとって、泥棒がはいったみたいな感じ
……ふぅ、まとめるの疲れた、こんなもんやろか?
今回のことは、レギュラールームで起こったことやし、真っ先にレギュラーが容疑者になるんは仕方ないわな。
でも、三人とも部室にいたならお互いのアリバイを証明しあえる…それで他の華道部の部員は学校に来てないんやな。
……ん?あれ? あれ、これってもしかして??
次回、竜華がいい所に気が付く!