ミステリー等と銘打ってはありますが
難しく考えず気軽に見ていただければと思います。
咲のキャラをまんべんなく登場させながら、楽しく書いていきたいと思いますので
よろしくお願いします。
一巡先 心の鍵①
とある町の町はずれ。
市街地から、電車で1時間。バスで20分。歩いてさらに、30分。
そんな場所に、ひっそりと佇んだ一軒家。
寂れた、錆びついたその建物の目の前で一人の女の子が立ち尽くしていた。
「―――――――――」
想像していたラインの、遥か下を行くそのあばら家具合に
脳が勘違いをして、壮観さすら覚えてしまうほどだった。
そして、素直な感想が、たった一言その少女の口をつく。
「――――――ボロい。」
建てつけが最悪の扉を無理やり引っペがして潜り、さらにクモの巣を潜って中へ入る。
部屋全体がどうしようもなく埃まみれ、壁には風穴が空き
床は板が外れに外れて踏み場が少なく家具はぼろっちいソファが一つだけ。
窓と思しき場所はぽっかり枠が抜け落ちて、第二の玄関として使えそうなあり様。
「まず初仕事は掃除から……やな。あーあー先が思いやられるで」
「身体使うんは、ウチの専門やないんやけど」
持ってきた荷物を、比較的汚れがマシな所にまとめて
幼なじみが作ってくれた三角巾とエプロン、分けてもらった軍手をはめて、準備万端。
「ま、なんにせよ」
「こっから、再スタートや」
*
「やばい。やばい。やばい。今月の食費マジやばい。やばすぎ笑えへん」
「自炊始めようとしたはええけど、全然できへん。練習すればすぐできるようになるって聞いたけど、ウチがやるとコスパが悪すぎる」
「おかげでこっちは今月大赤字や!りゅーかのやつ、次会ったら文句言うたるで…」
いきなりやけど、ウチの家計の話。
食費は月1万以内が目標や。
今月残り二十日で財布の中には××××円やから…よし。1日△△△円でいけるな。
貯金?そんなんあるわけないやろ。むしろマイナスや、マイナス!!
でもへーきへーき。△△△円あれば、う○い棒11本は買えるで。朝3本昼5本夜3本でめっちゃ贅沢できるなあ。
「ってアホかぁ!!1カ月1万生活でも100パーありえへんやろ!!絶対もつわけないって!!ウチは蟻かなんかか?! あぁ?!」
めいいっぱい、己の哀れな現状を叫んでみた。
声張り上げたつもりやったのに、蚊が鳴くほどの声しかでーへんかった。
あれほど鳴り響いとった腹の音が、何時からか止まってしまっとるのに驚いた。
涙が枯れるほど鳴いて、渇き切ってしまうように
腹の音も、鳴らし尽くすと、こうやって出なくなるとは。
「って言っとる場合やないで。1日△△△円で残り二十日を乗り切る方法を真剣に考えな」
ああああ、どないしよ!どないしよ!!
あ、お見苦しいところをすんません。自己紹介が遅れました。ウチ、園城寺怜言います。
年齢秘密、性別は女、好きな食べ物は食べ物なら食べる、お住まいは町はずれのど田舎町、住所?そんなん登記がないんであらへんし
スリーサイズなんてしばらく測って辺から自分でも分からん。
ただ背中と腹の肉がくっつきつつあるから、前より痩せたかもしれん。
身長も縮んだかな? 筋肉も随分落ちた気がする、元々なかったけど。あと胸はないわ。なんか文句あるんか?
最近は水と塩とうまい棒だけで生きとったからなあ……え?さっきのはネタじゃなかったんかって?
○まい棒舐めたらあかんで。たこ焼き味を1日11本喰ってみ。しばらく何も食べたくなくなるで。
栄養バランスが悪い?ただそれは単調なお味に飽きただけであって空腹には変わりない?
ウチの食生活にツッコミ入れる前に自分の食生活見直してみいやコラぁ!!
一日三十品目っちゅう厚○省の推奨基準満たしとるやつがどれだけおるっちゅうんや!?
っと、またやってしもた。カルシウム足りてへんのです、すんません。
というかカルシウム含めた栄養素全般足りてないの。
語尾がおかしくなってしまうくらいには。
「そろそろお仕事ほしいなあ……お腹すきすぎて頭おかしくなりそうや」
あ、言い忘れたけど、職業は『探偵』やってます。
依頼がないと、生活できへん……ああ、事務所がボロなのは文句言いません。
部屋に電気水道ガス通ってなくても我慢します。服がボロなのもかまいません。
ただ、ごはん食べないとさすがに死ぬんです。助けてください………ん?
『スープスパ専門店へようこそ どなたでもご自由に』
空腹の中町をさまよい歩いてると、とある看板がそこにあった。
す、スープスパ……やと?
「………なんやぁ?!この喰いもんわァ!?こんなキザったいもん、喰った内に入らへんわァ!!!!!!!!」
看板を、渾身の力で蹴り飛ばした。
この喰い物も何も、完全に八つ当たりやった。
腹が減っての八つ当たり。こんなに見苦しいことはない。
「だいたいなあ、スパゲッティはスパゲッティ。スープはスープやろ!!
まぜこぜとか野暮すんなや!!」
「専門店やぁ?!おーおー市民権とったみたいに偉そうに。
西地区の名物はお任せあれってか!!!」
「この気取った商品名、なんや知らんムカつく店構え、旨そうな食品サンプル、
鼻を刺激するええ匂い…喧嘩売ってるんか?お?」
「……………」
小心者のウチは、悲しげに倒れた看板を元の位置に戻した。
見ると、傷一つついてなかった。ウチの渾身っちゅうたらそういうことや。
「はぁ、はぁ、はぁ、ホンマに何をやっとるんやろ、余計、腹減る、やん………ん?」
『スープスパ専門店へようこそ どなたでもご自由に』
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開店十周年記念日につきまして、只今のご時間帯はおひとり様につき一杯無料でスープスパを提供いたします
「…………」
「スープスパって最高の食べ物や。うまい棒とかいうトウモロコシ粉の副産物はクビで」
えーなになに?こんなにラッキーなことってあるん?
こんなにお洒落そうなお店でタダ飯してええの?
まさかこの開店記念日が今日じゃないっちゅうオチやないやろうな……おっ、ちゃんと今日やん。
時間帯が時間帯やし、中に人も全然おらんように見えるし。
前から思ってたけど、やっぱりスープスパがナンバーワン! 市民権どころかワールドワイド級や。
三ツ星レストランに即刻認定……いや、今から和食に続いてユネスコの文化遺産として登録まであるな―――――間違いないわ。
「ふう。我ながら熱い手のひら返しや。しかし、気にしたら負け」
「ホンマにラッキーやなあ。こんなことってあるんか。天は我を見離さなかった。行くで」
久しぶりにまともな食べ物にありつけると思うと、自然と手に力が入る。
ウチは今度こそ渾身の力でドアを開いた。
「お、なかなかこ洒落た内そ――――――」
『う、ぅわあ!?』
『きゃあああ!!』
店内を見回して、感想を言い終える前に、悲鳴が――――上がった。
普通の日常では、まず起こり得ない種の声。
一本道の店内に人が倒れている姿がはっきり見える。
その悲鳴は怜の耳に、そして何より空腹の腹に深く、深く響いた
どうやら再び天は自分を見離したのだと。
続き二日以内に投稿すると思います。
麻雀は基本的に登場しませんのであしからず……