左右に貨物船。
商船を3列に並べた船団が南シナ海を北へ向かう。
その船団の前方、露払いのように並ぶブリタニアのコルベット2隻を飛び越えると、香取型軽巡洋艦『香椎』が全速で突っ走っている。
さらに香椎を越えると、単横陣に並んだ4隻の睦月型駆逐艦が軽快に白波を立てて快走していた。第22駆逐隊『皐月』『水無月』『文月』『長月』である。
4隻の駆逐艦は青白く光る波紋が広がる海を切り裂いて前へ進んでいく。やがてやって来る波紋が追いかける波紋へと変わった。波紋の発信源を追い抜いたからだ。
光る波紋の発信源には、フロートを展開し水上滑走状態でゆっくりと進む零式水上偵察脚のウィッチが一人。
水中探信ウィッチ、『水音の乙女』こと一崎天音!
「こちらウミネコ。ネウロイは横一列に並んだまま接近中。深度30m。速度8ノット。転舵地点まであと200m」
≪22駆了解! 各艦転舵まであと10秒! 魔法魚雷戦!≫
第85話「新春ネウロイ大出血サービス!」
白波を蹴散らす4隻の睦月型駆逐艦。
各艦の艦橋前の魚雷発射管が白く輝きだす。
発射管は既に右舷を向いていた。発射管の指す先には僚艦が同じように並走している。
「各艦、傾斜15度だよ! コントロールしっかりね!」
4艦中の長女、『皐月』の艦長、飯野五月女が号令をかける。
≪こちらウミネコ、転舵どうぞ!≫
「取舵一杯!」
天音の合図で22駆の駆逐艦4隻が一斉に左へ舵を切った。航跡が左へ流れ、スマートな駆逐艦が外側に大きく傾斜しながら針路を変えていく。
90度転舵した頃には各艦の傾斜角は右側へ15度に達していた。発射管が指向する方向は何もない海原が広がる。
「「「「発射!」」」」
各艦の艦長が一斉に命令を発する。
とたんに駆逐艦とは思えぬ発砲焔と、すぐ横の海に艦の何倍もの水柱が立ち昇る。艦の傾斜を利用して魚雷を海中に向けて撃ち込んだのだ。各艦3本、4隻で12本の魔法力を纏った魚雷が進む先には、水中に横一列で並ぶ潜水型ネウロイの集団がいた。魚雷はネウロイの潜む一帯で爆発した。
22駆の駆逐艦が魚雷を放った先に、水中爆発で吹き上がった海水が壁のように立ちはだかった。そこへ向かって進む軽巡『香椎』の艦橋で、目の前に広がる現実離れした光景に驚きの声が上がる。
≪こちらウミネコ。ネウロイ4隻を撃沈。6隻が推進力を失って浮上始めました。どのネウロイも大破状態です≫
「香椎了解。面舵30度、左砲戦! ウミネコ、浮上地点知らせ!」
≪ネウロイ浮上地点、香椎より方位045から048、距離3830m。向かって右の方から浮上してきます。海面まであと5秒≫
香椎の前後にある2連装14cm砲塔がウミネコの示した方へ指向する。
そして主砲の砲身の先に、まるでサメに追い立てられた魚のように海面へ次々とネウロイがジャンプして現れた。
香椎の艦長が命令を発した。
「捕捉次第射撃開始!」
「撃ち方、始め!」
2基の14cm主砲が斉射する。
22駆の駆逐艦もぐるりと回って元の針路に戻ると、12cm単装砲をぶっ放してネウロイめがけて突進した。
海上に漂う6隻のネウロイの周りに次々と盛大な着弾による水柱が立ち昇り、ネウロイの姿が見えなくなる。命中による赤い火炎に続き、コアが吹き飛んだことによるまばゆい発光が連続して起こった。
揉みしだかれる中で1隻のネウロイの動力が復活し、崩れ落ちる水柱の影から逃走を図った。
「こちらキョクアジサシ。ネウロイ1隻が北へ離脱します!」
「任せて」
着弾観測をしていた優奈の零式水偵脚と並んで飛ぶ2式水上戦闘脚の千里がくるりとロールを打って急降下した。
水中での魔力を纏った魚雷による爆発と海上での砲撃で、既にネウロイの瘤からはコアの赤い光が漏れている。そのコアめがけネウロイの後方上空から真っ直ぐ降下する千里。20mm機関砲を構えるとトリガーを引く。
機関砲弾はまだ僅かにコアに被さっていた装甲を吹き飛ばし、コアを粉砕。ワンテンポ遅れてネウロイの全身もバラバラに吹っ飛んだ。
ネウロイの破片が舞うところから5km離れた海上で、天音はさらに遠くから戻る広域探信波の反射から海中を見渡した。
そしてニコっと口元で微笑むと、インカムを通してあどけない声を電波に乗せる。
「ネウロイ10隻全て撃破。船団針路クリアです」
≪こちらSG04船団、了解。船団、速度そのまま。針路香港へ≫
時は1946年5月。
シンガポールから香港へ向かうSG04船団。
それを護衛する第12航空戦隊。
天音とその仲間達の物語はここから再開する。
あけましておめでとうございます。今年初投稿です。
本来、護衛任務はこんな派手な戦闘シーンなどまずない地味な仕事ですが、2018年新春第1弾投稿を祝ってまさにネウロイ大出血サービス、ということで。