誤字修正しました。
報告感謝です。 >ハンタ・ケンさん
2021/01/04
誤字修正しました。報告感謝です。>ひだりみぎさん
急に加速した潜水型ネウロイは真っ直ぐ猛スピードで曳航式聴音機に激突した。激突音は伊401艦内にも響き、激突の衝撃で曳航式聴音機は壊れたらしい。壊れた時の過電流でヘッドフォンに大きな音が流れ、ソナー員が耳を押さえて悶えていた。
≪こちら水測室、曳航式聴音機に激突したようです! 主水測員が耳をやられました。聴音機不通!≫
「交代できるか?! 本艦の聴音機で捉えろ」
≪了解≫
伊401備え付けの探信儀を操作していた次席ソナー員が直ちに後を引き継いだ。
衝突したネウロイは急に静かになって近付く気配がなくなった。
≪後方から接近してきた音源消えました≫
「くそっ!」
「奴も停止したか。推進音以外の音を出してないか?」
≪……音ありません≫
「エンジンのような機関音でもすればと思ったが……」
「奴らの動力源は何なのか分かってないですからね」
◇◇◇
士官室に耳を押さえて悶える水測員が運ばれてきた。イオナが立ち上がってウィッチ達の前のテーブルをベッドにする準備をする。シィーニーはエンドウ豆の皿を持って脇へ避けた。つっ立ちながら幾つか口に投げ込んでモグモグする。
狭い潜水艦では士官室は休憩所でもあり、食堂でもあり、戦闘時には応急措置や手術だって行う何でも空間なのだ。
「板敷いてシーツを被せる。秋山曹長、それまで患者の介抱を」
「は、はい!」
といってもどうすればいいか分からず、大丈夫ですか? と語りかけながら水測員を椅子に寝かせ、膝枕をして痛がっている耳のところを優しく撫でた。
軍医先生が静かに、しかし急ぎ足で治療にやって来た。
「どんな塩梅かね?」
懐中電灯で椅子に横たわる水測員を照らして覗き込むと、そこには桃色に色付いて弛んだしまりのない顔の男が膝枕されて撫でられていた。
「……もう、死んでもいいです」
ピキッと軍医先生のこめかみに青筋が浮き立ち、ポケットから注射器を取り出すと指の間でくるりと1回転させ、ブスりと胸の辺りに突き立てた。
「あぉぅあっ!」
「それだけ元気なら心配いらんな。耳んとこ冷やして一晩寝とれ!」
注射器の中身は生理食塩水である。施しようがないか、さしてやることもないような患者でも、注射してもらうと治療を受けたと安心して回復が早まるのだ。薬は貴重。病は気からなのである。
水測員は機械担当の兵から冷凍庫の氷をもらって兵員室の蚕棚ベッドへ寝かされた。
「秋山曹長、治癒魔法持ちですか?」
「見事な治療だ、曹長」
シィーニーとイオナが音をたてずに拍手する。
「わ、私はノーセンス(固有魔法を持ってないウィッチ)です!」
◇◇◇
「向こうも無音潜航したとなると、根気比べですか?」
「仮に見つけた場合どうやって攻撃します?」
問われた千早艦長は水雷長の方に向く。
「当然魚雷だろうな。そのためにイオナには前もって魚雷の弾頭に魔法力を込めておいてもらってある。走行深度も可変できる最新の95式6型改魚雷積んできてるしな」
「潜航してるやつを潜水艦から攻撃できるんですかね? 方位速度だけでなく深度も測的諸元に必要となると……水上艦の喫水の深さどころじゃないですからね」
「どれくらい正確に捕捉できるかにかかってるな。そうなると潜水艦が深みに潜りっぱなしになって30ノットものスピードで走るようになったら、ますます潜水艦を狩るのは同じ潜水艦になるかもしれんよ?」
「そりゃあと何十年先の話ですかね艦長」
この時代、潜水艦の目標は水上の船舶であり、潜水艦の敵は水上艦か航空機であった。潜水艦で潜水艦を狩るためには高い水中性能が必要だが、電池は航続距離が短く、長く作戦につけない。一方で艦船を攻撃するには遠征能力や追跡力を必要とし、発展したのは水上性能を重視した潜水艦だった。対潜潜水艦は我々の世界でもWWⅠでイギリスがR級小型潜水艦を作ったきりで途絶えており、本格的に復活するのはWWⅡ後だ。
「しかしネウロイが右往左往した後で真っ直ぐ小クジラに衝突したということは、奴は小クジラを完全に捕捉したんですよね?」
「あの叫び声の後でな。あれが奴の探信音か?」
「401も捉えたのでは」
「可能性はあるな。……先に動いた方がいいか」
千早艦長は少しの間拳を口に当てて考えると、顔を上げた。
「魚雷を低速で撃つ」
「真後ろへは難しいです。45度でいいので回頭させてください」
「いや、ネウロイを狙うのではない。前へだ。魚雷の推進音を伊401と思って追いかけて行くかもしれん」
「……なるほど」
「1番発射管、雷速10ノット、斜進角、本艦左舷30度、魚雷走行深度は本艦と同じで発射する」
「了解。1番発射管発射用意」
「2番発射管、1番と同じ方位、深さで調定。ただし雷速は45ノット」
「は?」
「もしネウロイが追いかけていったら、そいつを後ろから撃つ」
皆がニヤリとした。
「水測、敵の動きはないか?」
≪ありません≫
「あとは注水音や発射音でこっちの位置が特定されないことを祈ろう」
「ダッシュで逃げる準備もしとかないとですね」
艦首では魚雷の準備が静かに慌しく行われた。
「魚雷装填完了」
「よし、やるぞ。発射管注水」
「発射管注水」
艦首の方から水が流れ込む音が響いてきた。注水が終わるまで皆に緊張が走る。
「1番注水完了。続いて2番注水完了」
ここまで水測員からネウロイの報告はなかった。
「発射管外扉開け」
「……外扉開口完了」
「1番、魚雷発射!」
「1番発射!」
シュオオオと圧縮空気が魚雷を押し出す。発射管を飛び出した魚雷は走行を開始し、調定された方位へ変針すると10ノットで直進した。
≪魚雷走行開始します。……左、水流音!≫
水測員の報告の後、水をかく音が左後ろから接近してきた。次第にシュッシュッシュッシュッという音が左舷側に聞こえてくる。
姿は見えないのに移動していく音に合わせてウィッチ達も後ろから前へと左舷斜め上の壁を目で追っていく。イオナは口をつぐみ、シィーニーは口をあんぐりと開け、秋山は真っ青な顔をしているが赤い室内灯のおかげで分からない。
「行った……」
≪ネウロイが魚雷を追いかけていきました≫
「やりましたね」
嬉しそうに水雷長が微笑んだ。
「攻撃はどうします?」
「900mまで行ったら攻撃する」
「了解。2番発射まで、あと50秒」
水雷長はストップウォッチをじっと見つめる。発令所の皆は舌なめずりして目をぎらつかせていた。しかし千早艦長は前の方の壁を見つめて厳しい顔をした。
『何だ?』
じりじりと痛い視線のようなもの感じる。
「じりじりするの。」
千早艦長の固有魔法はじりじりです。(ウソ)
チリチリは鳩屋さんの作品の版権ですので。
その前に千早艦長はウィッチとかウィザードじゃねーし。ニュータイプか? ちなみに群像ほど若くはありません。
秋山典子は固有魔法持ちなんでしょうか。オリジナルの設定が分からないので、ここでは固有魔法持ちはあまりいない本作世界に合わせてノーセンスにしてしまいました。