水音の乙女   作:RightWorld

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空母の名前間違えてました。ご指摘ありがとうございます。>BBQ17さん

2018/10/8
誤字修正しました。
報告感謝です。 >KELPさん



第106話「リベリオン空母で補給」

427空の水上機達は、予め決めてあった泊地西側の小さな砂浜に集結していた。

 

千里が優奈のところに歩み寄ってくる。

 

「燃料がもうない。筑波さん、どれくらい残ってる?」

「半分も使ってないわよ。分けてもいいわよ」

 

天音が目を丸くした。

 

「どうして?! わたしもうあまり残ってないよ?」

「天音は使い過ぎだなあ。まだ瑞雲、っていうかストライカーユニット乗りたてだし、操縦に無駄が多いのね」

「西條さんはどれくらい残ってます?」

 

天音が同じ瑞雲を使っている西條に聞く。

 

「3分の1かな。筑波君はやっぱり特別だね。北極圏偵察をやってのけただけのことはあるよ」

「西條中尉に褒められるなんて嬉しいわあ」

「二式水戦もだけど……私もおなか減った」

 

千里が枯れ木のように立ち尽す。

 

「それじゃあ夜営の準備でもするか?」

「それ最悪の場合じゃなかったの? 卜部さん」

 

優奈が不満そうに口を尖らす。

 

「燃料リベリオンに補給してもらわなきゃ帰れないんだよ。頼んじゃうよー。ここまで運んできてくれるかなあ」

 

そう言って早速、零式水偵の通信機を操作する勝田。

 

「ハンバーガー注文して」

 

便乗する千里。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「護衛艦隊旗艦の空母サンガモンが応答したよ。司令が話したいって。卜部さん交渉任せた」

「はいよ。こちら427空隊長の卜部少尉」

 

≪第77任務部隊第1群司令のスプレイグ少将だ。救援に最大限の感謝をする。ありがとう。12航戦の艦隊はどこに来ているのだ? 泊地に来るのか? それとも近くに合流点を設定してあるのか?≫

 

「神川丸らの艦隊はHK06船団と共にインドシナです。我々は扶桑水上機の航続距離を生かしてクイニョン沖から救援に向かったんです」

 

しばしサンガモンからの返信が止まった。

 

≪クイニョンから飛んできただって?! インドシナ中部のか! 900マイルもあるじゃないか。いくら航続距離が長いからって戻れないのではないか?≫

 

「はい。片道切符です。でも友軍がいるところに向かうんだ。補給はリベリオン軍から受けるという前提で、最大限移動する作戦を立案しました」

 

≪そうまでして救援を送ってくれていたのか。水上機だから滑走路は不要とはいえ博打には違いない。我々が補給もできないほどやられてたらどうするんだ≫

 

「結果はご覧の通り私達はカケに勝った訳です。補給はしてもらえますか?」

 

≪勿論だ。機体の整備、燃料弾薬の補給、当然搭乗員もだ。空母サンガモンで受け入れよう≫

 

「やったぁ! ありがとうございます」

 

 

 

 

水上滑走で空母サンガモンの横にやって来ると、零式水偵は舷側に係留され、それ以外のウィッチ達はクレーンで引き揚げられた。

飛行甲板に引き揚げられた零式水偵の搭乗員を除くウィッチ達は、用意されたユニットケージにストライカーユニットを固定し、足を抜くと甲板に降り立った。周囲はリベリオンの水兵がぐるりと取り囲んで、小声でごしょごしょ何か話ながらこっちを見ている。ユニットケージを背後に置いて、ここでは最も階級の高い西條が一番前に立つ。その横に無表情に澄ましたままの千里。背後に天音と優奈が隠れるように立った。

動物園に届けられた珍しい生き物になったようで不安になっていると、少年のような水兵がおずおずと1、2歩前に出てきて、少しはにかみながら小さな声で言った。

 

「……た、助けに、来てくれて、ありがとう」

 

天音と優奈は一瞬顔を見合わせると、次第に笑顔へと変わっていった。西條もやや硬かった表情を和らげ、微笑を返した。

 

「頑張りましたね皆さん、一緒にここから脱出しましょうね」

 

おおおおーと水兵達がどよめき、そして歓喜の喝采になった。

 

「さあ皆、ストライカーユニットの整備だ!」

「おお!!」

 

整備兵がわらわらとユニットケージに集まる。

 

「燃料はハイオクでいいですか?」

「ああ、うん。リベリオンのハイオクタン価ガソリンの評判は聞いてるよ」

「扶桑の機銃弾の口径はないかもしれません」

「連合軍標準の12.7mmが使える機銃を持ってきたから大丈夫だよ。20mmは確か共通だよな?」

「12.7mmと20mmですね、了解です!」

 

テキパキと動き始めたリベリオン兵を見て、天音と優奈も西條の横に出てきて身を寄せあって笑う。天音に抱きつかれた千里は天音の頭を撫でた。が、千里はなおも無表情だった。

 

喜ぶ集団が後ろの方から2つに割れると、司令官スプレイグ少将を先頭に卜部・勝田が胸を張って、葉山がやや恐縮しながらやって来た。葉山の後ろをリベリオンのウィッチが2名続く。司令は舷梯から上がってきた卜部らを出迎えてからやって来たのだ。

 

「司令のトーマス・スプレイグだ。皆さん遠路救援に駆け付けてくれてありがとう。水音の乙女はどなただ?」

 

優奈に背中を押されて天音が前に出される。もじもじと照れが入ったような仕草を交えて下手くそな敬礼をした。

 

「ひ、一崎天音軍曹です」

 

周りの水兵達がおおっとざわめいた。司令は一際大きく笑みを浮かべると、歩み寄って天音の手を握りしめた。

 

「本家対潜ウィッチの実力見せて貰いました。来てくれて本当に嬉しい」

 

てへへとはにかんで天音が返答した。

 

「お役に立てたなら光栄です」

 

司令は配下のウィッチの方へ振り返った。

 

「ブッシュ少尉、ナドー少尉、皆さんをシャワーと、その後食堂へ案内差し上げてくれ。接待を任せる。ああ、人を使ってよいから君達もうまく休んでくれ」

「ア、アイアイ・サー!」

 

食堂という言葉が出てきたら、千里の無表情が目を大きく期待で見開いた無表情に変わった。

 

「どうぞこちらへ」

 

ジェシカが先頭に立って皆を案内する。

天音は同じ対潜ウィッチであるジェシカの横にととっと近寄ると、にぱあっと笑った。暗かった海上では顔もよく見えなかったので、どんな人なのかまじまじと見るのは今が初めてだ。

 

『千里さんと同じくらい。1コ2コ年上かなぁ』

 

背は天音より高く、肩まであるブロンドの髪は少し癖があって、天音が横に来たことを知ったらぴょんと跳ね上がった。

 

「天音です。ブッシュさん、よろしくお願いしまぁす」

 

何の害もなさそうな屈託ない笑顔で挨拶するが、ジェシカの濃紺の瞳にはじわっと涙が溜まった。

 

「はわあああ! すみません! ごめんなさい! やだわたし何か至らぬことろありましたでしょうか?!」

「ええ? 何もないよー? もう一人の対潜ウィッチの人はどこ?」

「ジョ、ジョデル・デラニー少尉は別の空母、『スワニー』に乗ってます。 も、もし何か(ことづ)けありましたら伝えておきますが?」

「あ、違う空母なんですねー。そうかー、そっちの人にも会ってゆっくり話したかったなー」

「ひゃあ、呼び出しですか?! 伝言では不十分で直接言わなければならない程言いたいことがあると?! そ、そりゃぁあの態度と口の悪さですから……こ、この後すぐ出頭するように連絡します!」

「わざわざ呼ばなくてもいいよ? こっち来る事があったらちょっとでも寄ってくれればいいから」

「は、はいいぃ。と、とは言え、できるだけ早く来るよう言っときますので。……あの、でも、あんなですがジョディ、いえデラニー少尉は結構ナイーブでして、あんまりきついこと言うと心が折れちゃうヵも……」

「あーそうだよねぇ。軍隊は何かっていうと高圧的な態度とって偉そうな口のきき方するもんねえ。あの人も怖い教官とかに脅されちゃった口? でもねー、どんな偉そうにしようが泣いて懇願しようがにこやかに笑ってようが、等しくネウロイは無慈悲だから。威張るの覚えても役に立たないし、虚勢張ってるだけの人の言う事なんか適当に受け流すのがいいよ。自然体でいるのが一番だよー」

「はわあ! 言っときます! 意地張って対抗意識なんかもってないで、もっと内面を鍛えるよう言っときます!」

 

ちぐはぐな会話を後ろから心配げに聞いていた優奈が天音に囁く。

 

「ちょっと天音。ブッシュ少尉怯えちゃってるわよ?」

「えー? なんで? ブッシュさんは少尉さんだし、きっと経験豊かなお姉さんだろうし、わたしに怯える理由なんてないよー」

 

さっきあれだけ皆を震え上がらせたことを全然意識してないようである。それに加えてジェシカは気まずそうに訂正した。

 

「あ、あの……わたしは12歳です。たぶん一崎軍曹の1コ下だったはずです」

「え?」

「ええ?!」

 

天音と優奈が共にびっくりする。天音は無論、優奈と比べてもジェシカは背は高いし肉付きも良いので大人びて見える。優奈が勝っているのは胸の大きさくらいなもんである。そんなだから天音や優奈より年下とは信じられなかった。

 

「それに少尉とは言ってもリベリオンのパイロットは士官であることが基本なので、学校を出ているというだけで経験や実力に裏付けられたものではないです。

それに比べて扶桑、特に扶桑海軍は昇進基準がどうなってるんだか全然分かんなくて、実力では佐官クラスの人が少尉や中尉、下手すると下士官にもゴロゴロいるとか、やだもう。

天音軍曹は年齢的にもお姉様、対潜ウィッチとしても大先輩、戦果も折り紙つき。正にその典型です! どうかわたしの事はジェシカと呼び捨てにして下さい! どうぞご指導よろしくお願いします!」

 

腰を折り曲げて、リベリアンとは思えないような態度で頭を下げるジェシカに、天音はあわわわとオロオロした。

 

「え、なになに?! わ、頭上げてくださいブッシュさん。エェー? 何であれブッシュさんは少尉さんだし、呼び捨てはまずいんじゃ……」

 

レアがジェシカの横に立つと、ジェシカの背中に手を添えて一緒に頭を下げた。

 

「扶桑のウィッチは階級で見ちゃいけないって、本当だったな。ジェシカを面倒見てやって下さい。オレからも頼みます」

「え、ええー?! ど、どうしよう!」

 

西條がニコニコして天音の肩に手を置く。

 

「ボクが卜部さんや勝田さんを師と慕うように、階級を越えて認めるものがあるんだよ。さすが天音君だね。もう弟子を作っちゃったよ」

「で、弟子ー?! わたしまだ飛ぶのもやっとこなのに」

「天音が弟子持ったとしても、あたしが天音の教育係である立場は変わんないからねーっ」

 

優奈は大きな胸を揺らした。

 

 

 




アイディアが枯渇してて少々間が空きました。まあそれは解消してないのですが……
その間にストライクウィッチーズは10周年プロジェクトがついに明かされ、音楽隊とか、イラン子中隊もまた見られるなど嬉しい話がいっぱい。
ブレイブの2期をやってもよかったのにな。でもベルリン解放が史実のベルリン陥落であるなら、東から攻め入る勢力(つまり502)があったはず。夢の501・502共闘が観られないでしょうか。
それより1946年を書いてる本作が、いよいよオリジナルから大きくかけ離れてしまう時が来てしまったのかも。

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