誤字修正しました。
報告感謝です。 >ダイダロスさん
427空はHK05船団がいる泊地の北の入り口に近付いていた。卜部がインカムのスイッチを入れる。
「全機離水せよ。上空で編隊を組む。先頭はトビ、2列右翼にカツオドリ、左翼にウミネコ、3列右翼にキョクアジサシ、左翼に西條中尉。暗いから衝突には気を付けろ」
「卜部さん、なんで無理して飛ぶんですか?」
天音が聞く。
「私達は航空歩兵だ。だからやっぱり空から現れた方が受けがいい」
「受け?」
「あー、つまりさ、見た一般将兵に安心や勇気を与える効果が一番高いのは何かって事だよ」
補足したのは勝田だ。勝田にニッと笑顔を返して卜部は続ける。
「余裕あればだけどな。戦場でウィッチの登場は士気を高めるのにとても役立つ。それは私達の戦いにもプラスになる。だから登場シーンには気を使った方がいいのさ。隊長機の仕事だよ。西條中尉も覚えときな」
「成る程! ありがとうございます!」
階級が上の西條が、下の卜部や勝田から教えを受けるという光景も大分見慣れてきた427空である。ベテランの2人は残り少ないウィッチの期間に水偵ウィッチの技を出来るだけ多く後輩達に伝えておこうと、ここ最近はどんな些細なこともやって見せていた。
「ウミネコ、ついてこいよ!」
「う、が、がんばります」
「瑞雲を信じていこー」
◇◇◇
北水道の上で門番のように立ちはだかっていたウィラ・ホワイト中尉がジェシカ達を迎えた。
「ブッシュ少尉、デラニー少尉、ご苦労だった。北水道へのネウロイの攻撃が止んだよ。本当に12航戦の航空隊が救援に来たのか?」
「ほら見てくださいよ。扶桑の水上ストライカーユニットですよぉ」
零式水偵を先頭に、フロートに似た形をしたストライカーユニットが4機、ジェシカを追って現れた。
「こちらミミズク、12航戦対潜指揮官の葉山少尉です。救援に駆けつけました。北側のネウロイは排除しました」
「ウィラ・ホワイト中尉です。救援に感謝します。我々が手を焼いていたネウロイをあっという間に……さすがですね」
「防潜網を破壊してるネウロイがいると聞いてますが」
「泊地周囲の海峡を塞いでいた防潜網を切られました。北からの攻撃が止んだので、今うちのレア・ナドー少尉が南水道の対応に向かってます」
「了解。我々も手伝います」
「助かります。ブッシュ少尉、デラニー少尉は母艦に着艦し急いで弾薬の補給を」
「ブッシュ了解」
「デラニー了解」
◇◇◇
卜部の予想通り、HK05船団の人達はウィッチの編隊を見て大歓声を上げた。ウィラ達3機のリベリオンストライカーユニットに続いて現れたのは、扶桑の日月紋のマークを付けたウィッチが4機と水上機が1機。水上機はともかく、ウィッチの戦力はリベリオン・扶桑合わせると通常の航空機に換算して80機くらいの航空団規模に匹敵する。しかも他国からの応援部隊である。これを見た将兵の盛り上がりが大変なものだったのも無理はない。
護衛空母サンガモンのスプレイグ少将も、ウィッチの集団、それも12航戦が現れたと聞いて、抑えていた不安が一挙に流れ去ったようであった。何より追い詰められて崩れかけていた艦隊と商船隊の士気を救ってくれたのがありがたかった。
「第77任務部隊1群司令官のトーマス・スプレイグ少将だ。救援に感謝します。南水道に攻撃してくるのと、東側の防潜網を破壊したネウロイを排除したい。手伝って貰えますか?」
≪こちら427空対潜指揮官の葉山少尉、コールサイン『ミミズク』です。了解しました。脅威度のより高いのはどちらですか?≫
「南水道だ」
≪了解です。では我々は南水道を攻撃してくるネウロイを探します。ですが我々は爆弾を使い切ってます≫
「支援ありがとう。レア・ナドー少尉を付ける。ナドー少尉、攻撃力として加わってくれ」
≪ナドー了解≫
南水道の出口付近に陣取っている護衛駆逐艦がサーチライトで照らしてくれている海面に、427空の水上機隊は着水した。そして零式水偵を先頭に出口へと水上滑走で進んでいく。
「ウミネコ、まずは周囲のネウロイの配置を確認する。水門を出たとこから探査を頼む」
「ウミネコ了解。全方位広域探査開始します」
歩くような速度に落とした瑞雲の足元が青白く光り出す。上空にいるレアは興味深げに見入っていた。
「水中照明弾みたいなものか?」
真下の水中なら見えそうなほどに白く輝くが、その光はパンと弾け、弾けた光が輪になって瑞雲を中心に広がっていった。後を追うように2波、3波と光の波紋が続く。ジェシカ達とは全然異なる捜索方法に見入っていると、とたんに悲鳴じみた声がインカムに響いた。
「真下にネウロイ! 1隻着底状態!」
南水道出口すぐのど真ん中だった。
「真下ぁ?! お前の下か?!」
「卜部さんの下です!!」
天音の一歩先を行く零式水偵から葉山と勝田の顔が風防からにゅうっと出てきた。思わず首を出して下を覗き込んでしまったのだ。
「私の下か!」
「う、卜部少尉、爆雷爆雷!!」
卜部は零式水偵の探照灯を点ける。
「もう使い切ってるよ、慌てんなミミズク。ナドー少尉、攻撃できるか?!」
「ええ? マイティラットは水中にいる奴は攻撃できない。浮上させてくれ」
「何だって? ええーい、それじゃあそこの護衛艦! 水道の出口そばにいるヤツだ」
≪駆逐艦『フォッグ』だ。本艦のことか?≫
「私に向かってヘッジホッグを撃ち込んでくれ!」
≪な、何だって?≫
「卜部少尉、ネウロイと心中はしちゃダメだー!」
動転してる葉山。
「分かってるよ。私を撃つんじゃないぞ。私の真下にネウロイがいるんだ」
≪そ、そういうことか、分かった!≫
煙突から一際濃い煙が吹き出てきて、バックレイ級の護衛駆逐艦は発射点に向け移動を始めた。
そこにアヴェンジャーが飛来する。
「
ジェシカが爆雷と燃料を補給して戻ってきたのだ。卜部が状況を伝える。
「南水道出口の真下にネウロイがいた! 今駆逐艦にヘッジホッグを撃ち込んでもらう」
「
ジェシカはサンドイッチを頬張ったままやって来ていた。降りたついでにジェシカも燃料補給したのだ。というかまだ補給の最中だった。
「……ブッシュ少尉。食ってからでいいぞ」
「
急いで咀嚼しているところに千里がつつーっと寄ってくる。
「……おいしそう」
「はぇえ?!」
喉がつまりそうになって、ドンドンと胸を叩く。なんとか飲み込むと、まだじっとこっちを見ている千里に再び向き直る。
「た、食べます? かじりかけですけど……」
「……くれるっていうなら」
ジェシカは戸惑いの混じった弛い笑みをして、欠けたサンドイッチを千里の方に差し出す。千里は狙いをすますと、巧み二式水戦を操作して素早く接近し、バクッと噛みついた。ひいっと驚いて手を引っ込めるとサンドイッチは全部千里に持っていかれた。千里はやや上を向いてもう一度パクッとすると、サンドイッチは跡形もなく口の中に消え去り、2、3回顎が上下しただけで喉につっかえる事もなく華奢な体の中に収まった。
「ごちそうさま」
「こ、固有魔法かなんかですか?」
「さっきも言ったけど固有魔法は持ってない」
やだ、ぜったい嘘よ。Tレックスが獲物を飲み込んだみたいだったよう。
ジェシカは手が食べられなくてよかったと思った。
なお、この頃のティラノサウルスらの復元図は、まだ
「ブッシュ少尉、私の真下にネウロイだ。見えるか?」
卜部の問いに我に返った。
「は、はい。今確認します!」
零式水偵の探照灯に加え、ジェシカも自らのサーチライトで照らす。ここも水深は10mもないので、海底まで光が届いているが、またもジェシカの目にはサンゴ礁しか見えなかった。
「サンゴ礁の海底しか見えない。また擬態ですか?!」
「ウミネコです。頭を北の方に向けて着底してます。ぱっと見で分からないんじゃ擬態なのかな。表面をもう少しよく調べますね」
カラフルな波紋があまり広がりを見せることなく瑞雲の下に発せられる。
「ははあ。表面はささくれだってデコボコしてますね。でも基本体の形は潜水型ネウロイのままです」
≪駆逐艦フォッグだ。射点に着いた。避けてくれ。発射タイミングはそちらに委ねる≫
「フォッグ、こちらトビ。3秒後に発射してくれ!」
零式水偵のエンジンが高鳴る。水上を動きだし、天音も一緒にそこを離れる。
零式水偵と天音の瑞雲がいなくなった海面に、円を描いてヘッジホッグの対潜弾が降り注いだ。囲むように落ちてくる爆雷に気付いたネウロイが、体表を瞬きするようにして擬態を解いた。
「ウミネコさん、ネウロイいました! 擬態を今解きました!」
瞬間移動をすべく水の噴流が艦尾で渦巻いた。が、既に遅し。ヘッジホッグが着弾し、ネウロイは爆発に巻き込まれた。前後がボロボロになったネウロイは力なく浮上を始める。
「レア、マイティラット用意! ネウロイ浮いてきます!」
「了解! 爆雷爆発点でいいか?!」
「はい! あと5秒!」
ぴったり5秒後、ネウロイが海面に現れた。
「発射!」
レアがマイティラットを1発ずつ、弾導を確かめるように発射した。2発目がネウロイのど真ん中に命中し、ガラスが砕けるように粉砕すると、爆発と共に白い粒子が飛び散った。
「やったー!」
「撃沈確認!」
「レア少尉、お見事!」
ジェシカが天音の近くに降りてきた。
「ウミネコさん、さっすがー! 擬態ネウロイもウミネコさんには敵じゃないですね」
「ありがとう。でも、擬態するタコだって、漁師さんは潜って捕まえてくるよ。よく見れば見分けつくんじゃないかなあ」
「へえ。扶桑の漁師さんって、デビルフィッシュ捕まえるんですか? 何のために?」
「勿論食べるんだよ。美味しいよ?」
「やだ、嘘でしょ?! あんなキモいの口の中に入れるの?!」
「グロテスクなものが美味しいんだよ~。ね、千里さん」
「旨い」
「げろげろー、やだあ」
≪ウミネコ、こちらミミズク。タコは後にして、ネウロイを先に頼む≫
「す、すみません。全方位水中探査続けます。……うわっ、泊地の入り口に向かっておよそ200m間隔で潜水型ネウロイが並んでます! 4隻、みんな着底状態!」
「やだあっ! 擬態していつの間にか接近してたってこと?!」
「うげえ、危うく知らんまに泊地に入られるところだったってことか!」
≪駆逐艦フォッグだ。さっきの要領で攻撃しよう。どこを狙えばいいか教えてくれ≫
「トビ了解。零式水偵を目標の上に移動させる。ウミネコ、誘導頼む」
「ウミネコ了解。そのまま170m前進してください」
水上を移動する零式水偵と瑞雲を上空から見守るジェシカのところに、もう1機アヴェンジャーが現れた。
「あ、ジョディご苦労様! 今いいところよ」
「どうしたの?」
「潜水型ネウロイが潜んでるって。たぶん擬態する奴よ。密かに近付いて、泊地に突入するつもりだったんだわ」
「擬態ネウロイ?!」
さっき自分達では見つけられなくて、天音との力の差を見せつけられることになった厄介なネウロイだ。こんな泊地入り口の傍まで来られても気付けなかったなんて、改めてジョデルは自分の無力さに嫌気がさした。ジョデルは口を尖らせて投げやりな感じで言った。
「それじゃああたしらに出る幕はないわね。見学でもしてますか」
≪ウミネコです。遠い方のなんとか見つけて攻撃お願いできますか? わたし近くのネウロイへ駆逐艦を誘導したいので≫
「ブッシュです。了解しました。おおよその場所教えてください」
「ジェシカ 、あたし達には無理よ。さっきあれだけ二人で探したのに発見できなかったのよ」
≪えっとデラニー少尉。さっきブッシュさんにも言ったんですけど、擬態中のタコだって潜りの漁師さんは見つけられるんです。ヒトの目は注意して見れば僅かな違いを見抜けられるんです。やってみてください≫
「時間の無駄だわ。あんたが探した方が遥かに早いし確実なんだから。爆雷はたっぷり積んできたから、早いとこ見つけて教えてよ」
≪……≫
天音の瑞雲から放たれていた光の波紋がはたと止まった。
『ヤバい!』と思って飛んできたのは優奈だ。
「デラニー少尉、行きましょう! あたしも手伝うから。光が足りなかったのかもよ? あたしの機体にも探照灯あるから、昼間のように明るく照らしてみましょうよ」
「はあ? あんたも水中透視眼あるの?」
「あたしは固有魔法なし。でも飛び続ける事なら誰にも負けない自信あるから! 探照灯の電力消費くらいじゃ魔法力落ちないわよ」
「ああ、脳ミソ筋肉で出来てるタイプの人ね」
「んあ?! なんか言った?!」
≪いーから二人ともとっとと遠いとこのネウロイ探しに行ってきて!!≫
天音の大声がインカムのスピーカーを割らんばかりに響いた。
「しまったー、遅かった! 怒らせちゃったーっ」
「だ、だからあたしよりあんたが探した方が……」
≪探す努力してこいって言ってんです!!≫
セリフを途中で遮られ、向けられたその声の威圧でジョデルが固まる。
≪わたしが昨日の今日で海ん中見通せるようになったとでも思ってる?! 5年よ! 5年間毎日のように海を見続け、魔法を試して、やっとこのレベルよ。加えて潜水型ネウロイ相手にさらに実戦5ヶ月! 目ン玉で見る方がよっぽど簡単じゃない! 明かりだって持ってるんだし、早いとこ行って、見つけられないんだったらどうやったら見えるのかあれこれ工夫しなさいよ!!≫
そしてジョデルは睨み付けられてビシッと南の方を指さされた。
≪とっとと行ってくる!!≫
「は、はぃい!」
裏返った声でジョデルの背筋が針金のようにピンと硬直する。
≪方位175、距離820m! 早く行かないとタコ食わすわよ!≫
「ジョデル・デラニー、方位175、2690フィートのネウロイを探しに行きます!」
「キョクアジサシ支援しまぁす!」
逃げるように、いや実際2機はネウロイの方へと逃げていった。
「あわわわ……」
涙目になって指をかじっているのはジェシカ。
≪ブッシュ少尉、方位178、距離610m!≫
「わあああ、探します、ぜったい見つけてきまぁーす!!」
ジェシカのアヴェンジャーもまた逃げていった。
結果。
ジェシカとジョデルは、海底の僅かな不自然さや、やたらと直線的な影などから擬態する潜水型ネウロイを見付け出す事に成功し、南水道に忍び寄っていた全ネウロイを自力で撃沈した。探照灯で照らして支援した優奈も共同撃沈のおこぼれを貰った。
擬態が急に通用しなくなったと感づいたコマンダー・ネウロイは、攻撃に差し向けていたネウロイを全て引き揚げさせた。
こうして427空、いや天音の登場によって、HK05船団は泊地襲撃の危機を脱したのである。