モビルスーツ開発中・・・千里の道も一歩から
ジャブロー。
それは広大なアマゾンの地下に広がる大洞窟を利用して作られた難攻不落の大要塞であり、地球連邦軍の本部が設置されている世界最大の軍事拠点である。
独自の巨大な生産拠点すら持ち合わせ、地球連邦軍の巨大な兵站を支えるそこは、まさに心臓であり、同時に心臓部であり、ここを落とせば連邦軍が崩壊してしまう最大のウイークポイントである。
それ故にその座標は最重要軍事機密とされ、その正確な座標とそのすべてを知るものは連邦軍にすら居ないとされるほどであった。
その一角、連邦軍の・・・いや、モビルスーツ開発史に大きな影響を与える二人が今まさに出会うところであった。
「実働部隊の指揮官に任命されましたマーク・ギルダー大尉です。若輩者ですが、任務遂行のため全力を尽くします」
「テム・レイ技術大尉です。あなたがあのギルダー大尉ですか、お噂はジャブローでもきいていますよ」
RX計画で使うオフィスの中での挨拶では、お互いに少しの緊張を抱えたままであったが好印象を与え合った。
マークからすればあのアムロ・レイの父親にして、RX計画を押し進めてガンタンク、ガンキャノンを世に生みだし、遂には一年戦争での傑作機『ガンダム』を設計した男である。
サイド7で彼を失ったのは連邦においても痛打であったのは間違いない。
原作を知っているマークとしてはある意味神のような男であり、緊張をするなというのは無茶な要求であると言える。
さすがに酸素欠乏症になっていたサイド6みたいならドン引きであるだろうが、そうなる前のテムは理性的で温厚な紳士であると言えた。
一方でテムも緊張していた。
士官学校を卒業したばかりの新人のはずなのに、ルウムの一戦だけで複数のザクを撃墜、しかもザクに比べて劣勢であるSフィッシュを使ってである。
その後もレビル救出においても多大な功績があったとされて二階級特進し、重大なプロジェクトであるこのRX計画の責任者の一人に納まっている。
更にあのGMGの御曹司であり、この計画にも多大な援助がなされていると言う話であった。
実際に会うまでは若さゆえの増長や、金持ち特有の鼻につく性格かと心配していたが、実際あってみるとそんなことは無い、真面目で誠実そうな好青年であった。
二人は合流した矢先からRX計画について話し合った。
「つまりモビルスーツの開発は無理をせず、きちんと実証を重ねて作るべき・・・と言うのかね?」
「はい、単にモビルスーツが欲しいだけであるのならば、ザクを捕まえて少し改良したものを大量生産するだけでいいのです。そうではなく、一から作れとなれば求められるのは違うもののはずです」
「ならば私たちが求められているのは、ただ勝つための手段としてではなく、これからのモビルスーツ開発のための土台となる基礎からのこうちく・・・と言うわけですか」
「しかも、我々よりも研究が進んでいるジオンのモビルスーツより素晴らしい物を短期間で作らねばなりません。まったく、レビル将軍も無茶をおっしゃる」
テムはその言い方にクスリと笑う。
「確かに、だがその期待に応えるのも、我々技術屋の醍醐味と言うものだよ」
確かに、とマークも苦笑を返す、彼も色々Sフィッシュに関して要望書を出したり、整備の連中に色々と頼み事をしたものである。
「ま、さし当たっては・・・」
オフィスから見える横たわった巨人、マークが持ち帰った旧ザクにはすでに多数の作業員が取り付き、装甲版を引っぺがしている。
「これをばらして徹底的に調べてからだね」
「これは旧式の機体ですからね、現行のザクからならどれほどの情報が得られたのでしょうか。」
「それでも今の連邦にとってはお宝の山だよ、機体だけではなく、OSにも興味があるが・・・」
二人に気付いた作業員が敬礼するのを止めさせ、作業を再開させる。
「なんにせよだ」
テムは巨人を見上げながらつぶやく。
「ここから始まる一歩がこれからの歴史を作るかと思うと、年甲斐も無くわくわくしてしまうね」
研究者魂に火がついたのか、うれしそうなテムの様子にマークは苦笑するのであった。
そんなこんなで少し時間は過ぎる、まずは旧ザクを解体して得られたデータの報告と、それにより連邦のモビルスーツはどのようなものを目指すのかを伝える会合を開くことになった。
これには様々なところから軍高官たちも集まり、モビルスーツに対して興味を示しているものの多さを物語っていた。
「まず、今回ザクⅠからは様々な情報が得られたましたが、やはりモビルスーツの開発は簡単ではない、という結論が出ました」
テムの言葉を聴いた助手がプロジェクターを操作し、その性能などを表した図をホワイトボードに映し出した。
「装甲は超硬スチール合金製、各所の駆動部分は流体パルスで制御されており、エンジンには小型核融合炉を使用し、その重量でもそれなりに軽快な機動が出来るようですな。」
ただ、と言葉をつなぐ。
「パイプ関係を装甲内部に無理して詰めた結果、一部の稼動域に悪影響が出ており、そのために主力兵器の座から落ち、2線級の予備役になっているものと思われます」
「なるほど、だから今のザクはパイプがむき出しなのか」
説明を聞いていた佐官の一人が得心したとばかりにうなずく。
「そのようです、しかし動力パイプが露出してしまうのは弱点足り得る、と、ギルダー大尉からの報告書にも書いてある様に、運動性を優先して防御はやや疎かになっていると言えます」
「では、流体パルス以外で各所を制御するのか」
「はい、それにつきましては資料の32ページに書きましたように、砲台などに使われるフィールドモーターを使用することになると思います、これによりザクより滑らかな機動と、防御面での不安を解消したいと考えます」
テムはまたプロジェクターを操作させる。
「一先ずモビルスーツ開発に必要なものをあげましたので御覧ください」
プロジェクターには幾つもの項目が記載されている。
「まずはモビルスーツに搭載できるサイズの核融合炉を、低コストかつ高性能なものを目指すことになります」
「次に装甲材です、ザクの装甲である超硬スチール合金は低コストでそこそこの丈夫さですが、しかしあくまでそこそこです。」
テムにあわせて全員で資料をめくる。
「我が軍で開発するモビルスーツはギルダー社からの提案もあり、主にルナチタニウムを使用して生存率を上げて生きたいと思っています」
ギルダーマテリアルのバックアップは協力で、通常よりもかなり価格を抑えた金額でルナチタニウウムを生産することが出来た。
「そして、モビルスーツを動かすために重要なOSと、それを搭載する高性能コンピュータを作る、ミノフスキー粒子の影響下では高密度集積回路も強い影響を受けますので、それの対策も含めねばなりませんが。」
プロジェクターを止め、会場に向き直る。
「まずはこれらを実現し、それが終わり次第次のステップに進む予定です。」
「具体的には?」
「最終的にはザクを総ての面で上回るモビルスーツを作ることになりますが、現状いきなりというのは不可能です、そこで大きく三つの工程に取り掛かることになります」
プロジェクターの画像が変わり、不恰好な二足歩行のモビルスーツと、小型の戦闘機、戦車を巨大化させたような姿のモビルスーツ・・・というには疑問が残る姿が映し出される。
「鹵獲したザクⅠを実験機にして、装甲材と間接部分、そしてOSを連邦製に改造し、様々な動作確認と試作した各種の兵装が実際の運営に耐えることが出来るのか、そのテストに入ります」
プロジェクターには様々な武装と、それを使用したザク改造機のCGが映し出される。
「同時に、核融合炉のテストヘッドとして、合流したRTX開発チームが作成中の対モビルスーツ用の大型戦車を使う予定となっています」
もともとは新型戦車として設計されたものではあるが、モビルスーツに対抗する兵器として再設計された所で拡張したRX計画に飲み込まれた戦車である。
「最後にこの戦闘機・・・FF-6、TINコッドを基に設計されるコア・ファイターを脱出機構の核とすることで生存性とデータ回収力を向上させる予定となります」
資料をめくりながら臨席していたレビルが問いかける。
「モビルスーツの武器はどうなる?ここまでやるからにはこちらも新機軸を使うのか?」
その言葉にテムはうなずいて応える。
「はい、ザクを確実に倒し、なおかつ連邦の技術力を見せ付ける、という事を目標に考え、モビルスーツに携行出来るサイズのメガ粒子砲を作成する予定となります、しかしまだ研究段階であり、現在は実弾兵器を設計しております」
モビルスーツで携行出来るサイズのメガ粒子砲、というところで場内からどよめきが走る、もしそれが実用化出来るのなら対モビルスーツだけではなく、対艦船にも大きな攻撃力を発揮する兵器になるであろうし、いまだにジオンすらなしえぬことである。
それが連邦の手によって実現すれば、それは良いプロパガンダにもなるであろうし、国民や兵士の士気も上がるというものである。
「これらの目標を達成できたとき、ザクを確実に倒せる連邦製モビルスーツは完成し、その力をもってして連邦の勝利の原動力となるでしょう」
テムの言葉にレビルは頷き、集まっている者たちにも語りかける。
「いまやモビルスーツ無くして勝利は難しいと言わざるを得ない、だからこそ、連邦がジオンを圧倒できるモビルスーツを得た時勝利は決まるといっても過言ではない、すでにジオンは地球攻撃軍を組織しており、戦争継続に必要な資源を手に入れるためにこの地上に降りてくるのは時間の問題だ」
周囲のものはレビルの言葉に耳を傾ける。
「地上においてもザクは大きな脅威となるだろう、しかし、相手の負担はこれまでの比ではなく、我々はモビルスーツが量産され、ジオンが疲れきるまで待つだけで勝利をつかむことが出来るのだ!!」
一息。
「我々のがなすべきこといかに多くの味方を助け、反撃の時までその力を蓄えることだ・・・容易なことではないが、諸君とならば必ずや実現できると確信するものである。」
レビルの言葉に皆が表情を引き締め、己がなさねばならないことを再確認し、その場は解散となった。
「テム君、少しいいかね」
「どうされましたレビル将軍?」
資料をまとめていたテムがレビルに呼び止められた。
「ギルダー君の様子はどうかね?若いうちに階級を上げすぎたか心配しているのだが」
「ああ、彼のことですか」
何だ、と胸をなでおろす。
「評価は上々・・・といったところですね、若さゆえの暴走も無く、年上に対しても立場をかさに来てくることもありません」
「ふむ、ならばいいか」
レビルにしてもマークを色々と利用するためにも階級を上げたはいいが、それによるトラブルなどが絶対無いわけではないために心配していたのだ。
「しかし、彼と話をするのはとても良い刺激になります」
テムが話を戻す。
「モビルスーツに関わる様々なアイディアが、まるで湯水のようにでてくる・・・残念ながら実現できるか怪しいものも多いですがそれに・・・その」
「?」
「その・・・彼の言うことなんですが、RX計画では足らない・・・と」
「つまり、もっと拡充が必要だと?」
「はい、モビルスーツの開発だけでは足らず、実験機や各種武装の様々な実践テストや整備マニュアルの作成、更には量産したモビルスーツの運用方法や整備マニュアルを作り上げること、モビルスーツによる対モビルスーツ戦闘方法を構築、それらを統合してジオンに対する手段として確立できる環境を作らねば意味が薄くなる・・・と」
「ふむ・・・」
レビル自身考えていないわけではなった、だが今はまずザクに対抗できるモビルスーツが連邦でも作り出せる事を証明することも必要だった。
だが、今回の説明を受けてザクを凌駕するモビルスーツは十分に作成できると確認できたし、もっと広範囲の意味でジオンに対する反抗作戦として改組し、更なる効率アップも一つの手段かとも思えた。
「ふむ、検討しておこう・・・。ところでそのギルダー大尉は今どこに?」
今回の会合にマークの姿は無かった、責任者の一人であるのだから出席しなければならないのだが・・・。
「彼ならば現在負傷してしまい、休みを取っています」
「負傷!?このジャブローでいったい何があったのかね?」
テムはばつが悪そうにしながらもわけを話す。
「ザクⅠのデータ取りのためにばらした機体を直して立たせたんですが・・・、その際にどこかの部品をつけていなかったために右膝の部分から外れてしまい、それで機体が転倒し、その際に怪我をしてしまったようです、幸い、1週間もすれば何とかなる程度のものですが・・・」
「・・・整備マニュアルの作成は早めに頼むよ」
レビルはため息をつくのであった。