宇宙世紀へ強キャラ転生   作:健康一番

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間違って削除してしまった物の再掲載です


大脱出

 サイド3ズムシティ、その一角。

 ごく普通なビルのそのまた一室に、存在自体は普通だが今この場に居るのがおかしい連中がそろっていた。

「現在の状況は把握した、南極で講和が結ばれる前に脱出できねば連邦が降伏しかねない・・・か」

 憂い顔も似合うイケメン、マーク・ギルダー。

「ええ、そうなると困る連中ってのはいつの時代でも居るもんでさぁ。なんで俺らみたいのが出張ることになったんでさぁ」

 にやりと笑いながら答えるのは諜報局員である絆創膏の男・・本名は不明。

「それで・・こんな敵地からで脱出の算段はつくのかね?」

 一見温厚そうな立派なヒゲのナイスミドル、レビル中将。

 そんな彼らが集まってサイド3脱出をもくろむこの場所は、連邦軍内の諜報局が秘密裏に保持している物権の一つである・・・まあ、この作戦以降は使えなくなるだろうが

「まあ今は少し待っていてくだせぇ、こういうのはタイミングが大事でさぁ」

 絆創膏の彼の言い分に、再び部屋に沈黙の帳が降りた。

「・・・ゴップ閣下かね、私たちにこのような手を差し伸べれる、しかもこれだけ盛大に出来る方はかの御人くらいなものだが?」

 その沈黙を破ったのはレビルだった。

「まあ、自分らは上から言われたとおりにするだけですからねぇ、誰が指示をした・・・なんてのは良く分からんのですよ」

 何知らぬ顔をして嘯く絆創膏の男を見ながらレビルはため息をついた。

(まず間違いないだろうが・・・貸しにするつもりは無い・・・と言うことか。閣下もよほどジオンに腹が据えかねるみたいだな。)

「あんた達情報部をド派手に動かせるほどの人が、まさかここまでしか出来ない・・・分けないだろ?次の一手は・・・特殊部隊か?」

「さすが!エース殿は勘が鋭い!・・・まぁ、作戦開始時間を越えても連絡がないんでもしかしたら・・・もしかするかもしれませんがねぇ」

 レビルが考え込んでいる間に、マークは絆創膏の男から作戦の概要を聞きだした。

 これまでの概要は単純・・・と言えば単純である。

 レビルとマーク、彼ら二人は共に重要な意味を持つ捕虜である。

 レビルは幼年学校から主席を逃したことがない程の才覚の持ち主であり、大敗といえる結果だったとはいえ、ジオンに再度のコロニー落としは阻止することが出来た。

 こんなことが出来るほどの将官は今の連邦においてもまれであり、思想的にも強烈なものを秘めているためにジオンに対して徹底抗戦をすることが望め、更には政治的な動きにも強い上に弁も立つのにカリスマまである、まさに動乱の時代でリーダーとするのにふさわしい人物の一人であった。

 ジオンに対して現状で講和することに利が見出せない面々にとっては劇薬ともなりかねない、それ程に強力な人材であった。

 マークのほうはもっと単純で、純粋にギルダー家に恩が売れるのと、身代金代わりの資材の提供があるとジオン相手に無駄な犠牲が増えるからである。・・・最悪、殺してしまうことまで考えられた。

 故に優先順位はレビルのほうが上であり、マークは努力目標でしかなかった。

 絆創膏の男は運良くそのとき捕虜収容所勤務であり、レビルとマークの居場所はすぐに知ることが出来た。

 レビル将軍に関しては配置先が近かったのもあり、うまく接触することに成功していたが、マークのほうは上手くいかず、近くまで接近することは出来たがそれ以上のことは出来なかった。

 収容所から脱出するためのジープやジオン軍服は割りとすぐに用意できたが、肝心の救出のタイミングがなかった。

 救出に時間が掛かりすぎてしまえば講和が成立してしまい、この作戦自体が無意味になるうえに、地球連邦が崩壊することもありえる・・・と予想されていたために特殊部隊が到着した瞬間に強攻策をとろうか、と悩んだタイミングでマークが脱走、その騒ぎに乗じる形で様々な所で騒ぎを起こし、その隙にレビルを救出して、ついでにマークを回収したのであった。

「・・・ただまぁ肝心要の回収部隊が来てねえもんで、今は連絡待ちなんですよねぇ」

 飄々とした様子の彼の様子は、通信機を見ながら少しいらだっているようだ。

「・・・官僚共の弱腰いかんではすぐにでも講和してしまうかも知れないというのに・・・」

 とその時、通信機が騒ぎ始め、何かを絆創膏の男が答えている。

「どうも良くない感じですな」

「まったく・・・分かりきった事とはいえ、何か良いニュースが聞きたいものだがな・・・」

 二人で通信をしている彼をみていると、短い交信を終えた彼が振り向くその顔は苦りきった顔だった。

「良い事と悪いこと、どちらからお聞きになりたいですかな?」

「では・・・良い方は何かね?」

「回収部隊が宇宙港近くで場所を確保したそうです、我々が到着しだいすぐに脱出することができそうです・・・まぁ、その後も追撃は覚悟せねばなりませんがねぇ」

「・・・・・では、悪いことは?」

「ここがジオンにばれたらしいですな、しかも講和会談はかなりのハイスピードで決まりそうでして、ほかの拠点で潜伏する暇もなさそうですな」

 ・・・沈黙・・・

「つまり?」

 その言葉に彼は肩をすくめる。

「連中を突っ切っていくしかないですが・・・、二人は自信がお有りで?」

 言いながらも引き出しからアサルトライフルを取り出し二人に投げ渡す。

「現役の兵士だからな、将軍はどうです?」

 受け取ったライフルを手馴れた様子で確認しながら、隣で同じようにライフルをいじっているレビルに問いかける。

「自慢ではないが、射撃の成績でも主席をはずした事は無いな」

 運動がてら定期的な訓練をしていたらしく、その動作は手馴れており、ブランクなどは見えなかった。

「その様子なら大丈夫みたいです・・な!!」

 にやりと笑ってドアを蹴破る、その先にいた兵士は突然現れた目標に唖然としており、その頭蓋に大きな穴が開いたためにその表情は二度と自力で帰ることは無かった。

「まったく、素敵なパーティの始まりだな・・・」

 立ちすくむ兵士の群れはタタンタタンとリズミカルに殺意の銃弾を浴びせられ、糸の切れた人形のようにばたばたと倒れていく。

「後の扉の奥に車が用意してありやす、こういうときはケツを捲くるに限りますぜ!!」

「まったく、老骨に鞭を打たせる・・・!」

 そう言いながらも彼が放つ銃弾はうまく弾幕を形成してジオン兵の動きを阻害し、その隙に運転手もかねる絆創膏の男が裂きに扉の奥に駆け込み、次にレビル、殿のマークが扉に滑り込んだところでジープが始動し、そのモーター音を響かせていた。

「さぁ、安全運転とはいきませんぜ!!」

 急発進したジープがシャッターを突き破り、その衝撃にマークが顔をしかめ、絆創膏の男が歓声を上げ、レビルが腰痛に顔をゆがめる。

 そしてビルからの脱出が出来たと確信した瞬間、絆創膏の男がリモコンを取り出してそのスイッチを押す、その瞬間に様々なから爆音が聞こえ、振り向いたマークが見たのは先ほどまで居たビルを初めとして、コロニー内の各所から立ち昇る(上の方は逆に下がる)黒煙を見た。

「・・・おい」

 マークのジト目に、肩をすくめながら絆創膏の男は答える。

「機密書類の焼却のついでですよぅ、ほかは基地やら官舎やらと一般市民には配慮してますよ・・・無差別に殺すあいつ等とは違いますからね」

 その唇は皮肉げにゆがんでいた。

 

「・・・ふむ、追っ手が来た用だぞ」

 騒然となった道路を走っていると、後方から軍用車が何台か追いかけてくる、幸いなことに民間車両が走る街中でカーチェイスをしながら銃撃戦をしたがらない程度の良心はあるらしく、ならばとこちらも速度を上げて宇宙港を目指す。

「12番埠頭を確保してあるそうです、フル改造したこの車はただの軍用車じゃぁ追いつけやしませんて」

「それ以降はどうやって逃げるんだ?」

「さぁて、俺も使いっ走りでごぜいやして、詳しいことはトンと聞かされてないんでさぁ」

 話している間に市街地を抜け軍港エリアへと突入した、とたんに様々なところから銃撃が浴びせられるが、それらを無視して突っ切っていく。

「あと少し!!舌を噛まんでくださいよ!!」

 更にアクセルを踏み抜き、車は加速して後続を振り切っていく。指示が錯綜しているのかモビルスーツに出会うことも無く、彼らは12番埠頭までたどり着いた。

 そこで待つ特殊部隊と合流した彼らは急いでランチに飛び乗り、ズムシティを後にした。

 

『ギルダー少尉、本当に出来るかね・?』

「出来ない・・・と思えば志願なんてしませんよ、レビル将軍」

 脱出用ランチの中にマークの姿は無かった。

(これがザク・・・モビルスーツの乗り心地か・・・)

 マークは今、ランチを護衛するためにザクⅠ・・・旧ザクのコクピットの中にその身を置いていた。

 特殊部隊が埠頭を確保した時に、近くの格納庫で埃をかぶっていた旧ザクを見つけ、動き出されても困るとして一応確保していたものだ。

『だが、武装も無いものを無理に使わんでもいいだろうに・・・頑固なやつだな、君も』

 通信機の向こうのレビル将軍が苦笑しているのが分かる。

 この旧ザクあちこちにガタが来ているのがハッキリと分かるくらいベコベコになっていた。

 おそらくは訓練などでボコボコになった奴をがわを治せば綺麗になるけど開戦間近で代えの装甲の当ても無く、廃棄するにも惜しいと言うことで、装甲を気にしなくていいような場末の埠頭の作業用としておいていたのであろう。

 それでも特殊部隊の方にも護衛機の当ても無く、丸裸よりまし・・・と持っていくことにした。

 パイロットがマークなのは彼が持っていくことを強硬に主張したためであり、つまり、この状況はマークの我侭によるものであった。

「頑固なのはうちの家系の特長みたいなものですから。」

 それに、といったん間をおいて。

「いつかはモビルスーツに乗らねばなりません、なら、早めに慣らしておいたほうがいいでしょう?」

「・・・現場で体感した君に言うのもアレだが・・・やはり、モビルスーツが無ければ厳しいかね?」

 レビル自身、ザクの・・・モビルスーツの脅威は身にしみて分かっている、だが、現場で空戦をしていたマークの言葉はやはり気になった。

(彼から聞いた戦果を話半分で聞いたとしても、少なくとも単独で2機、共同撃墜を含めればSフィッシュ4機で5機以上のザクを撃墜できている、案外戦闘機の優位性を説いてくるかも・・・とおもっていたが。)

「ええ、戦闘機には戦闘機の利点もありますが、現状で対抗するにはあの機動性、あの火力、それに有視界戦闘が強いられる戦場を考えると、戦闘機ではやはり限界があります・・・それに・・・」

「それに?」

「戦争において、敵が使える戦術をこちらが取れない、というのは言うまでも無く不利であります」

「違いない!!」

 その言葉にレビルは破顔し、当たり前だと大いに気付く。

(そうだ、連邦の方が国力が上なのだ・・・焦る必要も無い、それに散々ジオンに打ち破られてしまっているのだから、同じ土俵で戦えるモビルスーツを作り、真っ向からジオンを叩かねば兵士たちの自信と誇りが取り戻せまい)

(戦争継続も、戦争へ勝利する道も既に見えている、なら後は兵士に誇りが戻ればジオンに・・・いや、コロニーへのヘイトも押さえられよう)

 この時点で既にこの戦争は、様々なトラブルはあるだろうがという枕詞が着くものの、既に半ば終わったものとなりかけていた。

 必勝の策と、それにいたるまでの大雑把な道筋を立てたレビルの眼前に、ミラーと漆黒の塗装でここまで辿りついたマゼランの姿が見える。

 ミノフスキー粒子の濃いところを単艦で突破してきたそのマゼランには、本来なら地球の大気圏離脱に使うための大型ブースターがつけられていた。

 行きはこっそりと身を隠し、帰りはとにかく加速して追っ手を振り切る、実に分かりやすいが、それゆえになかなか対処しづらい戦法であった。

(さて、ギルダー君・・・上手く使わせてもらおうか・・・)

 そのような思惑のレビルを乗せたマゼランは講和条約を防がんとその全力を持って加速するのであった。


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