マークとギルダー家~幼年期~
ギルダー家・・・本来なら宇宙世紀に存在しない一族であった。
彼らの先祖はキャリフォルニアのゴールドラッシュにおいて大規模な金脈を発見、そこで得た資金を元手にギルダーマテリアルを設立、テキサスの油田を初めとした様々な資源開発で巨万の富を得た大富豪であり、その名を地球圏最強の山師として轟かせていた。
宇宙世紀においてもその山師としての感も健在であり、オデッサに大鉱山を初めとして、ユノーやその他小惑星を運んできたり丸ごと売ったりと、コロニーを建設するために資材価格が高騰しているのもありその資産を増やし、その資金を持って連邦政府や政治家を札束で殴り倒して開発権利を獲得していった。
転生者が物心ついた時には前当主であるムスカとその妻エイミ、その孫であるミーシャ、そして、転生者たるマークが本拠のあるキャリフォルニアの豪邸で生活していた。
「フフッ俺がこの腐った宇宙世紀に風穴を開ける!そして俺こそがこの世界の愚民どもを導き、千年王国を築いてやる・・!!!」(5歳児)
UC65年、ダイクンとザビ家の権力争いが激化していく中、転生を自覚した彼は当初はこんな感じで前世で克服した厨二をとてもひどく拗らせていた。
同年代を軽く凌駕するボディ、前世で培ったガノタとしての知識、そして何よりも、その妄想を実行できないことも無いその資金力、これらを兼ね備えてしまったのだからこうもなろうというものである。
このままではその辺に転がる3流悪役転生者、もしくは出来損ないのシロッコもどきとしてその生涯を終えていただろう。
だが、彼の周囲の環境と彼の家族たちはそんな妄想を許さないほど強烈で、厨二病の漆黒の炎(笑)はすぐに鎮火していった。
彼は前世ではなんと変哲も無い学校を何の変哲も無い成績で卒業し、そこそこの企業に就職したりやめたりしていた。
そんな彼は未来世紀のために前世とは全く違う世界共通語の習得や、別次元レベルのエリート学校に叩き込まれたりしたため、頭の中のフォーマットから書き直す勢いで努力しなければエリート世界になじめなかった。
もっとアレだったのは家族であった。
祖父は留守にしている両親に代わり、財閥の経営が大変らしくなかなか合うこと無かったが、ふとパーティなどにマークを連れて行っては権力者たちに、後継者として顔と人脈を広げさせていった。
祖母はとてもおっとりした人であった。
だが、これと決めたことは何があってもゆずらず、マークが悪いことをしたと判断したときは懇々と説教をつづけ、マークが反省したと確信するまでその説教は続けられた。
この二人のせい・・・おかげでうかつに厨二的な発言はできず、勉強やらなんやで時間と気力をごっそりけづられ、厨二は鎮火に向かった。
姉はパワフルかつフリーダムだった。
いじめを粉砕するために、現場を生中継で全校に放映したり、家出をしたら宇宙行きの船の中で見つかったり、彼女を狙った誘拐犯とカーチェイスを繰り広げたり、銀行強盗巻き込まれて銃撃戦をしたりと事故と事件とにマークを巻き込みまくっていた。
そのため自分より主人公ぽいっと厨二の炎に消化剤をぶち込んでくれた。
そして・・・問題の両親である。
「マイプリティドーター&プリティサン!!パパのおかえりだよ~!!」「キャー!!!もう、私たちが見てない所でこ~んなに!かわいくなっちゃって~!!!!」
物心ついてから一度も姿を見せなかった両親の第一声がこれである。
「ブレーキの付け忘れた暴走特急」「自重が辞書に載ってない」「底が抜けた馬鹿」「フロンティアスピリッツに導かれすぎ」等々、様々な異名で恐れられるムキムキな父マックス。
「その場のノリだけで生きている」「見た目は一流っぽい」「気付いたときにはいない」「彼女に下手な冗談を言ってはならない、本気にするから」と違う意味で恐れられてるクレア。
彼らは異名のごとくノンストップであった。帰ってきてすぐにマーク達をかっさらい、宇宙せましとばかりに様々なところを連れ歩くのであった。
理由は単純である。
「この子には無限の可能性がある、だから宇宙の広さと人の多さを今から知っておく必要がある!!!」
こうなると祖父たちでは最早止めれず、諦観とため息でもって彼らを送り出した。
「マックスが面倒をかけるだろうがよろしく頼む・・・あとたまにでかまわんから手紙をくれ・・・、元気でな」
「あらあら、風邪をひかないでね~」
ケネディでの祖父母との別れはこんな感じで軽ーく終わり、彼ら姉弟は機上の人となり、満点の星空で構成された宇宙へと旅立っていくことになった。
「マーク!見なさい!地球があんなに遠いわ!!!」
「本当にすごい・・・あんなに小さく見えるなんて・・・言葉では知ってたつもりだけど宇宙は広いね・・・」(あと何年かしたらこの宇宙で殺し合いが・・・俺はどう動くべきだ・・?)
「すごいでしょすごいでしょ!!!くぅ~連れてきた甲斐があったってもんね!!」
宇宙のたびは単調ではあったが、幼い姉弟からすればそこが宇宙であるというだけで十二分に面白いものであり、飽きることも無く窓から星空を眺めていた。
「そう、宇宙はまさにフロンティアだ!!この広さを良く感じておけ!!フフフフフ、俺のフロンティアスピリッツが燃え上がるZE!!」
こんな感じで和気藹々と彼らは最初の目的地であるサイド5にあるテキサスコロニーであった。
アニメ本編では荒れ果てていたが、この時点ではまだきちんと管理されてあり、猛烈な開拓者魂を感じるという理由で父のお気に入りであった。
そこにしばらく滞在した後一向は月に向かい会社の鉱山を視察、その後サイド3に向かった。
「Mrダイクン、お久しぶりです!・・・経済封鎖の件、力及ばず・・・申し訳ない」
「久しぶりだねギルダー君、そんなことはない、君たちの援助のおかげで共和国は経済的な自立の目処がたった、君たちには感謝しているよ」
想像以上の大物とやけに仲のいいところを見たマークがむせてしまったのはしょうがないと思う。
「キャスバル!私たちは話がある、子供たちは奥で遊んできなさい」
「はい、父さん・・・。さあこっちだ」
キャスバルに案内されて彼ら姉弟は奥の庭まで来た、そこではアルテイシアが遊んでいた、更にはデギンに連れられてきたガルマも加わり、5人で仲良く遊んでいた。
様々な遊びを知ってるマークが先導し、覚えがいいキャスバルが腕を上げていき、パワフルすぎるミシャがすべてを粉砕し、泣いたガルマとアルテイシアをマークとキャスバルが慰め、やらかしたミシャが怒られてへこんでる(反省したとは言ってない)、ズムシティに滞在中はおおむねこのような感じですごし、以後、ジオン・ズム・ダイクンが死ぬまでの短い間ではあったが、かなり充実していた時期といえるだろう。
特にマークとキャスバルはその高い能力ゆえに周囲から少し浮いていたもの同士でシンパシーとライバル心を覚え、かなり仲良くなっていた。・・・マークは少し下心もあったが。
「しかし・・・良かったのかね?もちろん我が国は助かっているのだが・・・君らにとってここまで支援する価値がジオン共和国に有るのか?」
そんな子供たちをよそに、大人たちは大人たちの会話を続けていた。
資源を自前でもてない各コロニー群はギルダー家にとってどれもがいい顧客であった。
その中でも複数の工業用コロニーを抱えるサイド3はもっとも大型の顧客であり、地球連邦による経済封鎖は彼らにとっても痛いことであった。
だが、連邦の目を掻い潜り、時にはグラナダなどを経由して、はたまたはたまた大型の資源小惑星に目星をつけておき、それをジオンで回収させるなど、危ない道を全力疾走していた。なぜかと言えば・・・。
「まぁ・・・馬鹿共への意趣返しでありますな!!」
陽気な彼にしては珍しい憤慨した様子であった。
「あなたの仰るコロニー自治の精神・・・そして地球そのものに対する深い敬意、それは現状維持しかしようとしない馬鹿な官僚共が目を背けている事その物でありますからな!!縮こまってしまう事!それ自体が宇宙に移民した同胞への重大な裏切りである事に気付いていませんからな!!」
彼はフロンティアスピリットの塊であった。
移民が作った国である祖国をとても誇りに思っていたし、宇宙の移民達の活力が人類の新たな時代を切り開く、本気でそう信じていた。
だからこそ周囲の反対を押し切り宇宙の資源開発に全力で舵を切ったし、様々な有形、無形の援助を惜しみなくコロニーや月に対して行っていたし。
彼にとっては自立しようとするコロニーに対する締め付けはナンセンスであり、宇宙移民に対す売る冒涜である、感じていた。
「コロニー自治法・・・議会にあがってはいますが・・・難しいでしょうな」
苦々しい表情でマックスは言葉を搾り出した。
「いや・・・しかし、君の援助のおかげで自治への足がかりは得ることが出来た、そして我々の独立が宇宙移民たちへの強烈なメッセージへとなるだろう」
「だが、連邦が我らの独立を認めるには軍事力が足りない」
ジオンの言葉に冷や水を浴びせるのはその盟友たるデギンであった。
デギンは武力による独立に対して批判的・・・夢見がちとも言えるジオンに比べれば現実主義であり、宇宙移民の独立には軍事力による安全保障が必須と考えていた。
それゆえに駐留していた連邦軍に対する切り崩しなどに大いに活躍をしており、その影響力は拡大していった。
だが近年はその主張に大きな剥離が生じており、ジオンとの政治的な対立を深めていた。
「・・・まあ!小生には政治のことはサッパリですがな!!」
「・・・失礼、親睦を深める会合で話すことではありませんでしたな」
険悪になりそうになった空気を入れ替えるようにマックスが声を上げ、それに追随してデギンが詫びを入れ、その場の雰囲気は多少明るくなった。
「そういえばなぜアステロイドの開発を?開発するにも木星のほうが利益を生み出せそうなものを・・・」
アステロイド・・・現実においてはスッカスカの場所ではあるが、ガンダム世界においてはそれなりの規模の密集地帯である。
しかし、地球との距離や資源調査の手間などに時間と金が掛かりすぎ、手間に会わないと大多数の企業、そして連邦政府に判断されていた。
だが、ギルダーマテリアルは全力投球した。・・・屋台骨がへし折れかねない程度に。
「なぜ・・・ですか」
その疑問にマックスは笑いながら答えた。
「天啓・・・が降りたというんですかな!《なに・・・アステロイドに投資しても金にならない?逆に考えるんだ、儲かるほど大規模に投資すれば良いと考えるんだ》・・と聞こえたんですよなぜかジャパニーズでしたが」
「そ、そうか」
ちなみに原因はマークである。
まだ目の開いていないマークにアステロイドに関する愚痴を言っていたときに、マークの前世の人が無意識に答えたものだった。それをニュータイプ的な何かで受信した結果である。
違う意味で微妙な空気になったのは言うまでもなかった。
「それでは元気でな」
「ええMrダイクン、また帰りに寄ろうと思います」
「キャスバル!達者でな!」
「ああ、マークもな!」
1週間の滞在期間が過ぎ、大きなトラブルが有ったものの何とか彼らはふたたび機上の人になり、サイド3を後にしていった。
「楽しかったか!!」
豪快な・・・いや、暑っ苦しい熱気を孕む笑顔をマックスは子供たちに向けた。
「ええ、子供たちは可愛かったし、サイコーだったわ!!次はアルちゃんたちを服屋に連れてっていっぱい楽しんじゃうんだから!!!」
「はい、またキャスバル達とまた遊びたいです!」
マークにとってもかなり楽しい時間であった、精神年齢が割りと違うにもかかわらず割とキャスバルと話があったのだ。
将来への布石・・・とも考えていたが、それ以上に有意義な時間であった(割と大人気なかったかとも思ったが)。
「それで父さん、地球に帰るんですか?」
その息子の言葉に彼は更に笑みを暑っ苦しくして言った。
「アステロイドベルトにある鉱山だな!!」
「「!?」」
「その後は木星だな!!!」
「「!!!???エェ~~~~~~~!!!!????」」
ガハハと笑う父とによによといかにも『ドッキリ大成功』とでも言いたげな母を見回し、子供たちは叫びを上げた。
そんな彼らを乗せた宇宙船は地球から更に遠くへはなれ、宇宙の深遠に向けて進んでいった。
彼らが地球に戻るまでに数年掛かることになる。