宇宙世紀へ強キャラ転生   作:健康一番

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間違って削除してしまった物の再掲載です


大敗

 怒り、悲しみ、憎しみ、喜び、喜劇と悲劇と死と破壊をミキサーに入れてから煮詰めるような大戦は、ついに最終局面にさしかかろうとしていた。

 苛烈な迎撃を突破した鋼の群狼達はその驚異的な破壊力を存分に発揮して、並み居る連邦艦隊の決死の抵抗をものともせずに蹂躙し始めていた。

 辛うじて虎口を逃れることの出来た彼が艦隊に帰還したとき、そこにあるのはもはや艦隊とは呼べず、生き残ろうとする個々の部隊が密集するだけの惨状であった。

 彼の愛機も直撃こそ無かったものの、様々な所に細かい破片が食い込み、更にそこにGの負担が掛かったためか小さいながらも幾つかの亀裂までが見受けられ、修理どころか機体の廃棄をせねばならなくなる手前となっていた。

「推進剤は残りわずか、弾もほぼない上に機体状況はすべてレッド、不味いってレベルじゃねーぞこれ・・・」

 口ではそんなことを呟きながらも、彼はいまだに不敵な笑みを浮かべていた。

 もちろん上司や仲間を失った怒り等は強くあるが、だからといってめそめそしているのは性に合わなかったし、不幸な顔で嘆いてるだけでは救いの手を伸べようとする幸運の女神にすら見捨てられかねん・・・と彼は本気で信じていた。

「生き残る。まずはそれを目標にするしかないか、死んでいった連中に対する手向けも仇を討つのも、まずは生き残ってなければ出来ない」

 口に出すことで己の意思を再確認し、やるべきことを整理していく。出来るならメモをしたいところだ。

(親父も言っていた、フロンティアスピリッツを忘れず、一歩でも進み続ければ必ずチャンスはある、と)

 今生における父の言葉を思い出して苦笑し、生きるための手段を探す。

「ルナツーに直接向かうのはまず不可能、コロニーの残骸などに隠れても置いてきぼりになるだけか・・・ひとりでさびしくかくれんぼとか拷問以下だな、やはり後方の母艦を探して行くしかないか。」

 2割くらいの確立にかけるしかないな・・とぼやきながら彼は機首を巡らせ、いまだ戦禍にあまり見舞われて無い様に見える後方の艦隊に機首を向ける、だがそこに広がるのは幾多のモビルスーツと艦隊による情熱的な舞踏会であった。

 思わず苦笑に苦味が増えてしまったことを自覚しながらも、彼は残り少ない推進剤に火をつけ、パーティ会場を無遠慮に突っ切っていく。

「まず此処を無事に通りぬけねば2割に懸ける権利すらないか」

 推進剤の都合上、どのルートを辿ったとしても、彼が目指す後方の艦隊を目指すにはいまだ激戦が繰り広げられる艦隊中央部を抜ける必要があった。

 

『・・ちら・・し・・救え・・・』

『誰・・・俺はど・・・しょう・・・』

『黒い・・・抜けた・・ンケ・・・』

 

 艦隊中央部に接近すると、仲間を失って以来沈黙していた無線機が雑音と、救援を求める声を吐き出し始めた。

 もはや一刻の猶予すらないのだろうか、必死な声が彼の耳朶に届いた。だが彼にはどうすることも出来ない、この広すぎる戦場で彼は非力すぎたし、その手は自分の命を支えることで精一杯であったのだ。

(力が・・・モビルスーツがあればもう少しは誰かを助けることも出来るのに・・・俺は・・・なんと情けないことだ・・・っっ!!)

 そのとき、マークの背筋にこれまでで最大の悪寒が走る、その感覚を信じて急制動をかければコクピットのあった位置に黒い爪先が通り過ぎる、鋭い蹴りを見舞ってきたザクは予定が崩れたためか一呼吸ほど体勢を崩したもののすぐさま建て直し、彼にその《赤い》機体を向けてマシンガンの照準を合わせてきた。

(このタイミングで赤い彗星とか運が悪過ぎでワロタ・・・これはもうだめかもわからんね・・・すまん、親父)

 最悪、ともいえる引きの悪さに嘆きいた彼の脳裏に、今生の父の暑っ苦しいが浮かんできていた・・・。

 

「コロラドより入電、我戦闘力喪失、もびるすーつを止メラレズ」

「空母アカギ轟沈しました、艦載機は既に連絡が取れません」

「我が艦の防空圏C-3内にモビルスーツ侵入」

「対空ミサイル2から4番まで発射、追い込みをかけてから対空砲で始末しろ」

「艦隊損耗率36%を突破しました、・・・モビルスーツ隊の排除が間に合いません」

 連邦艦隊旗艦アナンケ、その管制室に次々と凶報が飛びこむ、艦隊指揮官であるレビル中将はそこで刻々と悪くなる戦況に内心歯噛みしながら、少なくとも表面上は冷静に指示を出し続けていた。

 ジオンの生み出したモビルスーツ、それだけならば問題は無かった。

 所詮近距離用の小型機動兵器であり、連邦軍のレーダーシステムと通信システムによって構築された迎撃網は機動性があるとはいっても被弾面積が増えているために、迎撃自体は容易・・・とまでは行かなくてもここまでの被害を受けることは確実に無く、勝利の女神は確実に連邦艦隊に微笑んでいただろう。

 だが結果はこのざまである。 

 ミノフスキー粒子により白兵戦といってもいい距離まで容易くつめられる戦場において、モビルスーツの有無がいかに戦場に影響をあたえるのか、レーダーと通信を失った艦隊がいかに脆いかをレビル将軍は痛感させられていた。

 既に艦隊の30%以上が失われ、本来ならばとっくに撤退している損害が出ているが、レビルはいまだに戦場で指揮を取り続け、ジオンに出血を強いていた。

(今退いてしまえば無秩序な潰走になってしまう、ミノフスキー粒子の海の中で潰走してしまえば文字通りの全滅すらありえる、何とか隙を作らねば・・・それに・・・)

 戦況をまとめたCGモデルを確認しながら、彼は一つの確信をしていた。

(この戦争が始まってから既に一週間以上、連中の国力を考えれば既に奴らの戦力はつきかけているはず・・・ここで踏ん張れれば逆転の目はまだあるな) 

 彼はジオンで駐在武官をしていた時期もあり、今のものでないとは言えどジオンの内情をある程度は予測をつけていた。

 ジオンはいくつもの工業用コロニーを抱える地球圏屈指の工業国とも言える、だが開戦からこちら、莫大な量の軍需物資を消費していた。

 コロニー及び駐留艦隊に奇襲をかけたといっても、消費した弾薬やABC兵器の量も半端ではすまない、何せ宇宙だけで20億人以上が殺されているのだ、どう効率よく使ったとしても、生産、維持費はどれほどのものだったのだろうか。

 最も消費量が高いだろうザクマシンガンにしても、撃ちまくれば銃身がへたれてしまうので交換せねばならず、弾薬120口径の大型砲弾、しかも連射式ともなれば一体何万、いや何十万発使われたのかもわからない。それだけでもかなりの資源を使用している。

 そのほか推進剤、交換用の装甲版やモビルスーツ、食料、、兵員、核パルスエンジン、ミサイル、etcetc・・・、ただでさえ経済制裁を受けている中で、これだけの軍備を用意、維持できた事自体がかなりの無茶の結果であり、ギレンを初めとした首脳部の有能さを証明していた。

(見るまでも無くジオンもぎりぎりだ、一度モビルスーツを撃退すれば再度の攻撃まで時間を稼げる、そうすれば被害を抑えながら撤退もできるが・・・果たしてそれまで持たせることができるか?)

「直上に敵機1・・・いや3・・?な、何なんだこいつ、早ぎます!!」

 報告と同時に轟音が館内に鳴り響く、倒れそうになったレビルは咄嗟に手すりをつかんで事なきを得たが、管制室の中でも倒れている者が見受けられた。

(直撃を受けたか!!)

「ダメージレポート!!」

「第一、第二区画に火災発生」「対空班応答ありません」「第3主砲に異常エネルギー発生、電源、落とします」「エンジンブロックにも火災が発生、消火剤間に合いません」

(ここまでなのか・・・ジオンに一矢報いることも無く・・・) 

 次々と入る報告は、もはやアナンケが死に体であることを示した。その報告を聞いていた艦長はレビルに向き直り沈痛な面持ちで報告する。

「・・・将軍、最早アナンケに戦闘力はありません、司令部のかたがたと退艦をお願いします」

「総員退艦では無いのかね?」

「我々が敵をひきつけてる間に何とかお逃げください、将軍を失うわけにはまいりません」

「・・すまんな・・」

 わかっている、モビルスーツに取り付かれている今総員退艦などしてる暇もないし、敵をひきつけなければ脱出すら危ういのだ。犬死だけはしたくない、という軍人の維持もあるが。

 ・・・アナンケの最後の抵抗もあり、無事にレビルは艦から脱出した、だが・・・・

「アナンケから逃げたやつがいるぞ!!」

「まさか・・・レビルか!?」

「俺たちに見つかったのが運の尽きだ、捕まえるぞ!!」

 アナンケを攻撃していた黒い三連星の手で虜囚となってしまう。

(生きているなら脱出のチャンスはある・・ジオンめ、私を侮ったことを後悔させてやる・・・!!!)

 不屈の闘将レビルの胸にはいまだ闘志の炎が燃え盛っていた。

 

 連邦宇宙艦隊はコロニー落としをする余力をジオンから奪い去ることには成功した、だが、参加した戦力の40%以上を喪失し、総指揮官であったレビル将軍まで失ったこの戦いはとても勝利とは呼べなかった。

 だが、圧勝したように見えたジオンも既に追撃の余力も無く、撤退する連邦艦隊を指をくわえて見過ごすしかなかった。

 

 そして、連邦艦隊がルナツーに撤退したとき、彼らの中にマークの姿は見当たらなかった。


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