航空部隊からの急報を受けたモビルスーツ中隊は急ぎ通報を受けた地点へ向かっていた。
レビルの座乗するバターン号の出撃を確認したジオン軍が海岸付近の警戒態勢を強化する中、ジオンのレーダー網は海上を飛行する2機の航空機の反応を捕らえた。
レビル上陸のための先遣隊と考えられるその航空機に対しジオンの早期警戒機が緊急発進するも、敵新型航空機に一方的にやられており、避けえぬ決戦に向けて万難を排するために陸地まで引き寄せ、これをモビルスーツにより迎撃することとなった。
彼の中隊は敵機迎撃の任を受け、対空の切り札であるザクキャノン小隊を護衛しつつ海岸線へと急行していた。
『新しい情報が入りました。・・・大尉、敵の新型機はビーム砲まで確認されており、我が軍のモビルスーツでも撃破される火力を持っていると考えられます、接近時は十分にご注意ください』
オペレーターのその言葉に顔をしかめてしまうが、それでも怒鳴りつけることがなかったのは情報が下りてくるのが遅いのは彼女のせいではなく、航空機部隊の指揮官が恥を隠すためだと理解していたためだった。
「・・・それは、もう少し早く言ってほしかったな」
『申し訳ありません、情報が錯綜しており確認に時間がとられました』
「・・・まあここまで来てしまったんだ、今更どうしようもないが・・・これは厳しい戦いになるかもしれんな」
短時間のうちに複数機のドップが撃墜されたうえ、この周辺のミノフスキー粒子密度も高まるなどの異変が確認されたため、その詳細を確認するために偵察用のルッグンが上空で張り付き情報収集に励んでいた、そこから得られたデータでは敵の新型によりすでに2個小隊を超えるドップが撃ち落され、残った機体が必死にこちらへと誘導しているのが確認できた。
(しかしビーム砲装備の戦闘機だと?そんなもんをほいほい飛ばすのか連邦は・・・、そんな物が量産されちまえばただでさえ怪しい制空権が完全に抑えられちまう・・・、ビームなんか食らえばザクでもやばいぞ)
この時点で彼は嫌な予感しかしない、宇宙用のザクならば対艦船を見据えたので対ビームコーティングもしっかりしているが、地上戦においてはあまり必要性が見られなかったために軽度の物しか施していないため、文字通りの気休めにもならない。
(しかもだ、ブリテン島方面からミノフスキー粒子が濃くなってきているってのも胡散臭い、新型が散布しつつ来ているならほぼ間違いなくここにレビルの野郎が突っ込んでくる証拠じゃないか?・・・考えすぎか?)
確認されている敵機は3機、素早い機動でこちらを翻弄する2機と、それに追随しながらも決して雲の中から出ない1機、しかも雲の中の奴はミノフスキー粒子が濃すぎてうまく確認できてないのだ、後方から情報収集しているのか・・・それとも・・・?
そんな不安を抱えたままではあったが、海岸近くの丘の上の森の中にザクキャノンの部隊を展開させる。
護衛の小隊もそれぞれ物陰や木陰に身を隠し、その時を待つ。
『隊長、上空のルッグンが撤退するそうです、あと5分もすれば例の新型機をおびき寄せれる予定です。』
オペレーターの声に緊張感を高める、あちらの火力はザクを撃破できるのはほぼ間違いなく、こちらの主武装は対空戦闘に不適切なザクマシンガンがメイン、こちらで敵の気を引き付け、体勢が崩れたところをザクキャノンで仕留める事が狙いである。
(うまく仕留めれれば儲けもの、追い返せれば御の字、だがもし撃破したものを回収出来たら勲章まで行けるかもしれん・・・、そうすれば故郷に帰った後も家族に自慢できるっていうものだ)
ネガティブになりそうな精神に餌を与えて活性化させる、他の地域よりはましとはいえコロニーに比べると不安定な地球の環境には彼も少し参っていた。
しばらくすると彼が見上げる空の青を切り裂き二筋の桃色の光が空を駆け、初撃を回避したところを絡め捕られた哀れな猛禽が火の玉となり煙とわずかな破片を残して消えてゆく、追われる影は残り少なく、必死の飛行でこちらを目指していた。
実に手際よくこちらの機体を落としていく敵新型を見てしまいつい舌打ちをしてしまう、少なくとも3個小隊のドップがいたはずなのに、見た限りでは残り2機しか見えず、そのうち1機もミサイルを回避した所を狙撃されて撃ち落されてしまった。
残る1機も狙われていたが、こちらは無理やり失速して機体を一気に降下させ、あわや海面に激突すれすれのところでロケットモーターで体制を整え、こちらのほうに向かってきた。
「了解・・・各機、敵さんが間もなく射程範囲に入ってくる、合図したら目いっぱい撃ちまくれ!!弾は出し惜しみなく使っていくぞ!!」
『『『了解!!』』』
通信を終えたところにドップが上空を通り過ぎる、そのまま通り過ぎるかと思えば旋回し、こちらに通信してくる。
『地上の部隊!!上の奴は囮だ!!海の中に何か居る!!』
唐突なその言葉に釣られ上空を見ていた視界を海に落とす、・・・!!海中から確かに視線を感じた!!
「各機!海中に警戒!!何かが仕掛けてくるぞ!!」
言っている最中に巨大な水柱が上がる、そこから飛び出したのはザクと同じくらいの大きさの人型、謎の・・・いや、あれは連邦軍のモビルスーツだ!!
「撃ち方はじめぇぇぇぇ!!キャノン隊は戦闘機!!残りは散開しながらモビルスーツを狙え!!」
動揺する部下に命令を与える、ぎこちないが動き出した部下をしり目に飛び出してきた敵にザクマシンガンを叩き込む。
「あの盾、これほどの攻撃を受けとも壊せないのか!?」
しかし必中の弾丸は敵機に吸い込まれたものの、敵モビルスーツの持つ大きな盾に阻まれて本体への有効打は確認できない。
『クソ!!なんて硬さ・・・』
『シュウスケ!!ええい、もっと火力を集中させろ!!』
しかも反撃として盾の後ろから放たれた攻撃は確実にこちらの部隊を破壊していく。
「落ち着け!!左右からなら盾は無い!!正面は俺たちが抑える!!ダレオ、マックの小隊は敵を左右から挟み込め!!」
左右から挟み込んで盾の無い部分を攻撃しようとするが、揺るがない正確な射撃と立ち回りで包囲をさせず、逆に刈り取られていく。
更には左右に回り込もうとした機動を取った機体が突然爆発する、位置的には海面からの狙撃であろうか?しかし、その狙撃をした者の姿は見えない・・・、ザクのセンサー外からの狙撃である。
「・・落ち着け!海の方にもまだ敵がいる、上の敵は餌で俺たちは誘い込まれている!!一度引いて立て直す・・・!?」
上空から違和感、・・いや、押しつぶすような圧力を感じる視線、それでいてその視線は『こちらを見ている』のがはっきりとわかる。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
たまらずザクマシンガンの砲口を上空、雲の中から逆落としに仕掛けてくる敵意に向け撃ちまくる、それが敵に自らの位置をさらけ出すと知っていて撃たざるを得なかった。
だが、その敵はひらりひらりと不規則に軌道を変え、当たる気配などはみじんも感じることはない、それどころかお返しのように放たれたたったの三斉射、それだけで護衛対象であったザクキャノンは三機ともコクピットを撃ち抜かれ、今まで見せていた盛大な砲火など嘘のように、まるで出来の悪い木偶のように横たわっていく。
スローモーションの様にゆっくりと倒れるザクキャノンを横目に俺はひたすら打ち続ける、追いすがる恐怖を打ち払うにはそれしかないと感じているからだ。
「ああ・・・」
雲から躍り出たそれの殺意が明確に彼を見据えた、そのシャトルのような板・・・ジオンのド・ダイの様な物か
?・・・それに乗った死神が、その緑の視線が彼の最後に見た光だった。
『戦闘終了、敵逃亡機体なし、こちらの損害は水中牽引用に使ったフィッシュアイをヤザン少尉が投げつけて破壊されたのと、ヤザン少尉のシールドが破損したのと、ヤザン少尉が機体を振り回しすぎた関節部へのダメージだけです』
「了解・・・、こちらもフライングアーマーのテストは良好だ、ガティ艦長に橋頭保を確保したからここまで前進するように伝えてくれ」
『了解しました』
「ペガサスが到着次第整備と一時間の休憩に入る、俺たちが休憩中はガンキャノン隊・・・オルトロス隊に周囲を警戒させてくれ、今回の釣り出し役のブルターク少尉達には俺から声をかけておく」
『了解しました・・・、隊長、まずは快勝おめでとうございます、それではペガサスでお会いしましょう』
「ああ」