アフリカではなく欧州を戦場にすると決め、パリで戦いを主戦場として考えていたらまさかのテロ事件、なもんで少し書くのをためらっていましたが、他にアイデアもわかず、このまま書き上げました。
9月18日。
「畜生!!このアヒル野郎!!気持ち悪い飛び方しやがって!!」
「くそっ!!連邦め、相変わらず数は多い!!」
その日の未明、旧世紀で言うところのベルギー及びドイツの国境沿いを中心にジオン特殊部隊群が潜入し、レーダーサイトや各地の橋や連絡用地下ケーブルなどを破壊、異常に気付いた連邦軍が緊急体勢に入った直後に各地でミノフスキー粒子の反応が増大し、連邦軍は連携を絶たれた状態のまま負けられない戦いをはじめることになった。
ジオン軍はこの日に備えて各地から人員及び各種の兵器や補給物資を確保しており、少なくともこの作戦の間でヨーロッパ方面制圧軍は弾薬の心配は要らない状況を作り出していた。
ジオンの作戦目標は単純明快、いまだ激しい抵抗を見せる北欧と西欧を攻略し、大規模な反撃の拠点があるであろうブリテン諸島の喉元に切っ先を突きつけ、欧州本土が陥落した後に潜水艦やガウなどを利用して一気に占領してしまう計画であった。
ブリテン諸島の頭を抑えるべくニューヤークからはガウの一大編隊が発進、各地から終結した潜水艦隊もゲリラ的に各地の港湾施設を攻撃、ブリテン諸島はこれの迎撃に忙殺され、欧州への援軍は減らさざるをえない状況であった。
作戦開始当初、まずは両勢力とも航空優勢を得るために鋼の翼を携えた猛禽たちが互いに互いを啄ばみ合い、青い空は第二次大戦の頃のように賑やかになっていた。
爆撃部隊の安全を確保するためにも互いに譲れない戦いである、ジオン軍はもとより、目と耳を封じられた連邦軍も各基地から戦闘機を発進させ、空の祭典はヒートアップいていった。
ジオンの誇る戦闘機であるドップはコロニー内という戦闘機開発には向いていない場所で作られた機体だが、ロケットモーターを使用した最高速力や独特の空戦機動は連邦軍の戦闘機を翻弄し、陸戦兵器として地上に縛られるモビルスーツを上空から狙う爆撃機達を血祭りに挙げていた。
一方連邦の主力戦闘機であるTINコッドは大気圏内での戦闘を考慮して航空力学を元にした設計で、特に目新しい物はないが堅実な設計によるその戦闘力は、ジオン脅威のメカニズムの結晶の一つであるドップといえど苦戦は免れない物であった。
地上においても戦闘は始まっていた。
大規模な陽動とかく乱によって連邦軍の機先を征したジオンは部隊を終結させていたケルンから進発させ、モビルスーツの圧倒的な突破力を武器に混乱する連邦軍の防衛線を突破、その進撃速度は地球侵攻作戦初期を髣髴させるほどの物であった。
各地で連邦軍を撃破したジオン軍はその矛先を第一目標であるパリに向け、強固な抵抗が予想される同市への浸透を開始、各所で激しい戦闘が行われる子トンあった。
「こちらパリ本部、ジオンの攻撃が激しい、マゼラアタックを中心に市内に雪崩れ込んできている、我々だけでは持ちこたえられない、至急援軍を・・・くそ、通じない!!有線ケーブルはどうなった!!」
「だめです、途中で寸断されてるらしく反応がありません!!」
「ジャブローからの増援部隊には連絡がつかんか、なら手持ちの戦力でやるしかないのか・・・。仕方ない、残った各部隊の配置は済んでいるのか」
「市内でもミノフスキー粒子が各地で散布されています、ただいま伝令を走らせて確認していますが、各地の橋も破壊されており部隊配置の確認ももう少し時間がかかります」
中将の肩書きを持つこの司令官は、副官の応えにいらただしげにしながら椅子に座りなおす。
「クソ、反政府主義者のサボタージュか!!・・・出来ればパリを焼かないためにも積極的に打って出たかったが・・・」
彼はこの歴史ある都市であるパリで生まれ、パリで育った根っからのパリっ子であった。歴史あるこの街への愛は強かったが、出撃すら儘ならない現状では選択できなかった。
(市民の避難が済んでいる事だけが救いか・・・、ヴェルサイユ宮殿が焼かれるなどという事が無ければいいがあの蛮人共相手では安心できんな、連中、燃料気化爆弾と言いながら小型の核兵器を使う様な連中だ、アメリカではいくつかの街が湖になったと聞く)
いらただしげに整わぬ戦況図を確認し、怒りを落ち着けようとするものの彼の怒りはとどまることを知らず、司令部はぴりぴりとした雰囲気に包まれていた。
(クソ!クソ!!クソ!!!敵が目の前に来てしまえばこの街を巻き込むしかない、この歴史あるこのパリが戦渦に巻き込まれるんだぞ!!地球の裏切り者共はそんな事も分からんのか!!)
「各部隊の配置を急がせろ!!奴ら、待ってはくれんぞ!!」
怒りに支配されかけながらも、彼は故郷を守るために指示をとばあし続けた。
ジオンの侵攻自体は前兆が察知されており、迎撃計画も既に練られてはいた、しかし、ジオンは反連邦主義ゲリラにミノフスキー粒子発生装置を渡し、後方地域も含めて大陸側のヨーロッパの広範囲でミノフスキーテリトリーが形成されているために連邦軍は後手に回らざるを得なかった。
「ディッシュに連絡を中継させろ!!ミノフスキー粒子は地上から発生させられている、上空からなら地上より部隊を把握できる!!少しでも良い、1部隊でも多くの部隊を掌握するのだ!!」
ジャブローから出発した救援部隊はアフリカ北西岸に上陸して一度体勢を整え、今はそこで欧州に上陸するタイミングを計っていた、レビルはその中から制空用の部隊を幾つか引き抜いてガウを含めた爆撃機部隊を迎撃させ、空が開いた間にディッシュを飛ばし、中継をすることで各地の部隊を把握していった。
同時にミノフスキー粒子の発生源を捜査させ、それを破壊するように命じるのももちろん忘れているわけではないが、それはやはり時間がかかりそうであった。
「番犬たちは既にブライトン沖で待機していたな?」
その質問に副官は少し考え、番犬に心当たりを見つけて答える。
「はい予定の通りブライトン沖で待機していますが・・・彼らを使うので?」
重々しくレビルは頷く。
「・・・少し予定より早いが彼らを使う、一度奴等に彼らを叩きつけて様子を見る、上手くジオンが警戒してくれればいいが・・・」
「では、彼らにはどこを受け持ってもらいますか?」
各地の戦況が分かる限りで記された戦況マップを見ながら、ニヤリと嗤いレビルは応える。
「決まっている、パリ戦線、敵主力の正面だ。連邦の技術の結晶をジオンに披露するのならばそこしかないだろう?」
(ここで勝てねば今までの苦労が総て水の泡だ、だがデブロックはオデッサまで温存しておきたい・・・、ならば多少の無茶は覚悟で彼らにかけるしかない)
「現在地点より彼らを南下させてアミアンに上陸させ、道中の敵を撃破させながらパリ司令部の救援に向かわせる、この時にパリを包囲しようとしている部隊の右翼は彼らに突破され、少なくない被害が出るはずだ」
戦略地図にデータを打ち込み、地図の情報が切り替わる。
「彼らがパリ正面を突破に成功した後にこちらも攻勢をかける、大西洋艦隊に英仏海峡の安全を確保させろ、バターンを押し出してアミアンに上陸し橋頭堡とし、ケルベロスが分断した欧州攻略軍の右翼を包囲するように部謡を展開させる、こちらのモビルスーツでジオンモビルスーツを撃破出来るとやつらが知り、包囲の危険を察知すれば連中も無理な攻め方は出来なくなる、大人しく下がるなら良し、下がらんのならその時は包囲網を完成させて殲滅すればよいだけだ」
掌の内が冷や汗で湿るのを認識しながらも、表面にはそれを浮かべずにレビルは指示をだす、かなり危険な賭けにはなるが、欧州全域で攻勢をかけてきているジオンを叩くには賭けに出るしかないのだ。
(頼んだぞ・・・ギルダー君・・・)
そんなレビルの思惑をよそに、戦況は刻一刻と移り変わり、多くの者の血と汗と涙で彩られた祭典は続くのであった。
「諸君、出撃場所が決まった、このブリーフィングが終えあった時点で我らはここより出立し、南東にあるアミアンを目指し、同地に布陣している敵部隊を撃破、その後そこから更に南下して敵主力を横から殴りつけて突破してパリ内部の敵を掃討するだけの簡単な仕事だ」
ペガサス内のミーティングルームにて、出撃を伝えるマークの言葉に一同に緊張が走る。
「ジム隊は突破の先方として基本フランシスを基点としたVフォーメーションで進む、敵は撃墜できずとも戦闘続行が出来なくなればかまわん、歩兵は相手をしていたらきりがないので攻撃してくる奴以外は無視だ」
ブリーフィングルームの壁面にCGによるヨーロッパ方面の戦略図が示され、ジオンの横っ腹を貫いていくケルベロス隊の姿が映される。
「ペガサスは後方から追従し上空の防御を頼む、出来ればド・ダイを優先してくれ、キャノン隊はペガサスの艦上に布陣しペガサスの護衛を主とし、こちらからの要請があれば援護を頼む、コアブースターは防空の要だ、期待している。」
部屋を見渡し。
「都市部での戦闘が多くなる、民間人の疎開はほぼ終了しているが居残っている連中もいる、建物への攻撃や民間人に被害が出るような行為は解ってるだろうが厳禁だ。故にビーム兵器の使用の際は出力を絞って使え、何か質問は?・・・無い様だな」
マークは彼らを見渡す。
「ここで我らが防げなければ欧州失陥にダイレクトにつながる、我らこそがこの戦いのキーパーソンだということを認識して欲しい・・・簡単な任務ではないが、我らには無理な作戦では決して無い、各員の奮戦に期待している」
こうしてペガサスは飛翔し戦場を目指す、混沌の欧州戦線に希望の光を照らすことが彼らに出来るのであろうか・・・。
「妙な顔をしているなヤザン、ちゃんとしたモビルスーツに乗って大規模な戦場で戦える、お前の希望通りの戦場だろ?」
「解っている、だが、な・・・」
まもなく戦場となる海岸線へとペガサスが向かう中、ヤザンとマークは歩きながら会話をしていた。
口を濁すヤザンにマークは疑問を感じる、プライベートな時間ではないが今この廊下にはヤザンとマークしかおらず、二人の口調は軽い物であった。
「壊すのは得意だが、守るのは性に合わんのだ・・・どうも違和感が残る」
ヤザンの言葉に苦笑する、今までの出撃は周囲の被害など気にすることが無かったが、今から始まる都市部での戦いはそうも言っていられない。
「だが、そうも言っていられんぞ、地上での戦いが続くならば都市部での戦闘は避けることはできん、宇宙ならばまた違うんだろうが・・・まぁ、まだ先の話だな」
「それくらいは俺も解っている、解ってはいるが・・・」
ため息を一つこぼす。
「どうにも歯痒い・・・、儘ならんな」
マークは肩をすくめて苦笑を浮かべる。
「そういうもんだろ?人生なんて物は・・・、特にこんな時代で兵士をやってる奴が己の好きなように生きて行けるものかよ・・・」
くだらないことを話しながらヤザンと共に格納庫に入る、ここに入ればもう友人同士ではなく、上司と部下である。
格納庫内ではジェネレーターに火が入り温度が上がり始め、整備員達が各機の最終点検を行っている、その横を通り過ぎて二人は己の新しい愛機に向かう。
「今までの機体に比べてジムは脆いしパワーも足りん・・・無茶をして死ぬなよ、ヤザン、まぁむざむざとやらせるつもりも無いが」
マークの言葉にヤザンは敬礼を返す。
「大丈夫であります、自分は不死身でありますので、殺されたって死ぬつもりはありません・・・俺達ならやれる、そうだろ?マーク」
「違いない」
二人で笑い、コクピットに滑り込み、こちらも最終点検に入る。
(若いっていいねぇ・・・、いや、俺も若いけど)
そんな二人を見て顔を綻ばせながらフランシスは思う。
(ま・俺もやるだけやらにゃな・・・、近接は苦手なんだが、都市内部だと遭遇線が多そうだな・・・サブのビームガンを持っていくか)
幸いなことに選択できる武装の種類はかなり多い、補給を受けたとはいえ砂漠の実験場から直で来たのだから当たり前と言われればそれきりだが、基本的に自分のセンスに合う武器を選べるのは強みであった。
(実弾式のスナイパーライフルがあったな、貫通したビームで街を攻撃するわけにもいかんからなあれを使うか、そういえば実験中のあれもあったな、使えるなら持って行って見るか)
それぞれの思いを胸に天馬は海を渡り、戦いの火の絶えない欧州を目指していた、ジオンの有利に進んでいる現状を果たしてマーク達はひっくり返せるのか、それは、まだ誰も知ることは無かった。