宇宙世紀へ強キャラ転生   作:健康一番

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天馬飛翔と風雲急の欧州

 9月前半、ジオンではミネバ・ラオ・ザビの誕生という慶事があった物の、特に戦線が大きく動くということも無く、連邦・ジオン双方が次に打つ手を見定めるために小規模な戦いを引き起こしてはいた物の、大規模な会戦は行われることは無かった。

 

 その奇妙な静寂の狭間で、マーク率いるV作戦実戦部隊は再編成を終了、連携を確かめるための訓練も無事終わり、後は目標さえ決まればいつでも出撃できる状態であった。

 

 

「でも不思議ですよね」

 

 ジャブロー内宇宙船ドック、その片隅で自主訓練をしていたミラと、それに付き合っていたフランシスが休憩の合間に話をしていた。

 

「何がだ?伍長?」

 

「いや、この部隊で隊長がヘッドハンティングして来た人たちって、無名だったりしても実は凄い・・・って人ばっかりじゃないですか」

 

「人を見る目がある・・・ということだろ、勘が良いのも有るだろうが」

 

 

「勘が良い・・・、そういえば、中尉はニュータイプって知ってます?」

 

 

 そういえば、とミラが尋ねる。

 

「ああ、あれな、眉唾物かと思っていたが、・・・隊長が言うには実在しているらしいな」

 

「え!!隊長ってニュータイプだったんですか!?」

 

 ミラの大声に片耳をふさぎながら顔をしかめる。

 

「大声出すなよ・・・まったく」

 

「えぇ!!でもニュータイプですよニュータイプ!!」

 

「隊長の親父さんってアレだろ?そういった目新しいことには興味津々らしいぜ、あのジオン・ズム・ダイクンからニュータイプの概念を聞いたときから動いているらしいな、隊長が言うにはニュータイプ研究所とか言うのを北米のどっかに作ったらしいが」

 

 なんだったかな・・・と思い出しながらしゃべるフランシスにミラがせかす。

 

「オーガスタ・・・、そうだ、オーガスタだ。何でも隊長も昔は実験されてたとか何とか、そんな感じらしい」

 

「じゃあやっぱり隊長もニュータイプなんですかね?」

 

「どうかな・・・、大体ニュータイプっつってもどうなったらニュータイプなんだ?それすら俺達じゃ判断も出来ん、『これがニュータイプだ!!』みたいな指針も無い、案外隊長に聞いたら答えの切れ端くらいつかめるかもしれんね」

 

「まぁそうなんですけどねぇ・・・」

 

 はふぅ、とため息が漏れる、それを見たフランシスが苦笑する。

 

「何?隊長が気になるの?狙ってる娘さんが多いみたいだし、難しいと思うよ?」

 

「ち、違います!!・・・て、言うか、隊長婚約者いるみたいですよ、流石に厳しいですよぅ・・・」

 

「あ、やっぱり金持ちはそういうのいるんだな、・・・じゃあ俺なんてどうよ?」

 

「ちゃらい人はちょっと・・・」

 

「普通に断られた、ま、いいけどさ」

 

「・・・そういえば」

 

「どうした?」

 

 ああいえ、と断りを入れる。

 

「このこの部隊って顔が怖い人が多いって言われたことがあったの思い出して・・・失礼ですよね!!」

 

「それな・・・、ヤザンはもちろんだが俺も目つききついしなぁ、隊長も普段はともかく戦闘中は完全に悪人面だしなぁ・・・、結構気にしてんだから言わんであげなよ」

 

「新しく来た艦長も見事に悪人系でしたしね・・・」

 

 なんだか切なくなってきた二人は休憩を切り上げ、訓練で体を動かすことでもやもやを吹き飛ばすことにした。

 

 

「しかし・・・よく私のような若輩者をつ合う気になりましたな、ホワイトベースには老練なパオロ少佐を配置で来たのです、私を無理に引き立てる理由はありますまい?」

 

 強襲揚陸艦ペガサス艦長室、そこでは二人の人物がグラスを傾けながら肝胆相照らしていた。

 

「私達がルウムで乗っていた船・・・アンティータム級フレデリックスバーグでその手腕は見させてもらっていました、士官学校の成績を見ても十二分に優秀・・・それらを鑑みて色々と新機軸なこの船とこの部隊を共に引っ張っていくにふさわしい柔軟な思考と作戦立案力、戦艦の運営能力があると見ました」

 

 過分とも言える評価に苦笑する、何の変哲の無い繰上げ卒業の新米少尉だった彼が少佐となって自分を呼び出した上に、新型艦の艦長に任命されている、ルウムで惨めに死に掛けた自分がこのようなことになるとは、だから人生は面白い、そう素直に思えた。

 

「基本的にはモビルスーツ隊の指揮は俺が取ります、しかし前線で戦っているときには全体の指揮は難しい、ですのでガンキャノン隊とコアブースター隊の指揮は任せる事になると思います」

 

 剛毅なことである、だが、通常の状態ならばともかくミノフスキー粒子下の戦闘では仕方の無いことでもある、そして、その大任が自分に任せられるというのは、実に心地のよいプレッシャーであった。

 

「自分は船乗りとしては一流であると自負しております、しかし、部隊指揮ではそうも行かないとも思っております、ですが任せられたのであれば全力を尽くすつもりです」

 

「あなたなら出来ますよ・・・ガディ大尉」

 

 かくして頼りになる仲間を加えた実戦部隊は訓練を繰り返して連携を確認し、訓練航海と武装のテストもかねてジャブローを出航して東に進路をとり、各地で戦線が形成されているアフリカ大陸に進出、環境破壊で広がった砂漠の過酷な環境下でテストは続けられた。

 

 

 

「やはり砂は怖いな・・・、砂漠戦を考えるならやはり対砂塵防護を考える必要があるか」

 

「いや、何けろっとしてるんですか隊長!このクソ熱い中でどうやって涼しい顔をしてられるんですか!!」

 

「慣れだ、慣れ、我慢しとけば案外何とかなるもんだ、いざとなればペガサスには立派な救護室がある、だから安心だ」

 

「・・・どこに安心する要素があったんだろうか・・・」

 

 サハラ砂漠のど真ん中、連邦・ジオン双方の戦線から離れたこの場所にペガサスは着陸し、武装のテストは行われていた。

 

 着陸したペガサスの姿は砂漠迷彩用の巨大天幕によってその大半は隠されており、実戦部隊員達はその近くに天幕を張りブリーフィングを行っていた。

 

 ペガサスは早速ミノフスキークラフトに異常が出たらしく無理は出来ず、停止したエンジンブロックには整備士達が張り付いて復旧作業を続けていた。

 

 天幕により直射日光はさえぎられているものの、汗が出た先から蒸発するような暑さの中で働く彼らに比べればパイロット達はまだましであった。

 

 だが、時間が惜しいという事もあり特殊状況下での武装テストは行われ、その結果が今彼等の手の中のファイルに収められていた。

 

「まずはビーム兵器からだな、サーベルは良くも悪くも何時もどおりか、ライフルは空気の揺るぎのせいで射程が落ちたか」

 

「それに砂が部品内に詰まってしまうこともあるのでちょっと心配になりますね、確率はそんなに高くはないのが救いですが」

 

 ビーム兵器は強力ではあるがまだ開発したばかりの兵器であり、いまだに繊細な部品を多く使っている機械である、もし変な所に砂が入り込んでしまった時には暴発する可能性は嫌でも高まってしまう。

 

「90mmマシンガン、180mmキャノン、ハイパーバズーカといった実弾兵器は良い感じですね、機構がシンプルに出来ますので砂塵対策は容易です、ザク程度なら十分に仕留めれますし、ゴッグクラスのモビルスーツ相手でもダメージが十分見込めます」

 

「今の技術力では地上は実弾をメインで使う方がよさそうだな、将来的には地上もビーム兵器が主流になるのだろうが」

 

 ジオンモビルスーツに使用されている超硬スチール合金は頑丈かつチタン系合金に比べてコストも安い、だがその分強度も低く、初速の速い弾なら口径が小さくとも十分打撃を与えることができた。

 

「モビルスーツ自体も砂が怖いな、関節やらなんやらに砂が詰まりやすい、整備をきちんと出来なければいざという時に不具合を起こしそうだ・・・、やはり専用の機体の開発をしなければならんな」

 

「いっそ格闘用武装もビームから切り替えますか?ルナチタニウムロッドならエネルギーも要りませんし整備も容易ですが」

 

「それもいいかもしれんが少しコストがな・・」

 

「隊長!!ジャブロー本部より緊急連絡です!!至急ブリッジまでお願いします!!」

 

 

「分かった、すぐに行く、皆は第二種戦闘配置で待機していてくれ」

 

 何の変哲も無いブリーフィングに緊張が走る、リラックスしていた表情が引き締まり軍人の顔になる、マークは皆を残してブリッジへ上がる。

 

 そこでマークはジャブローにいたレビルからの指令を受けることになった。

 

「ジオンの大規模侵攻ですか」

 

『うむ、そのとおりだ、連中ジャブロー攻略がはかどらないために狙いを切り替えたようだ』

 

 ジオンのジャブロー攻略は史実以上に手間取っていた。

 

 北米各地の激しい抵抗は史実でもあった、しかしそれに加えてジャブロー攻略のための前線基地や資源集積所のうち、少しでも警戒を緩めたところがあれば短時間で基地や駐屯していた部隊が文字通りの意味での全滅をしてしまう事が多数あり、警備に力を入れざるを得ず攻勢をかけるのが難しくなっていた。

 

 ガウ攻撃空母によるジャブロー爆撃にしても、ガンタンクにビーム砲を搭載した物がそこそこの数生産され、爆撃コースで待ち伏されて被害が出ており、そちらも活動を停滞せざるを得なかった。

 

 戦線が膠着していることに焦りを感じているジオン上層部は、停滞した戦線を利用して戦力を集結させ、大規模な作戦を行うことななった。

 

 目標はいまだ抵抗を続けるドイツ以西のヨーロッパ、宇宙世紀に突入したことで全盛期ほどの発言力は無い物の、いまだ政治・経済において強い影響力を持つ地域である。

 

 ヨーロッパの陥落は政治的にも大きい意味合いがあるが、戦略的にも強い意味を持つ事柄であった。

 

 ヨーロッパさえ攻略してしまえばオデッサの安全性は飛躍的に高まり、余剰戦力を北米に送れば南米攻略のための足がかりを作ることは容易になる。

 

 オデッサの資源が直接キャリフォルニアに運び込めるようになれば、現地でのモビルスーツ生産能力も向上することが見込め、ジオンが賭けに出るにはちょうど良い目標であった。

 

 この地を攻略すべくオデッサには戦力が集結、量産が始まった新型モビルスーツはもちろんながら、ドズル率いるソロモン要塞からも戦力が抽出され、エースパイロットである黒い三連星やランバ・ラル、さらには特殊部隊である闇夜のフェンリル隊やマルコシアス隊なども投入し、必勝の構えを持ってこの作戦に挑むことになる。

 

 対する連邦軍は戦争初期にオデッサの陥落を許してしまった物の、連邦軍ヨーロッパ方面軍はレビルの指揮もあり懸命に防戦を重ね、多大な被害を出しながらも防衛に成功していた。

 

 だが、ジオンの通信量の増大から大規模攻略作戦の発動を察知するものの、既に多くの戦力を消費してしまっている。

 

 V作戦の開発基地の一つであったベルファストを要していることから量産型ガンタンクの配備が優先的に行われ、ごく少数の先行量産型ガンキャノンや陸戦型ガンダム、陸戦型ジムなども有していたが、絶対数はあまりにも足りてはいなかった。

 

 ヨーロッパはオデッサを攻略する際の後方支援基地としても整備されており、オデッサ作戦に向けて集積された戦力と軍需物資の喪失は避けねばならず、レビル数少ない手札のうちからエースを切ることにした。

 

 何せジオンもこの戦いには大規模な戦力を投入する、これを撃破できれば来るべきオデッサ作戦やその後の反抗作戦でも大いに有利に立てるのは間違いないし、ここで勝利をつかめば連邦軍の実力を全世界に喧伝できるのだ、軍事・政治両面から見てもジャブローを手薄にしてでもつかむべき勝利であった。

 

『君達はベルファストから発進する私の軍と合流してもらう、君達は遊撃部隊として各地を転戦してもらい、崩れかかった味方の援護や敵戦線の切り崩しをしてもらうことになる』

 

 レビルの言葉に少し考える。

 

「つまり、我々は火消し役ですかな?」

 

『そのとおりだ、機体に少し不安もあるかもしれんし、予定よりも早い登場となるが、ここでジオンの連中へのお披露目をしておこうと思ってな』

 

 軽く言ってくれているが激戦の中をくぐり抜け続けねばならないのだ、もしかしたらこちらが全滅することもありえる。

 

(これは辛いな、だが、これを乗り越えねば我々の努力が水泡に帰してしまうな・・・せめてPガンダムがあればな・・・、まあ仕方ない、愚痴をこぼしても始まらんか)

 

「了解しました、それでは我らが連邦製のモビルスーツの威力、存分に見せ付けてやりましょう!!」

 

 その言葉にレビルは頷く。

 

『期待している・・・では、次はベルファストで会おう』

 

 それから細々としたやり取りをした後レビルからの通信が終わる、そしてジャブローからの暗号文で発せられた作戦計画書がマークの手に渡る。

 

「艦長、全員に伝えたい事がある、放送するぞ」

 

「ハッ、こちらをどうぞ」

 

 ガディからマイクを受け取り、放送が艦内に流れる。

 

「マーク・ギルダーだ、ついにこのV作戦の成果が日の目を見る時が来た、しかも戦争の帰趨を決するような大戦だ、我らのお披露目にふさわしい舞台だ、我らの活躍しだいでヨーロッパ、ひいては連邦の命運が決まるといっても良い」

 

 マークはブリッジクルーの視線を感じ、艦内に熱気が高まるのを感じた。

 

「エンジンの修理が終わり次第我々はここを立ち、ベルファストでレビル将軍の軍と合流することになる、我々は火消し役として各地を転戦して敵を撃破し続けることになる、かなりの激戦が予想されるが諸君と私ならば無事に勝利の祝杯を傾けることができると思っている」

 

 一息。

 

「作戦開始予定日は九月十八日、この日に我らの戦いは幕を挙げることになる、各員、悔いの残らぬように準備をしておくように・・・以上だ」

 

 艦内各地から歓声が上がる、嬉しそうに野獣が吼えて狙撃手は楽しげに笑う、彼等の努力がついに報われるときがくるのであった。

 

 こうして史実では存在しない戦いが始まることになり、マーク達は戦場に降り立つこととなる、果たしてその戦いで彼らは何を見つけ、何を守ることができるのであろうか・・・。

 

 

 

「・・・何?連邦の新造戦艦だと?」

 

「はい、ルナツーを抜けたところでキャッチしました、見たことの無い艦影です、新造艦なのは間違いないですな」

 

「この先にあるのは造成中のサイド7のみ・・・、臭うな」

 

「では?」

 

「つけてみる、噂のⅤ作戦かも知れんな」

 

 宇宙の片隅で、こちらも運命は動き出していた。




そこそこ改定しました、ガンダムの世界を矛盾無く構築できる作者さんたちが凄すぎる。

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