「ふっっっっざけるなああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
UC79年1月10日
地球に対し、あまりにも巨大すぎる一撃が加えられ、世界に衝撃が走ったその日、とある地球連邦軍の士官学校の一角で、若き連邦士官の卵が、野獣のごとき凶悪な顔を更にゆがめて咆哮していた。
「なぜだ!!なぜジオンごときにここまでいいように殺られる!!」
彼を支配しているのは絶対的なはずであった連邦軍が、まるで塵のようにやられていくことに対する混乱であり、ここまで連邦を手玉に取るジオンに対する屈辱感であり、なぜこんなにも簡単にやられるかと言う疑問であり、コロニー落としへの恐怖であり・・・・それら全てを見ているしかない自分に対する自身を焼き尽くすかのような激烈な怒りであった。
「まだだ!!!まだ主力艦隊が生きている!!今度こそジオンを叩き潰すはず・・・!!」
普段の彼ならば、絶対に言わない腑抜けた言葉が彼から零れ落ちる、コロニー落としという物理的圧力を持った一撃は彼の闘争本能まで凍りつかせてしまっていた。
彼が信じる力そのものである強大な軍事組織である連邦軍は、再度のコロニー落としを防ぐために連邦宇宙軍の大艦隊がルウムに向かったと大々的なニュースが流れ、人々は危険極まりないジオンに対して裁きの一撃が振り下ろされ、悪しきジオンを粉砕することを夢見ていた。
だが、そんな思いも届かず、連邦軍の主力艦隊は奮戦むなしく壊滅的な打撃を受け、テレビで流れるのは華々しい凱旋ではなく、ルナツーのドックに帰還するみすぼらしい敗残兵の群れを移すばかりであった。
「何故だ・・・何故なんだ・・・?」
彼はあまりの衝撃に茫然自失しながら日々を過ごしていた、頭の中には何故?という疑問のみがグルグルと巡っていたが、普段の野獣振りを知っていた教官や同期たちも、誰かを気にするほどの余裕は無かった。
「・・・今、南極において、ジオンとの講和の条件をめぐり・・・」
食堂においてあるテレビがに映るキャスターが騒ぐ、今日にでもジオンに対して敗戦が決まろうかというその日、今日も呆然としている教官や生徒達が、テレビを見守る中、その中にはヤザンの姿もあった。
「・・・ジオン公国はこれらの要求が呑めない場合は、再びコロニーを・・・」
聞こえてくる講和の条件はまさに屈辱、勝者であるジオンから敗者たる地球連邦に対して言い渡される宇宙を奪うと言う宣言、それらを飲まねば再びコロニーを落とすと言う脅しと、それに屈するしかないと言う絶望、それらが綯交ぜになった空気の中、今にでも講和条約が結ばれそうな正にその時のことである。
「!!!!たった今情報が入りました!!ルナツーに・・ルナツーに捕まっていたレビル将軍が・・・いえ、失礼しました。ルウムの戦いで消息を絶っていたレビル将軍が今、ルナツーから記者会見をおこなうようです!!」
ざわりと食堂に衝撃が走る、何があるかは分からないが、絶望の中で一筋の光明がさしたように誰しもが感じたのだ。
「番組を変更し、このレビル将軍の会見をお伝えすることになりました。もし・・・いや、この会見は連邦市民としては見逃すことの出来ないものかもしれません、時間のある方は是非見るべきでしょう!!」
興奮した様子を隠しきれていないキャスターが画面から消え、映像は記者会見の場所へと移る。
そこは急遽設営されたのか、少しざわめく場内にまはだレビル将軍の姿は無く、テレビの前にいるものたちを初めとした者たちはその時を待ちわびていた。
「・・・今!!レビル将軍が会場に入りました!!いったい彼は何を私たちに何を伝えようとしているのでしょうか!!」
しばし時間が過ぎた後、レビルが会場に姿を現した。
その姿はジオンの捕虜になっていたこともあるだろうが、少し疲れが見えるようであったがその目は爛々と輝き、力強さを感じることが出来た。
「・・・この放送をお聞きの方々全員にまずはお詫びを申し訳挙げたい」
そこからレビル将軍が『ジオンに兵無し』と演説をし、それを受けた連邦国民はその戦意を燃え上がらせ、講和は南極条約を締結するだけにとどまった。
そして、戦いに希望を見たおかげで沸き立つ食堂の中で、ヤザン・ゲーブルのみは驚愕で表情を固めていた。
そして、それから少したったある日のことである。
戦争継続を決めた連邦が消耗した宇宙艦隊を補充するために、士官学校から士官候補生たちを繰上げで卒業させ戦力回復に努めた。
そんな情勢の中でヤザンも士官学校を繰上卒業となった、だが、それから配属先が決まる・・・少し前、彼の前に飛び級で士官学校を卒業していた彼が現れた。
「貴様のその面を再び見ることが出来るとはな・・・マーク・ギルダー!!」
「お前が腑抜けていると聞いて、その顔が見れるかと期待していたんだがな・・・ヤザン・ゲーブル」
マーク・ギルダー、士官学校同期の中で最も優秀だった男、その優秀さゆえにジオンとの開戦が近かったことから繰上げでで卒業し、その配属先が精鋭と歌われるレビル率いる艦隊に決まり、大財閥の御曹司でもあるので出世は間違いないと思われていた。
ただ、ルウムの戦いにおいて航空部隊は艦隊防空のために戦い、その大半が既に撃墜されてしまい、マークの生存も絶望的であったために既に死んだものと思われていた。
そんな彼が士官学校からの移動中に現れた・・・それも唐突に、普段着にサングラスという地味な格好でだ。
「フン・・・まあ良い、よく生きていたものだ、レビルの演説の時にチラリと映っていたのは見たが・・・何のようだ?旧交を温めにきたわけではあるまい?」
ギロリと三白眼で睨み付けながら疑問をぶつける、彼が生きていたのは素直に嬉しいが、英雄の一人に祭上げられてもおかしくない彼がこんなときに会いに来るなど、何か尋常な事が無い限りはありえなかった。
「力が、欲しくないか?」
ニヤリと笑う彼の言葉に心が揺さぶられる。
「力・・・だと?」
「ああ、そうだ・・・ふむ、ここではアレだな、少し場所を変える、いいよな?」
「・・・・・かまわん、何時もの場所を使えば密談もしやすかろう」
二人は仕官学校時代によく遊びに来ていたたまり場・・・その店主に話を通して奥の部屋を使わせてもらった。
「で・・・だ、力と言ったな?それは、何の力だ?」
「ジオンに対する力だ、分かりやすく言えば・・。モビルスーツだ」
ぴくり、と反応してしまう。
「あのマシーン、モビルスーツと言うのか・・・」
「そうだ、そして驚くべきことではあるが、色々重なった結果そのモビルスーツの開発に関わる事になってな・・・データを取るためにも優秀な奴が必要だ」
その言葉にヤザンは驚愕する、マークの目的もだが、その話を自分に持ってきたということにでもある。
「正気か?まだ何も実績の無い俺がいったいなんの役に立つ、個人的な友誼だけで大事を決める貴様ではあるまい?」
「まあ、お前がいれば気が休まるということも確かにある、だが、モビルスーツに求められる戦い方はこれまでの戦い方とは文字通り次元が違う、そこに求められるのは反射神経と直感が物を言う戦い方・・・お前のような力が必要なんだ、ヤザン」
そこまで言われれば悪い気はしない、ただ、連邦の大事を決めるその計画にヤザンを含めるまでの決定権が何故マークにあるのか疑問であったが。
「それは簡単だ、俺が実働部隊の責任者になったからな」
その答えを聞いたヤザンは爆笑し、部隊に入るのを快諾したのだった。
しばし時は経ち、4月某日深夜、北米南部のジオン支配域の小規模拠点、ヤザン少尉は狭いコクピットの中でその闘争本能を満たすべく、その時を待ちわびていた。
小高い丘の上から眼下の基地の様子を見ながら、彼らは最後のブリーフィングを行っていた。
「ボディより各機、目標としていた拠点を確認、上空のミデアがに侵入した30秒後に作戦スタート、敵モビルスーツの破壊後特殊部隊が展開して敵兵の処置、1時間後には証拠隠滅のための爆撃が開始されます、迅速な作戦展開をお願いします」
後方のホバートラックからの通信を受ける、もうすぐ彼の望んだ戦い、対等な装備を使った命の削りあい、敗北が許されず、痕跡を残すことも許されない戦いである。
「ヘッド1から各機へ、シミュレーション通りにやれば何も問題無い、データを持ち帰るためにも確実に生き残るぞ」
「ヘッド2から各機、ま、俺がいるんだ、援護は任せろ、やばくなればケツをまくってこっちに逃げて来い、幾らでも助けてやるさ」
「ヘッド3より2へ、中尉殿の喰う分は残しておきますよ」
ニヤリと笑いながら軽口を叩く、フランシスの狙撃の実力は確かであり、彼の射線の前に敵を誘導すればそれだけで簡単に敵を始末できるだろう、だが、彼の昂りはそんなことでは抑えられない。
「1より各機、・・・・・・作戦開始だ、簡単なお仕事だ、詰まらん事で怪我するなよ」
「よし、狙い撃つぜ!!」
「喰い尽してやるよ!!」
ジオンのザクを喰らい尽くすべく連邦が作り上げた試作機・・・いや、実験機、ザニーがその体を軋ませて立ち上がる。
フランシスが装備する120mm滑空砲が火を噴き、歩哨として立っていたザクを貫き、戦いの火蓋はまさに気って落とされた。
同時に動き出した2機が間合いを詰め、一息に基地の内部に侵入する、奇襲に慌てふためいた歩兵が右往左往するのを見ながら反応できていない他のザクに襲い掛かる。
「なんだ!?敵襲!?何、モビルスーツ!!!???連邦が!?」
「反応が遅い!!」
ヤザンのザクが振り降ろしたルナチタニウム製のロッドがザクの頭をひしゃげさせ、続けて叩き込まれた膝がコクピットを乱暴にシェイクする。
「そのままあの世にイっちまいやがれ!!!」
倒れたザクのコックピットにロッドを突き入れる、膝蹴りでひしゃげてしまったコクピットはそれに耐られるはずも無く、ザクのパイロットはその生涯を終えることになった。
「っちぃ、膝へのダメージが意外とある・・この機体は脆すぎる!!」
たったこれだけの機動と戦闘で機体の一部がイエローアラートを示しており、この機体がいかに作りかけの物かを語っていた。
辛うじて体勢を立て直そうとする機体もあったが、それは果たされることも無く、マークのザニーが持つザクマシンガンから放たれる120mmの前に虚しく沈黙した。
「安全に実戦データを得られえるのは有難いが・・・これではな・・・」
『ヘッド1、もしかして全部終わっちまったんですか?』
「ああ、そのようだ、戦闘データが十分集まったとは言いがたいが、今は機密優先だ、ここの後始末は特殊部隊と空爆に任せ俺たちは帰還しよう」
適当に施設を破壊しながら不完全燃焼なフランシスの通信を聞く、まもなく特殊部隊が施設に突入し武装を抑えたり、捕虜をとったり・・・処理をするだろう。
その後は一時退避して空爆をやり過ごし、それが終われば生き残りを完全に始末するだろうが・・・まあ、精神衛生上に悪そうなので踏み込まないようにしようとそれぞれが思っていた。
「所でヘッド3」
「どうしましたか?隊長殿」
「力を試した結果はどうだった?」
マークの問いに笑いながら応える。
「・・・これは、良いものだな!!!」
そうして、初の作戦を終えた彼らはジャブローに帰還することになる。