閃光の中へ
転生して創作世界で活躍する、それは二次創作における数あるテンプレのひとつである。彼もいくつもの作品を読んでいたし、時にはそんな展開が起こらないかと夢想することもあった。・・・だが・・・。
(マジで転生するとかないわー)
自身でそれを体験することになるとになる、などとは思いもよらなかった、まあ当たり前といえば当たり前ではあるのだが。
(いや、中世とかに比べれば生活環境的には何も困ることはないし、むしろ未来の世界だから不便が少ないし、前世の記憶がある時点ではある意味幸せかもしれない)
コクピットの外を見ればそこには前世では見たこともないSFな世界が広がっていた。
それは周囲の僚機であり、後方に布陣する大艦隊であり、前方で戦っている艦隊の光であるし、視認はできないが遥か彼方には推進器を取り付けている最中のコロニーである。
360°を星空に囲まれた蒼い宇宙空間で、彼の所属する小隊は索敵と防空のために主力艦隊から先行し、いつ現れるかも知れない敵部隊に備えていた。
『ビショップ4、油断はするな。連中のサイクロプスにコロニーの艦隊をやられたんだ。奴らの戦闘力は本物だ、核武装をしてる機体も多いと聞く、俺たちが防がなければいくら大艦隊といってもただじゃぁすまん』
隊長からの通信に現実から逃げそうになっていた意識を復帰させる、すでにここは戦場であり、油断をすれば待ち受けるのは死のみである。
「了解、まあやれるだけやりますよ。こんな所で死ぬために入隊したわけじゃないですから」
『よし、その意気だ。ほかの連中の仇を討つためにも死ぬんじゃないぞ』
『おいルーキー、生意気な口を利いたからには絶対生き残れよ。』
『ビショップ2、俺もお前も初陣だろ?』
軽口を叩くビショップ2にビショップ3が茶々を入れる、 彼に比べれば皆ベテランで訓練や様々なシミュレーションをこなしているが、誰もが初陣である緊張のためか軽妙な掛け合いとまでは行かないようだ。
連邦軍はこの戦いにジオンの三倍の戦力を投入し、すでに発生している前衛艦隊同士の戦いは連邦軍有利に進んでいる、だが緒戦の戦い《一週間戦争》はミノフスキー粒子による奇襲によって大損害を受けたし、先のコロニー落としにおいてもコロニーの落着を防ぐことはできなかった。
しかしその際にはジオンの艦隊にそれ相応の被害を強いることには成功しており、連邦宇宙軍は決して無力ではないと証明している。かき集めた三倍もの戦力が真正面からぶつかれば勝利は確実と思われていた。
だが連邦軍の戦闘システムはレーダーありきで構築されている、ミノフスキー粒子影響下では電波をはじめある程度の赤外線をはじめ、高密度集積回路などにも影響があり、索敵や照準などは手動かつ光学的なものに限定されてしまい、決してすべての性能を発揮できているわけではなかった。
(艦隊戦でこそ優勢であるが、ジオンの新兵器の威力は十二分に脅威であり、航空部隊の絶対数が全く足りていない以上、いつこの優勢が覆されるかはわからない。だからこそ我々が死力を尽くし艦隊を守りきらねば・・・!)
そんな隊長の思いと彼の頭の中は大分剥離していた。彼は油断こそないもののあまり関係のないことを考えていたからだ。
(何でガンダム世界・・・しかも初代の時代のこんな所に・・・絶対誰かのいやがらせだろこれ・・・)
表情にこそ出さないが、彼の頭は後悔と絶望とで彩られていた。ここがどこで、どんな戦いが起きて、どんな結末になるのか、彼は不幸にもそれを知っていた、知ってしまっていた。この戦いにおいて彼の所属している連邦宇宙軍がどれだけの損害を受けるのかを。そして、この戦いの行く末も。
(だが生きているからには挫けてられない、挫けるわけには行かない・・・。そしてまだ死にたくない)
彼はこの世界に生まれて、この世界が自分が良く知るガンダムの世界であると知ったときから自らの生き方を考えぬき、そして連邦軍に入隊した。
もちろん葛藤が無かった訳ではないし、入隊してからも苦労が無かった訳ではない。だが生まれ持った彼の彼としての才能と不断の努力は彼を裏切らず、彼は若くして少尉任官できたし、将来有望な若手仕官として目をかけられることもあった。
だからこそ宇宙軍でも精鋭が集まるレビル中将の艦隊に配備され、艦隊防空の先陣を切る任務に就くことになったのだが・・・。
(ルウム戦役への参加とか、覚悟はしてはいたがSフィッシュとか・・・ブースターもついているしトリアーエズよりはまし・・・そう思ったほうが精神的に良いか、某野望ではこれを量産してればジオンにも普通に勝てるし)
そのようなことをつらつらと考えながら周囲を警戒しているとちりり、と上方から違和感が押し寄せる。その感覚を信じて上を向けば微かに、しかし確実に連邦艦隊に近づく光跡を視認できた。
「隊長!上方に敵部隊を見つけました!・・・かなりの大部隊です!!」
それは連邦にとっては悪夢に等しいサイクロプスであり、ザビ家が・・・ジオンが覇権を掴むための秘密兵器であり、彼にとっては見慣れた、この世界を象徴する兵器の一つ。【MS06-ザクⅡ】を主力とした大部隊であった。
『・・・確認した!!!お手柄だビショップ4!・・・CPにデータ送信・・完了!・・・よしっ俺たちは予定どおり先に迎撃に移るぞ!!』
『『「了解!!」』』
隊長をふくめたビショップ小隊四機がスラスターの光を輝かせて宙を駆け、艦隊に迫るモビルスーツ群に喰らい付きその照準を合わせる、こちらに気付き、いくつかの光点が向きを変え、生意気な小蝿を叩き潰さんとその凶悪な銃口を彼に向ける。
(俺はやれる・・・、俺ならやれる!!)
刻一刻とそのときが迫り、緊張は限界にまで高まった時に通信が入った。
『俺と4、2と3でコンビで行くぞ!最初はあわせろ・・・よし、全機槍を放て!!』
ザクの砲撃が始まる前に一斉に放たれたロケット弾が回避の遅れたザクに命中し、当たり所が良かったのかそのまま爆風に沈み行く、僚機の敵討ちをさんとばかりに放たれる120mmの弾雨の中をくぐり抜け、彼は叫ぶ。
「俺に・・・俺に!!マーク・ギルダーに敗北は無い!!!」
こうして彼にとっての一年戦争の序幕・・・ルウム戦役の幕は斬って落とされるのであった。