やあ諸君。長門だ。私たちの初陣から一週間が過ぎた。だがあれから出撃してはいない。演習の日々だ。提督は慎重派だと言うが少々慎重が過ぎやしないか?まぁ考えがあってのことなのだろう。私は粛々と従うのみだ。
「ふっ・・・ふっ・・・」
「今日も精が出るな。伊勢。」
「長門・・・あれから出撃がないしねー。こうやって刀振っとかないと鈍っちゃう感じがしてさー。」
「まぁダラけているよりはいいだろう・・・」
「それで?長門はどうしたの?」
「いや・・・提督に呼ばれていてな。伊勢を探しに来たんだ。」
「わかった。これ片付けたら行くよ。」
「急げよ。」
「うん。」
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「提督来たよー。」
「ああ待っていたよ伊勢。」
「遅いわよ。」
「そう言わないでよ扶桑。」
「それで?提督、用事とはなんだ。」
執務室には提督と扶桑と私と伊勢しかいない。駆逐艦達は思い思いの日常を過ごしているようで執務室に近づく気配は無い。
「うむ・・・そろそろ鎮守府正面海域から近海へと足を伸ばそうかと思ってな。」
「なるほど・・・それで戦艦だけ集めたのか。」
「近海へ出るのかー・・・敵が多そうだね。」
「ああ。今まで正面海域しか使っていなかったがこれからは積極的に近海へ出ていく。作戦概要はこれだ。」
「どれどれ・・・九州奪還?」
「そうだ。九州を解放し佐世保鎮守府を置こうという大本営からの作戦だ。」
「ここは横須賀だぞ提督。長旅になるな・・・」
「その点は心配いらない。艦娘を派遣する無人高速出撃艇を準備している。これがあれば九州も目と鼻の先だ。」
「そうですね・・・」
「この出撃艇の完成が九州解放の要となっていた。これで近海より遠くの海域への出撃を可能とする。」
「なるほどな。この完成を待っていたというわけか。」
「そうだ。」
なるほどなるほど。足があるのと無いのとでは出撃頻度にも関係があるしな。高速出撃艇、いいじゃないか。
「そしてもう一つ。戦艦各艦の改造も念頭にある。」
「私たちの・・・改造?」
「そうだ。艦娘は練度の状況によって‘改’状態へと改造することが出来る。はれてうちの戦艦3人も‘改’へと改造するに足りうる練度を獲得したと言えよう。」
「待て提督・・・練度が到達したと言うが扶桑はともかく私達は生まれてそう経っていないし、ほぼ演習しかしていないんだぞ?本当なのか?」
「本当だ。妖精さんが言うんだから間違いない。」
「妖精さん・・・」
ちらりと机の上を見ると戯れ合っている妖精さんがいる。3人の妖精さんは視線に気づくと敬礼をして向き直った。
「( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )」
「そうか・・・妖精さんが言うなら間違いないな。」
「これより3人の艤装を‘改’にする改装に入る。改装が終わるまで出撃は出来ないが二、三日で終わる予定だ。その間正面海域は駆逐艦達に任せることになるが・・・まぁあの5人ならば改装も済ませているし練度も高い。そう問題になる事は無いだろう。」
「わかった。改装が終わるまで大人しくしていればいいのだな。」
「そう言うことだ。」
「では提督、工廠に行って妖精さん達へ改装の指示へ言って来ますね。」
「頼んだ。」
「伊勢、私たちも戻ろう。」
「そうだね。じゃあ提督、失礼しましたー」
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存外、暇だ。二、三日で終わると言っていたがその二、三日、何もする事がない。提督の手伝いでもすればと思っていたが扶桑に追い出されてしまった。どうにも書類仕事は苦手らしい。仕事を増やすだけになってしまった。ならばと体を鍛えていたが一日中するものでもない。何事も加減が大事だ。
「それで。長門さんは私達の所へ来たんですか?」
「まぁ・・・そうなるな。」
「い、電は長門さんが来てくれて嬉しいのです。」
「まぁいいけれど・・・」
「すまんな。」
私は駆逐艦達の元へ来ていた。もちろんお土産持参である。今日は吹雪、漣、五月雨が出撃中の為叢雲と電しかいなかったが。
「長門さん艤装を改装中なんですって?随分と早いわね。」
「ああ、どうやら演習で上手く立ち回れていたらしい。」
「電も改装までするにはちょっとかかったのです。長門さんはすごいのです。」
「はは、そうでもないよ。」
叢雲はコーヒーを啜り、電はジュースを飲んでいる。個性が出るなあ。ちなみに私は紅茶だ。自分で淹れた。
「それにしても今日はあの3人帰りが遅いわね。午前中の出撃はもう終わりの時間の筈だけど・・・」
「そうなのか?帰投の時間など前後するものだと思っていたが・・・」
「ま、何かあるなんてことは無いでしょう。正面海域は制圧済みだし・・・端まで行かなければ・・・」
叢雲が話している途中急に外が騒がしくなった。フラグを立てた訳だ。妖精さん達が慌ただしくドックへと向かっていく様子が見える。
「電!行くわよ!」
「はい!なのです!」
「私も・・・」
3人でドックへと向かった。
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「敵、哨戒艦隊と遭遇した?」
ドックへ向かうとそこは妖精さんで溢れていた。皆何かしら作業をしていて野次馬では無いことがわかるが・・・
「五月雨が大破・・・吹雪も中破・・・漣は良く無事だったな。」
「漣は奇襲にうまく対処ができただけ・・・それよりさっちんとぶっきーは?!」
「2人とも入渠中だ・・・あれ、は提督。」
「吹雪と五月雨は!?」
「2人とも入渠中だ。提督は通信していたのではないか?」
「突然戦闘に入ったからな・・・漣も無事で良かった。」
「ご主人様申し訳ねぇ・・・もっと偵察をちゃんとしていれば・・・」
「敵には空母がいたらしいな・・・こちらも航空戦力の拡充をせねばならんか・・・」
敵に空母がいたのか・・・そういえば初陣の時も空母がいたな。敵も指を咥えているだけでは無いと言うことか・・・それにしても五月雨と吹雪が心配だ。後遺症がなければ良いが・・・
「ということは提督、建造はしていないのか?」
「建造はしているんだが・・・空母らしき艦娘は出来ていない。」
「そうか・・・そううまくはいかんか。」
「ああ・・・」
今は五月雨と吹雪の無事を祈ろう。