page34 私と誕生
やぁみんな・・・私は・・・私は誰なんだ?ここはどこだ?薄目を開けて見るが水中であると言うことぐらいしかわからない。確か仕事から帰って来て・・・仕事?なんの仕事だっけ・・・布団に入ったことは覚えてる・・・覚えてるが・・・わからない。何があって水中にいることになるんだ?
「・・・い・・・れが・・・」
「・・・うだ・・・んの、たか・・・」
話し声がする。うまく聞き取れない。誰かいるのか?いるなら私をここから出してくれ。身動きが取れないんだ。
「・・・けます。・・・ひを・・・」
「・・・ぶだ・・・」
ガゴンッッッと大きな音共に水が抜けていく、ああ出してくれるのか。助かる。
・・・・・・
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・・・
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「・・・ふぅーーーーーッ」
「おおっ立ったぞ!」
「成功だ!」
私が出て来たのは・・・なんだこのシリンダーは、私はこんなものに入れられていたのか?そしてなんだこいつらは。揃いも揃って白い軍服・・・軍服?なんで軍服ってわかったんだ?ちっこい生き物もいる。ちっこい生き物はわーきゃーと騒がしい。
「よく産まれてきてくれた。私は山元
私の名前・・・?思い出せない・・・いや、そうじゃない。名前と聞かれて頭の中に浮かんでくるものがある。
「私は・・・私は長門。敵戦艦と殴り合いなら任せておけ。」
「よろしく長門。早速で悪いが君の実力を確かめたい。演習場へと向かってくれないか?」
「わかった・・・演習をすればいいのだな。」
「そうだ。艤装はこちらにある。すまないがよろしく頼むよ。」
演習・・・演習をするのだそうだが私は戦ったことがない・・・一体どうすれば良いのだろう。そんなことを考えつつも案内に身を任せ、艤装とやらを身につけた後、演習場と思われる場所に向かった。
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天気は快晴。されど波高し。といったところか。
「・・・動く。なんだこれ。」
身につけた艤装の砲塔をウィンウィンと動かしながら演習場で待つこと十分。通信らしきものが聞こえ始める。
『あーあー、聞こえているか』
返事をどうしたら良いのか迷っていたが普通に声に出して呼んでみることにした。違かったら考えよう。
「聞こえている。」
『良かった。通信機能も無事付いているようだ。妖精さん様々だな』
妖精さん?妖精というからにはそれらしい見た目なのだろうと考えたが、さっきの場所で見たちっこい生き物のことではないかという考えに至り、1人納得していた。
「それで、私はどうしたら良い。」
『海上に標的が見えないか?まずはあれを撃ってみて欲しい。出来るか?』
「ふっ・・・私を誰だと思っている。」
口を開けばそんなことばかりだが勝手に出ているので何とも言えん。尊大すぎやしないだろうか。
『そりゃあ救国の戦艦長門さ。撃つタイミングは任せる。そっちのペースで始めてくれ。』
「了解。」
ちらっと水平線の方へ見遣ると赤い丸が見える。そこそこ離れて揺れているが私は何故か命中させられるという自信に溢れていた。
「目標確認撃ち方はじめ!」
ウィンウィンと砲塔が動き出し狙いを定め、固定される。足元の揺れ、波、その他諸々計算し・・・計算し、計算出来てるな。不思議だ。そんなことやったことないのに。
「てーっ!!」
撃鉄が降ろされ爆音と共に砲弾が吐き出される。飛ぶ砲弾は波間を斬り裂き標的へ命中する。
「・・・ふぅ」
『すごいな。全弾命中だ。これを戦闘中でも出来てくれれば良いが・・・』
「問題無いよ。やってみせよう。」
『頼もしいことだ。次は航行しながらの射砲撃だ。頼む。』
「心得た。」
よし今度は動きながら当てて見せろとのことなので次の標的へと向かい、そのまま撃った。あっ二発撃ち漏らした。くっそー。
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演習場から退散すると山元と言っていた人物が待ち構えていた。この山元、どうやら提督なる人物らしい。私も提督と呼んだ方がしっくり来た為そう呼ぶことにする。
「提督、今日のやることは終いか?」
「そうだ。明日もまた演習だが・・・一週間ほど演習に出てもらったあと海域への出撃となる。」
「出撃が待ち遠しいな。」
「士気が高くて結構。だがしっかりと演習してからだ。」
「わかってはいる。」
「本当か?大丈夫か・・・」
大丈夫だ、心配するなと付け加えたところで執務室とやらに到着する。ここには先に着任している艦娘とやらがいるらしい。艦娘、その名の通り艦の力を宿した娘達のこと言うらしい。その艦の力で深海棲艦をぶちのめすのが艦娘の役割だという。ここに通される前に話を聞いておいたのと知識として何故か頭の中に放り込まれていた情報を照らし合わせた結果だ。
「戻ったぞ。」
「お帰りなさい、提督。」
執務室の中にいたのは6人。みな初めて見る顔だが名前はすぐに浮かんできた。
「新しい戦艦は長門さんだったんですね!頼もしいです!」
手を合わせて喜ぶのは吹雪。
「へぇ・・・これで戦力が拡張されるわね。」
腕を組んで視線をやるのは叢雲。
「おっきい戦艦ですね・・・」
少し引き気味なのが五月雨
「これで海域突破も夢じゃなくなりましたぞ!」
目を輝かせているのが漣。
「これでみんな助けられるのです・・・!」
あわあわしながら感想を述べる電。
「ふふっ・・・これで更なる進撃が可能になりますね。」
最後に立ち振る舞いに美しさのある扶桑。
「はじめまして・・・だな。戦艦長門だ。よろしく頼む。」
よろしくと6人が揃い返事をする。なんだ、なかなか良さそうなところじゃないか。
「早速だが長門の部屋割りだ。長門の寮の部屋は一先ず扶桑と一緒だ。扶桑、構わないか?」
「はい、問題ありません。」
「よろしい。姉妹艦などが来た時には部屋割りを再考するからそのつもりで頼む。」
「わかった。」
「それじゃ顔合わせも済んだし解散だ。あ、長門はちょっと残ってくれ、書いてもらいたい書類があるんだ。」
「書類仕事は苦手なんだが・・・」
「大したもんじゃないよ。」
それぞれ吹雪達が出て行き扶桑と3人になる。書類仕事というほどではなく、着任の確認の様な書類だった。私は頭の中に存在する知識を頼りに書き上げ、提出する。
「そういえば扶桑、残りドックの様子はどうだった?」
「はい、提督。妖精さん達によりますと、あと三日ほどで出てこられるとのことです。」
「伊勢型戦艦が加われば更に戦力が拡充されるぞ。あとは空母が欲しいところなんだが・・・」
「そうですね・・・ですが建造は妖精さんと運次第ということがありますから・・・」
「考えても仕方ない。資材に余裕があるときに建造していこう。」
「そうですね。」
なるほど、私の他にも建造が行われているのか。伊勢型戦艦と言ったな、確かに戦艦が3隻も入れば戦力拡充は成されるだろう。
「書類はこれだけか?」
「ああ、そうだ。もう戻っていいぞ。扶桑、案内してやってくれ。」
「はい、提督。長門、こっちよ。」
今度は扶桑に連れられ外に出る。艦娘の為の寮は隊舎のすぐ近くだそうだ。便利で良い。
「・・・扶桑、あの提督は信頼出来る提督か?」
「ええ、私達一人一人を気に掛けてくださる良い提督よ。」
「それはわかる。私が心配なのは・・・指揮の方だ。」
「それは・・・艦娘が現れてからそれほど時間が経ってないし、艦娘の指揮に関してはまだ研究中の面があるわ。」
「そうなのか・・・ならば仕方がないかもしれんが・・・些か不安だな。」
「一応大丈夫だと思うわ。無茶な指揮はしない人だし。慎重だから。」
「そうか・・・」
艦娘の指揮に関しては門外漢なので何も言えん。しかし慎重ならば大丈夫であろう・・・はずだ。私だって無茶な進撃はしたくない。
「ここよ。」
「そうか。」
扶桑に連れられた部屋は4人部屋だった。今まで扶桑しか使わなかったらしく綺麗に掃除が行き届いている。
「ベッドは好きなところを使って。トイレはあっち、おふろは大浴場があるけど部屋にも備え付けであってあっち。箪笥は一番上は私が使っているから空いている所を好きに使ってちょうだいね。」
「わかった。世話になるな。」
「いいのよ。これからは共に戦う仲間だもの。」
「そうか。」
「それじゃあ私は戻るわね。食堂とかは時間になったら迎えにくるから。」
「わかった。」
「じゃ、ごゆっくり。」
「ああ。」
扶桑が退室し、私は備え付けてある椅子に座る。着替え等の注文はさっき執務室の書類でしたし、風呂にも飯にもまだ早い。しかし今日はいろんなことがあった。建造、というか私が生み出され、演習して、みんなと出会って・・・ここまで考えてふと頭に単語が過ぎる。今日の状況を簡潔に説明出来てしまう単語だ。
「あっ。」
転生だコレ。