やぁ諸君。長門だ。むつの町に出たらこれまた以外な出会いを果たした。外出すると新たな出会いがある。皆も積極的に外に出るといいぞ。
「長門型、戦艦!」
「うむ。よろしく朝潮、不知火。」
やはり、か。このいかにも戦士らしいオーラを放っていてただ者ではないと思っていたのだ。それもそのはず、《私》なのだからな。自分に、失礼があってはいけない。こちらもしっかりと挨拶せねば。
「こちらも、自己紹介させてもらおう。大湊警備府、決戦艦隊旗艦、長門型超弩級戦艦一番艦、長門だ。今日同じ艦娘に会えたことを嬉しく思う。」
「同じく、決戦艦隊所属。朝潮型駆逐艦一番艦の朝潮です!」
「同じく、決戦艦隊所属の陽炎型駆逐艦二番艦の不知火です。お見知りおきを。」
「おおお!奥方、いや、貴方も艦娘!しかも《私》か!なんという奇遇なことか!よろしく!」
単冠湾の長門は大いに喜んでいるな。日本でたった数隻しかいない長門型戦艦が作戦外で会うなど生涯あるかどうかわからない。こちらの長門は長い黒髪をおろして花のバレッタとヘアピンで留めてあり、白いブラウスにジーンズ、ロングブーツと私と服装に凄く差がある。見た目相応の凛々しい服装だ。いいなぁ。
「しかして、その傷は、もしかすると英雄長門か・・・?」
「自分に言われるとむずかゆいな・・・そうだ。」
「私はかの大侵攻を知らない、貴方を誇らしく思う。」
「よしてくれ、見たところ非番なのだろう?堅苦しいのは無しだ。」
「ああ、非番では・・・いや・・・ありがとう、ここで会ったのも何かの縁、相席させてもらってもよろしいか?」
「私はかまわない。朝潮、不知火、いいか?」
「はい!」
「是非。」
「ありがとう!すまない!私の席をこちらに移してもらえないか?」
「かしこまりましたー!」
まだ料理は来ていないらしく、お冷やを持って長門は席に座った。荷物はキャリーバッグとボストンバッグ、大分大荷物で、旅行か何かだろうか?
「長門型、それも同一艦がならぶと壮観です!」
「連合艦隊でもありえませんね。」
「そうだな、普通は混同を防ぐ為に同一艦は同時に編成しないという規程があるからな。」
「ふふ・・・長門が二隻も並べば深海悽艦も尻尾を巻いて逃げ出すだろう。」
「ははっ!違いない!」
「して、わざわざ単冠湾からどうしてここに?」
「・・・ある、任務でな。」
「・・・任務?」
「あ、大した任務ではない。任務というのもおかしいくらいのだ。」
「何があったんだ・・・?」
「自分に、しかも英雄となった自分に話すのは、なんとも情けない話だが・・・自分は、解体されるのだ。」
「解体!?戦艦を!!しかも長門型を!?日本の数少ない貴重な戦力をなぜ!?」
「・・・。」
長門は悔しさを顔に出して俯いてしまった。・・・長門型の解体、一体何故、
「提督が、無能なのか?並ば私が掛け合って貴方をこちらに・・・」
「違う!単冠湾の提督は決して無能等ではない!艦娘一人一人を気にかける優しく、頼もしい人だ!私が、私がダメだった・・・」
「話してみろ、同じ長門がここまで消沈するのは、私も心が痛い・・・」
「・・・私は、もう、戦えない・・・深海悽艦との戦いで、無視出来ない、直すことも出来ない損傷が体中から見つかった。次、艤装を装着するだけで私の体は崩壊する。戦場で散ることも許されなくなった・・・」
「な、に・・・!?」
「そんな・・・!」
「思えば単冠湾で建造されてから、無茶ばかりしてきた。装甲の薄い駆逐艦を守る為に敵戦艦の一撃を何度もこの体で受けた。撤退する仲間達を守る為に殿を引き受け一人、敵の海域で戦った。砲が折れれば拳で、拳が潰れれば足で、足が無くなれば噛みついて・・・戦いぬいた。」
まるで、私だ。同一艦というだけではない。中身も、心も、私だ。
「ちょうど先週のことだった。いつもの様に深海悽艦を打ち払うべく、艤装を装着したとき、体に激痛が走り、立ち上がることが出来なかった。」
「そんなことが、あったの、か・・・」
「そして提督は私の解体を決定した。私に解体を言い渡す時の提督の顔は笑えたよ。良い年齢の男が目を張らして叫ぶんだ・・・おかしくて、私は顔をあげられなかった。」
「ひっぐ・・・えっぐ・・・」
「これを、見てくれ。」
「そ、それは、まさか・・・貴方・・・」
長門は左手を見せて悲しく笑った。
「長門・・・ケッコンカッコカリ、していたのか。」
「あぁ。それもうちのバカは、解体を言い渡した後にこいつを私に渡してきた。単冠湾は資材が潤沢でなく、本営からきたひとつだけのケッコンカッコカリ用の指輪をよりにもよって解体される私に寄越したんだ。」
「・・・いい男じゃないか。」
「ありがとう・・・そしてあのバカは戦艦の私に遠征任務を言い渡したんだ。日本を見てこいと、お前が守った美しい国を目に焼き付けて来い、とな。」
「それで、大湊に。」
「あぁ。」
「お、お待たせしましたー!アランドロンカレー3つとアーモンドオレ、名犬ラッシー、ホットコーヒーでーす!こちらのお客様はアランドロンカレーとメロンソーダですね!」
「ありがとう。」
「あとはお食事の後のデザートですね!ごゆっくりどうぞー!」
「酒でなくてすまないが、長門、君の旅が良き物となるように、乾杯。」
「「乾杯!」」
「ありがとう、乾杯!」
かちんとそれぞれのグラスを鳴らし、一口飲む・・・
「ふふ・・・旅を初めてすぐこれ以上無い出会いだ。この先退屈してしまいそうだ。」
「なに、島国と言っても日本は広いぞ。もっと良いことがあるさ。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
さくりとメンチカツにスプーンを刺し、じわりと肉汁とチーズが溢れてくる。ライスと一緒に掬いカレーに浸して口に運ぶ。
「美味い・・・」
「そうだ。日本には、もっと美味いものがあるぞ!」
「解体されれば・・・美味いものも、食べることが出来なくなる・・・」
「・・・ッ!」
「いやだ・・・生きていたい、もっと、生きていたかった・・・仲間達と、一緒にいたかった・・・死にたく、ない・・・!うううぅぅぅぅぅあああああぁぁぁぁぁぁ・・・・」
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カレーを食べ終えて、デザートは私達はクリームブリュレ、長門は大きなパフェを、食べていた。店を出る頃には長門は最初の笑顔とまではいかないが、泣き腫らした顔も少し鳴りを潜めた。
「情けない姿を見せてしまった・・・自分に、しかも英雄にだ。駅まで送ってもらって、すまない。」
「気にするな・・・自分にも見せられないで溜め込むよりはいい。」
「朝潮と、不知火も。ありがとう。」
「こちらこそ!」
「不知火で良ければいつでもお相手します。」
「頼もしい駆逐艦だ。」
「長門!」
「ん・・・?」
「これを。」
「・・・メモ?住所、か?」
「横須賀にある、艦娘専用の病院だ。私も昔、世話になったことがある。そこならば、何か希望が見えるかもしれない。」
「・・・!」
「すまない、今さら希望を見せるようなことを・・・」
「いや、ありがたい!提督には内緒でなんとかならないか方法を探す予定でもあったんだ。助かる。」
「・・・。」
「では、貴方達の御武運を祈る。」
長門の敬礼に、敬礼を返す。力強く、凛々しく、長門型に相応しい立派な敬礼だった。敬礼を直すと長門はコートを翻して電車に乗っていった。・・・私も運が悪ければああなっていたのか。それこそ横須賀のババアにさっさと解体されていたかもしれない。同一艦だからとかではなく、他人事には思えなかった。私の体もボロボロの筈だ。もうすぐで艦娘として稼働して五十年になるのだろうか?アラフィフだアラフィフ。何も異常が無いわけがない。これから日常が変わっていくのか。ただそれが恐ろしい。
「・・・。」
「長門さん・・・?」
「長門さん、不知火はこれからは無茶を許しません。」
「不知火・・・?」
「長門さんが皆が止めるにも関わらず戦いに赴こうと言うならば、不知火が長門さんの息の根を止めます。」
「恐ろしいやつだな・・・」
「それに。」
朝潮が慌てる横で不知火がぎろりと私を睨む、本当に駆逐艦か・・・?絶対加賀と那智と日向を足して三で割った何かだろう。
「私達はもう、守られるほど、弱くはありません。でしょう?朝潮。」
「し、不知火のいう通りです!戦艦も魚雷で一撃ですよ!一撃!」
「・・・。」
「フンスッ」
「・・・はっはっはっは!!そうだな!私も、そろそろ守られなきゃいけないかぁ・・・よろしく頼むぞ不知火、朝潮。」
「やりました。」
「了解!」
「じゃあ、帰ろうか。今私は着物で機動力も火力も落ちている。護衛を頼むぞ。」
「任されました。」
「朝潮!旗艦の護衛任務承りました!」
私達も帰路につこう。いま時間は1610だ。日が傾くのが早い。あまり遅くなると皆に余計な心配をかけさせるな。そりゃあいかん。陸奥と鳳翔がまた騒がしくなる。ま、騒がしくされてる方がまだマシなのかもしれんがな。にしても、何か忘れてるような
「あ、大淀のお土産忘れた。」