やぁ諸君・・・長門だ。バタバタした日々が過ぎて・・・やっと安定した日常が戻ってきた・・・気がする。
「やぁまだ見ぬ艦娘。元気にしてるか?」
拳で建造ドッグのシリンダーを叩く。私が建造してからの日課だ、私を建造した提督もこんな気分だったのだろうか・・・!
「おや、長門さん。おはようございます。今日もですか?」
「明石か、おはよう。ああ、もう艤装でうだうだ言わんよ。」
「にしても、提督以外が建造するなんて初めて聞きましたよ。」
「いや、聞かないだけであるんじゃないのか?意外と。」
「そーなんですかねー・・・」
「じゃ、私は朝ご飯食べに行く。明石はどうだ?」
「私は、まだ朝のメンテがあるので。」
「ほーん・・・わかった。」
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朝の建造中の艦娘への挨拶を済ませると朝食だ。ちなみに夕立は阿賀野達と朝練でいない。寂しい。
「あら、おはようございます長門さん。」
「おはようございます!」
「おはようございます~」
「鳳翔、長良に間宮。おはよう朝食はなんだ?」
「今日は焼き魚・・・鰺ですよ。」
「いいな。鰺、好きだぞ。」
「長門さん!戦艦盛りですか!?」
「いや・・・もう戦わないのに、その量は・・・」
「あら・・・そうなんですか・・・?いっぱい作ったのに・・・」
「間宮も・・・もう私は武装解除されてるも同然だぞ?そんないっぱい食えんよ。」
朝食なのに他のみんなより三倍近い量がある。えらいこっちゃ・・・食えないって!!
「姉さんおはよう!あら、それだけでいいの?」
「陸奥!・・・うそだろ。」
隣にきた陸奥の朝食の量がマジパネェスモイヤバイ・・・茶碗の形をした米櫃だありゃあ。焼き魚も何匹いるかわからんし漬け物も瓶ごと持って来たみたいで味噌汁なんか鍋まるごと。・・・そういえば大侵攻中は私もこれぐらい食べてたかも。
「あー朝練あがりはお腹空くわね。燃費悪くて困っちゃうわ。」
「お、おう・・・」
陸奥が座ったくらいに食堂へ真っ白に燃え尽きた軽巡達が入ってきた。陸奥が朝練を見ていたのか・・・そういえば最初は私が教練をするなんて話があったが聞かなくなったな。
「夕立は?」
「他の駆逐艦達と入渠中。それからご飯だって。」
「そうかぁ・・・夕立がなんだか遠いところに行ってしまった気がするなぁ・・・」
「何言ってんの、これから夕立はどんどん姉さんに近づいてくるわよ。追い越されるのもあっという間かもね~」
「・・私は戦艦だぞ?そんな簡単にいくか。」
「もう!」
さくっと朝食を平らげて執務室へ向かう。提督と大淀の分の朝食を持って行ってやらねば。
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「提督、朝食を持って来たぞ。」
『長門さんだね。どうぞ。』
「おはよう提督、大淀。今日は焼き魚だ。」
「おはよう、鳳翔さんのだね?いやー料理上手な艦娘で実に助かる。」
「おはようございます長門さん。」
「おはよう。今日は私に出来ることはあるか?」
「んー・・・今日はありませんね。あ、でも明後日、鳳翔さんの中心とした囮機動部隊作戦があるのでその時に調理場を間宮さんと二人でお願いします。」
「了解した。朝食の盆は後で間宮が取りに来る。」
「建造、早くできるといいですね~」
「高速建造材を使いたいところではあるが、大型建造でどんな影響があるかわからない・・・すまないが我慢してくれ。」
「構わん。もっと穏やかにやった方が艦娘の気性にも関わる・・・と思う。たぶん。きっと。」
「曖昧ですね・・・まぁ暴れん坊が来ても困りますけど。それにしても長門さんが建造したから。出てきた子も夕立ちゃんみたいにママーって言ったりして!」
「まぁ・・・・・・・・それも悪くない。」
「ふふっ!あ、最後に御着物が届きましたよ。箱をお部屋の前に置いておきました!」
「ありがとう。確認する。それでは提督、またあとで。」
「ああ。ご苦労。」
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部屋に帰ってくると平たいダンボールが三つ積んであった。これか。艦娘の装甲服以外の服を持っていなかったので鳳翔に頼んだら着物が届いた・・・正直着付けなんか出来るか不安だったが無意識に出来た。ふむ、よくわからないが便利でいい。
「ふむふむ。これはいい。鶴の柄かぁ・・・いいぞぉ。では早速。」
『長門さーん!いますか-!朝潮ですー!』
『不知火もいます。』
「ん、ちょっと待ってくれ。着替え中だ。」
朝潮と不知火か・・・どうかしたのだろうか。急いで着よう。帯を締め・・・うーん。きつめに巻こう。扉を開けて二人を迎え入れてやる。
「おはよう、二人ともどうした?」
「おはようございます!本日、非番ですので長門さんと御一緒しようかなと思いまして・・・」
「おはようございます。不知火も、です。」
「おお、そうか!じゃあむつ市にでも出てみるか。私もばたばたして街を見たことがなかったからな。由良に美味い洋食屋の話も聞いたしな。」
「!いいんでしょうか!」
「提督に頼んでみよう。今日は金剛達が留守番艦隊の筈だ。何かあっても金剛なら大丈夫だろう。」
「はい!」
「不知火は甘い物を食べにいきたいです!」
「いいだろう。じゃ、執務室へ行こうか。」
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「外出許可?いいぞいいぞ三人分な。」
「軽いな提督・・・普通ちゃんと前もってーとかなんとか言うと思ったんだが。」
「そう言って、長門さんはどうする?」
「・・・。」
「おっけーおっけー。拳を降ろしてくれ。」
「ありがとうございます司令官!」
「司令、こんなんでよろしいのですか・・・?一応我々は新参です。」
「ん、まぁ・・・問題を起こすとは思っていないしね。それにある程度艦娘のみんなのわがままは聞くようにしてるんだ。うちは軽巡と駆逐艦しかいなくて他の鎮守府より危険な目に遭わせてしまっているからね。」
「・・・まぁ不知火はお菓子が食べられればそれでいいです。」
「あー・・・」
「司令、なんですかその生暖かい視線は。不知火に落ち度でも?」
「いや、なんでもないよ。はい、外出許可、受理しましたっと。いってらっしゃい。」
「長門さーん!お土産にお菓子お願いしますー!」
「わかった。この長門に任せておけ。」
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とりあえず・・・三人とも土地勘が無いのでタクシーにのり大湊の駅で降ろしてもらった。タクシーのおっちゃんは大分驚いていたがなにに驚いていたんだろうか・・・私の顔か?いや、大きなキズがあるが・・・このご時世そんな珍しいものじゃないしなぁ・・・まぁいい。
「あったぞ。前に由良に聞いた洋食屋、ここだな。」
「可愛いお店ですね。」
「さっそく中に入りましょう!!!」
アンティークな雰囲気を裏切らず中もとてもおしゃれな内装だった。
「いらっしゃいませー」
「大人一人に、子供二人だ。」
「かしこまりました、こちらの席にどうぞ!」
通されたテーブルにすわり、歩いて渇いた喉をお冷やで潤す。キッチンの方からいいにおいが漂ってくる。お昼にはちと早い時間だが・・・お腹が空くニオイだ。
「長門さん・・・これ面白い形してますね!」
「アランドロンカレーだそうだ。由良はこれがオススメだと言っていた。」
「じゃあ、私これにします!」
「不知火も。」
「私も・・・だ!飲み物はどうする?」
「私はこのアーモンドオレにします!」
「不知火は?」
「・・・。」
「不知火?」
「・・・ッシーを。」
「?」
どうしたんだろうか。うつむいてしまっている。何か、気に入らない部分でもあったか。
「こ、この名犬ラッシー・・・に、します。」
「可愛いの頼むんだな。わかった。」
店員に目配せしてテーブルまで呼ぶ。
「アランドロンカレーを三つ・・・アーモンドオレをひとつ、名犬ラッシーをひとつ、あとホットコーヒー。食後にクリームブリュレを三つ頼む。」
「かしこまりました!お飲み物を先におもちしますか?」
「食事と一緒に頼む。」
「かしこまりました!ごゆっくりどうぞ!」
うむ。元気な良い娘だ。接客業は笑顔が大事だ。朝潮は待ちきれないのかソワソワと鼻息荒いし、不知火はメニューを見つめたまま動かない。・・・ふむ、良い内装だな。この町の洋食屋さんという雰囲気は実に良い。・・・ん?あの、端の席にいる女性・・・見たこと、ある、ような。そしてすごい違和感の感じる・・・?なんだこの感覚は。
「・・・む。そこの奥方。」
「こ、これは失礼・・・」
「いや構わない、見たところ、そちらは駆逐艦艦娘の、朝潮と不知火のようだが・・・貴方は海軍の関係者かな?」
女性はすっくと立ち上がりこちらの席に歩いてくる。・・・でかい。私と同じくらいある。二メートルは超えているな・・・
「そ、そんなところです。」
「不知火達にご用ですか?貴方は?」
「いやいや!こんなところで仲間に会えるとは思わなくて、ついつい気分が上がってしまった!ゆるして欲しい。」
「なるほど・・・」
近くにきてわかった!長い黒髪!凛々しい顔つき!瞳の色こそ違えどがっしりとした体格は間違いなく艦娘!しかも・・・
「艦娘を連れていて、貴方のお顔の名誉の負傷・・・きっと名将なのでしょう。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「先に、そちらから名乗るのが礼儀、というものでは?」
「不知火、よさないか・・・」
「いえ、そうでした。失礼をしました・・・」
黒髪の女性は左手で拳を作り、こちらをしっかり見て、自己紹介をする。そして貴重体験をしたのだった。
「単冠湾泊地、第二水上打撃艦隊所属、長門型超弩級戦艦一番艦、長門だ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ。」